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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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強制的な魔力の吸収が収まったと思えば、周囲の靄が晴れ渡る。

次いでがくりと伯爵の身体から力が抜けて慌てて二人でその身を支えたなら意識が飛んでいるようだった。

……が、マップアイコンが赤から黄緑になっていた。

ついでにこちらにぞろぞろ集まっていた赤点も今の強烈な加護のばら撒きで鱗付きからは解放されているらしい。

相当な範囲に影響があったことだろう。

がっつり魔力半分切ったからな。ふざけんなよ、前までの魔力なら足りてねぇからな?無茶させんなおい。


が、そんなことは今問題ではなくなった。

はぁ、と。短く息を吐き出して不快感と驚きの相乗効果で早鐘を打つ鼓動を鎮める為に伯爵をそっと床に降ろし、壁に背を当てて座らせてから深呼吸をする。

「……何今の」

「わかんね……社長吼えてた?」

「多分。でも、なんだろ。今話してたの社長じゃない……よね?」

当たり前のようにお互い涙目である。

ぼっろぼろにもう両目から涙を流して痛かったねとめそめそする勢いだ。

最近ずっと泣いてんな……大人でも生理的な涙は出るんだよ我慢できないんだよ……。

「……龍ってやっぱ、社長以外にいんのかな。それとも龍擬きか?どちらにしても、明らかに敵意を向けられた気がしたんだがよ」

「同業他社……?そもそも天秤って何だって話だわ」

加護の龍は一体だと、殿下は言っていた。

ならばコイツは何の龍なのか。汚い龍とかモザイク龍とか、仮に呼んでおこうか。区別が面倒だな……。

「龍脈に還るってのは、つまり死んで森に還る事?」

「あー……歴代腕さん達と同じ末路?」

「でもそれだと天秤傾くらしいし、社長は天穴巡りツアーご希望なわけで……」

ではやはり敵対勢力的な存在である可能性が高い、か。

うーん、ライバル会社の唐突な登場に戸惑いを隠せない。

あのモザイク龍攻撃性高くない?あと行動力ありすぎでは?

うちの龍社長ももうちょっと行動力だけは見習って頂ければと思います。

「少なくともうちの社長的には歓迎できねぇ天秤の傾きだってのは、まぁ解った」

「つまり簡単には死ねない、と。いや、もともと死ぬ気ないけど。命なんて一欠片も懸けてねぇわ」

「それな。俺等は平穏な生活を整えたいだけだっつーの。パワハラやめろ」

「……今さっきの咆哮は、もしかして社長なりに助けてくれた……?ガンガン魔力持っていかれたけど」

やり方雑ではあるが、あれはうちの社員になにしてくれよんじゃ!のお怒りの咆哮だったのだろうか。

モザイク龍のネット環境が悪いのではなく、龍社長がカチコミした結果の断線だったの……か?

いや、どの道解らないことではあるが。

相変わらず全く解らない情報の断片だけをばら撒かれて一体私達にどうせよと言うのか。ノーヒントよりは何かしら行動を起こすことができそうな気もするが、ヒントの質が低すぎてどうしていいのか解らない。

「天秤について殿下達なら何か知ってっかな?」

「もしくは神殿の方とか?」

森王族か龍神殿か。どちらかに情報がなければこれまた積む。このヒントに関してはまたあとは流れで、とかになる。そういう博打みたいなの本当につらい。

色々段取り組めないのはストレスだ。ただでさえストレス過多だと言うのに……禿げそう。十円禿げとかできてないだろうな。

「天秤の傾きが、今のモザイク龍の言う方向に傾いたら……もしかして森の変容ってそれが原因で起きてる可能性もあるのかな」

「あー……だとしたら明確に敵じゃん?え、敵とかいんの?やばくね?」

「やばいね。コマンドは逃げる、隠れる、拘束する、しかないんだけど」

「スコップ」

「……勝ち目ねぇな」

例えば、守護者にスコップで挑むとか考えられるか?死ぬわ。


バタバタと場に駆け寄る足音が聞こえてくる。

完全に二人で考察に耽っていたが、そういやここ王城じゃん?よそ様の御宅じゃん?

「……やべぇ」

「……うん」

雪崩れ込むように通路の左右から見知った第三の騎士服と、見慣れない深緑の騎士服の人達が駆けてくるのが視界に飛び込む。

思わず宰相さんを振り返れば、戸惑いを顔面に張り付けて私達を見ていた。

「……なんか、多分この騒ぎ私達のせいっぽい。ごめんなさい……?」

とりあえず叱られる前に謝ってみる。

と、困ったように眉を下げて見せる宰相さん。

「いえ……お二人の会話から、神龍様に関わる何かであるという事にございましょう」

「うん、多分そうなんだけど……」

「であれば、この世界そのものに関わる事にございます。お二人のせいだなどと、そのように仰ることの無いようにお願い申し上げます」

そう言ってから一度目を伏せ、そっとその胸に手を当てている。


確かにまぁ、元を正せばこの世界そのものに私達が巻き込まれているんだよな、とも思う。

朝目が覚めたら唐突に異世界とか、とんでもない話だ。

ノーヒントで天穴まで辿り着いた結果がこれであるわけで。

……あのモザイク龍はもしかして、一つの天穴を解放したから行動を起こしたのだろうか。残り三つの天穴に辿り着かせない為に……それもまた解らないけれど。

しかし、人様の身体を乗っ取ってどうこうしてくれる辺りろくな奴ではない。


「ソラ、カイ!」

「あ、殿下」

「お、ただいま殿下」

騎士の群れの中から殿下が駆け寄って来て、その殿下の後ろにはいつものフォルテさんの姿。

私達の姿を視認したならまた殿下がへなりと眉を下げて情けない顔をする。

「泣いて……っ、どうしたのだ、どこか痛いのか?お腹がすいたのか?誰かにいじめられたのか?」

このオウジサマ、誰かなんとかしてくれないかな?

いや、痛かったのは確かだけどな。言い方よ言い方。あとお腹空いたって泣かんわ余程でなければ。

殿下の言を受けて、第三の面々が誰か軽食を!とかおやつ持ってないか!とかざわめいてるのもなんとかしろ。

「……ああ、うん。大丈夫。お腹も空いてない」

「何だろうなぁ……殿下見てると力抜けるわ俺……」

「わかるー……」

緊張してるの馬鹿らしくなってくるよね。この天然殿下の前だと。

「それより殿下、この……ええと、伯爵さん?ちょっと鱗の主に取り憑かれてたみたいなんだけど、どこかで休ませてあげられないかな」

多分被害者。危うく犯人扱いしてぶん殴る所だったけど、直情的に行動しなくて良かった。いやマジで。

「鱗の主?何か解ったのか。ああ、いやここでする話ではないな……その者はひとまず客間に運ばせよう」

「あと、書庫前にいた騎士さんに読めない字のメモ渡してごめんって言いたいんだけど……」

「物凄く興奮して神託を賜りましたと報告されたあれだな。まぁ私も読めなかったのだが……なんと書いていたのか聞いても良いだろうか」

「……んん。いや、ただ情報の聞き取りのお願いを、書いただけなんだけど」

神託とかじゃねぇんで。なんかごめん。

「……こっちの字も、できるだけ覚えるよう努めるわ」

できるかどうかは別にして。

隠密状態での意思表示ができないのは致命的だ。

歪な階段と棒人間の落書きを額に入れられそうな海の悲劇も回避する必要があるだろう。

字を覚える、と言った言葉には妙に嬉しそうに期待している。と笑った殿下は、すぐに表情を引き締めて、

「ともあれ、一度落ち着いて話を聞きたい。場所を移動しよう」

ここは人が多いからな、と。

確かに知らん顔まみれで大層落ち着かない。

注目されているのは嫌でも解るのがまた居た堪れないのだ。

「そうだね。あ、でも祭壇の扉にコルドさん居てもらったままだ。あとそこに大司教さまが居るんだよね」

もう大体城内の騒ぎの根幹は始末できたので是非帰還願いたい。ついでに大司教さまとお話しできるチャンスでは、とも思う。

天秤について。王族と神殿のお偉いさんに聞けるチャンスではないか。

ところであのおじいちゃん、果てしなく長いあの階段を登る体力あるのだろうか。大丈夫かな。降りる時に膝痛めて無いかな。

あのモザイク龍め、お年寄りに過酷な事をさせよって。大罪だぞ。許されることでは無い。

「解った。伝令を出そう」

「ありがと殿下。お手間掛けるね」

「何のことはない。もう少し頼って欲しいくらいだ」

からり笑ってそう言う殿下に、こちらもへらり笑う。

「いや十分頼ってるって。甘え過ぎて申し訳ねぇくらいだ」


海の言う通り、こちらに来てからは本当に何から何までだ。

屋根を借りて無銭飲食させてもらって、挙句の果てに護衛案内付きで街探索。

こちらもまぁ、龍のなんたらで仕事はしているが……それすら殿下とあの時遭遇した流れな訳で。

あの時殿下と会えていなければ、未だに森の近辺でクソゲークソゲー言いながら意味もなく当てもなく、そして知識もなくうろついているのかと思うとそれこそ涙が出るわ。

幸運だったのだろう。

現状も大概えらい目に遭っている気はするが、何かしらの目的が見えている分マシだと思う。

腹立たしいし、痛いし、ろくでもないが。

それでも無為に時を浪費するよりはまだ良いはずだ。


だが、あのモザイク龍が他人を巻き込んで私達に害成すのを許容するものではない。

社長も奴の事嫌いっぽいし、私達が奴を嫌いでも問題無いだろう。奴の正体が何であれ、迷惑掛けられた分、賠償請求をさせて頂きたいものだ。


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