震える鼓動、近づく距離
第6話では、璃音がますます「声」に惹かれていきます。
電話の余韻に眠れない夜。
社内で少しずつ変化していく自分に気づき、戸惑う璃音。
そして──ジュンからの2度目の電話。
その優しさに、心は大きく揺れていきます。
声が重なり、心が近づく。
新しい一歩を踏み出す回になっています。
どうぞ最後までお楽しみください。
眠れない。
電話を切ったあとも、耳の奥にあの声が残っている。
──低くて落ち着いた声。
「璃音……可愛い名前だね」
思い出すだけで、胸がじんわり熱くなる。
(あの人が……社長なの?)
(でも、そんなわけない……)
確信にも似た予感と、信じられない気持ちが胸の中でせめぎ合う。
怖いのに。
なのに──惹かれてしまう。
スマホを胸に抱きしめたまま、ぎゅっと目を閉じた。
どれだけ眠ろうとしても、彼の声が消えてくれなかった。
──私、もう後戻りできないのかもしれない。
翌日。
デスクで資料をまとめていると、
隣の席の男性社員に声をかけられた。
「白石さん、今度みんなで飲みに行かない?」
……え?
一瞬、耳を疑った。
今まで会社の男性から誘われるなんて、
一度もなかったのに。
「わ、私……?」
「うん。雰囲気、前より柔らかくなった気がしてさ。話しやすそうだなって」
さらりと笑顔で言われて、少し驚いた。
それと同時に、なんだかくすぐったいような気持ち。
昼休み、洗面所の鏡を覗き込む。
そこに映る自分の表情は……少し、柔らかくなっていた。
(……これ、私?)
思わず頬に触れる。
その瞬間、胸が熱くなる。
(恋をしてるから……?)
無意識のつぶやきに、さらに頬が赤くなっていく。
仕事帰り。
スマホが震えた瞬間、心臓がギュッとした。
画面には──「ジュン」の名前。
「今日も声が聞きたくて」
たったそれだけの短いメッセージなのに、胸の奥で大きな波が立つ。
(……声が、聞きたいって)
指先が震える。
気づけば、返事を打っていた。
──「私も……聞きたいです」
夜。
枕元に置いたスマホが鳴った。
着信表示を見た瞬間、胸がぎゅっと高鳴る。
「こんばんは、璃音」
低く落ち着いた声。
一日の疲れがすっと溶けていくような温かさだった。
「こんばんは……」
少し照れくさくて、でも嬉しくて。
声が震えるのを隠せなかった。
最初は、仕事のことや些細な日常の話。
お互いに笑い合ううちに、心の距離が少しずつ近づいていくのを感じる。
「不思議だな……」
「え?」
「飾らない自分を見せられるのって……」
その一言に、胸がぎゅっと締めつけられる。
まるで仮面を外した本音みたいで──
(……やっぱり、この人……)
ドキドキしている自分がいた。
通話を終えたあとも、胸の鼓動は収まらなかった。
「……どうして、こんなに声を聞きたいなんて思っちゃうんだろう」
枕に顔を埋めながら、小さくつぶやく。
心の奥でふと浮かんだ直感──。
(……この人が、本当に社長なのかもしれない)
けれどすぐに、現実の声が打ち消す。
(いや……ただの裏アカの人でしょ。私なんかに、そんなはずない)
──新着メッセージ。
「君の声に、僕はすごく救われてる」
(……私なんかの声で、救われてるって……)
「出会えたことに……感謝している」
画面を見つめた瞬間、胸が熱くなった。
目の奥がじんわり滲んで、涙がこぼれそうになる。
胸の奥から、初めての想いが芽生えていた。
──この人のために、何かしてあげたい。
(……私なんかが、そんな存在になれるの?)
迷いながらも、もし本当に会えたなら……そんな夢みたいなことを考えてしまう。
布団の中で、思わず小さな声が零れる。
「……会えたらいいのに」
その瞬間、私はメッセージを送っていた。
「ジュンさん、あなたに会いたいです。」
一文を送った瞬間、息が止まる。
(……わたし、なんてことを……)
裏アカからの返事は、最後まで届かなかった。
(そうだよね……無理に決まってる……よね)
期待と不安が一気に、胸をぎゅっと締めつけた。
返事の来ない画面を見つめながら、胸の奥で小さな痛みが広がっていく。
──夜の静寂の中、璃音の鼓動だけがやけに大きく響いていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第6話では、璃音の心が大きく動きました。
「声に救われている」というジュンの言葉。
その一言で、璃音の中に初めて「この人のために何かしたい」という想いが芽生えました。
──それは、恋の始まりの証。
次回は、さらに強まる二人のつながり。
そして、「会う」という言葉がふたりの関係にどんな意味を持つのか。
ぜひ引き続き見守っていただけると嬉しいです。




