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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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暫くそうしていれば、徐々にまるで木々が繁るように龍脈が広がって行く。

ほわほわと蛍のように光が舞い上がり、周囲を飛び交っているその光景。真っ暗ではない景色に囲まれてしみじみと光って大事よなと思う。

「しかしあれよな。いつもなら平面的にしか龍脈って広がらねぇのに、ここだと立体的に広がるんだな」

上を見上げて海が呟く言葉に、こくりと頷いて私は下を見る。どちらにも広がる龍脈は、珠のように形成されていた。

「まぁ地面っていう軸がそもそもないもんね、ここ」

「でも光は上に上がってるから、あっちが空で合ってんのかねぇ」

「わかんないけど、多分そう。ならこの足元は延々マントルまで続いてるのかな」

「何それ怖い」

不意に、足元から枝に乗ってぐいぐいと身体が浮き上がっていく感触がする。

ふわんふわんと持ち上げられて、この重力を無視した空間をまるで風船のように枝葉と共に揺蕩うこの身。

思わず焦って互いにがしっと背中を向けたまま両腕を組んで、ぴたりと背を押し付ける。

「浮いてる浮いてる」

「元から浮いてるけど浮いてる」

『何々どうしたのー』

「何か龍脈に押し上げられてる感じ?でも多分いい傾向?解んねぇ」

「解んないけどとりあえず続行でよろしく」


音もなく育つ龍脈の枝に押されてぐいぐいと浮上していく。

これどこまで行くんだろう……まぁ途中で消えても重力なさそうだしその場で制止しそうだけど。

見上げていれば、不意にゆらり水面のように闇が揺らめいている場所がある。

そこを先んじて伸びた枝が突き抜ければその揺らぎは徐々に広がりさざなみのように広がって行くのが見えた。

「……出口?」

「又は入口?」

小さく呟いた言葉に、海も疑問を色濃く宿した声音で呟きを返す。

「ところで母さん魔力大丈夫なの?結構経つけど」

『大丈夫よー、まだまだ余裕よー』

「それはそれで怖い」

『何よ失礼ねぇ』

いや、普通に自分の魔力の十倍くらいはもう垂れ流している。それを二人分であるというのに、まだ余裕であると……嘘だろこっわ。

多分、龍の腕筆頭は母さんだ……間違いない。

大概私達の魔力ですら人外認定余裕であると言うのに、そんな私達なぞ塵芥と言わんばかりのこの魔力。

多分この人ひとりで大体の事こなせるな……ただし、寝起きが悪いのが難点だ。そこが理由で決して単独行動は認められないだろう。

結界切れてるのにぐーすかしてて死亡とかシャレにならんからな。


そうして徐々に近づいてくる揺らぎにいよいよもって突入しようと言うのだが……

「今更だけどこれ怖いな」

「それな。この向こう何があんの?」

揺らいでいるのに向こうは全く何も見えないブラックゾーンなわけで。

腰が引けるわ。

「とりあえず何かあったら即結界するわ」

「俺はエリアスタンの心構えしとくわ」

役割分担を物凄く今更だが決めたなら、とぷりと揺らぎに頭から突っ込んでいく。

ぬるま湯が纏わりつくような、そんな感触がしたかと思えば次の瞬間にはキンと冷えた空気が肺に満ちた。

「え、さっむ」

「ネックウォーマーしときゃ良かったな……」

聞いてねぇわ。気温差激しいわ風邪引いたらどうしてくれんの。

ずるずると全身が此方に露出したならば、こちらの空間では上方に伸びる龍脈はなくなり、足元を平面に広がるいつもの動きとなった。

そして、同時に足元に踏み締めるべき地面を感じて少しばかりほっとする。

外敵の姿は見当たらない。それを確認したなら、そっと組んだ腕をどちらともなく離して、周囲をつぶさに観察した。同時にインベントリからネックウォーマーを取り出して首に巻きつつ体温の保持に努める。

「……まだ通常空間とは言えなさそう、か」

はぁ、と。白い息を吐き出しながら海が呟く。

確かに、上空は真っ暗なままだ。星の瞬きも雲の棚引きも見えはしない。

ただ、ひとつだけ。


何か、いる。


息遣いを感じる。

互いのものではなく、もっと大きな生き物のそれ。

呼気を繰り返す音と共に、そよと空気を揺らすその吐息。

風上は、斜め上方。

そちらをじ、と目を凝らして見てもその正体が知れない。

海がタクティカルライトでそちらを照らせば、きらりとその光を反射するものがある。

どうするか、と。

目を合わせてから、どの道行動しなければここから出ることは出来ないだろうと腹を括って揃ってそちらへ歩を進めた。

踏み締める地面の感触が生っぽい。足の裏に自分の体重を感じるのは三日ぶりだ……ちょい重い。

キラキラと光を弾くそれに寄っていけば、その光がプリズムを散らしているのが解った。

まるでこれは、

「龍の、鱗……?」

しかし、その光を弾く場所は一部分だけでその周りはどす黒く染まって……

「……汚い方の龍の鱗もワンセット?」

なんじゃこりゃ。

誰得だ。


その鱗と思わしき場所を軸に、ぐるりと視線を巡らせたなら、不意に耳鳴りがした。

キィン、と。不快感の強いその音に眉を顰めたなら、ぞろりと黒い靄が周囲を取り巻く。

右目は痛まない。

「……社長?」

それはそうだろう。未だに私達は母の魔力を垂れ流しているのだから。モザイク龍がちょっかいを掛けられる状態では無いはずだ。多分。


――杯を満たせ。秤を、取り戻す為に。


うわん、と。水の中に居るかのようなくぐもった声が聞こえてくる。

「秤って何か解らんのだけど」

モザイク龍が、天秤はもう戻らないと何かほざいていたが……秤って多分それのことよな。


――杯を満たせ。我が身を取り戻す為に。


続けられた言葉は説明ではなく、更なる欲求。

おいこら社長。社員の気持ちに寄り添えや。

「あと三か所ある天穴にも杯があるってこったな?それは解ったけどよ、秤って何だよ。あと我が身って、アンタ今どうなってんだよ」


――杯を満たせ。深淵が、全てを飲み込む前に……。


「説明義務ぅ……」

「コミュ症ぅ……」

揃って渋い顔でげんなりと文句を吐き出す。

『何々そっち何が起きてるのー?』

「あれ?そっち龍の言葉は届かねぇ感じ?」

『えー、龍と話してるの?やだもう、給料アップの交渉しなきゃじゃない!』

「いや、話ってか、一方的に欲求を垂れ流されている感じ?会話になんねぇ」

それな。給料アップとか確かに会話になるなら是非とも要望したいところだがそうもいかない。


何なんだよ、溜息を吐いて額を抑えたならば、バチッと視界が瞬いた。

そうして、一瞬の浮遊感。肉体と精神が剥離するようなこの感覚は、天穴で感じたアレと同じだ。

ただ、今度はまるで今いる場所を俯瞰するようなそんな視界が広がり、立ち尽くす私と海、そして、その前にある……塊が見えた。


ぐいぐいと視界は上へ昇り、自分達の姿が見えなくなるほどになって初めてその塊の全容が理解できた。

あ、と。思ったならばまたバチッとなって身体と視界がリンクする。

「……今の」

「ああ……龍、よな」

デカすぎない?

そして、何だか妙にまだらであった。

森の鱗のように、美しい水晶がごとくキラキラとした鱗の部分と、あの汚い鱗の部分が入り混じって……どちらかと言えば、汚いエリアが多かったように思う。

「天秤って……龍の身体のこと……?」

「今汚いエリアが多いのを何とかするのに杯を満たす必要がある……?」

『何か、変なインテリアが出てきたんだけどこれ何ー?』

電話の向こうで謎の発言がして、変なインテリアとは、と首を傾げる。

「どんなインテリアよ」

『なんか、天秤?分銅とか置くやつ。でも傾いてるわよこれ。何か黒い皿の方に』

不良品よねぇ、とか言ってるが……いや、そっちに出るのかよ。

「多分それキーアイテムの類だから捨てないでね」

「あとできればイエクサにそれ何か聞いてみてくれ」

『解ったわ。待ってねー』

「ところでお前電話充電大丈夫なのかよ。結構繋ぎっぱなしだけどよ」

思い出したようにそう聞かれて、そういやそうなとポケットから出して残充電を確認したならあと20%程しかない。

「やばいわ。そろそろ充電死ぬわ」

『ええ、そうなの?なら海の電話に掛け直した方がいいかしら』

モバイルバッテリー安いヤツしか買ってないから繋ぎっぱなしで通話するにはデカ過ぎるんだよなぁ。

「あー、俺から掛け直すから……て、今度は何だよ!」

『え、何々どうしたの』

足元に広がる龍脈の枝が、一層強く輝きを増して行くのに目を細めて、

「いやとりあえず充電死んだら海ので掛け直すね!あと何かくそ眩しい!」

深淵に叩き込まれた時もこんな感じだったなと思ったならばカッと眩い光が視界を奪って、こんなところも一緒かよ!と胸中で吐き捨てる。


そうして、光が収まったならば、

「……帰って、きた」

『あ、マップにアイコン出てきたわよ、おかえりなさい』

あの、神殿の祭壇部屋に戻ってきていた。

溢れかえるばかりの加護の光を満たした室内は妙に神聖さを醸し出している。

「……ただいま。うわ、帰ってきたわー。結局何なの……龍とエンカウントしたっぽいけど」

何か意味あったか?あれ。

天秤を家に顕著させるのが目的だったのか……?

確かに突然妙なインテリアが現れたらなんじゃこれ、とはなるけどな。

だからと言って、深淵を彷徨わせる必要あった?ねえ。あったの?そう言う所だぞマジで。


「あ、戻ったから魔力供給止めてもらって良いです。ご協力ありがとうございましたー」

「あとなんか、人がバタバタ集まって来てるっぽいから電話切りますごめんね、ありがと!助かった!」

『はーい。お家に帰ってくるまで気を抜かないようにねー』

「うん。気をつけるー」

「了解。マジでありがとなー。あ、あと天秤についてイエクサに聞いたら後でメッセージなり送っといてくれ」

電話できたらするけど、と最後に告げたならばぷつりと電話を切る。電池残量瀕死。

しかし、供給を止めてくれた筈なのだがまだ体内に残る熱が放出しきれない。右目が疼く……中二病やだー。


「なんか鼻血でそう……」

「解る。やっぱ自分の魔力以上のもんを通過させたのが負担だったのかなぁ」

鼻血の止血ってどこ抑えるのだったか。確か小鼻の辺りを抑えるのだったか。

そんな事を考えて居れば、バタンと大きな音がして扉が開かれた。

両開きに遠慮なく開け放たれた扉の向こうには人がひしめいていて、

「あれぇ……?殿下何してんの?」

加護の渦巻く室内に、踏み込んでくる人は居ない。

いつもより多めに発散しております。母さんの魔力が抜けきらない……どうなってんだ。

「四日も、どこにも現れなかったので……心配になり、神殿を訪ねたのだが……」

何故だか先頭集団の中にしれっと紛れ込んでいる我等が殿下が、戸惑いをふんだんに含みながらそう応える。

それに首を傾げて、

「いやまぁ、ちょっと色々あって……?」

「……龍脈の加護が、ここ数日かつてないほどに溢れていると陛下が言っておられたのだが、その色々に関係する、のだろうな……そのご様子では」

あー。琴子さんの魔力を一日数回ガンガンに流して貰ったし、今日に至っては多少抑え気味ではあるが垂れ流しているのだものな。


ざあざあと、窓の外で雨が降る音がしている事に気付く。

また降ってんのかよ。

あまり一度に大量に降っても災害になるから遠慮しろよ。

「あ、そろそろ抜けそう」

「ん。私も」

何とか母さんの魔力が抜けそうでほっとする。

体内の熱を全て吐き出したならば、魔力の流出を止めてふぅと一息。

光の余韻もこれだけ流しっぱなしであればどうやら直ぐには引かないらしい。


「あ、やっぱ鼻血でた。やば。ハンカチ……」

手で滴る鼻血を受け止めながらわたわたしている海にハンカチを渡し、自分の鼻も押さえて俯く。

「うーん……小鼻を強く抑えるんだよ。あと喉に落ちてくる血は飲まずに吐き出す」

「ハンカチに?」

「そうな」

床には拙いだろう。流石に。

「あー、なんだこれ。のぼせてるみたいな感じする」

「魔力に酔ったのかねぇ。うわぁ、ふわふわする。地面あるのになー」

くらくらするが、マップを確認しておく。

こんだけ加護撒き散らしてまだあのモザイク龍の影響下にある人なぞいないと思いたいが、一応念のため。

そして当たり前のように緑一色。これはこれで気持ち悪いな。


とふ、と。絨毯を踏み締めて殿下が室内に侵入してくる。とふとふとその足音がするのに、顔は俯けたまま目線だけを送ればまたへなりと眉を下げた例の顔。

今日はフォルテさん一緒じゃ無いのかな、と思えば扉の外で待機している。何故だ。

「お二人共……血が……。休める所へご案内したいので、どうかせめて、私の騎士だけでもお傍に近付けてはくれないだろうか」

……?

何を言っているのか。別に何も拒んでいないが、と疑問符を散らせば、海が掌をひらひらさせて、

「いやあんがと。別に拒んでねぇんだけど、何か不具合出てる?」

魔力収まってねぇかな?とか言ったならば、今度は殿下が困った顔のままことりと首を傾げて見せた。

「今この部屋には、祝福の無いものは入れない状態にあるのだが……?」

言われて初めて、この光があの森と同じく聖域と呼ばれる状態を作り上げている事を知る。

「……え、マジで?うわごめん、どうなってんだろう、時間が解決してくれるかなこれ」

「ちょっと待って、それどころじゃねぇ。ハンカチもう一枚くれとまんねぇ」

「もうタオル使えよ」

「なるほど了解」

やばい。絨毯汚れる。

クリーンしたら一発で綺麗になるだろうけど、人の血が染みた絨毯とか嫌だよねぇ。心理的に。

私もタオルを追加で出してハンカチの上から押し当てつつ、

「ごめん解除したいのは山々なんだけど意図的なことじゃなくてどうしていいか解んない」

「あとこれただの鼻血だから心配しねぇで大丈夫。多分酔ったんだかのぼせたんだかしてるだけだからよ」

「……とりあえず、せめて座ったほうが良いかと。鼻出血の場合、立位はあまり推奨されない」

そっと、肩に手を置かれてその場に座るよう促されるまま、腰を下ろす。

祭壇に上がるステップがちょうど良い高さで腰掛けやすい。海も殿下に促されて隣に着座したなら二人揃って鼻血を抑えているという、全くもって間抜けな絵面で並んだ。

「うー……止まらん」

「うへぇ……口の中血の味すげぇ」

もう深淵には行きたく無いな。

脱出方法が解ったとて、ペナルティがエグすぎる。

いや、魔力鍛えろって話かも知れないが……自前の魔力で何とかなるくらいになればこんな無様は晒さないのだろう。

が、だ。どんだけよ?そこに至るまでの魔力枯渇の回数。びっくりだわ。ハイポーション作りすぎでは?魔力操作も神懸ってるわあの人。真似できる気がしないわ正直。

「えーとね、色々報告したほうが良いのは解るんだけどもうちょっと待ってね、ごめんね殿下」

「お気になさらず……きっと、壮絶な出来事があったのであろう」

「壮絶……っちゃあ壮絶だったけど、命の危険は……あー、暫くは無かったな」

そうな。備蓄食料が尽きたら死ぬけどな。あんな場所。

もしくは精神に異常をきたしてジ・エンドだろう。一人だと絶対発狂してたわ。視認できるものが何もないなんて、地獄でしかない。想像するだけでゾッとする。

「……しかしこの光も、全然おさまんねぇなぁ。どうすりゃいいんだよ」

「それな。魔力供給やめてるんだから早よ収まればいいのに」

ふー、と。長い息を吐き出しながらぼやく。

視界がチカチカする。

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