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わらしべ聖女〜ただし、私の配役は藁(ワラ)のようです〜  作者: まめ まめみ
王国編

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布から馬⑦ちぐはぐな令嬢教育

 積もった違和感を隠しながら警戒して過ごしていた、ある日の朝。


 いつものように無言の着替えタイムが終わり、ノギは大きな鏡台の前に座ったままになっていた。ノギの身支度を終えた使用人たちは、もう部屋を下がっている。


 繊細な彫刻がほどこされた鏡には、令嬢姿の自分が映っている。ミアお姉様が「蜂蜜のよう」と言ってくれた金髪に、薄緑色の瞳。わらボウキみたいだったギシギシした髪の毛が、今ではふわふわと波打っていて、未だに見慣れない。着付けられたドレスも、レースがたくさんで布も透けていたり重なっていたり、とにかく高そうだし着慣れない。


「シュトリア様」


 鏡台の前に放置された私に侍女長が声をかけてきた。


「本日のご予定ですが、朝食後にマナー講義。休憩を挟んで、お嬢様による実習がございますので、ダンスホールに移動して頂きます。午後は、ご自由にお過ごしください」


「わかりましたわ」


 ちなみに、この場合の『お嬢様』はミアお姉様の事だ。私の事は『シュトリア様』と呼ぶか、そもそも呼ばないかだ。



「なぁんか、チグハグなんだよなぁ」


 そうつぶやくと、ミアお姉様が首を傾けた。


「ちぐはぐ、とは?」


「ええと、ミアお姉様。私は――」

「わたくしは」

「……わたくしは。お父様の庶子。つまり、この家の汚点でございましょう?」

「!! そのような事を言う者がいたら、わたくしの前に連れておいでなさい!」


 ……。


 お姉様のキレイな瞳と見つめ合う。

 朝日を反射する海は、きっとこんな風に澄んだ青色なんだろうな。

 ……いやいや、そうではなくて。話を進めよう。


「あのですね。汚点として嫌っているにしては丁寧で、令嬢として扱うにしては雑ではないですか?」

「『ちぐはぐ』というのは、一貫性がないという事かしら?」

「もしかして、チグハグという単語について聞いていらっしゃいましたか?」


 二人して「あれ?」という顔になり、ダンスホールの真ん中でまた見つめ合う。壁に取り付けられた大きな鏡には、同じ向きに首を傾げた二人が映っている。


「……こほん。そう言われてみれば、そうですわねぇ」


(ミアお姉様は、少し天然というやつかも知れない)


 ノギは苦笑しながら、ぎこちなく膝を折った。

 

「ノギには言葉遣いや姿勢、歴史は教えておりますのに、カーテシーやダンスのレッスンはありませんし――ノギ、目線はもう少し前に」


 そのカーテシーは、習っていないと聞くや「わたくしが教えて差し上げますわ!」とミアお姉様が教えてくれることになった。

 本当はダンスも教えたいらしい。けれど、カーテシーすら出来ない令嬢にダンスを申し込む者はいないだろう。カーテシーの練習で行き詰まっている。


「デビュタントにダンスは必須。ノギはもう16歳になりますし、急いだ方がよろしいのに。――ノギ、もっと腰を落としなさい。きっとお父様は、何かお考えなのでしょうね」


 そう自分に言い聞かせるようにつぶやきながらも、指導はスパルタだ。ミアお姉様は、高い窓から入り込む自然光の暑さを気にもせず、みっちり1時間もレッスンを続けた。レッスンが終わったのも、執事がミアお姉様を呼びに来たからだ。そうでなければ、まだ続いていたかもしれない。

 お姉様はこのあと、招待されているお茶会の準備があるのだそうだ。体力あるなぁ。


 誰もいなくなったホールの床へ、大の字に倒れ込む。真上には抽象的な天井画が広がっていた。

 ……光? あ、太陽? まぁ絵に興味はないんだけど。

 起き上がろうとすると、足がプルプル震える。まだしばらくは動けそうになかった。


(起き上がるの、しんどい……)



 その日の夜。ふかふかのベッドに沈み込むように寝転がりながら、ノギは天井を見上げた。


 ミアお姉様から見ても、私への教育はどこかおかしい。 

 使用人たちは丁寧だけれど、ずいぶん距離を置く。

 私をここに連れてきた公爵様は無関心で、公爵夫人には一度も会っていない。


 それなのに、毎日の食事は素晴らしいものが用意され、立派なドレスを着せられる。言葉遣いや歴史まで、きちんと教えられる。


(……変なの)


 やはり家族として迎えられたわけではないようだ。

 まぁ、それは別にいい。そもそもノギは、自分が公爵の娘だなんて信じていない。


(じゃあ)


 ゆっくりと目を閉じた。

 

(私は、何のために、ここへ連れて来られたんだろう)

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