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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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56

書簡鳥は鷲になって飛んでった。

結構でかい鷲さん。アレ多分羊の子供とか喰うくらいのサイズだった。なんかごめん。ちょっと力んだかもしれない。

とは言え、書簡を飛ばしたならばあとはもうこちらはこちらで森への帰還準備となる。


行きと同じ方法での帰還か、少々時間が掛かるが通常の馬車での帰還のどちらがいいかと問われたのだが……物凄く悩んだ。

何故なら行と同じならば送迎に一週間と掛からないので殿下達もまたセットだったのだ。

が、通常馬車の場合送迎だけで一月は掛かるので流石に第三騎士団の上役をまるっとそれほど留守にさせるわけにもいかず、リダルトさんとその隊から何名か、と言う編成での知らん人との長旅コース。


先ず、長旅きつくない?

ただでさえホームシックに掛かってるのに長旅?

しかも割と治安よろしくないって。ロルクェストから離れれば離れる程治安悪いって誰かが言ってた気がする。

その上知らん人と一緒。最早苦痛の連撃。


だが、だ。

あの軍用馬車でとなると、また抱っこされんの?それはそれできっつい。

割とあれ真面目に申し訳なさと情けなさが突き抜けるから。結構普通に平気そうにされているのだけが救いではあるが、決して我々軽くないので。

……軽くない、ならば軽くするか?フラッフィでふわふわしちゃうか?そもそも馬車そのものをふわふわさせたら……あ、いや。多分なんかやばいことになるな。

そんな軽い物をトンデモパワーで牽引したら目も当てられない事になる気配しかしない。

思いつきでやっていい事ではないだろう。

大体そういうことすると後悔するんだ。私は知っている。


と、そんな事をつらつら悩んでいたなら、殿下が行きは四日掛けるぞ!となんか譲歩案みたいなものを出して来た。一日多く取るから一緒に森行こうぜ、みたいな?宿も二回泊まるぞって……左様ですか。

まぁこちらもあまり無為に時間を食う訳にもいかないのは事実。と、なれば結局そちらを選ぶことになった。


どーん、と。来た時に降り立った広場におわすスレイプニルさんと、あの無骨な馬車。

その存在感にうへぇ、と思わず尻込みするわけだが。

いや、しかしだ。

今回はそもそもそれほどハチャメチャに急いでいるわけではない。それなりには急ぎとなるだろうが、今から座席にクッションしきつめたり快適性を上げる努力は認められるだろう。

大体、殿下達とて別にあんな辛い思いをする必要はないのでは?マゾでもない限り快適性は高くて悪いことはないだろう。


そんなわけで、殿下達と森までの旅路を歩むことになったのだが、行きとは違って気心がそれなりに知れているからか、それともこちらの正体が明らかになったからか重苦しい空気がなく大変快適だった。

が、結局敷き詰めたクッションは殿下達が使って、私達は何か普通にお膝の上だった。人のなけなしのプライドをもう少し尊重してやろうとか、ないのかよ。

天候はそれほど荒れておらず、時折陽光が差し込む晴れ間もあってまずまずと言ったところか。

相変わらずはちきれる程の食事とおやつには難儀したが、インベントリに収納したところで森生活の糧にしてくれと言われるのみだった。


そう、森。

出たくて出たくて仕方なかった森だが、今は帰りたくて仕方のない森。

道中特筆すべきこともなく予定通り四日目に辿り着いた森が眼前に広がり、マップ上でも赤いアイコンがうろうろとしている。

決して安全地帯とは言えない森を通って、これから帰宅するのだ。

「おー……帰ってきた」

「帰ってきたねぇ……いや、ここからが長いんだけど」

馬車から降りて、伸びをしながらしみじみと呟けば、見送りの為に降りて来た殿下も森をじっと見つめている。

「そのうちこの森も安全になるかもしれないので、その時はまた遊びに来てくれれば……薬草とか案内できると思う」

そんな殿下に振り返り、笑い掛ければ困ったように微笑むその顔。

「……そうだな。その日が来ることを、心待ちにしている」

「ま、俺等の働き次第なんだろうけどなー。でもま、これでさよならってのも寂しいし、適度に無理せん程度に頑張るから、今後ともヨロシク」

「ああ。微力ながら、助力は惜しまぬ腹積もりだ」

何かあれば鳥を飛ばしてくれれば、と。そう続けた殿下の顔は浮かない。

「そっちも、何かあったら鳥飛ばしてくれよ。何もなくてもいいけどさ。俺等も、こんだけ世話になったことだし、できることなら助けになりてぇからさ」

へらり笑って、海が告げる言葉。それから、殿下と、その後ろに立つ面々を見る。

「お世話になりました。いやホント。色々騒がせたし、手間も取らせてしまって。最初に会えたのが殿下達でよかった」

いろんな意味で。

善意100%とかなかなかおらんぞ。殿下の今後が少し心配になる。悪い人に騙されませんように。マジで。

「私も、龍の御遣いが、お二人でよかったと……切に思う」

「マジか。あんま似合わない役職だと思うけど……ま、そう言って貰えるなら何より、かねぇ」

少し困ったような笑みを浮かべてそう返事をしつつも、騎士メンツにも頭を下げる。

大変お世話になりましたと。その意を込めて。


道中色々話はしてきた。

また遊びに行くわそのうち、的な会話も終えている。

あとは、お気をつけてと散々言われた。

そちらもお体気を付けてとも。

しかして、あまり気軽に行き来できる距離でもなければ、なかなかじゃあな!ときっぱりお別れというのは寂しい心地もあるよなぁ……と思わなくもない。

いや、帰るけど。

帰るけどな?やること山積してるし。龍脈通してナンボであることも理解できたし、なんなら龍脈が通っていないことによる弊害を西以外は依然受け続けているのであれば早いとこそこらへんは何とかする必要もあるだろう。

それを一般家庭に押し付けるというのはいかがなものかとは思うが、そこらへんは文句を言っても仕方ないので飲み込むこととする。


「帰り道、殿下達も気を付けてな」

あの道のりをまた、三日かけて爆走するというのならそれはそれで事故とか十分に気を付けて頂きたい。

「……ああ、わかっている。お二人も、気を付けてほしい」

「ん。無事帰れたら鳥飛ばすわ。でかいの行ったらごめんな。先謝っとく」

でかいの送り付ける気満々じゃないの。

お前それは悪気だぞ。

「はは、怪鳥が飛んできたならそれだけでお二人の無事を知れるというものだな」

からりと爽やかな笑みを浮かべて殿下が言う言葉に、後ろの面々も少し困ったように微笑んで頷いていた。

いやぁ、実験当日は本当に割とてんやわんやしてたみたいだからなぁ……怪鳥飛ばしまくりで本当にすまなかったと思う。


しかしてここで無闇に時間を食うわけにもいかない。

殿下達もそれほど長らく留守にするわけにもいかないのだ。大隊長達は副長さんに仕事全投げしてきてるってよ。

哀れじゃない?副長さん疲労で倒れたりしねぇだろうな。

お互い時間が有り余っているというわけでもない。

となれば、森へと歩を進めてしまうしかない。

殿下達が去ったら一応北の方角へキックボードで向かう計画は立てているが。流石にそんな実験にお付き合いいただくわけにもいかないからな。

しかし、おそらく私達が森に入らんと殿下達ここから動かんよな。これ。

見送ります、と。全身全霊で語り掛けてくるのだから困ったさんである。

むしろこっちが見送りたいくらいなんだが。

あんたらこれからまた800kmの道のりを爆走すんだぞ?

距離だけで言ったら私達よりはるかに遠いのだから、ほんと無理すんなよ。

スレイプニルさんにこっそりローポーション差し上げたくらいには心配してるからな。

奴等も油断すると頭食みにくるよね。懐かれていると思えば悪い気はしないものの、ぬとぬとするから回避はする。

海は相変わらず好きにさせていたが。

そんなこっそりとしたやり方ではあるが、旅路の無事は祈っているのだ。

殿下達といると治安の悪さってまるで感じなかったけどな。そりゃそうだよな。こんないかにも筋肉!って連中に喧嘩売ろうと思える人なかなかおらんでよ。帯剣しとるしな。

ならそんな連中に連れられているお前等は何なんだって話になるけどな。いやほんと、しがない龍んトコの社員ですわって話で。


「じゃあ、元気でな。また会いに行くんで、そん時は適当によろしく」

「身体には気を付けてね」


そう別れの言葉を締めたなら、殿下がキリと表情を引き締めてその場で礼をとる。


「此度の段、誠に感謝いたします、龍の御使い様。これよりのご活躍も、ロルクェストより祈りと共に応援しておりますれば、どうぞ……お気をつけて」


その姿に、そうか殿下って殿下だったな、と思う。

そうだった、王族だった。

そりゃディベル殿下に勝るとも劣らぬ美しい礼のひとつやふたつ繰り出してくるわな。納得。

あまりにビシッと礼を取られたもので、思わず背筋が伸びるというものだ。

空気感すごいな。

上に立つ者というのはこういう感じを醸し出せないといけないんだろうなぁ……そして多分こういうムーブを求められているのだろうと思うと無理筋感に震えるわ。平社員に何求めてんだ無茶言うな。


そうして、森へと歩を進めたならなんだか少し久しぶりだなと感じる森の空気に包まれた。

肺を満たす清涼な空気と、少し湿度を帯びた土の匂い。

肌に触れる冷たいそれらに奥歯を軽く噛みしめて、うっかり声を出さないように気を付けなければなと腹に力を込める。

マップが全開放されているので赤点に近寄らなければ問題はない。

それでも。

相手も生きて、移動しているのだ。

油断してはワンキル待ったなし。

森の中から振り返れば、殿下達はまだこちらを見ていた。

ひらり、手を振って。

あとはもう、振り返らない。

少しだけ、寂しいなんて。知覚する前に、進んでしまうべきだ。

決して永劫の別れではないのだ。その気になれば会いに行けるのだから。

……その気になるには相当ハードル高いけどな!

しかして、杯を満たしたなら一度くらいは挨拶に行きたいもんだ。

手土産持って、友人を訪ねるような気軽さでもって。

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