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結局あれから何度かやりとりをして、鷹だの隼だのと言ったサイズ感の鳥を出すところまで調整はできた。
が、何度かえげつないサイズの鳥を出してからの事だったので割と城内騒然としたらしい。
書簡鳥ですご心配なく、と通達されるまで割と不安な気持ちで過ごされたであろう人々に心からお詫び申し上げます。
騎士塔から中央の本城に向かって怪鳥が飛んでくんだもんね……何事かと思うよねそりゃね。マジごめん。
そして、逆に殿下達が飛ばしていたくらいの小鳥が出せない問題も発生した。
こう……ほら、シマエナガみたいなくっそ可愛い奴も出せたらいいじゃん?とか思ってクリーン一発分くらいの魔力込めるとする。そうしたら、普通に鳩サイズだった。
伝書鳩ねぇ……確かにイメージとしては最高なのではないかと思うが、目指しているのはお前ではなかった。
「……最小単位がバグってることに今更気付いて海くんショック」
「それな……」
私達が思う1が、人々の言う5~10程度の魔力であったこの事実。
「ってことはよ、水出す魔道具がないんじゃなくて、存在したとしても魔力不足で使用不可って事で普及してねぇのか」
「その可能性はあるよねぇ……でもそれだとクリーンは普及していてもおかしくないと思うんだけど」
「一個、または一か所しか綺麗にできねぇのに相応に魔力喰うんだぜ?なら手作業でするわってなるだろ」
「なるなぁ……なるほどな」
そんな感じに魔力についての認識を改めていたなら、殿下が少しばかり困った笑みを浮かべていた。
「……やはり我等とは何かしら異なっているのだな、お二人は」
「いや、常識的なところは異なってるかもしんねぇけど人間である主張は変えねぇぞ」
「それな。人間辞めた覚えないからね」
そもそも人間という定義が曖昧では?人型してて思考して自立活動してたらもうそれ人間でよくない?魔力とかそもそも後天的に激痛と共に備えたような代物で、非人間にされてたまるかよ。
「はは……いや、しかしこれならば問題なく連絡は取れそうだな」
笑いごとではないが。しかし目的はこの魔道具が使えるか否かの確認だったので、その点では良かったのだろう。
大事な要件飛ばす時に力んで怪鳥飛んだらどうしようとか思わなくもないが、きっと許してくれると信じている。
いや、気を付けよう。ほんとに。
多分これから先も連絡がつくのならば申し訳ないが頼る事は出てくるだろう。
なんせ、こちとらこの世界の事に関しては初心者マークもいいところだ。そんな中、どっかしらん国に行って知らん人とコミュニケーション取ってどうのこうの……なんぞ、フォローなしにできるとお思いか?
いや、やろうと思えばできるんだろう。きっと。でも正直やりたくない。とりあえず先ず前提としてこちらが何者であるのか相手が知っているところからはじめた方が絶対楽。何を目的にしているのかも知っておいて貰えたほうが確実に楽。
基本的に楽できるところは楽したい。当然だ。
何故自ら辛酸苦難を受け入れなければならないのか。冗談ではない。
そもそもこの世界そのものが滅んだとしたら、私達も無事ではすまない。それどころかあの深淵の龍に喰われてジエンドだ。いや絶対お断りである。
となれば、龍の腕としての職務は果たさなければならない。これはマスト。
その中で可能な限り物事をスムーズに運ぶ為に協力してくれるというのならそりゃもう甘える。超甘える。
ありがとう殿下。ありがとうロルクェスト。ってな話だ。
最初に遭遇した異世界人が殿下で良かった。
こんな人懐こい、そしてフットワーク軽い王族そうはおらんのでは?いや知らんけど。
結局の所私は、私達家族が平穏に暮らせればそれで満足なのだ。命の危険からは遠ざかりたい。
もっと言うなら日本に帰りたいが。そこは可能か否かすら解っていないのだから駄々をこねてもどうしようもない。
とにかく今は足元を固めること。これを目標に龍脈を繋げてしまうことを急務と考えるべきだろう。
であれば、各国との繋ぎは殿下にお願いすれば話がそりゃもう早い。
いや、書簡鳥の魔力くらい負担しますよ?そりゃ。殿下なり陛下なりが書簡の文面を完成させたら是非とも提供させて頂きたい。
鷲飛ばしたいな鷲。鷹でもいい。
しかし、意外と到着率が悪いというのなら怪鳥飛ばしてもいい。
コンドルも大きさにびっくりしたが、よく考えると長距離をあの鳥が悠然と飛ぶ姿は最高にかっこいいと思う。空の覇者と呼ぶにふさわしい。
「そういやこの魔道具って買取でいいんだよな。お幾らくらいすんの?」
「いや、こちらの都合でお持ち頂くものだ。気にする必要はない」
「そう言う訳にもいかねぇだろ。そもそも俺等だって今後も殿下にめっちゃ頼るぜ?これあったら。ってことは俺等の為じゃん?これ」
そう言った海に、ほんのり微笑んだ殿下は魔道具の表面をその指先で撫ぜて見せ、
「頼りにして貰えるのなら、それはとても光栄なことだ」
と。きっとそれは本心からの言葉なのだろう。龍の御遣いの、頼る先であることの誉れであると言うのか。
そこらへん解らん価値観だよなぁ……と、もやっとする。
そもそも信仰心というものが解らない私にそこを理解することはできないのだろうが……それにしてもだ。無欲にも程がないだろうか。
思わず溜息を吐きそうになるのをとどめて、海に目を向ける。
「海、お金は受け取ってくれなさそうなら、ミドルポーション出そう。魔道具そのものの対価も必要だし、宿泊、食事、護衛費用込々で支払うとなれば一番それが無難だと思う」
「あー……確かに。でもそれならミドルよりローを複数分のほうが使い勝手よくねぇ?」
「ローで回復する程度の怪我なら普通に治療してもいいんじゃないの?まぁそもそもミドルでどこまで回復するのか解ってないけど……少なくともお前の脚は治せたから後遺症残る程度の傷治せるんだし、価値としてはミドル推しなんだけど」
「あれ絶対神経なり筋肉なり切れてたよな。あの虫成長前のくせ切れ味えぐいにも程があるっつーの」
キュアは現在ミドルを二つ保持している筈だから、青ポーションを支払えば何かしらの対価として渡すには丁度良いだろう。
ワゴンセールをするつもりはないが、何かしらの対価として渡すとなれば神代の霊薬としての価値も下がることはないだろうし。少しくらいは備えがあってもいいはず。特に殿下の第三騎士団はゴリゴリの前線部隊だと言うのなら尚更。
殿下に何かあると困る。普通に困る。……あと、単純に個人的に、ここまで関りを持った人達に何かあるのも嫌だし。
できることなら恙無く日常を過ごし、知らん間に幸せになり、大往生するまで長生きして頂きたいものだ。
「……後遺症が残るような怪我を?」
俄かに表情を引き締めた殿下がそう問い掛けて来たので、揃って頷いた。
「いやそりゃ。俺等だって色々手探りだったし、怪我することもあるって」
「当時はポーションの材料も揃ってなかったし、色々難儀したよねぇ」
「俺お留守番で寂しい思いさせられたしな」
「あの脚で東のファーストアタックはできないんだからしょうがないでしょ」
あの時の事を考えると今は随分と様々な面で備えができるので相当楽になっているよなぁ……としみじみ思う。
まぁ備えがあっても唐突に命奪いに来るのは変わらないけど。運だけで生き延びてる気がしてならないが……しかしてそれは最初からだ。そう変わらない。
運悪いのかもと思いつつも、なんとかなっているから割と悪運は強い方なのだろうな。
「ま、今は見ての通り健常だけどな。家帰る時も気を付けねぇとな」
カラリと笑って言った海に、殿下の眉がきゅっと寄る。
「……どうしても、帰還せねばならぬのだろうか?」
「そりゃ、な。まぁ出て来た時より色々俺等も変化はあるから、そう心配するこっちゃねぇよ」
マップとか西に関してはオールクリアだものな。森の中でも赤点の場所があらかじめ解っていればそりゃもう避けに避けて帰宅できる。何というチート。
「それに、両親待ってるし」
「ご、りょう、しん……?」
寝耳に水、みたいな顔をされてしまったのだが。
「そりゃ俺等にも両親くらいいるぜ?一体どっから生まれたっつーんだよ……」
「……いや、それは……そう、なの、だろうが……」
「え、待って。殿下もしかして俺等が森から生まれたとか思って、た……?流石にそれはねぇだろ……?」
「……恥ずかしながら……そう、思って、いた……」
そっと、顔を両手で覆ってぽそりと呟くように告げられた言葉にいやまさかお前そりゃねぇわと心底思った。
そもそも喚ばれるものなのだから、どっかで普通に生きていた誰かが森に投げ出されるわけで。それは決して森から産まれるというわけではないのだから。
まぁ家族単位で喚ぶのが一般的であるのかは知らないが。
それにしたって森から産まれるとかそれこそ人外ではないか。一体私達を何だと思っているのかこのオウジサマは。
「これまで喚ばれた龍の腕がことごとく全滅の憂き目に遭ったというのなら、此度のお二人は森から産まれた存在なのでは……と」
ぼそぼそと続けられた言葉に、ああ成る程な……と思う。
同じやり口では成功しないのなら、違うやり口で攻めたのでは……と。そう思ったわけか。そしてその成功例なのではと。
「いや全然。俺等も喚ばれたクチ。全然意味わかんねぇ状態からイマココ」
「……それは、つまり。私達は、この、世界は……そなたらの、日常を奪ったことに他ならぬのだろうな」
そっと。顔を覆う手を除けた殿下は、しょんぼりとした顔をしていた。
が、それ殿下の咎ではないのでは?責めるなら社長責めるわ。
「まー……そういう言い方もあるっちゃあるんだろうけど、それ殿下が落ち込むこっちゃねぇだろ。それに、今ここに居る以上俺等にとっても割とこの世界の存続って自分事でもあるし」
それな。滅びるとかマジ困る。わけ解らんことに巻き込んだあげく滅びましたごめんね?とか言われても誰が許すものかよ。ゲームオーバー要素えぐすぎる。リセット機能もないのではそりゃもう頑張るしかねぇでしょ。
なにこの背水の陣。
私達の使い方がよく解ってんだか何なんだか……悪意しか感じないんだが、そこの所如何か。
生き汚いからこそ、やるしかないのだ。しょうがないではないか。
文句は後から絶対に叩きつける気だが。龍殴りたい。でもあいつ滅茶苦茶でかかったから殴ったらこっちの拳が痛む気しかしない。業腹である。壁殴るのと大差ないとか何なの。許し難い話だ。
「何にせよ、やる事やんなきゃ私達もこの世界も生きて行けないんだし、それ相応には働くしかないよねぇ」
「だなー。まぁとにかく次の祭壇への算段立てて、一旦帰宅が目下すべきことよな」
「それな」
あと帰ったら食べたい物食べるんだ。ショッピングもするんだ。稼いだお金を残高にぶち込んでみてどの程度生活に余裕が出るのかも調べないといけないし。
「ってなわけで、殿下が気に病むことは何もねぇよ。むしろいつもあんがとな。最初に会ったのが殿下でマジ助かった」
へらり笑いながら海が言った言葉に、きゅっと一度唇を引き結んだかと思えば、ふと力を抜いたように頬が緩んで微笑みが浮かぶ。
「……そう言って貰えるのは嬉しいが、そもそもお二人に会わなければ私は生きてはいない。私こそ、お二人と会えた幸運をこれ以上なく感じている」
「じゃ、お互い様という事で」
それで済むのならそれが一番いいだろう。妙な気遣いをされるのは違う気がする。
社長には気遣いをして貰いたいが。それはもうとても。
ただ、この世界に住まう人々には私達の素性など割と関係ない話であるはずだ。大体喚んだの社長であって殿下達じゃないしな。ここで、何故もっと早く現れなかったのかとか責められたらこっちも逆切れする自信はあるが。ただ、申し訳なく思われるのもまた違うのだ。
とりあえずお互いなんとかなりそうで良かったねぇ、くらいで先ずは収めてしまえれば何よりだ。




