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「迎えにきちゃった」
語尾にハートマークでもついてんのかな?
と言わんばかりの一言に、森に入ってから五日目の朝、そろそろ出発すっかという頃に遭遇した。
母である。
ちょっと散歩がてら出てきたのよ、と言わんばかりのノリである。
いや、待てよ。
朝ってことはだ……この人何時くらいから活動してんの?昨晩寝てないの?貫徹お迎え行脚しちゃってんの?って話だ。
いや、確かにグループトークでもそわそわ感ものすごい出てたけど。
明日か明後日には帰宅できるよって言ったじゃん?迎えに来なくても無事に帰宅するって。
魔力だってちゃんとあるから大丈夫だって。エネミーだってちゃんと避けてきたでしょ私達。
ちなみに、あれから森の中を北上して北へ出られないことは確認した。
なんか、不可視の壁があって通れないんでやんの。
ぐいぐいと壁を押していたらマップ上で自宅から北へ伸びてる道がぴこぴこ点滅していたから、森の外縁まで自宅から繋ぐことがまず最優先されるのだろう。
もうね、大体想像通りだったので別になんらがっかりすらしてねぇわ。
くそルール死ね。
いや、それはいい。
それは置いといて。
迎えにきちゃった母がえらい若返っていた。
恐らく30~40代程度……そのくらいの若返りっぷりである。
魔力が多いと肉体が最盛期を保とうとする、と殿下が言っていたのでまだじわじわ若返る気なんだろうが、それにしてもだ。とてもではないが還暦間近のレディの姿ではない。驚きだ。
そして、目つき悪くねぇな?うちの母。
ってことは、だ。私達姉弟の目つきは父方の遺伝か。そうか。そんなとこ遺伝しなくていいんだが。
そして、聞けば昨晩そわそわしすぎて寝付けなかったから夜中に出発して迎えに来たとのことだ。
いや、夜の森を徘徊すんじゃねぇよ。危ねぇでしょ普通に。
しかし、おかげで残りの行程は母の結界トンネルでほぼ一直線に帰宅できたのでめちゃくちゃに早かった。くっそ楽だった。
家の付近が一番危険度高いと認識しているのに、家の付近ともなればこんな荒業で移動できちゃうのか……いや、それにしたってとんでも魔力にも程があるだろう。
知ってたけど。知ってたけどやっぱこの人が一番人間やめとるな。
そして、自宅周辺がもうすっかり農地だった。気合入った整備したもんだな?もう完璧に農家ライフ満喫してんなうちの親父は。
しかし一角だけ、薬草園がわさわさしていた。母ゾーンなのだろう。
東西南北あらゆる方面の薬草を採取してきて植えたらしいよ。もう現地調達に行かなくても草は揃うってよ。草だけな。
とは言え、涙も鱗も結界トンネルで採取に行けるからそれほど苦労はしていないそうだ。時々歩かないと運動不足になっちゃう、とかなんか平和なこと言ってる。運動不足……ええ、はい。そうですね。現代日本にいる間はまさしくそれでしたが、こちらにきてからは随分と健康的にウォーキングしてますよね、ええ。
そんな感じで帰宅したなら様々なことに驚いたりしていたわけだが、なんせ久々の自宅である。
母の手料理食って、馴染んだ風呂にゆっくり入って自室でぐっすりして……とにもかくにも全力で休養した。
そして翌日から様々な話をして、今後の方針を決めたり殿下に帰宅しました報告飛ばしたり、なにそれ私もやってみたいとか言う母が殿下にお礼?というかご挨拶の鳥飛ばしたりしていたが……
機会があれば挨拶に行くわ的な発言していたが、その時が来るのか否かは不明である。
しかし、挨拶いくねと発言した時に視線がうろついて、室内に置いてあるポーションに目が行ったのでまさかそれを手土産に持って行く気じゃねぇだろうなと……有り余っているのは解るが、それは是非やめてほしい。
いや、作りすぎである。
なんなら化粧水代わりに使ってるとか。大変肌の調子がいいのとか言ってたけどそれ魔力の影響じゃないかな。ポーション効果ではない気がする。
いや、どんなもったいない使い方してんの。森の外の人達が聞けば卒倒するからやめて差し上げろ。
そりゃね?ホームセンターで購入した梅を漬ける用のでかい瓶いっぱいになみなみ何本もあったらそりゃ邪魔なのはわかるよ?お徳用ポーションって感じだよね。インベントリにも割と入れてるとか……なんなら私達にも各種ポーションひと瓶ずつ上質くれたよ。たっぷたぷだよ。
もう薬草持ち歩くのやめようかな……いやでもなぁ、ポーション作るパフォーマンス割と効果的だから一応持っておくか。
そんなこんなで家に帰ってからも色々わいわいやってはいるのだが、目下一番の問題は……
「いやほんとすみません。黙って長期間留守にしたことは申し訳ないと思っています」
しらたまさんだ。
家具の後ろから出てこない。顔を半分くらい出してじーっとこちらを観察しておられる。
完全に、誰だお前等あぁん?という目である。
現在平身低頭謝っている。
どうかご機嫌を直していただきたい。
ちなみに、某チュールをお出ししたなら召し上がってはいただけた。完食後速攻離れてお行きになられたが。
一応威嚇はされていないので最悪の事態は免れたと言えるだろう。
だが、お怒りであらせられるのはひしと感じる。
「……つらい」
海なんてもうしょんぼりしてるじゃないの。
おさわりなどとてもではないがさせて貰えそうにない。このお怒りを鎮めるために我々に何ができるというのか……。
だがしかし、私達だって別に好きで出かけていたわけではないのだ。
そしてこんな長期間留守にする羽目になるなんて想定外にもほどがあったのだ。
出先であれこれてんやわんやで大変だったのだから、その魅惑のボディで癒してくれ。ヒーリング効果があると噂されているそのゴロゴロを聞かせてくれ。そしてなんならその香しい匂いを堪能させてくれ。
かなりのパワハラを切り抜けてきた我が身を労って頂きたい。切実に。
「全然だめねぇ……まぁこれだけ留守にしてたら仕方ないわよねぇ」
「……今後も留守にせざるを得ないんですがそれは」
「どんまい?」
完全に他人事やんけ。
ちなみに、父は畑の世話があるから東へは行けない。
母は父の世話があるから行けない。……とか言いながらアラカルトでいろんなポーション作るのにハマっているのが一番の原因だろう。ちなみに最高かよと思ったアラカルトポーションは、寝起きがよくなるポーション。母と海には必需だと思う。しかしそんなわけわからんもの作って楽しんでるなんて羨ましい。どんな薬草の組み合わせで何ができるのか、また通常のポーションには使わないような薬草も割と使うそうなので様々な可能性を模索中らしい。
そりゃ楽しいだろうな!おでかけしてる場合じゃねぇよな!
お手製ノートに色々レシピ書き込んでマメなことですな!
まぁその寝起きがよくなるポーションはありったけ貰った。海に投与しようと思う。
あと、西に次に行くことがあればフォルテさんにそっとお渡ししたい。殿下に盛るといいよ、と……。
殿下に貰った白金貨を軍資金に、東への旅の準備として様々買い物をしながらもそんなことを思う。
あ、ちなみに白金貨一枚で一千万程の価値がありました。
いや、現地の価値考えたらもっとあってよくない?とか思わなくもないが、そこはそれ。あれなんだろう。
ええと……ものすごい円高?的な?
いや、正直ふざけんなよとか思ったが、任意で金額分けれたので、母に白金貨一枚分。あとの一枚分は四等分で分けた。
やっぱり家計を握るのは母であれば安心なのだ。日用品とか基本母が管理しているしな。
でもチャリは買ってもらった。移動手段増えてうれしい。
靴も何足か増やして貰った。フォーマルな服装も必要経費で買って貰った。あとの諸々は自分達の残高から、という感じで。
食料関係は割と出してくれたが……しっかし携帯食料色々調べたら結構あれだな。お湯入れるとおにぎりできちゃうとか、すげぇな世の中。飯盒炊飯しなくても米食えるとか最高では?
どっしりと腰を据えて携帯食料も充実させて様々な面で準備を整えていく。
あとはとにかく、魔力を増やす。これに尽きる。
とりあえず一週間そこそこは休暇及び修行にあてさせてほしい。なんなら半月くらいは休暇していたい。
しかし、それほど悠長にしていられる時間はないのだろう。なる早で仕事するべきなのは、解る。
別にこう……世界の危機にどうこうとか言う話ではなくて。
つらい思いをしている人があふれているというのなら、それを終わらせる手立てがあるのなら、まぁ……早くするべきだよねぇ。と。
正義感とかそんなお綺麗なことではないが、つらいの嫌だろ誰だって。
西の人々が、雨が降ったというだけで救われたような顔をしていたのが印象に残っている。水って大切だもんな。ないと死ぬもんな。
割と死活問題抱えているのを、解決する手助けをするお仕事だと思えばまぁ……色々納得はいかんがやらねばならんと責任感は感じるよね普通に。
これからどうなることやらと、気鬱ではあるが……まぁ目標ができただけ放置プレイよりは余程マシなのだろう。
命を懸けないのは今後も変わりない。安全第一に行動していく方針は当然変えるつもりは毛頭ないが、なる早で行動する予定なので各国どうかご協力よろしくお願いしますって話だ。




