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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
東の国とのつきあい方
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7

とりあえず一つの問題は勢いで鎮火したので、さてではこの誘爆したレランドさんの方をだな、何とかせねば。

確かに嘘をついたのは誠に申し訳ございませんてな話ではあるが、龍のおつかいで森から来ましたー!とか言うて信じるような脳味噌お花畑な人間おらんだろ?と。

しかしとりあえず、だ。

茶を淹れよう。

この街入ってから水分補給してないわ。そう言えば。

水が貴重過ぎて、多分来客に茶を出すとか言う文化無いんだろうし。


インベントリからスチールカップを四つ取り出してローテーブルにコトリと置けば視線が向けられる。が、その事実は横にやって茶を淹れる。

こうばしい香りの番茶をば。

紅茶とかそんなオシャレな飲み物を上手に淹れるスキルはない。粗茶ですが的に素人でも割とおいしく淹れられるの大事よな。庶民の味方。

しっかし、程良い温度の湯を即座に出せるスキル真面目に便利……。

「とりあえず一度落ち着いてお茶にしよう。海は飲んであったまるが良いよ」

差し出した茶を、取手ではなくカップを掌で包むように受け取る海。そして口元に寄せて一口啜ればほぅと息を吐いて表情がゆるむ。

「うまー。あんがと」

「どいたまー」

適当なやりとりをしながら、カップのひとつをレランドさんにも差し出す。

「どぞ。粗茶ですが」

が、受け取るそぶりもなく動揺しながら震える指先でカップを示し、

「……いま、水、は、どこから……?」

この人割とちゃんと見てんなぁ……殿下とか総スルーしてくれる現象だと言うに。

やっぱり殿下が特殊な個体だったのか……でもおつかいで旅してんだから水くらい収納に入ってるよねと納得してくれんかなぁ。無理かなぁ。

「そのような瑣末な事でソラ様を煩わせることの無いように心得なさい、隊長殿」

「おにーさんはちょっと自重しようか。はい、お茶飲んでクールダウンしよう」

「ありがたく、私のような者にも祝福を与えて下さる慈悲に心より、」

「祝福じゃなくてただの茶なので。そんな大層なアレではなくて……うーん、ややこしい」

妙にありがたいものを受け取るように恭しくスチールカップ受け取るのやめてくれなかろうか。

思わず発言を被せて封殺してしまうのも許されることでは?

「とりあえず、こーなったからにはレランドさんにはゲロしておくのが最適よな。信じる信じないはまぁ置いといて」

「まぁそうよなぁ……」

神殿行き決定した時に、他の皆さんには別にお仕事割り当てて、今ここにいるのはレランドさんのみだ。それならゲロしておいても良いだろう。

この人なら冗談として流してくれないかなぁ。ワンチャンいける気がする。

いや別に隠してる訳では無いのでいいのだけど。ただ、初対面で龍のトコからおつかいに来ましたー、とか言っても胡散臭いことこの上ないので、積極的に身バレしに行かないだけだ。ただでさえ不審者なのにさらに不審具合を上乗せしてどうするって話だわ。


とは言え決めたのならば早いトコ話を済ませてしまうべきだろう。海と目配せをしたなら、海がこくりと頷いてやや真剣な表情でもって口を開く。

「俺等の所属がロルクェストってのが先ず嘘。でもロルクェストの人等には随分良くして貰ったし、世話にもなってる。現在進行形で」

そうな。クィンスタッドとの連絡なんて殿下頼みだもんな。いやほんと、助かるわ。ありがとう殿下。西の方角拝んでおくか。

「んで、まぁ実際の所属はっつーと龍の森。つってもある日突然森の中だったもんで、最近漸く俺等が龍の腕って役職だったってのを知ったくらい」

それよ。問題はそこなのよ。通達無いんだもんなぁ。

スラスラ話す海の横でしみじみと頷く同意マシンと化している私。頼りになる弟っていいね。

「まー、そんな感じなんだけど……所謂龍の御使いなんて言われてんのが現状。で、クィンスタッドまで出向いて東の加護取り戻すのが今回の旅の目的ってー話なんだけど……ほら、俺等こんなんじゃん?ンなこと初対面で言われても誰も信じねぇじゃん?つーか今暴露したトコロで信じらんねぇじゃん?」

じゃんじゃんうるせぇ。だが概ね同意。

そしてレランドさんの顔面も相変わらずの困惑っぷりである。

そんなことある?と言わんばかりの御面相、わかりみが深い。

「んでもまぁ、加護取り戻したらこの日照りと水不足、割と改善していく筈なんで……そこらは多少期待してくれてもいい、はず」

そこは言い切れ。西の雨っぷりを見たなら大丈夫なはずだ。社長だってそこらへんは頑張れる子の筈。

「だからまぁ、神殿の人等が俺等にとても親切って訳なんだけど……レランドさん?レランドさーん?大丈夫?あの、聞いてくれてます?今俺結構大事な話したと思うんだけど……?」

困惑からのフリーズ、処理落ちしたレランドさんが固まって動かない件について。

焦点も明後日の方向に定まっているのか、目を開けたままであるのに何も見ていないかのようだ。顔の前でふりふりと手を振っても反応がない。ただの屍……いや生きとるわ。

困ったように眉根を下げた情けない顔で振り返った海に、ひとつ頷いて見せて手に持つカップを軽く持ち上げ、

「とりあえず、茶を飲もう。その内再起動するよきっと」

無責任とは言うなかれ。脳内の処理が済むまでそっとしておくのも優しさと言うものだ。たぶん。

茶を口に含めば喉が渇いていたのか、すんなりと……いや、むしろ一気に干してしまった。これ足りんな。思わず水を足して追加で飲む。

乾きに気付いてしまったなら存分に補充しておかねば。脱水駄目絶対。

「ふはー、うまー」

「がぶ飲みかよ。俺も水飲も」

つられたように海もまた水を飲みつつ、チラと窓の外に視線を向ける。

「殿下からの返事、いつくらいに届くと思う?」

「あっちの充魔師さんがクィンスタッドとこっちに割ける魔力次第じゃない?」

「……次にロルクェスト行く時は菓子折り持って行った方がいい案件か」

「それな。過酷な労働を強いている気がする」

ほんとごめんね。見知らぬ充魔師さん……。

あとは、間違いなく殿下にも礼の品を包むべきだろう。色々と手配してくれるの真面目に助かる。魔道具を持たせてくれて本当にありがとう。あの時遭遇したのが殿下で心底運が良かった。まぁ偶然か必然か、知れたものではないが。


しかし、そう。こちらの返事は恐らく本日中には殿下に届くことだろう。が、だ。ロルクェストからクィンスタッドへ連絡が行き、そこからお迎えが発進したとしてお急ぎ便にしてくれたとしてどの程度の日数がかかるのだろう。その間レランドさんにずっと世話になるわけにもいかないのではなかろうか。

やはり適当な場所にテント張って過ごすことも考えた方がいいだろうか。

別段テント生活に文句は無いし、それはそれで気を使わなくていいので構わないのだが……随分と生活満足度が下がったものだなと思わず苦い思いを飲み込んだ。危うく舌打ちしそうになったわ。テント快適とかふざけてんのかって話よな。


「そういえばおにーさんのお名前、聞いてもいい?」

あまりにレランドさんが再起動しないもので、思い立って神官さんに問いかけたならば妙にありがたそうに目を伏せカップを傾けていた神官さんの目がぱちぱちと瞬きを繰り返す。

「あ、嫌なら……」

「いえ、とんでもございません。私ごときの名を問われるとは思ってもおらず……名乗りが遅くなり、失礼いたしました。アルデと、申します」

ごときて。それを言うならこっちこそ一般家庭のにわかオタクごときでしかないのだが?色々持ち上げられすぎて最早現在地が解らんレベルだ。天高く祭り上げられているような扱いと、現実の己との剥離が激しい。

これもその内慣れるのだろうか……いやこれ慣れちゃったらそれはそれで問題な気がする。こういうものだと諦観するのは必要なのだろうけれど、この扱いが普通になってはいけない。小市民感は大事よな。

「アルデさん、か。今日はお部屋貸してくれてありがと。おかげで速やかに海を着替えさせられたから、助かりました」

「滅相もございません。微々たる事ではございますが、お二人の御役に立てた事、誇りに思います」

ほんのりと微笑みを浮かべて割とガチで言ってそうな台詞に思わず曖昧な笑みを返す。

「この度神殿経由でお二人の東への来訪を知った折には、皆一様に何かしらの助力になれればと願ったものです。幸運にもこうしてお言葉を頂き、御役に立てたことを誇りと言わずなんと申しましょう」

「そう言って貰えるのはありがたいのだけれど……いや、うん。可及的速やかに仕事完遂できるように頑張ります」

もうそれしか言えねぇわ。無理だわ。キラキラしてるもん。

ご満悦ならばそれでいいじゃない……笑顔って大事だよねうん。ストレス緩和にもなるらしいし、健康にもいいもんね。皆健康になればいいんだ、うん。

「しかしこうしてお姿を拝見できる可能性など露にも等しいと思っておりました故、誠にこの度は幸運にございました。自力でお二人に会いに行こうとする者も居るらしいのですが、日々の業務を疎かにして祝福を得られることはないのでしょう」

いや待って。ちょっと待って。

「自力で森まで来ようとしてたってこと?え?この水不足極まりない土地で?無理がない?」

「さようにございますね……旅には些か、現状厳しいものがございますね」

……もしかして今日の昼頃拾った行き倒れって、その筋の人?神官服ではなかったけれど、アレもしかして神官さんの可能性……?

「大抵の場合は、その者の同僚が引き留めてはいるのですが……直近で一人、行方が分からなくなっているそうです」

「……今日の昼に行き倒れ拾ったんだけど。レランドさん達にお世話してもらっててね……もしかして、なんだけどさ」

「なんと……!既にお二人にご面倒をお掛けしているとは、なんという不敬者でしょうか」

「いやそこはいいんだけど。身元引受人が神殿なら回収してあげてほしいな、って」

ある意味あの行き倒れのおかげでレランドさん達と遭遇できたわけだし、まぁ助かったと言えば助かった……と表現できなくもない。

「まぁあの人が神官さんかどうかは解んないけど……可能性としてはあるかなぁ、と」

「このご時世に旅をする者は、ほぼおりませんので……可能性は高いかと」

そっと眉根を寄せて、少しばかり遠い目をしたアルデさんは顔面で『困った奴がいるもんだ』と語っている。そうね。あの人がそうであれば、ちょっとやんちゃな同業者に呆れすら抱いちゃうよね。解らんでもない。


で、結局レランドさんが復活するまでにそこそこ掛かったが、なんとか再起動したレランドさんが流れるように頭を下げそうになったのでおでこに指先を当てて阻止しておいた。

なんか小さく呻いて固まったところで、

「レランドさん、今日保護してもらった行き倒れなんだけど」

要件を切り出した。

どうせアレだろ。なんかこう、すまんとかなんとかそういうアレコレ吐き出そうってハラだろ。でもってごめんね合戦になるんだろ。そんな不毛なやり取りはしたくない。そんなことより時間を有意義に使おう頼むから。

「なんか神殿の関係者の可能性があるってことなので、ちょっとアルデさんに確認して貰うことってできません?」

「は、いや、それは、可能、だが……?」

「ほんと?助かります。ありがとレランドさん」

顔面に疑問符を張り付けたまま、反射で答えたみたいな返事にいやよかったよかったと感謝を告げる。

いやぁ、正直丸投げしたあの行き倒れ、完全にはいじゃあ宜しくというのも後味が悪かったのよな。ある程度のお手伝ができたのならこれ幸いというものだ。

「あ、いや。こちらこそ……?」

「いやマジ、知り合うべきは頼りになる人よな。つっても大体皆頼りになるけど。俺等世間知らず過ぎてウケる」

「いやウケないわ。何の情報もないのがそもそも間違いだっつの」

もっと言えば、今この世界に居る事そのものが間違いだ。拒否権ないのどうかと思うよ?何かにつけて。

あと情に訴えてくるような世界情勢マジやめろ。私達が悪いわけじゃないのにものすごい罪悪感を感じるから。はよ業務こなさなきゃって焦るから。

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