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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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53

結局、翌日は殿下達も行動を共にした。

あれから一度帰城して、改めて翌朝お越しになられたそうですよ。フットワーク軽いよな、殿下。

神殿で枢機卿や大司教様などとお話もできたし、大体目的は果たした事だろう。

天秤に関しては正直な所ほぼ解決していたので問題もなかった。


ちなみに第二騎士団が鱗を拾った所ってどこよ問題に関してはやはり神殿支部辺りであったそうだが、それもここ数日の琴子さんの活躍により正常化している模様。

深淵の龍の影響は社長の加護をごっりごりに増やした事で抜けたものだと思っていいだろう。

あの人マジ人外。

しかしそうなると、解決すべき問題も大概これで仕舞いなのではなかろうか。

え?帰れるのでは?

神殿経由で各方面への通達も行って貰えるそうだし?

何ならロルクェストから他の森王族へ書簡も出してくれるし?

後はあちらさんにいかにアポイント取るかと言う話になるが、その辺の話だけ詰めたなら一度帰宅していいのではなかろうか。

他の三方向、どこへ向かうかなんてことは正直未だ何も考えていないが、森の外縁に沿って北へ出られるのであれば北から攻めることとなるだろう。

……そううまく行くかは知れたものではないが。


しかして、やることやったらまたお借りしている騎士寮の部屋に戻ってこれたわけで。

すっかり自室みたいな気配醸し出してるよねこの部屋。いや、私物なんて何一つとしておいてないけど。全部インベントリに入ってるけど。

「ところでお二人とも」

戻ってきた事でほんのり肩の力が抜けた所で、やや堅い声音で殿下に声を掛けられる。

「深淵、とはどのような所だったのか聞かせて貰いたいのだが」

行方を晦ましていた四日間。一日目は普通に街中を闊歩して神殿まで歩んで、適当に野宿した旨は報告した。

後は祭壇からモザイク龍の横槍の為に深淵に飛ばされて彷徨っていたと報告はしてある。

が、だ。確かにな。それどんなとこやねんってなるわな。

「上下左右もなぁんもねぇ、ただの真っ暗な空間?足場すらねぇから最初俺とねーちゃん天地逆だったわ」

肩を竦めて海が答えたならば、腕を組んだ殿下がふむ、とその目を軽く伏せる。

「神龍が飲まれてしまえば、その深淵が世界を包んでしまうのであろうか……?」

それはどうなのだろうか。

現状、深淵が表面化しているわけではない。だが、加護を失っている場所には相応に深淵が侵食しているのであれば、物理的に世界を飲み込むわけではない……のかもしれない。

否、もしかしたら社長が意地でも表面化しないように気張っている可能性はあるが。そこらへんは私達に聞かれても解らない問題だ。

「どうなんだろなぁ……?可能性としちゃあるだろうが、俺等にゃどうとも言えねぇな。少なくとも龍は深淵に飲まれる事を忌避してるっつーのは解るんだけどよ、逆に言うとそこまでしか解んねぇ」

「まぁ他の杯を満たして行けば何かしらの情報開示はありそうだけど、現状解ることはそれほど多くはないよね」

しかし、だ。

ここまで解っただけでも私達は相当頑張ったのではなかろうか。

そもそも龍ってなんぞ?と言う所からここまで至ったのだから成果としては上々だと思いたい。

給料の割に仕事内容えげつねぇなとか思ってるけど。

もっと出すべきでは。危険手当とかあるべきでは?出張費用とかあんだろ?あん?

「……そう、だな。残る三国の祭壇にも、行かねばならぬのだな」

「思いの他大冒険する羽目になって戸惑いが隠せねぇわ。ちょっと外で稼いで森の中で隠遁生活する予定だったのになぁ……」

「それな……未知に向かって突き進むだけの気概なんて若い頃に使い果たしたってのに……」

あのエネルギーは若者特有の物だと勝手に思っている。

まぁ大人になってもエネルギー豊富な方はおられるし、そう言った方は往々にして尊敬すべき人々だとも思っている。

「世の中怖いよな。知らん間に役職付けられて強制労働とか非人道的。いや、そもそも社長人じゃねぇけど」

「挙句の果てに社訓は世界平和とみんなの幸福?いやその前に私達の平穏と幸福指数をなんとかしてほしい」

「情報開示してノンストレスな業務を真面目に求むわ……」

あと怪我する前に何か警告してくれ喉元過ぎれば熱さを忘れるとは言えその時その時の痛みは本物なんだわ。

それから目な。事あるごとに目玉痛めつけてくんのマジやめて欲しい。視力下がったりしねぇだろうな……


「それで、お二人は次はどこへ向かうおつもりであろうか」

ことりと首を傾げた殿下がそう問いかけてくるのに、こちらも首を傾げて腕を組んで考える。

「……北に森の外経由で行けたなら、北が最初なんだろうけど」

「だけどなぁ……そんな甘い話ある?森の道が開拓されてねぇのに外側から回れるとか、社長が許すと思う?」

海も渋面を浮かべてそう零す。

「それが駄目な場合、どこから行くのが現実的だと思う?」

「……北は無しだろ。殺意高すぎるからまだ攻めるには魔力が足りねぇ」

「だよねぇ……でも南は野宿するには足場が悪いんだよねぇ。あとオタマさんの捕食が躱せるかは運次第……」

「となれば東か?……スネークパイセンが怖ぇけど、気を付けてれば何とかなるもんな」

「……やっぱ東かぁ」

足痛くなるんだよなぁ……地面固いから。

ふぅ、と溜息を吐けば殿下がちょっと引いている。なんと……とか小さい声で呻いているわけだが、なんとじゃねぇんだわ。

「西が一番真っ当に警戒して抜けて来れる方角だったんだよなぁ……でもそのおかげで殿下に遭遇できたし、ここまで色々解ったんだから良かったっちゃ良かったんだろうなぁ」

しみじみと海が呟く言葉に私も頷きを返す。まったくだ。

「……もしかして、西の森は……抜けやすい、のか?」

マジかよ、と言わんばかりの殿下がそっと問いかけてくるのに、揃って頷く。

「しくじったらアウトなのは変わんねぇけど、警戒してりゃ何とかなりやすいって意味では西は一番マシだったな」

「ひたすら隠密が活かせるのが西だったよねぇ……」

「そう……なのか」

「でもほら。戦闘能力で乗り切ろうとしたらどこも一緒だと思うよ。最期守護者でワンキルだろうし」

大抵どの方角も凶悪なの居るから無理だよ普通に。だから殿下でなくても普通死ぬから。その意を込めて続けた言葉に、少しばかり困ったように笑うその顔は浮かない。いやぁ……無理だって。無理よりの無理だって。

いつか森に普通に入れる環境が整うといいよね。その為にも杯は満たさんとならんわけよな。

……は、森が平和になったら割と我々楽しく森の人できるのでは?生死が隣り合わせとかなくなるのでは。

道のりは激しく遠い気はするが、ちょっと森の外に出かけてきますと言うのがガチ真剣勝負みたいな今の状況から抜けられるのであれば、ちょっと頑張る意味はある……か。

「東への書簡であれば、少々お時間を頂く事になるだろう」

「あー……言うて俺等も帰ってから森抜けるとなったら早々簡単には抜けらんねぇから結構時間掛かると思うし、そこは全然お気遣いなく。出してくれるってだけで御の字だしよ」

「そう言って貰えるなら何よりだ」

ほんのりと笑みを浮かべた殿下に、ありがとうとこちらも笑う。


「そう、それから、グレスタンド伯爵なのだが……」

……誰だっけそれ。なんかどっかで聞いた事あるようなないような名前だな?

首を傾げて疑問を顔に貼り付けていれば、深淵の龍に取りつかれていたあの男の事だと説明が入る。すまんな、手間を掛けて。

「ああ……あの人か。なんかあの人だけ鱗が引っ付いたっていうよりは、身体の中から侵食されてたよねぇ。不思議」

びっくりしたよねそう言えば。思い出してはいはいと思っていたなら、殿下の眉間にそっと皺が寄る。

「どうやら、派生信仰に傾倒していたらしくてな……」

「あー。そうなんだ。でも龍の信仰であることに違いないならそこらへんは自由では?」

「だが、此度の件とまるで関係がないとは言えなかろう」

「関係あるとも言いきれないなら可能性として保留だよねぇ。深淵の龍の信仰派閥があるとかなら中々厭世的な思考だとは思うけど」

まぁでもそれほどに世の中に絶望しているとなれば、それは同情すべき事なのだろう。

もっと早く私達が現れていれば、とか言われたらこっちはこっちでキレそうになると思うけど。んなもん知るかと。こっちはこっちで大変だったんだわと。しかしてお互い不幸自慢みたいな真似をしても非生産的であれば、関わらないのがベターだろうな。

「でも深淵の龍に関わるかもしれねぇ宗派があるって事よな。色々スムーズには行かねぇもんだな」

肩を竦めて海が溜息混じりにそうぼやくのに、そうだよねぇとしみじみ思う。

こう、やるべき事が判明したら後は目的だけぱぱっとしてしまいたいのだけどなぁ。余計な雑事に煩わされるのは実に面倒だ。

「今後も何かしらの関りがあるかもしれない、ってことだけ念頭に置いて行動するしかないよねぇ」

「それなー」

もう流石にその派生信仰の宗教調べに行くか!とはならない。とりあえず聖杯巡りツアーが最優先だ。


「ところで、そう言った細かな話も含めてなのだが……お二人とも定期的に連絡を取れるようにしておきたいのだが如何だろう」

ことりと首を傾げた殿下が提案する言葉に、此方は疑問符を散らす。

定期連絡って言われても、距離ありすぎではなかろうか。

そして割と私達は自宅以外に居る時は結構移動しているので難しいのでは。

「書簡のやりとりに使う魔道具を、お二人にも持っていて貰えたら……と思ってのことなのだが。無論、厭うのであらば無理は言わぬ」

「あ、いや。俺等も殿下とやりとりできるならそりゃまぁ助かる……んだろうけど。魔道具って、どんなやつ?俺等でも使えんの?」

「誠か!であれば、早速準備させて頂く。一度使ってみて、可能であれば今後何かあった時にお力になれると思う」

ぱっと、花咲いたような笑顔でうっきうきな殿下だが……私達はまだちゃんと字を書けないんだが。

早々に勉強しろよ!ってことか?なかなかスパルタだな。


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