↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わらしべ聖女〜ただし、私の配役は藁(ワラ)のようです〜  作者: まめ まめみ
王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/33

布から馬②廊下と階段と

 公爵家へ引き取られ、わけも分からないまま教育を受け続ける。

 ノギの活動範囲がようやく部屋の外まで広がったのは、年が明けてしばらくしてからだった。

 もっとも、自由に歩き回っているわけではない。

 

「姿勢を崩さないように」

「視線は正面へ」

「裾を踏まないように」


 今日もマガル先生の指示を聞きながら、廊下をゆっくり歩く。

 一歩。また一歩。

 長い廊下を歩くだけなのに疲れる。


「あの、かかとの低い靴に変えてもらえれば——」

「んんっ!!」


(えー。公爵への挨拶を急ぐんなら、もう裸足でもなんでも良くない? 絨毯だってこんなにふかふかだしさぁ……)


 咳払い一つで却下されたけど、ノギは諦めきれずに絨毯を見る。だいたい、ふかふかすぎるんだ。ヒールが沈んで歩きにくい。


 最近のノギは、部屋から誰もいなくなる午後には裸足で過ごしていた。だって、その方が転ばないし。


「裸足だとキレイに歩けると思うん——」


 ぱしんっ!


 マガル先生の扇子の手拍子が響く。叩かれた事はないけど、真顔であの音を出されるとそれなりに威圧感がある。

 

「はぁ……」


 諦めて部屋の前を往復する。最初のころに比べれば、だいぶ歩けるようにはなったんだ。


「では、今日は——」

(えっ、もう終わり!? やったぁ)


「廊下ではなく階段の練習です」

 


 結果から言うと、ノギが無事に階段を降り切る事はなかった。

 ドレスの裾に隠れて、足元の階段は全く見えない。手すりにしがみつき、一段一段おりていくが、それでも踏み外す。

 何度も踏み外し、やっとのことで踊り場にたどり着いたところで。


「はぁ。本日はここまでと致しましょう」

「ぜぇ、ぜぇ……し、死ぬ……」

「そうなりたくなければ、もっと練習なさいませ」


 踊り場でへたり込むノギに、マガル先生の冷たい言葉が降ってくる。

 

 マガル先生を見上げると、踊り場の壁に飾られた大きな絵が目に入った。

 立派な額縁の中には四人の人物が描かれている。たぶん公爵様と公爵夫人。それから、綺麗な女の子に、若い男の人。


「こちらは公爵家の皆様の肖像画でございます」


 視線の先に気づいた先生が説明してくれる。


「公爵様のお隣がお嬢様のミアベル様、こちらは御長男様の——」

(へぇ。やっぱりこの人が公爵様なんだ)


 改めて絵を見上げる。

 全員が同じような白金色の髪をしている。少し硬そうで真っ直ぐな髪に、鮮やかな青い瞳。絵本に出てきた王様たちのようだ。


(……私に、似てるとこある?)


 庶子って、公爵様の子供でしょ? ……いや、どこが。

 手入れされて髪も服も見違えるほど綺麗にはなったけど、私の髪は少しオレンジ色っぽくて、ふわふわしている。目は薄い緑色で、顔だってこんな美人ではない。


(私が庶子って、絶対に違うよねぇ)


 先生の説明は続く。

 

「ミアベルお嬢様は、只今は王都の学園で学ばれております」

「学園?」

「はい。春頃には一時帰宅なさるはずです」


 春かぁ。まだ二ヶ月くらい先だね。

 

「御長男様は王城にお勤めです。御二方ともあまりこの館にいらっしゃる事はございません」

「そうなんですね」

「そして、ここはよく覚えておいて下さい。お見かけしたとして、話しかけてはなりません」


 えっ。無視するの?

 

「挨拶も?」

「お声がけをされ、お許しを得るまでは話しかけてはなりません」


 ほんとに? 貴族って難しいな。無視するほうが怒られそうなのに。



 それからも練習を繰り返し、転がり落ちずに一階まで降りられるようになったころ。侍女長から、ようやく公爵へ挨拶する許しが出た。

 

 練習してきた言葉を頭の中で繰り返す。

 

 お初にお目にかかります。

 ノギと申します。

 お初にお目にかかります。

 ノギでございます。あ、違う。申します。


 あー、今日挨拶に行くって聞いた時のマガル先生の顔、面白かったな。

 いつも無表情な先生の口元が、ひくりと引き攣っていた。


 よし、階段まで来た。ここは油断すると裾を踏んづけて下まで転がり落ちるんだよね。

 

 ……なんか緊張しているかも。さっきから、どうでもいい事ばかり。


 お初にお目にかかります、ノギと申します——。

 

 再び頭の中で繰り返しながら、長い廊下を進み、焦げ茶色の扉の前で立ち止まる。


 すぅ、と息を吸い込む。

 扉を叩くと、思ったより小さな音しか出なかった。


(えっ、あれっ。どうしよう、もう一回叩くのが正解?)


 後ろにいる侍女長を見るが、目を伏せたまま動かない。


(ええっ、どうすんの!?)


「入れ」


 部屋の中から、低い声が聞こえてきた。


 恐る恐る入ると、部屋の奥には男が一人座っていた。白金の髪に、青い瞳。大階段に飾ってある肖像画で見た通りの人だった。


 ノギは教わった通りに頭を下げる。


「お初にお目にかかります。ノギと申します」

「そうか」


 公爵は一言だけ返すと、興味をなくしたようにノギから目を離した。そして後ろにいた侍女長を見る。

 

「教育は予定通り続けろ」

「承知しました」


(えっ。終わり?)


「もう良い。下がれ」


 公爵との対面は、これで終わりらしい。

 

(何こいつ。ほんと、何しに引き取ったんだよ)


 二ヶ月近い特訓も、ノギの脳内の言葉までは直せなかった。つい乱暴な言葉が思い浮かんでしまったが、そんな感じで公爵への挨拶はアッサリ終わった。


 まぁいいや。これで、ようやくこのお屋敷を歩いていいって事なんでしょ?


「侍女長様」

「様は不用です。なんでしょうか」

「侍女長、行ってみたい場所があるのですが」

「どちらでございましょう」


 そう、公爵様の目的はどうでもいい。それよりも、ずっと気になっていた事があるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。