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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
東の国とのつきあい方
94/124

10

そんなこんなで早一週間、毎日ヴィーヴォくんに怖がられつつこつこつ魔道具に充魔していれば、ゴールも見えてくるというもので。

魔道具放置部屋三つあった。ウケる。

細々した身に付ける用の魔道具がそりゃもう面倒くさくて、入れては箱に。入れては箱に。エンドレス同じ動き。虚無になるわアレは。

しかし、どーんと充魔する方法は編み出せずにちまちまと作業するしか無かった。実に虚無。

が、あと一山で大体終わりそう……と、言うところでレランドさんが慌てた様子で物置部屋に突貫して来た。

「クィンスタッドからの!お迎えが……っ」

息を切らせて声量すら調節できないままに告げられた言葉に、手元の魔道具を充魔しつつ顔を向ける。

少し青ざめてない?大丈夫?

「あ、来ちゃったの。ラストスパート残してタイムアップかぁ」

「くっそ。ちょい悔しいな。この細々したやつがなぁ、物量的にキツいんだよなぁ」

「アクセサリの類が多かったのが誤算よな」

イヤカフスや指輪がなぁ。箱いっぱいとかだともうホント滅茶苦茶に時間食うのよな。入れても入れても終わらないのよ。一週間掛けて成果がこれかと思うととほほと言う心地だ。

とは言え、お急ぎ便でお迎えを寄越して下さったなら行かねばなるまい、と。どっこいしょーとおっさんくさい声を上げて立ち上がって伸びをする。

「あー、これから移動かー。ちょい気重よなぁ」

ぼやきながら海も立ち上がり、トントンと腰を拳で叩いていた。

「でも行かんことには業務にならんからねぇ。仕方ないよねぇ」

「それな」

最後まで充魔できなかった旨を詫びたなら、とんでもないと応えが返る。

まぁ業務完遂すれば現状は大分マシになる筈なので、それまでどうか無事でいてくれと願うばかりだ。


使者の面々が待つと言う応接間まで、レランドさんの背中を追って歩けばヴィーヴォくんがトコトコ着いてきて首を傾げていた。

「マジで大国から迎え来ンのな。お二人さんホント、初日から今日に至るまで規格外突き抜けてんな」

「何かそうみたいなんだよなぁ。気持ちは小市民なんだけどなぁ」

「こんな小市民がいてたまるかよ」

初日から今日に至るまで、ツッコミ続ける君も大概だと思うよ。何だかんだ、海と随分波長が合うよなこのにーちゃん。否、大抵の人と海は仲良くなっていくけど。謎のコミュ力ちょっと分けて欲しい。


歩いている内に辿り着いたのは騎士さん達の待機エリアから割と離れた、そりゃもう立派な場所でだな。

「……王城じゃん?ここ」

「聞いてないよね。何故に王城に連行されると言うの」

「いや、クィンスタッドの使者を騎士棟の応接に通せる訳ねぇじゃん、何言ってんのお二人さん」

二人して城を見上げてボヤけば、やはりヴィーヴォくんがツッコミを入れる。

いや、わかるけどね?わかるけどさぁ。

ロルクェストの城よりは小ぢんまりとした城ではあるが、やはり王城だけあって場違い感は激しい。相変わらずのラフな格好で、なんなら魔道具部屋で埃被ってそのままの有様でここ入るの?マジで?

だがしかし、躊躇いなく歩くレランドさんに置いて行かれるわけにもいかず、ついて歩けば時折向けられる好奇の目線。

「……敵意が無いだけマシだけど、なんっつか落ち着かねぇな」

「うん……もぞもぞするよね」

初日に海があの魔道具を充魔したからか、基本的には好意的なんだよな。この国の人。とは言え、下心を感じる瞬間がないとは言えないので大人しく物置部屋に篭っていた訳だ。あと偉い人との謁見とか、マジで勘弁して下さいと全力回避した。無理。

そういえば、ヴィーヴォくんはコイツら利用してやろうとかそう言う下心の欠片すら見せなかったな。どこまでも気のいいにーちゃんである。是非何らかの加護がありますように。龍の理不尽なやつじゃなくてな。幸せになって欲しい手合いだ。

そんなことをつらつら考えていれば、応接間とやらに到着したのか妙に立派な扉が迎えてくる。レランドさんがやや緊張した面持ちで扉をノックしてから一声掛けてノブを回せば、重そうなくせ音もなく滑らかに開く扉。

ニス何重塗ってんの?つやっつやな木素材の扉はきっとお高い。これ一枚物では?木目も鮮やかに、彫刻も美しい扉に目が釘付けである。


が、そこを見ている場合では無い。

わざわざ遠方からお越しになった使者の人にご挨拶せねばと室内に目線をやれば、こちらが何を言うまでもなく中の人達の行動は素早い。

こちらを視認した瞬間、待機していた面々は動きも機敏に片膝をつき、傅くように首を垂れた。

びっくりである。

「お目にかかれて光栄にございます、御使い様」

つむじを見せている人数は四人。

その内の一人がそう発した言葉にヴィーヴォくんがぎょっと目を剥いた。

「クィンスタッドから参りました、グラーヴェと申します」

そっと顔を上げたと思えばご挨拶頂いてしまった。

こちらを見上げるのは星を抱いたような、透き通るような琥珀の瞳。整えられた頭髪も琥珀色と言えばいいのか、それともオレンジか、濃い金髪か。なんとも不思議な色合いだ。何か眩しいなこの人。光反射しすぎでは?えらくキラキラとした色彩のにーちゃんが淡く微笑みながら見上げてくるこの現状、大変むずかゆい。

代表としてご挨拶下さったと言うことは、このグラーヴェさんがクィンスタッドの使者のトップ的な立場なのだろう。

どう反応をしたものか少しばかり考えてみるが、とりあえず相手さんだけにこんな姿勢を取らせているのは少々頂けないなと思い、グラーヴェさんの正面にそっと正座してみた。

絨毯敷きでよかった。お膝痛くない。

そんなどうでもいいことを思考の端にひっかけながら、その姿勢から見上げる面々は目を見開いて「え?」みたいな顔をしていた。

「森の方から来ました、空です。遠いところお迎えありがとうございます。頑張れば自力で行けるかなとは思ってましたが、不安もあったのでとても助かります」

と、ご挨拶がてら謝辞を述べたなら海も隣にそそっと寄ってきてちょこりと正座した。

「同じく森の方から来ました、海です。こちらの礼儀作法には疎いんで失礼あってもご容赦願います」

そして続けたご挨拶に、グラーヴェさんがはく、と何かしら言おうとしたのは解るが、言葉が出ないのかその口元だけを戦慄かせている。

「ええと……多分ノクト殿下から何かしらは聞いておられると思うのですが、我々めちゃ一般人でして、なんと言うか、そういう、その、丁寧な対応をされると狼狽えます」

と、続いてもうちょっと雑にしてくれていいよの意を含めて告げてみれば、ぱちりと目を瞬かせてこてりと首を傾げられてしまった。


まさか殿下、そのへん伝えてないのか?いや、まぁ殿下だしな。そんなこともあるかもしれない。うっかりさんだもんな。

「うっそだろ殿下……連絡不備すぎん?報連相下手くそかよ……社長に匹敵するんじゃねぇか……?」

「いやいや、社長程酷くないよ殿下頑張ってくれてるよ。ちょっとうっかりさんなだけだよ失礼なこと言うな」

いや、ちょっと思ったけどな?でもほら。殿下だしな。先方と連絡取ってくれるだけでありがたいと思うべきだろう。そもそも殿下レベルでフレンドリーとか求めるのは酷ではないだろうか。

「あ……の、御使い様……?」

「あ、ごめん。脱線しちゃった。ええと、グラーヴェさん?さま?」

「さまじゃね?多分偉い人。なんか雰囲気が殿下達と似てっし」

「確かに偉い人オーラ出てる。キラキラしてるし」

「物理的にキラキラしてるのもあるよな。色すげぇ。テンション上がる」

殿下割と普通だったもんな。目の色が緑と言う以外、まことそのへんの大学生感出てたもんな。親しみやすい御仁が初手で良かった。

グラーヴェさまは多分顔面偏差値も割と高め。きっと。恐らく。なんかまつげも長いし……いや、ほんと長いな。マスカラ要らずかよ。

謝った矢先、またしても脱線した私達を前に戸惑いマックスなのほんとごめん。申し訳ない。琥珀の瞳が揺れて、どうしよう?と語っているではないか。決して若者を困らせたいわけでは無いのだが、こちらも相変わらずどうしていいか対応を模索中なのだ。許されたい。

いつでも困ってるんだ、私達は。

「……いえ、グラーヴェとお呼び下さい。お二人に勝る存在など、この世に龍以外存在いたしません」

「そうはいくか。社長が上位なのも腹立つなあのパワハラ上司」

「いや、上司なんだからそりゃ上位でしょ何言ってんの。ひっぱたいてもこっちの手が死ぬわあの巨大上司」

「それな。壁じゃん?サイズ感おかしいよな。比率考えろよ。いかに俺がでっかいモン好きでも上司は人型でいいわマジで」

「でっかいモンは浪漫なのわかるけどな。お徳用洗剤とか無駄にときめく」

「業務用おやつだろそこは。いやそれは置いといて、俺等はそもそも偉くねぇし。何かある日突然業務押し付けられた哀れな子羊だし。助けて偉い人」

「しれっと泣きつくんじゃないよ。若者を困惑させるのも大概にすべき」

そして盛大に困惑しているのを最早隠せていないグラーヴェさまと他三名。

全身全霊でどうしよう……と語るでないよ。

「ええと、まぁ概ねこんな感じの生き物なので、適当に扱って下さい」

「あ、取扱説明要るんじゃね?ほら、例えば俺等成人してて、認めたくねぇけどあちらさん基準で小さいのは、民族的な理由だから成長不良じゃねぇってこととか」

「あー。過剰に餌を与えないで下さい的な?あと戦闘能力皆無で、時々視界から消えちゃう事あるけど近場にいるから声掛けてみてとか?」

「あるある。うっかり隠密仕様になっちまうやつな」

なるほど、ロルクェストで難儀した事を活かして、先に言っておくのは大切かもしれない。


「後は……っ、て、今かよふざけんな……っ!」

言葉を続けようとした瞬間、ズキリ、と唐突に右目を痛みが襲う。反射的に目を覆えば視界に広がるのは暗闇のみ。

「……っ、右目塞ぐと何も見えない件について」

「当たり前過ぎて震える……!」

むしり取るように眼帯を剥がし、視線を周囲に巡らせても特に変化は見られない。

「見える範囲に異常無さすぎて理不尽さに腹立つわ」

「いや待て、こっち異常ある」

こっち、とは。

海の視線の先はマップさんか、と自分のマップを引き寄せたなら、何だかじわじわと開けた筈のエリアが黒塗りに侵食されている。なんてことをするのか。コツコツと活動した痕跡を抹消しようとするでないわ。

「……加護のエリアが食われてる?」

「ってことかね……?森は無事だけどよ、これあれか。天穴開くまでイタチごっこ?あとイテェのムカつく」

「いやマジでそれは同意。でも何で?龍脈食われるようなイベント勃発した?」

「わかんねぇな……、あ、あー!そうか!キラキラしてんのあれか!物理的にキラキラしてるだけじゃなくて、グラーヴェ様もしかして王族なんじゃん?祝福持ちのキラキラなんじゃね?」

え、王族と接触したら龍脈食われるの?殿下の時はそもそも森の中だったからマップにも影響なかったと言うそういうオチ?

「祝福を通して深淵にも捕捉される可能性?」

「かもよ?」

「呪いじゃん?」

「ンなこと言ったらこの目も呪いみたいなもんじゃん?」

ごもっとも過ぎて震える。

「ってかやべぇ。侵食もうそこまで来てるんだけど、これ何かしとくべき?」

「わかんない。とりあえず結界張って様子見るくらいしか出来なくない?」

言いながら結界を展開しつつ、海が立ち上がりながらグラーヴェさまに手を差し出した。

「ちょっと何が起こるかわかんねぇし、安全を保証しきれねぇんで立って貰っていい……ですか?」

とってつけたような丁寧語が笑える。が、笑っている場合でもない。

「レランドさんとヴィーヴォくんも結界内に入ってて。急なスプラッタだけはホントに勘弁」

私も肩越し振り返り、背後の二人にそう告げたらぱちぱちと瞬きを繰り返して疑問を顔面に表現していた。

「一体、何が……?」

「いやわかんね。俺等が知りてぇくらいだけどよ、何か食われてるのだけは解るんで、場合によっちゃ危険」


そろり、とレランドさんが足を此方に踏み出しながら疑問を口にして、それに雑な答えを返している海。

「ヴィーヴォくん、ぼんやりしてないで……」

だがぽかんとしたまま動かないヴィーヴォくん。しかたなしに立ち上がってひっぱるなり結界を広げるなりするかと思ったその時、

「あ゛……!!?」

一歩踏み出した足が、想像以上に痺れていた。

急激に流れ込む血流にしびしびと走る痛み、踏み出した足は膝から折れ、そのまま前のめりに転倒しそうになる。

が、倒れる前に促されて立ち上がったグラーヴェさまががしりと腕を掴んで転倒を阻止してくれる。ありがたい話だが申し訳ない。

「あ゛ー!超痺れてる痛い辛いー!グラーヴェさまありがとーっ!」

苦痛と感謝を一息に吐き出してじたじたと悶えながらヴィーヴォくんに手招きしてもドン引きな彼は動かない。何でだよ、危ないかもしれんだろうが。

「ええと……はい、どう、いたしまして……?」

戸惑いながらお返事くれるの優しいね!

「ダッサ、ウケる。身動きとれねぇでやんの」

「やかましい!そう言うお前も動けないんだろうがぁぁっ!」

微動だにしていないのがその証拠だからな!おねーちゃんはわかってるんだからな!

「お、落ち着いてください……そちらへ移動すればよろしいのですね?」

そろりと手を添えて、介護状態で移動をしようとしてくれるグラーヴェさま。神かよ。

そろりそろりと移動してくれるわけだが、ふと思う。

「結界カスタムしたら解決では?」

「あ、忘れてた」

消費魔力の都合上、あまりカスタム結界使わないので咄嗟に思いつかないのよな。

ずり、と。痺れた足を引き摺りながら結界から出た瞬間に思い出すあたり終わってる。いつも大切な事は後から気付くのだ。


「あ、」

「え?」


そして、侵食が到達するのもほぼ同時で、

皮膚を這う生暖かいような不快感と同時に、うわりと浮遊感。

とぷりと頭の先までぬるま湯に浸るような感覚に反射的に目を閉じた。

あのさ、攻撃される時目を閉じてはいけないとか言うけどさ。無理じゃない?鋼のメンタル必要じゃない?

耳鳴りのような騒めきが鼓膜を叩くのに合わせて、跳ね上がった鼓動の音が聞こえる。

腕を掴むグラーヴェさまの手の感触が、火傷しそうな程に熱いと感じてしまう。

「……っ、く、ぅ」

そして続いて聞こえる苦悶の声に瞼をこじ開ければ、見えるのは暗闇。その中でうっすらと、それはそれはほんのーりとほのかーに発光するグラーヴェさま。死にかけの蛍かな?

「……あー、なるほど?なるほど?」

とりあえず結界を張れば、はっと息を吐き出して肩で短く息を繰り返しながらグラーヴェさまが脱力していくのを、今度はこちらが手を添えて支える側に回る。

重力は感じない。故に足の痺れのダメージも今はさして大きくはない。

つまりこれは。

「……深淵かぁ」

ふわふわと無重力の中、うんざりと吐き出した言葉を聞く人は、どうやらグラーヴェさまだけだ。

ヴィーヴォくんはどうなったのだろうか。結界は結局間に合っていないのだ。

グラーヴェさまは祝福持ちであるようなのでうっすら光っているから認識できるが、これ多分祝福ないと飲まれて終いではなかろうか。え?生きてる?大丈夫?やばくない?

そのグラーヴェさまですら、何か物凄くしんどそうなのだけれども?結界張ったら一応マシにはなったようで何よりではあるが、滅茶苦茶具合悪そうな御面相だ。

「まいったねぇ……?」

どうするかなぁ。


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