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そんなやりとりを横目にこっそりと脇を抜けて階段に差し掛かる。
チラ、と一瞬だけコルドさんが目を向けて来たが親指を立てて行ってきますの意思表示だけしておいた。流れるように視線を移動していたので見えたかどうかは不明。
そそくさと場を後にしてクソ長い階段をえっちらおっちら上がっていく。
目的とする場所はとりあえず、赤い点が集まっている所だろう。
視認して、鱗付きであればどうせあの黒い靄があるだろうし、右目も痛み出すだろうから海と交代しながら加護アタックしていく算段だ。
いやホント、コトが起きる前に魔力修行差し挟んでおいて本当に良かった。
マップを見ながらとことこと歩いていれば、ざわざわとざわめきが巻き起こっている。
御使い様がお姿を見せないのは何故か、だとか。
御使い様に害成す存在がいる、だとか。
神殿は御使い様を認めていないのか、とか。
いや、アポドタキャンしたのは悪いと思うよ?そりゃ。でもその辺の通達はフォルテさんがきっと事情説明込みでやってるから、そう言う意図はないだろう。
単純に鱗付きなだけだと信じたい。
一番手近な書庫まで来れば、やはり第三騎士団の見知った顔と赤点がぎゃーぎゃー騒いでる。最早抜剣しそうな気配すら醸している。
ひとまず近づいて、念の為エリアスタンで相手方の動きを封じてやれば第三の面々が目を丸くしてからあ、そこにいんの?みたいな顔をする。
それに応えを返すこともなく、周囲を見れば黒い靄が渦巻いているので海がひとつ頷き、加護を産むと光が広がり星が産まれる。
きらきらと弾ける光にどよめきが起きるが、それにも反応せずに手元でさらさらとメモを書き殴り、手近にいた騎士さんの胸ポケットにぷすっと差し込む。
カサリと紙の擦れる音がしたならびくと震えて視線を下に向けていて、目が合ったのでしいーと人差し指を口元に当てて内緒にしてねと動作で伝えてから海の元に戻り、では次行くか、と。
ちなみに、書いたのは事情聴取のお願いだ。
どこから、そしていつから意識が奪われたのかを聞いておいて欲しい、と。要望を書いた。
――ところで、翻訳でもって文字を読めるのはいいが、私達の書いた字って読んでもらえるのだろうか……?
もし読めなかったらタチの悪いなぞなぞみたいなことになるよな、これ。
書いた文字にも翻訳機能が仕事してくれるといいなぁ。
速やかにやることをやったのでそそくさと次の現場に向かう。
何か呼び止めたそうにメモを渡した騎士の口元がはく、と動いたが結果呼び止める事なくおさめてくれたので感謝。
騎士寮に戻りたいが、城内を先ずは片付けることが先決だろう。一階と三階に騎士寮塔までの通路があるので上がってもそう遠回りに過ぎることもない。
ざわめきを余所に、いそいそ二階を目指す。
確か二階は執務系のお部屋が多いとか。重要なお仕事はさらに三階での処理になるそうだが、二階は割と官僚の方がうろついているそうだ。
あんまり関係無いから詳しく知らない階でもある。
そして普段寄り付かないからか、この階は集合した赤点は一箇所のみ。三階に続く階段前だ。
もっちゃもっちゃと押し合いへし合いしている様が見てとれる。
やはり神殿騎士の制服と思わしき人々が、第三騎士団と第二騎士団の面々と喧々諤々やっている。
通せ通さんのやり取りだ。
神龍さまの御意志がどうとか言うてるが、うちの社長お前等の鱗頗る嫌いみたいなんだよね、と。
数が多いもので、割と近づくだけでズキズキと右目が嫌がり鈍い痛みを訴えた。
うるせぇな解ってるよ対処するから黙ってろ、と。舌打ちのひとつもしたくなる。
「我等のカイ様にお近付きになど恐れ多いと知れ!」
「こら待て第二!お二人は第三の管轄だ!どさくさに不敬な発言をするな!」
「そうだ!お二人のこぢんまりした食事風景も見たことないくせに!」
「ソラ様は第二で預かるべき!」
「ふざけんな!ついこの間まで胡散臭そうにしてたくせに掌返すの早すぎだろ第二!」
……ええ、と。
この間の加護撒きは確かに視覚効果も凄いよな、とは思ったけど、だな。
お前等の海ではないし、崇めるのはやめろ?
あと私預かられなければならない程子供じゃねぇっつってんだろ。
そして目の前の神殿騎士そっちのけで内輪で口論すな。
混沌としたこの空間に頭痛を覚える。
額を抑えておいおいと呆れていたなら、いっそ無表情になった海がターゲットロックしてのカスタムスタンで赤点を仕留め、急に倒れ込む人々を咄嗟に支えたり一緒に雪崩れたりと尚現場が騒然とした件について。
とは言え、スタンの効果が切れる前に鱗の始末をしなければ、と。再び龍の眼へ魔力を注いで光を生み出せばざわめきと共に微かな歓声も上がる。
――アイドルじゃねぇんだわ。
見えてもいないだろうに、カイ様ソラ様とひそひそするのはやめろ。
赤点が無くなればここもあとは任せてしまって大丈夫だろう。
……が、階段通る隙間がない。由々しい事態だ。
どうしよう、と思っていたら海が手元でさらさらとメモに何かを書きつけて、ピンっと指先で飛ばしたなら階段前の人々の前にひらりとそれが落ちた。
メモ用紙の起点で場所が割れると踏んだか、そそそと移動してから様子を見ればメモ用紙に視線が集中している。
「御遣い様からの御言葉、か?」
ぽつん、と誰かが呟いたなら前列に居た騎士が三人くらいメモに向かって駆け出して、重そうな筋肉のくせに思いの他軽やかな動作で第三の騎士がメモをゲットしている。
「とりました!」
掲げるな。やり遂げたみたいな顔するな。
ビーチフラッグじゃないんだわ。
「よくやった!」
「くっそ負けた……!どんな瞬発力だテメェ」
「何て書いてあるんだ!はよ!」
うーん……何だろうな。普段落ち着いたテンションのお姿しか見てないから、こう……騎士のイメージがガラガラと崩壊していくんだけどこれはよろしいのか……?
いや、騎士さんだって人間だものな。いつだってあんなきちっとしてらんないよね。
掲げたメモを顔の前に持ってきた第三の騎士の手元を覗き込むように第二の騎士もひょっこりと顔を寄せている。
何だかんだで仲良しなのな?結局。
「……大変です」
ごく真面目な顔で、静かにそう呟く第三の騎士に、横の第二の騎士も沈痛な面持ちで顔を反らしたかと思えば目を伏せてそっと目元を抑えている。
「どうした……?何かとんでもないことが書かれているのか……?」
ざわ、と。今度は種類の違うざわめきが場に巻き起こる。ぴりりと緊張感が空気に含まれ、皆が息を飲んだ。
緑色に変化した神殿騎士もまた、神妙な顔で振り返りごくりと喉を鳴らす。
「読めません」
あ、はい。すみません。
やっぱ駄目か。ってことは書庫の騎士さんにも読めないなこれ。日本語だもんねマジごめん。
思わず海と目を合わせて眉を下げる。実に困った。
「神聖文字を読むほどの学は……俺にはありませんでした……!」
っく、とか悔しそうにするな。それ異世界文字だから読めなくて当然だと思うよ。
こっちの文字、翻訳で読めるから一欠片も覚えてないんだよなぁ……どうしようか。
何か、自分なら読めるかもよみたいな顔して神殿騎士がそわそわし始めているが、恐らく可能性は低いだろう。
一応、この場にいる人々は緑アイコンなので視認されても問題はない……のだろうが。
――ちょっとやだな。
熱量が凄くて……ちょっと、引く。
そうかと思えばまた海がメモにさらさらと何かを書きつけて、今一度飛ばしたなら今度は地に落ちる前に第二の騎士さんがそれを空中でキャッチした。
どんな動体視力してんだ……こわぁ。
「あ、道開けろってことみたいですよ」
「え、お前読めるの?」
「いえ、かわいらしい絵を描いてくださいました。額に入れて家宝にすべき一品かと」
「私物化するなよ。国に献上するべきだろう」
そんな会話が成されたと思ったなら、海が両手で顔を覆って首を左右に振ってやめてくれと全身で訴える。
そうだよな……さらさらっと描いた落書きを額に入れたり献上されたり……羞恥で死ねると思う。本気で描いたとしても無理だよな。ド素人のそれをどれだけ後生大事にしようというのか……。
しかしやいのやいのと言いながらも階段の真ん中に通る道が出来ていくあたり、行動は迅速なんだよな……この人達。
移動する人を避けながら開いた道を進んで行けば三階だ。
見えていないだろうに、私達の背中に向かってお気をつけてとかお腹すいてませんかとか声掛けてくるのが何だかなぁ。
大変いい人達なのは解るので、少しばかりテンション抑え目に接して頂けると幸いです。




