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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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あまりの音の重なりに耐えきれずに耳を掌でふさぐ。海も、持っていた杯を取り落としながらも耳を塞いでいた。

ポーションの青い液体が、祭壇に撒き散らされるのが見える。

……あとでクリーン掛けておこう。きっと毎日掃除しているのだと思われるこの場所を汚してしまって本当に申し訳ない。

文句は龍社長にお願いします。

何度も打ち鳴らされる鐘は狂ったようにその残響を残して新たに音を追加して、ぐわんぐわんと音が輪唱して実にやかましい。


吸い出された魔力がその流出を止めたならば、台座の文様がカッと光輝いて室内をその閃光が埋め尽くした。

聴覚だけでなく、視覚も奪われるのかよ。

毒づきながら強く瞼を閉じたなら、不意にすべての音がブツリと途切れて、瞼の向こうの明りも感じなくなった。

それと同時に、足場を失い落下するような浮遊感に下腹部に不快感を覚えてひゅ、と喉が鳴る。


が、落下していると感じたのはその一瞬で、足場を失った感触でそう感じただけなのだと目を開けて悟った。

何もない空中に、上下も定まらないまま立ち尽くす。

隣を見れば、海が腕を組んで憮然とした顔をしながら逆さまになって立っていた。

「……重力仕事しねぇの何なの」

と、ぶすくれながら文句を吐き出すその姿に動揺はないなとほっとする。

精神頑強の恩恵だろうか。私もまた、それほど強い動揺はない。

上下を合わせられないかと、もだもだと空中でもがいていれば、海が腕を掴んでくるんと回してくれた。

頭の向きが合えばなんとなく安心する。

「ん、で。何があってここはどこで俺等は一体どうしちまったわけなのか……マップもブラックアウトしたし」

あ、ホントだ。マップ仕事放棄しやがった。

周囲を見渡してみれば、暗い。これが本当の闇とか深淵とかそういう奴ですね?いきなり神殿からこういうダークゾーンにかっ飛ばされるの何なの。相変わらず意味不明な世界だな。私達を苛んで楽しいのかよ。性格悪いな。

インベントリからタクティカルライトを取り出して、ストラップを腕にかけてからカチとスイッチを入れたなら1500ルーメンのとんでも明るい光が突き刺さるように闇を穿つ。

「うーん……?」

だからと言って何かが見つかるわけでもなく、光の指す方向をうろうろと変えてみても何もない。無。

「いつから脱出ゲーになった?ヒントも何も無いのにここから脱出するミッション?もしかして俺あの時あのまま誘拐されてたら一人でここにいたかもしれねぇの?やめろよ折れるわ」

「ダンジョンゲーかもしれんだろ。五里霧中の中攻略すべし的な。でもここに一人だと発狂するよね、それは解る。二人で今ここに居られることを噛みしめるわ」

だがそれを幸運とは思わない。

と言うか、唐突な展開やめろっつってんだろ。ゲーム方針も定まらないクソゲーなぞやめてしまえ。いや、ゲームではないが。現実だが。尚の事クソである。

「つってもここで突っ立っててもどうもならんのなら、とりあえず歩くか」

「これ歩くって言うの?歩けるの?そもそも」

ぶつくさ文句を言いながらも一歩踏み出せばふよ、と妙な浮遊感と共に一応スライドしている感触はある。が、周囲の景色が無なので進んでいるのか何なのか……もしかしたらこれただひたすらに足踏みしているだけの可能性すらある。


延々と続く真っ暗闇の中、ふよふよと足を義務的に動かしていても特に何か変わり映えはしない。

龍の眼に時々魔力を注いでみても変化はなかった。

「うーん……右目に何の変化もないってことは、ここ龍脈が通ってない場所ってことよな」

「あー。そういう見方もあんのか。龍脈ゼロイコール加護ゼロってことか?あれ。積んでねぇ?」

「積んでるよねぇ。加護もないからマップも仕事しないのかも」

「そこかー。えー、ってことは俺等もしかしてモザイク龍の腹の中とか言わねぇだろうな」

「クソ終わってんなソレ。なら結界でも張ればぱーんと飛び出せたりしないかな」

敵の腹の中なら結界でぽーんと出れる筈。南の森で学んだからな。

「出た先が岩の中とか言うオチつけてくる可能性」

「何だっけそのバグ。なんかあったよね」

そしてそんなことになったら一体どうする事ができるというのか。

恐らく岩からは結界では脱出できない。持っているスキルで使えそうなものも思いつかない。整地スキルとか自分ごとぺたんこだろうし。

「でもさ、結界はこの場に私達残して敵を結界の外に放り出すわけだから、現在敵が岩の中に埋まってない限り大丈夫じゃないの?」

「まぁそうよな。まさか埋まってねぇよな」

大体ここがモザイク龍の腹の中と決まったわけでもないのだ。

そんなわけでとりあえず結界を張ってみる事にした。

海が張った結界が周囲をほんのりドーム状に取り囲む。そこだけ淡く発光していて、ライトアップされたクラゲの中にいるかのようだ。

「はいはい変化なしおつかれー」

「はいおつかれおつかれー。もう手詰まり何もできん。おやつタイムにしようー」

もうやけくそ気味に手を打ち鳴らして海がお手上げポーズを取ったのに続いて、労いと休憩を提案する。

おやつでちょっと糖分補充したならば、多少は何か別の考えが出てくるかもしれない。


「それにしても、やっぱ殿下達と行動わけてて正解よな。こんなトコに連れ込まれて、帰還方法解らんとか王子連れてちゃ相当拙いもんな」

チョコレートバーの包装を剥きながらそう言われた言葉に、ほんとソレなと頷く。

「筋肉ではいかんともしがたいもんねぇ……こんななんもない空間。明確に敵が現れるでもなし」

もりっとかじりつけばチョコレートの中のキャラメルとナッツがねっとりと甘さを舌に叩きつけてくる。

「あーこれこれ。このカロリー爆弾たまんねぇな」

「お前本当に甘党よな」

しみじみと齧りつきながら実に美味そうに舌鼓をうっている海を半眼で見つつ、さてどうするかなぁと思案する。

いやもう考えてもどうしようもない現状、そろそろ社長何かしらの助けをくれないだろうか。

しかし龍脈が通っていないということは社長の恩恵の範囲外である可能性すらある。元々大した期待をしてはいないが、全くなんの支援もない状態というのも困ったものだ。

「そういや、マップが表示されないってことはマップから私達のアイコンも消えてるのかな」

と、ふと感じた疑問。

マップからアイコンが消えている、イコール死と同意義であるそれ。

もしかして、両親発狂してるのでは……?

「……だとしたらやべぇ」

マップ見ていない事を祈る。

ごそ、とスマホを出してみれば、音もなく着信していた。

「……あー」

「おー……出てやれよ」

そうよな。

促されて通話ボタンをタップしたなら、


『いきてるー!!』

と、相変わらずハウリングする程の大声量がスピーカー越しに突き抜けて来た。

耳当ててなくてよかった。鼓膜潰れるわ。

「はーい、生きてますよ健康健康。今チョコレート食ってるとこ」

スピーカーホンに切り替えてからそう告げたならばなんかぐすぐすと鼻を啜るような音がする。なんか、すまん。

『あんた達マップから消えてるんだけどなんなのー!』

ちょい震える声に物凄く心が痛む。

「いや、俺等もよく解ってねぇんだけど、なんか真っ暗なトコいる」

「神殿から気が付いたらイマココ状態。そして恐らくここ龍脈通ってないからマップに表示されない」

『マップ外エリアに居るってことか?現段階では攻略不可な所か……』

「バグじゃん」

「悪質なバグじゃん」

そしてそこにいたのか、親父。

しかしそうかぁ……マップ外エリアかー。

「とりあえず周りなんもねぇし真っ暗だし、どっち行きゃいいのかも解んねぇし何なら地面すらねぇしで困っちゃいる」

「東西南北解らないし、上下すら曖昧なんだよねぇ」

まるでまだ作り込んでない新規作成のマップエリアみたいな?これからオブジェクト入れますんで少々お待ち下さい的な?

いや、今すぐ何とかしてくれ。マジで。

『イエクサー、空と海の現在地を教えて』

うーんとか言いながら親父がイエクサに問い掛ければ、ぽぉんと電子音がやや遠くに聞こえる。という事は二人ともリビングに居るのだろう。

あー……いいなぁ……炬燵でごろごろしたいなぁ。しらたまさんこねくり回したいなぁ……。

『はい。現在地は、深淵です』

「……だってよ」

「わかんねぇわ」

「はいここで海くん豆知識。深淵とは、奥深さや限界の底が知れないことの例えに使われる言葉です」

「つまり、この真っ暗闇延々続いてる恐れ有りかよぉ……」


というか、森もそう言えば深淵の森とか言ってたからもしかしてこれ森と繋がってる可能性とかあるのだろうか。

あの森の土壌ですよと言われても成る程そうかもしれないと思わなくもない。わけの解らなさはトントンだ。

「……うーん、ところで龍の眼使った時に森って龍脈あんの?」

『あるわよー』

あるのか。ならここが森に直結している説はアウトか……。

「ちょっと魔力どばーって流してくれたりしない?」

『いいけど、どうして?』

「いや、前にイエクサに聞いた時に、あの森のこと深淵の森って言ってたから……もしかして森とここ何か関係あるのかな、と思っただけなんだけど」

「あー……そんなこと言ってたな。そういや」

関係あったら何かしらの変化があるかもしれないし、なければないでまたふよふよとこの空間を彷徨うしかないのだろう。

食料はそれなりにあるが、時間感覚とか死ぬよな。

『ワンチャンあるかもしれないのならやるわよー。母さん頑張っちゃう』

「よろしくー」

「増えた魔力ガンガン注ぎ込んだらどんなことが巻き起こるか……は、この動悸、ときめきでは」

「ちげぇわ。お前すぐときめくのやめろ」


とりあえず電池が勿体ないので一度通話は切って、上着のファスナー付きの胸ポケットにスマホをしまう。

そうして、ぼんやりと周囲を見渡していれば、遠くの方が微かに光を灯したのが見えた。

「……あれさぁ」

「母さんの魔力かなぁ……」

水平線から昇る太陽がごとく、じわりじわりとその光が浮き上がるのが見える。

同時に、魔力の波がびりびりと空気を震わせて、それがとんでもない魔力量であることを知らせて来た。

「……うちの母親が、人間やめとる」

「ちょっと目を離した隙にこれだよ……」

嘘だろ。ポーション作り過ぎでは……?

恐らく今の私達は足元にも及ばない。もうね、これぞ御遣い様!と言わんばかりのとんでも魔力であることが解る。

浮き上がる光はその枝葉を伸ばし、まるで樹木のように闇の中を切り裂いていく。

同時に、光の粒が胞子のようにふわふわとその枝葉の周りを踊り、闇の中に光の森が産まれているようにすら見えた。


「ま、とりあえずあっち向かうか」

「そうな。あっちには龍脈があるってことだもんな」

深淵の外縁にあたるのだろう。逆方向に進んでいけばきっと延々と果てのない闇が続く事になるのだろうが、出入り口があるのならば何よりだ。

「ここで登場キックボード」

「あー、なるほど?」

確かに。この出力で魔力を延々と吐き出すのは無理があるだろう。なるべく早く、光が強い内に辿り着きたい。

インベントリから取り出したキックボードを、床とも言えない足元にセットしたなら、暗く何の衝撃もないそれを足で蹴った。

「うーん……車輪が回転している気配がしない」

「……よし。走ろう」

結論。

こんな所でキックボードは役に立たない。

「畜生……結局走るのかよ」

そそくさと片付けて、軽く屈伸運動をしたなら駆け出した。


これまた進んでいるのかどうなのか、よくは解らないがきっと進んでいる。何故なら結界から遠ざかっている事実があるからだ。

ただ、光が近づいている気がしない。

そりゃもう相当アレ遠いな。そして遠いのにあれだけ見えるということは、かなりの光量なのだろうな。

「……走り出しておいてなんだがよ」

「うん」

「これ今日中に到着する気がしねぇ」

「激しく同意」

頷いて、ポケットからスマホを取り出して親父にコールしてみれば、時間を置かずに繋がった。

『もしもーし』

「はいこちら深淵の二人です。琴子さんご協力ありがとうございます。とりあえず進むべき方角が解ったので一度お力収めて頂いて結構です」

『何で敬語』

「いやなんとなく」

『おーい、一度止めていいってよ』

『はーい』

その返事と同時に、今度は陽が沈むように徐々にその光が収まっていくのが見える。

「多分走っても今日中には到着しないので、また明日頼むかも」

『解ったー。今日も方角解らなくなったら言ってねー』

まだ魔力余ってるのかよ。マジかよ。


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