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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
東の国とのつきあい方
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4


なんだか間の抜けた空気が流れた結果、充魔師さんのお怒りも鎮火したようで何よりである。

鎮火したというよりは、コイツ等と話してるの馬鹿らしくなってきたわと言うような空気ではあるが。いや失礼な話だ全く。

「そんで、結局俺等充魔すんの?しねぇの?どっちなの?」

そして私達の今日の宿は確保できるの?できないの?という話である。

できないならできないで、適当に野営場所を定める必要があるので早々に話を纏めて頂けないだろうか。

こちらの問いかけに渋面を浮かべた充魔師さんはひらひらと手を振って溜息を吐き出す。

「城下の魔道具にはほとんど充魔できていない。するならそちらをすればいいだろう」

くそ投げやりな口調でぞんざいに吐き出された言葉には、俺のテリトリーには入るんじゃねぇぞと言う意思を感じる。

割とプライド高いタイプだなこの人。面倒くせぇ。

「ってことらしいんだけど、隊長さん的にはそれで構わねぇ感じ?」

視線を投げて、海が問いかけたなら眉間に皺を寄せた隊長さんがむぅと唸って、それでもこくりと頷いた。

「そうだな……すまないが、それで頼む」


と、言うわけでご案内頂いた城下の魔道具。

なんか、本来なら貯水池みたいになっているくぼみの真ん中の小島にどーんと置かれているそれは、大きな石板みたいな形をしていた。

船で行き来するのが通常らしいが、当然ここも空っけつなので徒歩で移動可能である。引き潮の浜辺歩くみたいな?それにしちゃ湿度が足りないが。乾燥マックスすぎてぱっさぱさである。


思わず口をあけて見上げるその石板に刻まれた文様は相変わらず読めないし、意味も解らない。スキルに魔道具生成とかないのかな。もしあったらそれを取得したらこれも読めるようになるのだろうか。それはちょっと夢が膨らむな。うん。

今夜あたりメッセージ送って調べて貰おうそうしよう。

「でけぇな……」

ぽつり、と海が呟いたのにこくりと頷いてでかいねと同意する。

あのスレイプニルの馬車よりでかい。これ誰が文様刻んだんだろうと思うレベルだ。

聳え立つ石板に、そっと海がてのひらを当てて、かと思えば眉を顰めて首を傾げる。

「……うへぇ。空なのはまぁ解るけど、結構な器だぜこれ」

「マジか。魔力足りる?」

「そこらへんは問題ねぇけど、結構食うのは間違いねぇな」

あ、問題ないのか。それはなにより。


そんなやりとりをしていたら、後ろからレランドさんが少し困ったような表情をしながらそっと声を掛けてくる。

「無理はしなくていい。多少とは言え水が出たなら、それだけでも助かるはずだ」

それは気遣いの言葉なのだろう。

へらりと笑った海が、ひらひらと手を振って見せる。

「りょーかい。まぁ滞在先確保宜しく頼むわ」

「ひとりでやるの?」

「おう。ねーちゃんは魔力温存しといて」

なんかあった時の為に、と言葉にしない意味を含めて言われたそれに一つ頷いて一歩下がる。

そうして、深呼吸をした海からじわりと魔力が立ち昇り、魔道具に注がれていくのが視認できた。

目で視認できるだけの魔力は、それ相応の量なのだと流石にもう解る。なるほど、結構食うとは中々のものだなと思いながらも、仄かに光を帯びる背中を見守る。


そうして、数十秒後、じわり、と魔道具の上から水が滲みだし、それがさらさらとその石板の表面を撫ぜながら滑り落ちてくる。

その水の勢いは、時間と共に量を増し、果ては噴水のように流れ出して行く。

ちょうど海がいる場所は避けて、側面と背面からさらさらと流れる水に「おお……」と感嘆の声を零したのはレランドさんと他数名。

ざあぁと湧き出る水は乾いた地表に染み込み、けれどさらにそこに追加で流れ込みどんどんと水たまりを作り、そこから水面がじわじわと浸食を始めていく。

これ、このままでは戻れなくなる恐れがなかろうか?

噴水のようだった水の勢いはそこで留まらず、最早ドドドとか言う音をさせて滝のようになっているわけだが。

すごいな地下水。結構豊富だな。きっとミネラルたっぷりなんだろうな。東の森の地下水みたいに。


みるみる水位を上げる水に、「え、ちょ」とか動揺の声が上がり始める。

海の位置まで進めば足元の水からは逃れられるが、渦巻く魔力が割と物理的に押してくるのでそこにとどまるのは難しいだろう。

とりあえず退避命令が出されて、私も海を残してくぼみの淵まで戻った。

なんか、小舟の手配をするとかどうとか聞こえたのでまぁなんとかなるだろう。

そうしている間にもガンガン水は溢れ出ているし、この勢いではこの貯水池からはみ出すまでにそれほど時間を要することはないのでは?と思えば、第二水門を開けとか水路の私物を撤去させろとかわーわーと騒がしい声が耳朶を打つ。

大変だねぇ、とのんびり海を眺めながら喧噪に耳を傾けてすこし笑った。

大変そうだが、何か笑顔でわーわー言ってるのは良いな。皆嬉しそうだ。

何事かと付近の住民だろうか、現地人もそろそろと顔を出しては水の存在をその目にして憂いた顔に驚愕を浮かべている。


そして、魔力の光を撒き散らす、海の背中に向かって祈りを捧げていた。

……祈られるんかーい。

思わずツッコミを入れてしまう光景である。

陽光と魔力の光を反射してきらきらと水面が揺れる中、周囲を見ることもなくひたすらに魔力を注ぐ弟の背中を拝む人はどんどんと増えていくわけだが……これどうすんのさ。

多分これ、一人で充魔完了する代物ではないんだろうな……海くんはりきっちゃったのね。

普通に人外認定待ったなしだわ。理解した。

しかし海がそこまではりきった理由も解らんでもない。ここまで歩いてくる道すがら、見えた人々の虚ろな顔は結構、なんだ。心にダメージがあった。

そりゃ、こちらとしても早くなんとかして差し上げたいのだが、クィンスタッドまでの道のりを考えれば龍脈が満ちるのはまだ先の事だろう。となれば、目下一番手っ取り早くできる方法で応急処置をしておきたいのは、解るのだ。

幼い子供から立派な大人まで、みな一様に沈んだ顔をしている原因が水だと言うのなら、と。張り切っちゃうよねぇ……解る。

炊事も洗濯も風呂もままならんとか、疫病も怖いし。なんせ人間には水が必要だ。これは間違いない。皆ちゃんと水分補給しろよって言いたくなる。


「……奇跡のような光景だ」

そっと、隣に戻ってきたレランドさんが海の背中を食い入るように見つめてうわごとのように囁いた。その言葉に込められた思いは如何程のものか。

推し量るには私はこの世界のことを知らなさすぎる。

「現実ですんで、海の回収方法の手配つつがなくお願いします」

その間にも、第三水門開門だとか、第二貯水池満ちましただとか、吉報が続々と入ってきている。

「ああ……ああ、勿論だ。あの方を放置など恩知らずな真似はせぬ」

あの方、と来たもんだ。一気に株が上がったな。

またこれ周囲との温度差えぐいことになるんだろうな、と少し苦い笑みを浮かべていたなら海の魔力が徐々に収束していくのが見えた。

そして、ふっと顔を上げた海が石板を少し見つめた後、振り返れば、周囲はたっぷりと水を湛えた貯水池。

一瞬固まった後、ぶんぶん手を振って口元に手を当てて、

「うっそだろ誰かー!泳げねぇことねぇけど寒中水泳したくねぇーんだけどー!!」

ですよねー。わかるー。

「だいじょぶー!レランドさんがピックアップの手配してくれてるからちょっと待っててー!」

こちらも負けじと腹から声を張り上げて言ってやれば、その場で軽くぴょんぴょん跳ねて、

「早めに頼むー!ここクッソ寒いわマジで!!」

そりゃね。滝の傍にいるようなもんだもんね。そりゃ寒いわ。風邪ひいちゃう。

「と言う事らしいです」

隣のレランドさんを見上げて告げたなら、先程までのなんかものすごく尊いものを見つめる視線は霧散して、へなりと眉が下がったゆるい笑顔になっていた。

「ああ、なんというか……おぬしら、ゆるいな……?」

力抜けたわ、と言わんばかりの台詞にへらりとこちらも笑った。


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