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わらしべ聖女〜ただし、私の配役は藁(ワラ)のようです〜  作者: まめ まめみ
王国編

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わらしべからミカン② 良い店長?

「は? ギルド?」


 珍しく話しかけた私に、店長が怪訝そうな顔をする。


「なんだ急に」

「その……水の、まわすやつ? を、見たことがあって」

「まわすやつ?」


(うわ、私ってば説明ヘタすぎ……!)


 自分でもそう思ったけど、あせって上手くまとまらない。取り込んできたシーツを抱えたまま、カウンターの向こうにいる店長をそろっと見てみる。面倒くさそうな顔をしながらも、まだノギを見ていた。


(良かった、まだ聞いてくれるっぽい。落ち着け、ちゃんと話せば分かってくれるはず!)


「えっと、ぐるぐるするやつで!」

「全然わかんねぇ」


 ですよね、とノギは心の中でうなだれた。


 けれど店長は、ふーん、と鼻を鳴らした後、壁に掛けられた時計を見た。


「まぁ、たまには顔出しとくか」

「えっ」

「昼過ぎなら、めったに客も来ないしな」


 了承してもらえると思わなかったノギは、返事も忘れて店長を見返した。



 久しぶりに来たギルドは、以前と変わらず賑やかだった。


「ガイルさんっ!」


 入り口の近くにいたお姉さんたちが、きゃあっと嬉しそうな声を上げる。


「久しぶりじゃないですかぁ!」

「今日もかっこいぃ〜」


 粗野な雰囲気と体格の良さで、店長のガイルは人気があるらしい。本人は慣れた様子で「おぅ」とか言いながら片手を軽く上げて応えている。


(あー……これがあるから、来ようと思った?)


 眠すぎるノギにとっては、頭にキンキンと響く声で大変つらい。頭痛を我慢して歩くノギに、窓口の女性が声をかけてきた。

 

「あら、ノギさん? 最近いらっしゃらないから、心配していたのよ。今日は――」


 そこまで話した女性は、店長に視線を向けて驚いた顔をした。

 

「まぁ、まぁ、ガイルさん! もしかして、働いているの?」


「はい、少し前から――」

 

 働いています、と続けようとすると、また喉の奥がきゅうっと絞まる。


「……っ」


 言葉が引っかかる。女性職員はそんなノギの様子を、照れているのだと思ったらしい。


「良かったわねぇ!」


 ぱっと笑顔になる。


「ごめんなさいね、良い仕事を紹介できなくて。でも本当に良かったわ! ガイルさん、ありがとうございます」

「まぁ、ちょうど人手も欲しかったしな」

「もう、そういう言い方!」


 周囲も「さすがガイルさんだ」と笑っているので、ノギは口を挟まず、曖昧に笑うことにした。


 チヤホヤされて気分が良くなったガイルは、快く「ノギに水魔法をレクチャーする」という短時間クエストを発注してくれた。



「で、何を覚えたいって?」


 ギルドの裏庭。洗濯用の大きな桶が並ぶ場所で、ガイルが腕組みをする。


 そこには、数人の水魔法使いのおばちゃん達がいた。


「この前の子?」

「何だい、ガイルさんとこに納まったのかい」

「ガイルさ〜ん、言ってくれれば、あたしが雇われに行ったのにさぁ!」


 あはははは……。

 洗濯場は、今日も笑い声が溢れている。

 次々に声をかけられて、ノギはびくっと肩を揺らした。


「え、えっと……」

「すまねーな。これも何かの縁だと思って、こいつに魔法のコツを教えてやってくれ。水をぐるぐるするとか、よく分かんねぇんだけどよ」

「ああ、水流かい!」


 おばちゃんの一人が、ぱんっと手を叩いた。


「いいじゃないか! 覚えれば洗濯が楽になるよ!」


 そう言うと、桶の水へ手をかざす。


 ざぷんっ。ざざざざぁっ。


 水が音を立てて渦を巻き始めた。


「おお……」


 ぐるぐる、ぐるぐる。


 泡立つ水の中で、桶に入っていた何かの皮の汚れが落ちていく。ところが、ノギが試しにやってみると、水は少し揺れるだけだった。


「うぅ……」

「違う違う、押すんじゃなくて流すの!」

「川! 川を想像するんだよ!」

「もっと自然に!」


 自然と言われても難しい。川を想像とは?


 そもそもノギは、魔法で水をためた事しかない。押すとか流すとか、イメージした事もなかった。


『くるくるー!』

『うずー! うずー!』


 また、あの声がした。


 淡い光の玉が、桶のフチから水面に向かって、ぴょんぴょんと飛び込んでいく。そしてそのまま、くるくる回りながら、水面をすべり始めた。


(あ、まわすっていうか)


 ノギは、まじまじとそれを見る。


(流れ続ける感じ……?)


 押すんじゃない。あの光る玉と同じように、くるくるまわりながら、ずぅっと流れているつもりで……。


 すると。


 ゆらり。


 水が桶の中で、小さく渦を巻いた。


「あっ」


 さらに渦が大きくなり、ざざざぁっと音を立てて回り始めた。


(わぁ……!)

 

「おお!?」

「できてるじゃないか!」

「いいよ! 上出来だよ!」


 おばちゃん達が声を上げる。ノギは思わず目を見開いた。


(わぁ、わぁ……!)


 自分の魔法でも、ちゃんと動いてる! 嬉しくて、口の端がモニョモニョとニヤけたのが分かった。


 水流魔法ですすぎまで終えたノギを見て、ガイルが感心したように口笛を吹く。


「おっ、これなら今より早く終わるじゃねぇか!」


(良かったぁ。これで、少しは楽になるはず)


 ホッと息を吐くと、ガイルがとんでもない事を言い放った。


「じゃあ、俺がやってた分の洗濯も任せていいな!」

「…………え?」

「明日から、大物の受注を増やすぞ!」


 洗濯物の山の追加を宣言されて、ノギは固まった。


(増えた? え、仕事が増えた?)


「ガイルさんがギルドに連れてきてくれたおかげだねぇ」


 おばちゃん達が笑顔を向けてくるが、ノギは笑い返すことが出来なかった。


「感謝しなよ〜」

「ほんと良い店長さんじゃないか」


 違う。店長は、私ばっかり働かせて……!


 そう言いたいのに。


 喉が、冷やりとしたナニカで絞められる。


「……っ」


 声が出ない。くやしい。

 おばちゃん達に悪気が無いのは分かる。だから余計に、どう怒っていいか分からない。


 ……やってられるか!!


 店までの帰り道、浮かれて鼻歌を歌う店長の背中を睨みつけて、ノギはぎり、と奥歯を噛み締めた。


 契約を、どうにかしないと。

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