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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
63/124

37

城内を二人で、マップ見ながら無音で歩けば割と色んな所で自分達の噂話が耳に飛び込んで来る。

もうすっかり北の王族説は死んでいる模様。

――うむ、ゴシップとは何故にこんなにも爆速で広まるのか。

しかもあらぬ噂まで立っている様子。

曰く、眼帯は御使いとしての御力を封印する為の物。だとか。

曰く、人の形を成すのが苦手であるから子供である。だとか。

曰く、祝福を受けた王族にしかその本当の姿を見せない。だとか。

好き放題である。

馬鹿野郎。生まれてこの方人間だわ。

あと成人してるっつってんだろ。更に言えば正真正銘誤魔化しなしの本当の姿だわ。なんならすっぴんだわクソが。

ツッコミ所満載の城内をひたすらに黙して歩くのは苦痛だった。口元がむずむずする。


何とも言えない心地でもって、祭壇までの階段を降り切れば扉の前に数名の騎士が立っていた。

決して進路を妨げる位置にいるわけでは無いし、なんなら基本的に第三騎士団の面々であったので殿下の采配だろうか。

コルドさんもいる。

恐らく話は通っているのだろうから、気にせずに扉に近づけば、きらりと龍の目となる珠が此方を視認したように動いて、抵抗なく扉が開いて招き入れてくれた。

今回は魔力吸われずに済むらしい。いやぁ、助かるわ。


扉の開く音に、コルドさんが此方の方向を見た。

ただ、方向だけで視線は合わない。

どこか少しズレた視線のまま、軽く礼を取り、そっと口を開いた。

「如何なる存在も、この扉を通すことは致しません。どうぞ、ご無事で」

と。そうとだけ告げてまた扉に背を向けて立つ。

うーん、騎士っぽい感じが普通にかっこいいな。私達もそのうち龍の腕っぽい感じを醸し出してかっこいいムーブできる日が来るかな。

いや、そこを目指すともしかして中二病を再発することになるのか?リスク高えな。やめとこう。

黒歴史を塗り重ねてどうすんだって話である。


見えなくても、扉がこうも反応すればそりゃここにいる事は知れる。

出入りの際のみは、そこに在ることが割れるので確かにどうしたものかと思っていたが、なるほど。

ここに人員配置したのか……いやでも、そんな事したらここに居ますよって言ってるようなものでは?

もしかして他の場所にも人を置いてるのだろうか。だとすれば労力凄いのでは……?

細かい話を切ってゴリ押してしまったこちらの咎だなこれは。殿下がはりきりさんなのをちゃんと考慮すべきだった。

とは言え、それでも二人での行動は勝ちとらなければならなかったのは間違いない。故に、今回はもう余計な気配りはせずに甘んじてこのまま扉の守護者をしていて貰おうと思う。

見えないと解っていて、コルドさん含め騎士さんたちに頭を下げて扉をくぐる。

森の気配が身を包めば、やはり帰ってきたと錯覚するのだから何だかなぁ……。

エネミー表示は相変わらず無いので、割と雑な足取りで祭壇を目指して歩を進める。

ある程度扉から離れたならば、会話も解禁だとばかりに海が口を開いた。

「やべえな俺等。封印の眼帯装備してたなんて知らなかったぜ」

「やべえのはお前だわ。何が封印の眼帯だ。アイテム名付けてんじゃねえわ」

「いや、つい。俺もほら、中二病は治療終わったもんだと思ってたんだけど、くすぐられるわー」

「根治には至らないからな、こればかりは」

今日は眼帯未装備だが、大事にインベントリに入れてある。階段を降りるのに距離感がバグったりでもしたら危険極まりないからな。

「しっかし……俺等の本当の姿ってどんなもんを想定されてんの?」

「爬虫類系……?」

「……ひどい」

東の森のコモドドラゴンみたいなやつでは?又は小鬼系?そもそも小鬼って本来どんな姿だったのだろうか。変容して餓鬼みたいな様であるなら、元はもうちょっとまともな生き物なのだろうか。どちらにせよゴメンだが。

期待をされても困る。ありのままが現状ですん。


迷いなく祭壇までの道のりを行けば、変わらず煌々と輝くその場所。

ふわふわと浮いた出張イエクサが憎らしい。

「……奴に用事があって来たのに、奴を見ると無性にむっかつくわぁ」

奴を眺めながら顰め面で呟けば、物凄く深い頷きが海から返ってきた。

「わかり過ぎてツラい。で、先にテント出す?」

「ここに出したら夜明るくて寝れない……」

「お前そう言うトコ面倒なくらい繊細よな」

「面倒言うな」

夜は暗くないとちゃんと眠れないんだぞ。人間として真っ当な機能なんだぞ。日が沈んだら眠り、日が登れば起きる。元来そう言う生き物なのだから仕方ないではないか。まぁ夜更かしだってするし、お寝坊だってしちゃうけどな。

「まあじゃあテントは後回しで……イエクサ、龍の眼の使用方法を教えて」

と、海がそう問いかけたなら電子音がひとつ。

『はい。龍の眼を鑑定して下さい』

……なん、だと?

帰って来た答えに思わず固まる。

「……そうかー、そんなシンプルな話だったのかー」

思いつきもしなかったなー、空さんうっかりしちゃったなー。

ははは、と乾いた笑いを零しながら海を見たなら、奴も奴で口元がひきつった笑みを浮かべている。

何だか、物凄い徒労感があるのだが気のせいだろうか。

否、きっと気のせいではないな。これ。何なんだよふざけんなよ滅茶苦茶簡単な話だったじゃないか。そうだよな鑑定があったよな。情報という情報を脳内のどっかに焼き付けたようなとんでもない苦しみを伴って習得したこれな。そりゃ龍の眼の情報くらい引っ張り出してこれるだろうよ。

とりあえず、ひとつ深呼吸をして気分を入れ替えることとする。

目的はそもそも一つではない。ならばしょんぼりしている場合でもない。


「イエクサ、スキル画面を表示して」

『スキル画面は表示できません』

……ああ、そう。

「イエクサ、ショッピングを表示して」

『ショッピングは利用できません』

……へぇ、そう。


二連撃で沈められたわ。

「……ドンマイ?」

「うるせぇわ」

ワンチャンできたらいいなと思っただけなのだから別に悔しくねえわ。

「しっかし、出張イエクサ機能制限多めかよ」

「それな。まぁ非常識なことは出先ではできないのかねぇ?」

「いや、存外が非常識なんだから今更じゃね?」

それは確かに。

「まー、となるとスキル関係は電話でどうこう、か。離れててもインストールされるのかねぇ?」

「解らんけど、龍の眼はあっちでもインストールされたし大丈夫なんじゃないの?」

「あ、そうか。そうな」

「となれば、テント張る場所決めようか。夜寝れるとこな」

ちゃんと暗がりになるとこな。

ちなみに、起きて早々に両親には今日電話するかもとはメッセージを送ってあるのできっと応答してくれるだろう。

地味にモバイルバッテリーがそろそろ死にそうなので、太陽光充電器で使い切ったモバイルバッテリーをついでに充電しておこう。この祭壇の明るさならば放置していればなんとかなるだろう。

バッテリー残量死ぬとか恐怖でしか無い。余計な事はなるべくしていないのだが。

コトコトと、祭壇にモバイルバッテリーと充電器を並べてから周囲をぐるりと見渡す。

まぁ、森。

それなりに鬱蒼とした森。

エネミーなし。どうやら薬草の類もなし。ついでに虫とかもなし。

……ここ生物が生きるのに適して無い環境なの?

いやでも、植物も生物だし、植物が受粉するのに虫は不可欠なのでは?訳わからんな。

単純にまだ見ぬ虫がどっかにいるのかも知れないが、恐らくあっちの森と違って普通の奴だろう。虫除けスプレー出しとくか。

木々のサイズ感はあちらの森に比べると普通。そこまで太ましい幹の木では無い。岩盤貫きそうな生命力も感じない。普通。とても普通。

「……前に来た時はあんまり観察する余裕無かったけど、この森普通だねぇ」

「あー?木の太さ?あと密度?」

「うん。普通の地面に普通に生えてる感じも」

「ああ……東とか頭悪いもんな。岩盤貫いてる感じとかな……」

それよ。地下水に直接根を張ってそうな感じとか、マングローブも真っ青だと思う。


まぁそれはそれとして、それなりに密度はあるのでちょっと離れた所ならテント張っても充分に行けるはず。

「そういや、時間経過解んねぇなここ」

イエクサの光源のみだもんねぇ。

いや、ちょっと待てよ。植物も眠るのでは?

「ワンチャン夜になると光源落ちる……?」

「いやぁ……?そんな親切設計あるか?」

懐疑心バリバリに顰め面をして海が首を傾げたなら、あ、と思いついた顔をしてイエクサの方を振り返り、

「イエクサ、森の光は夜になるとどうなる?」

成る程な。もう疑問に思ったなら全部聞いてしまおうスタイルな。

『はい。夜は森の為に明るさが控えめになります』

「おお……親切設計だった」

「俺等にはヘルモードなのに森には優しいんだな?つまり」

「あ、優しさを向ける対象の話か。いや私達にも優しさを分けろクソが」

私達だって生きているんだぞ。

「とは言え、どの程度明るさが落ちるか未知数よな……ここでテント張ってお前が寝れるレベルにまで暗くなるのかは不明。となれば、やっぱちと離れた所にするかー」

「そうな。で、テントの中で鑑定も済ましちゃおうか」

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