布から馬⑧一緒に食事を
お茶会からの帰り道。馬車の窓を流れる公爵領の街並みを眺めながら、ミアベルはふと思い出したように口を開いた。
「ねえ、お母様。次のお茶会には、シュトリアも一緒に連れて行ってはどうかしら」
「シュトリア……?」
公爵夫人は一瞬だけ考えるように、ミアベルと同じ青い目を細める。
「あぁ。貴女、名前を付けたんだったわね」
「ええ! わたくしが考えたんですの」
少しだけ胸を張って答える。
「それで、お母様。わたくしがこちらに居る間だけでも、シュトリアも一緒に社交を——」
「あの者に、そのような教育は必要ありませんわ」
ミアベルの弾むような声に対して、公爵夫人の返事は、何の感情も含まないあっさりしたものだった。
「そう……なんですの?」
公爵夫人は、それ以上何も言わない。
「では、わたくしたちと一緒に食事をとっては——」
「ミア? お父様は、そのような事を仰っていたかしら」
「いえ……。聞いておりません」
嫌悪しているようには見えない。見下している様子もない。ただ、シュトリアという存在そのものに関心がないようだった。
そこで会話が途絶え、馬車の中には沈黙が落ちた。
ミアベルは視線を落とした。
ふと、庭でシュトリアが水を満たしていた姿を思い出す。草花の為の水を、笑顔で準備している私の妹。
そっと手のひらを開く。
指先ほどの小さな炎がひとつ、ふわりと灯った。
揺らめく淡い炎は、暖炉の炎というより、頼りないロウソクの灯火によく似ていた。
これでも“女神の祝福”と呼ばれる聖なる炎だ。ただし攻撃魔法としては頼りなく、呪いや瘴気を焼き払う威力などない。かすり傷を治す程度の、ほんの少しの癒しの力がある。
幼い頃から何度も言われてきた。
――ミアベル様は、火の才能があまり強くありませんね、と。
「……お母様」
ほんのり光る小さな炎を見つめたまま、ミアベルは静かに尋ねた。
「わたくしの魔法は――本当に火なのでしょうか」
「その事を、お父様の前で言ってはなりませんよ」
先ほどより、はるかに鋭い声が響く。同時に、射貫くような強いまなざしがミアベルの身を貫いた。
「も、申し訳ございません」
慌てて炎を消す。
公爵夫人は何事もなかったかのように視線を窓の外へ戻したが、ミアベルの胸には、その強い口調が棘のように残った。




