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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
東の国とのつきあい方
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5


「さっむ。寒い。つらい。まだこの季節水しぶきとか浴びるの早いって。時期尚早。駄目絶対」

無事に小舟でピックアップされてきた海は己の身体を抱きしめるようにして震えている。震える海にバスタオルを掛けてやれば頭を差し出してきたのでしゃーねぇなとぐいぐい水気をぬぐってやった。

「で、残存魔力は?」

「んあー?8割程度ある」

声をひそめて問いかけたなら、同じく声を抑えて応えが返る。

「器でかいって言ってもそんなもんかぁ……」

「言うて、殿下に会った時の俺等じゃ無理ゲーよコレ。多分普通に満たすの至難じゃねぇかな」

マジか。

「当時なら二人で何とか、ってー感じなんであの扉とそう変わんねぇ感触」

「……ってことは何かしらの魔道具にあらかじめ充魔しておくべきってことかぁ」

「まぁその余裕がないから現状なんだろけどなー」

しみじみと、魔力増やしておいて良かったなぁと思う。まぁ、少しでも水が出たら構わないと言っていたから、満タン充魔は期待されていなかったのだろうが。


「まぁとりあえず、何せ着替えてぇな……クッソ寒い」

「しっとりしちゃってるもんねぇ」

お肌の乾燥心配してたから良かったじゃないの、とは流石に言えないが。風邪ひくなよ。

そんなやりとりをしていたならば、困惑したように先程私達を待機部屋に迎えに来た若い騎士が、眉根を寄せていた。

「うっそだろ……あれだけのコトしといてそのノリなのお二人さん……」

信じられない、と戦慄いている姿は何かの小動物のようだ。

「いや逆にどんなノリがあんのか知りてぇわ」

それな。

「いや、もっとこう……こう、感謝しろよみたいな?神業だろ?みたいな……ないの?」

「感謝とか超されてんじゃん。なんか割と拝まれてて海くん困惑してるんだけど」

「いや、拝むよあんなの!何で一人で充魔できちゃうのアレ!?見たコトも聞いたコトもねぇよ?!」

「安心しろ。俺もこの規模の充魔、ねーちゃんと分担せずに一人でやったの初めて。お互い初体験。めでたい」

むしろ充魔そのものをした経験が揃って不足している件について。

「そこじゃねぇんだわ!!」

ぐわっと頭を抱えた騎士さんの肩を、まぁまぁとか言いつつおもむろにぽんと叩いて、

「結果オーライ」

と適当な事をのたまい親指を立てる海に、私も頷いておいた。

「ところで俺アンタの名前知らねぇわ。差し支えなければ教えてくんね?」

「差し支えるんでやめとく」

「何でだよ。俺に対する龍の寵愛見たろ?不信心とかそう言う問題クリアしたろ?」

「最早恐れ多いレベルの寵愛を見たわ。俺ごときが名前覚えて貰うとかねぇわ」

結局やべぇ奴認定は覆らんのかよ。世知辛いなおい。

しかし、このにーちゃんはコレでも口調と態度がフレンドリーなだけマシか。

海は最早これ信仰対象かな?くらいに拝まれてるし、何ならお声掛けしていいのか躊躇われますみたいな扱いされてるからな。レランドさんも声を掛けあぐねているではないか。もじもじすんな。


そんな状況下、

「……失礼を承知でお伺いします。カイ様と、ソラ様でいらっしゃいますか」

そっと、人の群れの中から一歩出てきた男が控え目にそう声を掛けてきたのに、きょとりと目を丸くする。

見たことある装いだ。

これ、神殿関係者だなと一目で知れる法衣を纏う男性。線の細そうな背の高いその人は、いかにも文系。

最近筋肉過多であったので、珍しいタイプでは?と、どうでも良いことを思った。

さらさらの頭髪は肩で切り揃えられた生成色、瞳も茅色で妙に色素の薄い御仁なのもその印象に拍車を掛ける。

大丈夫このひと?倒れない?身体も薄いし色素も薄いので余計な心配をしてしまうではないの。

「そっすけど。お兄さんは神殿の人よな。えーと、ロルクェストの神殿からお知らせ貰ってる感じ?」

「さようにございます。お二人に拝謁できること、龍に感謝致します」

破茶滅茶に恭しく礼を取られてこれはこれで困るんだが。

お前等何者だと、にーちゃんとレランドさんの目が語っているでは無いの。

「あ、待って。マジで待って。そう言うのいいから。そう言う下にも置かない扱いされてもどうしていいかわかんねぇから」

「拝謁とか無いから。その辺割と普通に歩いてるから。見かけたら適当に声掛けていい生き物だから」

ダンゴムシ見つけた時くらいのテンションでよろしくどうぞ。

「ってか、神殿なんて通達したんだ?俺等のこと見て解るもんなのか?」

「頭髪の色とか身長とかでないの?特徴おさえておけば、あとはワンセットで行動してるしわかりやすいのかも」

ついでに今の充魔は判断材料として大きいだろうし。

見つかっても不思議はない。

「ご推察の通りにございます」

ひとつ頷き、微笑みを浮かべた神殿関係者はその手を胸に当て、目を伏せた。

「夜空色のお髪に、柳緑色の瞳。ロルクェストの第二王子率いる隊の制服と同じ色の眼帯に、小柄な体躯の姉弟である、と。稚いとすら言える無垢なお二人は常に共に在り、互いを助け合うのだと。そしてその御力はまさしく龍の寵愛を一身に受け、身に纏う魔力は人ならざる……」

「あ、それくらいで、それくらいで勘弁して下さい」

「俺等の説明を神殿的にするとそうなるのは解りましたんで、それくらいで……」

後半徐々にテンション上がってきたので打ち切り入れないと多分これ長いわ。自分達について神殿視点でそんな長々と語られるとかどんな羞恥プレイであるのか。

そして稚いとか無垢とか、誰の話なんだってなるから。

あと何気に人ならざるとか失敬な話である。人だわ。人外認定すんのはやめろ。いやホントに。

「さようにございますか……?」

語り足りない、と顔面に滲ませながらも一時トークを中断してくれたお兄さんに、曖昧に笑って見せるしかできない。

「えーと、折角お声掛け頂いたんだけどお話は後程でいいかな……?とりあえず早々に海着替えさせたいので」

なんならここでテント出して着替えてもいいくらいだ。

うちの子が風邪引いたらどうしてくれんの。

いやまぁそうなったらキュア・ポーション一択だが、風邪引かないに越した事はない。

そう告げたなら、はっとしたようにその茅色の目を大きく開いて、頭を下げるにーちゃん。

「これは、配慮が足りず失礼致しました。よろしければ、私の所属する神殿支部がすぐそこに御座います。そちらでお部屋を用意させて頂きたく……」

それは普通にありがたい、が。

チラとレランドさんに目を向けたなら、レランドさんもこちらを見ていたのかばちりと目が合う。

「……ここからの距離で言うならば、俺が用意した場所よりも神殿の方が近い、な」

そう告げられた言葉に、どうするかと今度は海を見る。

そうしたなら、へなりと眉を下げて少しばかり情けない顔をしたかと思えば、

「なるはやで。マジ寒い」

なるほど?

「ならお言葉に甘えて、神殿で着替えさせて貰おうか」

いいだろうか、とレランドさんに目で問えば、頷きが返る。

「お身体に差し障る前に」

その一言を添えてくれたので、とりあえず神殿行きが決定した。

いや良かった。

このまま海を拝まれたままというのもいたたまれないことだし、早々に移動することにした。

いや、話が早くて助かるわ。

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