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わらしべ聖女〜ただし、私の配役は藁(ワラ)のようです〜  作者: まめ まめみ


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3/5

行き場のない、十五歳

 昼食のあと、チビたちは一斉に昼寝に入った。

 静まり返った厨房で、食器を片付けていると――


「ノギ」


 シスターアニーがひょっこり顔を出した。


「何? アニー」


「シスター・アニー、ね。院長先生が呼んでるよ」


「ふぅん?」


 手を拭いて、院長室へ向かった。



「ノギ、これからの事について話をしましょう」


 院長先生は、いつもと同じ穏やかな顔で話し始めた。


「具体的には、仕事の話です。見つかりましたか?」


 直球の質問に、ぐっと喉が詰まった感じがした。


「いえ……まだ、です……」


 院長先生は、穏やかな表情のままだが、視線を斜め下に向けた。


「規則です。この孤児院で面倒を見られるのは、十五歳まで。そろそろ、次を考えなければなりません」


 少しだけ言葉を選んでから続ける。


「仕事の紹介をしてあげられたら良いのですが。今は、募集が来ていません。街のギルドで探してみなさい」


「……はい」


 今は、というか。先週も聞きに行ったよ。

 見つかるかなぁ、仕事。



 孤児院を出て、街へ向かう。


 石畳の道、パンの匂い、行き交う人。

 いつもと同じ景色。先週と同じ。


 ……今日は、あるかもしれないし。

 小さくそう思って、ノロノロと進む。


 ギルドの扉をゆっくり押し開けると、ざわりとした空気に包まれた。


 大人たちに混じって列に並んで、じっと順番を待つこと数十分。


「あのっ。すみません、仕事を探していて。住み込みでっ」


 窓口の女性が、ノギの顔を見て、目をぱちくりと開いた。


「あら? ええと、ノギちゃんだったわね」


 手元の書類をめくる。一枚、また一枚。

 やがて、申し訳なさそうに顔を上げた。


「うーん、今日も来てないわ」


「そう、ですか」


「あっ。あのね、通いなら、いくつか見つけておいたの。これとか、女の子でも出来ると思うわ」


「住み込みは、出来ませんか」


 女性は少しだけ困った顔をする。


「ごめんなさいね。女の子の住み込みって、なかなか無いのよ。男の人ばっかりの大部屋とか、あり得ないし」


「……あ、はい」


 やっぱり、なかった。

 会話が途切れて、少しだけ間が空く。


 隣の窓口で、カラン、カラーン! と鐘が鳴った。


「臨時クエストで〜す! ギルドの裏手で、魔獣の皮洗いの手伝い募集! 今日の飲み代稼ぎにちょうど良いよ〜」


 明るい声が響く。

 ギルドの中が、飲み代だってよ。お前行ってこいよ。とガヤガヤし始めた。


「やりますっ!」


 ノギは、沈む気持ちをなんとかしたくて、思わず手を挙げていた。



 裏手に回ると、水の匂いに少しだけ獣臭がまざった、しっとりした空気の広場があった。


「はいはい、お手伝いさん?」


 腕まくりしたおばちゃんが、おいでおいでと手招きする。大きな桶の横っ面をポンっと叩き、「水、出せる?」と聞いてきた。


「少しだけなら」


 おずおずと答えると、おばちゃんはニカッと笑った。


「やった、助かる! じゃあ、ここに皮入れるから。あんたは、ざーっと流して」


 言われた通りに手をかざす。

 ざざざ、と水が満ちる。


「おっ、いいじゃない。速い速い。慣れてるの?」


「ちょっとだけ」


 ほんの少しだけ、胸が軽くなる。


「でもまぁ、これくらい出来てもねぇ」


 ……あ、やっぱダメかも。


「ねぇ。私たちも若い頃から、こうやって使ってんのよ」


 隣の人が笑いながら、水桶に水流を起こして、グルグルと何かを洗っている。


「でもさー、お仕事となるとハズレなのよねぇ」


「え」


「ほら、お貴族様とかさっ。住み込みメイドとかあるでしょ?」


「そう、ですね?」


 だよね。窓口では無かったけど。


「浄化の女神様って火でしょ。だから、ねぇ。あたしらみたいな水魔法使いは、お呼びじゃ、無いっ」


 言いながら、水を吸って重たくなった獣皮をふんっと持ち上げて、隣の桶に移す。またざぶざぶと洗うと、魔獣の血が滲み出てきた。やれやれ。と肩をすくめながら、おばちゃんは続ける。


「女神様に仇なすワケでも無いのにねぇ」


「ねー。毛嫌いしちゃってねぇ」


 ざぶざぶと皮を洗う音に、笑い声が混ざる。


「ハズレよねぇ〜」


「あっはは。嫌だ、何回も言わないでよ〜」


(ハズレ……毛嫌いされる魔法……)


 そんなつもりじゃないんだろうけど。なんか、ちょっと。

 軽い調子で流れていく会話を聞きながら、ノギは桶のヘリをぎゅっと握った。


「すいませーん。これも洗い、お願いしまーす」


 声と一緒に、ノギの横に重たい皮がどさっと置かれた。


「あれ? ノギ?」


 顔を上げる。


「カイル」


 幼馴染が、驚いた顔でこっちを見ていた。

 後ろにいるのは、たぶんカイルの仲間たち。


「何やってんの? ノギも冒険者になったのか?」


「ううん、仕事探し」


「へー、水魔法使いなの?」「仕事探し中?」


 後ろの仲間たちが反応して、近づいてきた。

 あ、これ。もしかして、いけるかも?


「あんた達、水魔法もバカにしたもんじゃないよ!」


「そうそう! 飲み水なんて、冒険の死活問題でしょ?」


 一緒に洗い物をしていたおばちゃん達が、援護とばかりに声を上げてくれる。

 あぁ、でも待って。私の魔法は――


「あのっ、私のは、飲み水には使えないみたいで」


 一瞬で、場が静かになってしまった。


「あー……。ごめん。ノギ――」


「えっ、ごめんよ、あたしもそんなつもりじゃ――」


「大丈夫!!」


 思ったより大きい声が出た。


「それに、私、冒険者とか体力ないし無理だよ! 大丈夫!」


 その後は、なんとなく気まずい雰囲気の中、洗い場の手伝いをこなして終わった。


「またな!」


 軽く手を振られて、カイルの背中が遠ざかっていく。


 ……まぁ、そうだよね。


 分かってたし。


 ……やっぱり、見つからなかったなー。仕事。


 まだまだ明るい時間だ。

 人も多い。

 みんな、それぞれ行く場所があるみたいに歩いてる。


 自分の手を、少しだけ見る。


 手のひらに水を出す。指のすき間からチョロチョロこぼれて、地面に染み込む水をしばらく眺めて。


「……帰ろ」


 帰る場所は、まだある。

 今のところは。


 院長先生に、なんて言おうかなぁ……。

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― 新着の感想 ―
ノギがどうやって聖女になったか気になりますね、とりあえずブクマと★5をつけさせていただきました。 これからも応援させていただきます。 あと、もしよければ私の連載小説も覗いてみてください。
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