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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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さて、この深淵にご招待頂いてから恐らく三日程経過しておりますが、未だに深淵におります。

現場は特に危険もなく、食料もそれなりに充実しているので割と平和に過ごせております。外敵もおらず、テントを出して布団にくるまればふわふわとした感覚の中、ある意味新しい寝心地で熟睡できる次第である。

起きて出発前、昼休憩後、おやつ後、と。折に触れ、母に魔力提供頂いて方角を確認しながら進んでいるわけでございますが、平和といえどもそろそろ飽きが来るというもので……。

「太陽光を浴びたい……」

はぁ、と溜息を吐き出して歩きながら呟けば、それなと海もげんなりした表情で同意を返す。

「ここに連れてこられた理由って真面目に何なの?ここで何か業務あんの?連絡しろや」

「察してちゃんも大概にしろっつー話だよな。言うて、そもそも龍脈が繋がってねぇような場所どうしようもねぇじゃんなぁ?」

「遠いよぉ……龍脈遠いよぉ……」

「飽きたー……マジ深淵つまんねぇ……」

そんな感じにぶちぶち文句を言いながら歩いて、とりあえずこのクソ脱出ゲーからの離脱を目指す。


「つーか、ここ二日で母さんがガンガン龍脈に魔力流してるから森周辺加護マシマシになってたりすんのかな」

「深淵の森が龍の森に戻る為の第一歩になってたらまぁ一石二鳥なのかねぇ」

「……いや、もしかしてそれ狙いで俺等ここにぶちこまれた可能性?」

「マジかよやり口が汚ねぇな……」

神殿から直結でここなら確かにそんな事を狙われている可能性もある……のか?

え、酷くない?

非道にも程がない?

そんなやり方が認められていいの?

いや、まだそうと決まったわけでもないのだが、勝手に憎しみが増していくわ現状。

「でももしも、それが目的なのだとしたらこれ、一度母さんに限界近くまで魔力どばーってして貰うのも手……?」

飽きが極まってそんなことを考えてしまう。

「……ありかも知んねぇな……夜寝る前とかにさ、ちょっとこう……本日の残量魔力をどばーっと」

「で、更に化け物みたいな魔力に成長する母の図が出来上がる、と」

「うわ、カオス。もしかして……俺等の魔力低すぎ……?」

「給料みたいに言うな。まぁ月給は実質ゼロだけどな!」

「やだ。現実が辛い」

月給コンスタントに入ってくる日本の会社が恋しい……。

しかし、森にしても神殿にしても、どちらも神聖な場所と言う売り文句があるくせに、深淵の名を冠していたり直結していたりと散々だなおい。

光あるところに影はあるとか、そんなアレか?やかましいわ。


「そういや城から出て今日で四日経つのかぁ……あっち問題起きてないかなぁ」

「案外俺等が戻らんとかで迷子疑惑浮上してるかもな」

「まっさかー。神殿に到着してるのはあの鐘の音で解るだろうし」

「あれがあの部屋以外にも響いてたとしたら、かなり拙いと思うけど?」

確かに。

鼓膜破れるかと思ったわあの大音量の重ね掛け。

でもアレ、建物のてっぺんに吊ってた鐘の音ではないの?別物?

確かにあの距離であのサイズの鐘が鳴ったとて、あそこまでの音にはならん……か?

「……え、じゃあ最悪行方不明の扱い?それはやばいね」

「いや、まさしく行方不明な現状だけどな。現在地深淵ですって意味不明だしよ」

ただの事実だった件について。


そもそも深淵ってなんやねんと言う世界である。

神殿の祭壇に深淵行きの魔道具仕込んだヤツ、ちょっとツラ貸せ。引っ叩いてやるからよ。

……いや、もしかしたら神殿にあの汚い鱗が蔓延っている理由がこれ、か?

あの魔道具を設置することが目的か、又は元々あったあの魔道具の機動が目的であったとか……?

確かにあの魔道具にも魔力はそれなりに持っていかれた。恐らく、並の人間の持つ魔力では機動には足りない。それなりの人数が必要だろう。

だから海を誘拐しようとしたのか?龍の腕の魔力を目的として。

……ではあのモザイク龍は、この深淵で何をしたかったのか。ここは、奴にとって何なのか。

少なくとも龍脈と繋がりのない時点で社長からすればこんなところに用事はないはず。

先程考えた、龍脈にガンガン魔力流して脱出させるかとか、そう言うふざけた理由でない限り、今回の下手人にはなり得ないのだろう。

ううむ……わっからん。

結局色々考えたところで解らん。

全てが憶測で、答えを持つ存在とアクセスできないのだから仕方ないのだが、やはりストレス過多にも程がある。

はー、と。溜息を吐いて先の見えない闇を眺める。

距離もくそもない。この目が見えているのかすらわからない。

ハッキリと見えるのは海の姿くらいで、それが無ければ視覚すら疑ったことだろう。


「……あれ?」

「あん?」

不意に、違和感。

そうだ。何故灯のない空間であるのに、互いの姿はこんなにもハッキリと視認できるのか。

暗闇であれば、互いすら見えない筈ではないか。

「いや、考えてみればなんでお互い姿が見えてんのかな、って」

「……あ、ホントだな。確かに変だなコレ」

昔、星を見に新月の夜に街灯のない山道に行った事がある。

数メートル先すら暗闇で、互いの場所すら分からなくなって……その時は、確か煙草の火を目印に海を視認していた。

月のない夜は気を付けろよ、と。その言葉の意味がその時よくわかったのだ。いやはや、時代劇の定番の台詞だが、成程街灯のない時代の新月とは本当に暗いのだなぁと思ったもんだ。

ちなみにその時の星空はとんでもなく美しかった。なんならボケーっと見上げていたならちょいちょい流れ星だって流れていた。いい思い出だ。

「……これって俺等が龍の腕だからか?俺等そのものに加護があるから見える、とか?」

「出張ピンポイント龍脈的な?」

「的な」

「……龍脈通してこっちの眼に魔力流してもらう事ってできるのかな?」

「身体破裂しそう……」

「容量オーバーでぱーん……?」

「やだスプラッタ……っ、いやでも、量加減して貰いつつそれは手としてありかもよ。このまま延々と歩いてても仕方ねぇし……やる価値はあるよな」

この身を軸に、龍脈の森を広げるという手。

恐らくあそこまでのことは、私達の魔力では到底できないだろう。となれば、やはり母さんの魔力頼みになる訳だが……。

「提案すっか」

「即断即決ヒュー」

茶化すんじゃないよこのバカッタレ。

太陽が恋しいのだわ。


スマホを取り出して、充電残量を確かめてから母にコールしたなら、いつもと違うタイミングであるにも関わらず速攻で通話状態になる。

『もしもし?どうしたのー?出られたー?』

「いんや。全然出れる気配ナッシングー」

スピーカーホンに切り替えて、胸ポケットにしまいながら返事をしつつ、

「あのさぁ、龍の眼って龍脈ってか龍の一部なわけでさぁ」

『んー?』

「ちょっとこっちの眼に直結で魔力流してみてくんない?」

『ええー……それ大丈夫なの?』

「貰ってすぐ出せば行ける算段」

「右から左に受け流すスタイルな」

通過点になるだけ、的な。

『多分できることはできるんだけど……』

「なんかやばかったら通話状態維持するから、ストップって言うし一度やってみて欲しいなー。もう深淵飽き飽きしてんのマジで」

「クソつまんねぇのココ。やべえくらいなんもねぇから」

最早博打すら躊躇わねぇよ。

『わかったわよぅ……危ないと感じたらちゃんと言いなさいよ』

「はーい」

「りょーかい」

渋々といった声音で告げられた言葉に返事をしたなら、互いに背を預けて立つ。

「いやぁ、どきどきするわー。はじめての試み」

「事故らんようにだけ気をつけような」


そうして、十数秒後、右目に違和感。

やや熱い。

そう感じたなら、その熱を体外に放出するつもりで魔力を外に吐き出して行く。

しかして、流れ込む熱と吐き出す熱のバランスが悪い。

どんどんと蓄積していく熱に今日もほろほろと右目が涙を零してしまう。

「あ、魔力操作追いつかない!母さんちょいスローダウン!」

「魔力操作のレベルが違い過ぎてやっべ。優しくして優しく!」

『ええー、こんな感じかなぁ』

要望を口に出せば少しタイムラグを置いて注ぎ込まれる熱がゆるやかになり何とか吐き出すのに追いつくようになってきた。

「おーけーおーけー!それくらい、それくらいで!」

「うちの母さんがテクニシャン……あ、しまった。今ここで『らめぇ、こんなの入らないぃ』って言うべきだった」

「唐突なエロゲやめろ」

もはやこれ何ゲーなのか解らんくらい色々ぶっこまれ過ぎてんだからこれ以上混ぜこぜにするんじゃない。

「エロ漫画かもしんねぇだろ。決めつけんなよ」

「どっちでも変わらんわ」

そんな馬鹿な話をしながらも、身体から出す魔力は加護となってじわりじわりと足元から葉脈が伸びていく。


「あ、龍脈できてきた……芽吹け芽吹け」

「これ芽吹くもんなん?」

「知らん」

「母さん順調なんで、その調子でオナシャス」

『はーい』

魔力の流れが平素よりもゆっくりなことが原因か、いつもの日の出のような勢いはないが淡くゆるやかに光が伸びて広がり、その枝葉を育んでいく。

「夏休みの朝顔の成長を定点カメラで撮影したの、倍速で見てる気分になるなこれ」

「そんなことしてたのかよ」

「いや、動画サイトで見ただけで私はそんな面倒なことはしない。なんなら枯れた」

「朝顔さん……っ!」

右目から涙流してるからまるで本当に朝顔さんの末路を嘆いてるみたいに見えるからやめろ。口元を抑えて俯くな。

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