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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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さてやってきました三階です。

こちらの階は重要な案件の処理や、あと賓客のもてなしなどに使われる階であると聞いたことがある。

勿論客が入れるエリアと、お仕事エリアは分かれているが、結構重要なフロアとなるのでこの階に入るには一応許可申請が必要だったり通行証的なものが必要だったりするらしい。

が、魔道具管理での通行許可ではなくマンパワーでのチェック体制なので私達のように姿を消したら解決である。

大丈夫?企業スパイ入り放題じゃない?

ちなみに宰相さんとかディベル殿下がお仕事してるのもこの階らしい。

神殿騎士は二階で足止めを喰らっていたにも関わらず、この階にも赤点の塊があるんだよなぁ……と首を傾げながらも、とことこ通路を歩いてそれを目指した。

一体どんな人がそこにいるのだろう。


しかし、ワンフロアがいちいち広いので移動だけでも大概時間を食うのが頂けない。

まぁ職場兼住居であればそれ相応の広さは必要なんだろうけどさぁ。

でも、疲れ切って帰ってきた時に住居フロアである四階までさらに進まなければならない時とか絶望しないのだろうか。

玄関開けたら2秒で倒れこめる環境でなければ住みたいとは思えないのだが。

いや、流石に玄関フロアで転がる事なんてそうそう無いけど。でも最短30秒くらいで寛ぎたい。是非。

自宅見えてからが長いとか拷問だと思う。

城ってそのへんが嫌だよね。偉い人と言うのも大変だ。まぁそもそも城門から遠いからその時点で心が死ぬよね。

そんな無駄な思考を巡らせつつ歩いていれば、宰相さんの声が聞こえてきた。

お仕事お疲れ様です。

見慣れない深緑の詰襟の騎士が数名と宰相さんが、何か物凄く高そうな服を着たおっさん達とやいのやいのしていた。

この高そうな服のおっさん連中がどうやら赤点であるらしいが、はて。

これは所謂上流階級の人達では無いだろうか。やいのやいのと表現したが、それ程騒がしい印象ではない。

落ち着いたトーンの声で、言葉で殴り合っているような感じだ。


「龍の御使い様が降臨なさったと耳にしてからこれまで、一度もお目通りの許可が出ないのは何ゆえですか」

「お二人がそれを望まない限りは今後も許可はおりることは無いでしょう」

「王族の皆様でかの尊き存在を独占なさるおつもりか」

「聞こえの悪い事を仰せあるな」

「事実であろう。そもそも、北の王族であると誤った通達をしておいて」

……多分、先頭で発言しているおっさんがあの集団では一番身分が高いのだな?後ろの連中はうんうん頷く振り子人形になっている。まったく、とか。いやはや、とか。相槌名人達である模様。絶妙なタイミングで入れられる合いの手におっさんもノリノリなわけだな?

あと、御目通りしても得なことは何も無いので速やかに聞き分けるべきよな。

「……今はそのような事を話している場合でもない、と。公爵閣下にならば解る事でしょう」

「階下の騒ぎの件ですか。神殿もまた、焦れているのでしょうな」

「解っておられるのなら、」

はいはい鱗は消毒ですよー、とばかりに海が龍脈に魔力を流す。

確かに、あーだこーだと長話聞いてる場合でもないな。

「……!御使い様」

湧き上がる光に宰相さんがはっとしたように左右を見渡すが、隠密仕様です悪しからずご了承下さい。

はた、と。まるで目が覚めたようにぱちぱちと瞬きをしてあれ?とでも言いそうな顔で首を傾げるおっさん達も、周りを見てからおお、と小さく感嘆の声を上げていた。


が、ひとりだけ。

赤から変わらない人物がいる。

比較的若い、おっさんとはとても言えない男性。そいつは微かに苦い顔をしたかと思えばじり、と足を後ろに下げた。

――逃げる気だ。

そう思ったならバインドを掛けて捕縛する。

魔力の鎖がその身を絡めとり、驚愕に目を見開いたかと思えばギリと歯を食い縛る。

駆け出し、拘束された男のその腕を掴んで一言。


「お前か」


見上げて、質問とも言えないそれをぶつけた。

周囲の靄は晴れている。おっさん達のアイコンは赤から黄緑や緑に変化している中で、こいつだけが赤のままだ。

「ソラ様!?」

「宰相さん、この人何者?どこの誰?どう言う立場の人?」

唐突に姿を現したからか、驚きの声を上げた宰相さんに矢継ぎ早に質問を浴びせれば戸惑ったような空気が場に流れる。

海の生み出す光は気付けば収まり、その海もまた眉を顰めて男を見ていた。

――ただ、龍の御使いが嫌いなだけの人であればいい。

そう思う気持ちと、こいつが犯人か、と言う気持ちが胸中でぶつかる。

見上げた男は恐らくリダルトさんやタッカートさんとそう変わらない年頃だろう。若いんだか年食ってんだか解らん。

すこしくすんだアッシュトーンの金髪に、縹色の瞳が今は顰められてその顔面が憎々しく歪んでいる。が、多分結構顔面偏差値高いのでは?筋肉はあまりなさそうだ。とは言え体格は大概よろしいので恐らく力での勝負は私が仕掛けたなら確実に負ける。

体格差って無情だよね。

「……その者はグレスタンド伯爵と言います。ソラ様、いかがいたしましたか?」

宰相さんがそう教えてくれたので、そうかこいつ若いのに伯爵なのか。ご家庭事情複雑そうだなとか思いながらも掴んだ腕は離さない。

「いかがしたのかは解んないけど、多分重要参考人」

そう答えたならやはり宰相さんは戸惑いながらもそうですか、とだけ言って押し黙った。


「空、鱗付き集合しそうだぜ」

マップを見ながら海がそう言ったならば、唐突に現れたように見えるその存在にやはり一瞬身体を強張らせて驚愕を見せる面々。

「そう。ってことはやっぱこの人か」

こちらが視認されたことにより、鱗付きがこちらを目指して行動を開始したのだろう。

「元凶、なのかどうかは解んねぇけど、少なくとも鱗付きじゃあねぇな?」

海もまた近づいて来て、じろりと男を見遣る。

身長差のせいで下から見上げる形になるのでメンチ切ってるみたいになった。

「ん、で?伯爵様?一体俺等に何の御用で?」

「うちの子誘拐させたのも伯爵様?あなたの仕業でよろしい?」

多分私も半ギレの目付きで見上げている事になっているだろう。

不意に、その口が開けば声ではなく、その唇から黒い靄が湧きだした。

「げ」

「うっそだろ」

ぶわり、と。

それは瞬く間に広がりを見せ、私達を取り込んでその視界を奪っていく。

同時に右目を鋭い痛みが貫き、息が詰まる。

掴んだ腕を離してはならない、その意思でもって手に力を込めた。きっと上等であろうお洋服に皺ができてしまうことだろう。

ぐるぐると周囲を纏わる黒い靄の中、視界を横切るように蠢く影。


『天秤は戻らない』


重く、胃の腑までずしりと来るような声ならぬ声が次いで響いた。

あ、これ龍が喋る奴やん、と。

国王陛下で一度体験しているので状況に理解が追いついた。

だが、あの時とは違って龍の眼インストール済なので物凄く痛い件について。

あと天秤って何ですか。いきなりの新出単語辞めて貰っていいですか。

何度も視界を横切る影は、きっと靄に紛れて周囲をぐるぐると周回しているのだろう。眉間に皺を寄せながらもその姿を視認しようと目を凝らせば、

「……なんだこいつ」

社長じゃねぇのでは……?

思わず低くかすれた声でそいつを見て漏れた声に、海もまたとんでもなく凶悪な面でもって首を傾げて、

「聞いてたんと違ぇ……」

いや、爬虫類系に見えないことはない。

が、表面がもろもろと今にも崩れそうでうまく形作れていない。画像の解像度低すぎてちょっとなぞなぞみたいな有様である。

社長はもっと解像度高かったぞ。少なくともパッと見て龍じゃん?と思うくらいにははっきりとした姿を形作っていた。隻眼であることすら認識できるくらいには処理能力高かったんだが……?


『足掻けど、藻掻けど、天秤は戻らない』


再び周回しているモザイクみたいなソレが零した言葉。動きながら話すもので音が一緒にうわんと移動して気持ち悪い。

酔いそう。

痛いわ酔いそうだわでろくなことがない。

「天秤って何だよ……んなことより痛ぇんだけど……」

それな。掴んだ腕はもはや捕縛の意味ではなく、何かに捕まっていないと膝が折れそうなのでその意が強い。

最近不意に痛めつけられること多くない?そういうの全然望んでないんだけどそこんとこどうなの?


『龍の腕は龍脈に還り、秤を傾け続けるだろう』


解らん。何も解らん。

「説明能力なさすぎじゃね?プレゼン能力低すぎじゃね?」

「龍の世界ではきっとこれで通じるんだよ。終わってんな」

もう目を開けていられない。きつく目を閉じて痛みに震えながらも互いにツッコミだけは忘れない。軽口を叩いていないと色々折れそうだ。


『足掻こうとも、最早、』

そこで、ぷつりとまるで断線したように発言が途切れる。ネット環境悪すぎないだろうか。

右眼が熱い。

かと思えば、強制的にまた魔力が動いて右眼に集約したかと思えば勝手に吸い出されて龍脈にガンガン流される。

「うっわ何だおい急に何だってんだ!」

ホントそれな!

急激な魔力供給で目映いばかりに周囲に光が満ち、魔力の奔流が渦となって周囲を舐めるように蠢く。

キィン、と耳鳴りがしたと思えば、その不快音の向こうで龍の咆哮が聞こえた気がした。


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