第273話 キコウセヨ
「わたくしね、上陸休暇で行ってみたいところがあるんですよ。」
ジュンさんが少しモジモジした感じに見える。
「え? どこですか?」
「温泉。良い温泉に浸かって、海鮮料理楽しんで、少しノンビリしたいんですよね。どうですか?」
あ、温泉。 オレと一緒、あぁ、そういうことか。 成り行きとはいえ、婚約者だもんな。
「良いですね、温泉。 それだったら、結構ベタですけど、熱海とか伊東とか、海目の前の温泉街ですよ。そうですね、オレのおススメは伊東ですかね。 熱海はガチ観光地ですけど、伊東は逆にものすごく静かな街です。まぁ、悪く言うと何にもないんですけど。」
「伊東、ですか。ユーも行きませんか?」
「もちろん行きます。オレが海鮮が旨い宿とか探しますよ。」
「ふふふ。楽しみだわ、上陸休暇。」
なんだかんだで結構2人でお茶しながら話しして、部屋に戻ったら3時少し前になってた。
あとは、もう夕食まではゲームターイム。
ソファでノンビリ1時間くらいゲームをしてた時だった。
『サンディエゴの作戦司令部から入電です。』
部屋の通信コンソールが鳴った。
「了解。無線を部屋に切り替えてくれるか?」
『了解。切り替えました。』
『こちらサンディエゴ、作戦司令部。武蔵応答願う。』
「こちら武蔵。作戦司令部、どうぞ。」
『サンディエゴで貴艦向けの短波帯の通信を傍受した。 内容は『ムサシ、ボコウへキコウセヨ』、以上だ。』
「こちら武蔵、短波通信、内容了解した。連携感謝する。」
『無線の内容から、貴艦は日本へ戻ることになると理解した。 改めて、グアム、ハワイ、そしてこのゴールデン・ショア作戦、貴艦の協力がなければ間違いなく成功していなかっただろう。本当に感謝する。 今後の貴艦のご武運を祈る。』
「こちら武蔵、これから貴軍は米本土奪還の重要なフェーズだと思います。貴軍のご武運をお祈りします。」
通信が切れた。
さて、どうしよう、全員艦橋に集めて話をするか、先にジュンさんと話をするか。
よし、先にジュンさんだな。
食堂に入る。
「あら、ユー。まだ夕食には早いんじゃないの?」
「あ、食事じゃないんですよ。仕事の件なんですけど、今米軍から連絡がありました。短波帯の通信を傍受したそうで、内容は『ムサシ、ボコウへキコウセヨ』だそうです。」
「あら、もう傍受出来たんですね。大分設備の復旧も進んでるみたいですわね。実は少し前から継続的に通信を送っていたんですよ。そうですか、傍受できるまでになりましたか。」
「なんだ、そういうことでしたか。 で、どうします? 今すぐ帰港しますか?」
「ここから鳥島まで約9000キロ、70ノットで進み続けて約3日弱かかるんですよね。 夕食後に出航でも問題ないですが、逆に今すぐ出航して、太平洋へ出てから夕食にしても良いですわね。武蔵の出航には時間かかりませんしね。」
「そうですね、では、出航させましょう。」
食堂のコミュニケーションコンソールでムサシを呼び出す。
「ムサシ、全クルーを艦橋に召集してくれるか?」
『了解。 全艦放送モードで召集します。』
『ヴワー、ヴワー、ヴワー。 全クルー、艦橋へ集合。 繰り返す、全クルー、艦橋へ集合。』
艦橋へ上がるエレベーターでシオリと一緒になった。
「この招集は帰港の件ですか?」
「あぁ、今すぐ出航しちゃおうってことになったんだ。」
「そうですね。ここに留まってる意味もないですしね。」
直ぐにミズキとミユキも艦橋へ上がってきた。
「おつかれさまー。」
「お疲れさまです。」
「よし、皆集まったね。 今、サンディエゴの作戦司令部から連絡があった。日本の統合幕僚監部から武蔵宛の短波通信を傍受したそうだ。通信内容は『ムサシ、ボコウへキコウセヨ』、そう、オレたちの次の目的地は母港、伊豆鳥島の専用基地だ。」
「日本へ帰るんだー。」
「いつですか?」
「知っての通り、衛星系の通信手段が回復していない現状では、短波無線通信での、短いメッセージが限界なんだ。 だから、今の所、帰港せよ、以上の情報が無いんだよ。ただ、ゴールデン・ショア作戦が完了した今、ここに留まる理由も無いんで、今すぐ出航することにした。 総員、出航用意だ。」
「了解、出航シーケンスを開始します。」
シオリがモニターを指さした。
「核融合炉、1番、2番共に定格出力中、異常なし。 ウォータージェットシステム正常。」
ミユキが確認する。
「航行システム、戦闘システム、防衛システム、オールグリーン。統合管制AIとの接続を確認。武蔵、発進可能ですっ。」
ミズキの確認が終わった。
「了解。武蔵、発進、目標、伊豆鳥島。微速前進。」
「機関出力10%、武蔵、伊豆鳥島へむけ、微速前進。」
シオリの操艦で武蔵がゆっくりと桟橋から離れる。
「外洋までは30ノットで進もう。」
「了解、武蔵、第一戦速。」
シオリが巨艦の速度を上げる。
ブォーーーーー。
ブォーーーーー。
ブォーーーーー。
ハワイ特別艦隊各艦が汽笛を鳴らす。
「シオリ、こちらも返礼しよう。」
『了解。』
ボォォォっ。
武蔵が現代艦とは違う、深い低音の汽笛で返礼した。




