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わらしべ聖女〜ただし、私の配役は藁(ワラ)のようです〜  作者: まめ まめみ
王国編

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18/21

ミカンから布③月銀の羽衣

 裏庭へ出ると、洗い終わった布たちが風を受けて静かに揺れていた。薄く透ける銀色の布地は、木陰で淡く輝いている。


「あれです」


 ノギが指差す先に、全員の視線が集まった。


 マダム・セドラは恐る恐る近づき、布の端をそっと持ち上げる。ついて来ていたデザイナーたちが固唾を呑んで見守っている中、「そんな……」とセドラが小さく呟いた。


 月銀の羽衣は水に弱い。糊が落ちるどころか、独特の艶も失われ、ごわごわと縮む。専門家に頼んで、慎重に慎重に洗わなければならず、それはこの街ではなく王都へ持ち込まなければ無理な技術である。


 それが常識だったが。


「あら」


 セドラが瞬きをして、布を撫でる。

 表も裏も確認し、さらに光に透かしてじっくりと見る。


「まぁあ……」


 感嘆の息を漏らしながら、もう一度撫でる。


「マダム?」

「まぁ、まぁ……!」


 その顔は先ほどまでとは別人のように明るい。


「素晴らしいわ! 縮んでいないの」


 周囲がざわつく。


「え?」

「そんな馬鹿な」

「見せてください」


 次々と手が伸びる。確認したデザイナーたちが首を傾げ始めた。


「ごわついてないぞ」

「なめらかで、艶もあって、とても綺麗よ」

「あなた、どうやって洗ったの?」

「どうやって……?」

「特別な薬剤を持っていたの?」

「いえ、普通に水で」

「普通の水?」

 

 困惑の声が広がっていくのを聞き流しながら、セドラは再び布を見て、ある考えが頭に浮かんだ。


「破けそうなほど薄いので、手洗いしました」

「手洗い……」


 デザイナーに囲まれたノギと布を見比べたあと、ぽんと手を叩く。


「そういうことね!」

「へ?」


(何が?)


「オーナーがあなたを連れてきた理由が分かったわ! あなたの水、普通じゃないのね!」

「へ?」


(えっ、そうなの?)


「この布を傷めずに洗えるなんて奇跡よ!」

「はぁ……」

「素晴らしいわ!」


 セドラは満面の笑みだった。


「確かに凄いな」

「月銀の羽衣が無事だなんて……」

「助かったわね」


 その言葉を聞けて、ようやくノギは力が抜けた。

 つまり、クビじゃない。部屋も失わない。

 

(よ、良かったぁ……)


 騒ぎが収まると、デザイナーたちは見習いを引き連れて仕事場へ戻っていき、ノギも再び雑用へ戻る事になった。


『もう休憩?』

『今度は私の番! 描いて描いて!』


 集まってきた妖精たちがスカートのポケットを引っ張る。そこには、妖精たちのドレスを描いたメモ帳が入っている。


「違うよ、ちょっと見に来ただけ。また後でねー」


 ノギは小声で話しながら、店内への扉をくぐって通路を歩いていく。スカートの周りには、ポケットを引っ張る妖精たちがくっついたままだ。

 その拍子に、小さなメモ帳がポケットからポロリと落ちたがノギは気づかない。妖精たちに囲まれたまま、通路の向こうへ消えていった。



「ん?」


 それを見つけたのはアーノルドだった。

 足元に落ちていた冊子を拾い上げる。


「メモ帳か? だれのだ?」


 表紙には名前もないので、何気なく開く。


 一ページ。


 二ページ。


「……なんだ、これは」


 羽根を幾重にも組み合わせたドレス。

 花びらを編み込んだようなスカート。

 見たこともない装飾。

 

 幻想的で、奇妙で。それでいて強烈に目を引く。


 アーノルドは眉をぐっと寄せてページをめくった。

 知らないデザインばかりだ。


「こんなもの……」


 呟いてから、もう一度見返す。自分なら思いつかない。その事実が、妙に胸につかえた。


「誰だ?」


 デザイナー用に支給されているデッサン帳では無い。これは、デザイナー以外の者に配られているメモ帳のはずだ。


 だが、見習いたちが描いたにしては基礎がまるでなっていない。こんなものは、デッサンとも呼べない落書きだ。この店で働く者の中で、デッサンの基礎も持たない者と言えば——


「まさか、あの雑用の?」

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