表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
72/124

46

森より安眠できなかった件について。

早朝、鳥の鳴く声でうつらうつらしていた意識が完全に覚醒したので、仕方もなしに身を起こす。

頭がぼんやりする。身体にも倦怠感が残るあたり、しっかりと眠れたとはお世辞にも言えない。

はぁ、と溜息一つ吐き出したなら隣で事件でも起こして来たのか、と言いたくなるような顔でテントの天井を睨みつけている海がいた。

「……超ねみぃ」

「……わかる」

まるで森で初めて野宿した時のようだ。すこぶるしんどい。

とは言え、神殿の門に貼り付いて誰ぞが入る時にそそくさと侵入する作戦であるから、だるい身体を起こして身支度を整えていく。

相変わらず寝癖は爆発しているが、帽子をかぶってしまえば問題ない。

しっかりと朝食を摂る気にもなれず、栄養バランス食品で適当に済ませて場を片付けて行く。

周囲は朝靄がうっすらと掛かり、遠景は白んでいた。

今日は雨は降っていないらしい。

しかし、見上げる上空に掛かる雲は分厚く、いつでも泣き出しそうなそれだった。


一連の片付けを手早く済ませたなら、隠密仕様で息を潜める。

そうして、結局夜通し誰も来なかったこの朽ちた小屋周辺を後にしたなら今一度神殿を目指して歩き出す。

地面には昨日の名残の水溜まりがぽつぽつとあり、それを避けながら歩いていく。

石畳でよかった、と思う。森であれば地面がぬかるんで歩きにくい事この上ないのだから。


しかし眠い。

くぁ、とあくびを噛み殺しながら歩いていれば、神殿前の門が見える。

そこには昨日はいなかった神殿騎士が二人程、警備の為か立っていた。

そして、なんなら開門していた。

いや、関係者以外立ち入りをご遠慮頂いている割に、開門はするのかよ……と、思わず首を傾げたならば、神殿騎士がそわそわと小さな声で会話しているのが聞こえてくる。

そっと耳を澄ませば、少し浮ついたような声音で話しているその内容。

「今日だろうか、明日だろうか、もしかして既にお越しなのだろうか」

「……落ち着け。平素はお姿を御隠しでいらっしゃるそうだ。どの道見ることは叶わんだろうよ」

「一目で良いからお目に掛かりたい。その為に休日返上したというに」

「動機が不純だ戯け。もし御遣い様に聞かれたなら呆れられてしまうぞ」


聞いてます。

なんかもう、ホントすみません。

あれですか。二人突貫すると決めたから本来は開門しない筈のここに人員配置して開けてくれてるのだろうか。

だとしたら本当にありがとうございます。

思わずお二人に向けて手を合わせて拝んでしまった。

休日返上だなんて、苦痛でしかない。

そして城から皆様お戻りでいらっしゃる?夜が更けてからか、又は日も登らない内にか。どちらにせよ、話が通っているのならば相手さんも手ぐすね引いて待っている可能性が高い、か。

気を引き締めて行かなければ。


海と目配せをしてから、門を潜る。

上へ上へと伸びる階段に辟易とした心地を抱くが、文句は言っていられない。

何となく、階段の端をこつこつ登っていく。真ん中は神様の通り道だもんな!……それって神社の作法だろとか言うんじゃねぇぞ。神殿も神社も似たようなもんだろうきっと。奉る対象が違うだけだ。

しかし森と違って人の街は階段多いな……城と言い、神殿と言い。いや、まぁ人工物なのだからそりゃそうだろうって話だが。限られた土地にスペースもぎ取る為の人類の英知よな。

しかし、だ。こんなにえぐい階段作る必要ある?階段スペースだけで充分な建物できそうなんだが。

そんな高い所に神殿作る意味とは?

馬鹿と煙はなんとやら、とは言うものの、権威の象徴も大抵高い所にあるよなと偏見に満ちた事を考える。

きっついわ。


ちょいちょい休憩を挟みながら登りきった先、聳え立つのは白い石造りの建物だった。

綺麗な外観に彩りとしてか蔦植物が這っている。

……蔦植物って手入れをちゃんとしないと混沌とするんだよな、確か。

虫もわくし、見た目には風情があるし夢も希望も詰まってそうだが、現実問題として割と手が掛かるイメージだ。

吹き抜けの廊下には神殿騎士と思わしき制服の人がチラホラ見える。

あの白い詰襟、汚れ目立つだろうなぁ。

いやまぁ、神殿のこう、神聖なイメージを色で表現したいのだろうが、実用性には欠けるよね。

建物は中央に大きな物がひとつ。左右にそれよりは小さな建物が付随していて、真ん中の建物には鐘が吊られていた。

建物を三つに分けるのは西の国の伝統か何かなのだろうか。

そのへん興味あるわ。

もしかしたら単純に城だの神殿だの建てる時期の流行りであった可能性もあるが。建築物って流行り廃りあるよねぇ。

しっかしあれだな。雨降ったならこの一番外に面した廊下掃除とか大変そうだな。屋根はあるが風が吹けば普通に雨吹き込むよな。中にも廊下あるんだろうか。なかったら雨の日は移動拒むレベルだよな。


マップを確認したなら緑と赤が入り乱れている。

赤が固まっていてくれたなら目指す場所も解りやすいのだがそうもいかんらしい。

仕方ねぇなと適当にお邪魔することにしたが、どこへ行けばいいのかさっぱり解らんなこれ。

多分偉い人は中央の建物にいるんだろうと目算を付けて、中央の廊下にそっと踏み入れる。左右どちらへ進むかなぁ……と悩んでいたなら、不意にマップがぴこんとアイコンを表示した。

は?と思ったならば祭壇の時と同じくピックアップアイコンが目的地はここですよと訴えてくるではないか。

例によって例のごとく、苛立ちを刺激してくるこの仕様。

これだけ近づいて来てようやく仕事すんの?お前。最初から訴えろよ舐めてんの?イベント総スルーしちゃったらどうしてくれんの?

寝不足で怒りの沸点下がってるんだから余計に苛つくんだが。

とは言え、こんなところで苛立ちに任せて喚いてもいられない。湧き上がる熱い思いを飲み込んで、マップの指示に従って歩き出せば時折人とすれ違う。


ここにいないものとして、まるで視認されていない状態であるので何ら問題はないが、しずしずと歩く神官のお嬢さんとかはちゃめちゃに可愛いな。何そのワンピースみたいな神官服。清楚すぎん?そしてそんな清楚な恰好が似合っちゃうお嬢さん達たまらんのだが。

神殿騎士のストイックな騎士服も中々好ましいが、この清楚な神官服には敵わんな。

最近あんまり女の子ちゃんと視界に入らないから眼福である。女性騎士さんは姉御って感じの女傑が多いのでまた別カウントなのだ。

何だろうな……潤う。

いや、自分がどれほど変態的な事を考えているのかなんてつっこまれなくても解っている。大丈夫だ。

だがアラサーにもなれば若い女の子なんて皆かわいいもんだろ。え?私だけなの?

でも多分海とか結構こういう清楚系のお嬢さん性癖に突き刺さるよね。もう姉弟で眼福ならそれでいいと思う。誰にも迷惑かけない範囲で楽しむから許してくれ。


しかしマップが最初から解放されているのは本当に楽だ。

黒エリアの未知の敵に怯えながら進んだ森の中とは大違いで、割とさくさく進んでいける。これは楽勝ですわ。

そうして、神殿の一階部分、えらく頑丈そうな扉の前で少し考える。

……開けたら存在バレるやん?と。

両開きの、大変重そうな木製扉。きっと何度もニスを塗り重ねられているのだろう扉は木目を生かしながらも艶々としている。刻まれた彫刻が植物のモチーフで……と言うか多分先程玄関辺りで壁と柱に這っていた蔦植物じゃないかな。何かアレ謂れのある植物なのだろうか。

いやまぁそれはいいんだが。マップで周囲にアイコンがない事を確認して、鍵がかかっているか否かを確認するためにそっと金属製のノブを捻る。

……なんの抵抗もなく開きそうで逆にびっくりしたわ。


どうする?と海に目配せをしたなら、行くしかねぇでしょと頷きが返る。

人が来る前に、滑り込んでしまうしか手はないだろう。

そうと扉を開き、するりと中に滑り込んでから、続く海がそっと音がしないように扉を閉める。なんならしれっと施錠してた。


それから室内を見渡せば、薄暗い礼拝堂のような空間になっていた。

耳鳴りがするほどの静寂が満ちて、高い天井にはめ込まれた窓から曇った天気にふさわしい薄明りが入り込んでいる。

足元には絨毯が敷かれているが、それほど毛足は長くない。歩きにくいほどの物でなくて何よりだ。

正面中央に、祭壇のようなものがある。

そっと足を踏み出し、近づけば三段程の階段の上に王城の祭壇と似たような形の台が置かれ、その上に似たような杯が置かれていた。

が、それだけだ。

イエクサがいるわけでもないし、その杯に何かアクションを求められているわけでもなさそうだが……はて?

――どないせよと言うのか。

え、案内ここで合ってるよね?とマップと海を交互に見ても、何も変わらない。

海も首を傾げてえー?と困った顔をしているのみだ。


何をすればいいのかが解らない。

目的地はここで合っていそうなのに、手詰まり感がすごい。

ヒント求む。

もうね、本当にね。こういう所だぞ。解ってんのか龍社長。業務ぶん投げ式にも程があるのよマジで。

クソむかつくんですけど。

すっと、インベントリからスマホを出した海に、私も倣ってスマホを出す。

『何したらいいのか海くん解らんのだが』

『いや私も解らんのだが』

『これ龍の眼案件?それとも杯にミドルポーションでも注ぐ?』

『思いつく限りの事をしてみて、駄目なら後回しにするしかないのでは』

『マジ終わってんな。案内するならするで最後までちゃんとナビれや』

『それな』

はぁ、と。舌打ちしたい気持ちを抑えて溜息一つ。

とりあえずポーション注ぐか、とペットボトルを取り出してとぽとぽと注いでやっても何だか青い液体が並々と注がれただけで変化なし。

水面が揺れて綺麗だねぇ、程度のものだ。晴れていたならきっときらきらしていたのだろうなぁ……ってどうでもいいわ。

『はい没』

『ただ勿体ない事になっただけかよ。回収しようぜ』

『上手に杯からペットボトルに戻すの至難では?』

あと誰が触ったか解らん杯から戻したポーション飲む気にならんのだが。

振りかける専用にすんの?ああそう。

ならもう適当にタッパーに入れてしまえよそっちの方が楽だろ、と蓋のしっかりした煮物を入れても大丈夫なものを出せばこくりと頷いて台に置かれた杯を無造作に持ち上げる。


ゴリ。


と、不意に妙に重い音を鼓膜が拾った。

まるで岩がこすれるような音だ。

「……?」

何だ、と互いに目を合わせていたなら、先まで杯が置かれていた台座に文様が浮かんだではないか。

は、何このギミック。聞いてねぇんですが。


そうして、お約束とばかりに右目に魔力が勝手に集約し、体外に放たれていく。

――またこれか。

それ程えげつない吸われ方ではないが、どう見ても台座の文様にリンクしているように魔力が持っていかれはじめたならば、

ゴォン……と鐘の鳴る音が凶悪なまでの大音量で室内に響き渡った。

うるせぇ。

ゴォン……ゴォン、と。繰り返して鳴り響く音で鼓膜が痺れる。お前ふざけんなよ難聴なるわ。

あと折角隠密で来たのに意味なくない?こんな馬鹿みたいな音がしたらやってきましたよって超アピールしてるのと一緒じゃない?何そのかまってちゃんみたいなムーブ。望んでねぇわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ