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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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34

馬車からひょっこり出てきた海が、また手を振っている。

魔力の消費はそれなりに抑えたのだろうか。元気そうで何よりだ。

マップの赤点が大体緑になっているのでその姿は囲んでいた第二騎士団の面々にも見えていることだろう。

海の方を見ながらざわつく空気に敵意はない。


殿下を筆頭に、騎士達が馬を進める。ぽこぽこと蹄の音が響いて、なんとなく和む。

「この場に居る第二騎士団の面々には追って沙汰を下す。疾く帰城いたせ」

と、鋭い声で殿下が命令を下す声が響いたのに、海が歪になった包囲網の隙間を抜け、軽く駆け足で寄って来てはへらりと笑う。

「顔やべぇって殿下。んな顔して沙汰とか言ったら皆不安になっちまうだろ」

やべぇ顔してたのか。

私の方からは背中しか見えないので殿下がどんな顔で今の言葉を響かせたのかは解らない。

が、きっと怖い顔をしていたのだろうなぁ……。

「龍の関係なら俺等の都合に巻き込んじまったって話になる。でも申し訳ねぇんだけど、これまた俺等も何が起きたか把握できてねぇのが現状だ」

そう言った海が、殿下からこちらに視線を移してくる。

それに対してひとつ頷いて、本当にわけ解らんよねとしみじみ思う。

唐突に痛いのマジでやめろ。そういうの求めてないから。

「うん。私も解ってない。けど、お前を誘拐しようとした何かがいて、あの腐った鱗が手段として用いられたわけだから龍の関係だよねぇ」

「そもそも龍って何体いんの?東西南北で分かれてたりすんの?」

そう言えば一体とは聞いていないな?

答えを期待して殿下を見遣ればすこし困った顔をして、軽く首を傾げて見せられた。

「加護の神龍はこの世にただお一方のみ、とされているが……」

されているだけでもしかしたら他にもいるかもしれない、と。

「そのうちこれも解るのかねぇ……?いつも説明パートがねぇから手探りなの何とかなんねぇかな真面目な話」

「業務形態終わってるよね。現場の判断に任せるにしても現場で何が起こってるのかが把握できないのが一番の問題だわ」

「それな。流石にこの年で誘拐されかけるとか洒落になんねぇわ。ちょっとどきどきしたわ俺。これがときめき?」

「違うな。ときめきじゃないな」

相変わらず馬鹿な発想でおねーちゃんは安心したよ。


「に、しても。お前魔力ほぼ無いの拙くねえ?」

「拙い、と思う。不測の事態にもう対処できないよねぇ、これじゃ」

「どちらにせよ、神殿の訪問は日を改めた方が良いだろう。お二人を龍の御使いと知った上で害を成そうとする者が居ると、解ったのだから」

低く、何かしらの感情を押し殺したような声で殿下がそう告げた言葉に否やはない。

流石にこれだけ魔力が減った上に疲労している状態で、いや行くわとは言えない。

先方には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだが、日を改めるべきだろう。

その意を以て頷けば、海もまた頷いてそうなと呟く。

「実際俺も3割は切ってるし、余裕があるわけじゃねぇのは確かだ。何より、ちと流石に堪えたわ。海くんの繊細なハートは亀裂でいっぱい」

繊細なハートの持ち主は、いの一番に馬車の快適性を語らねぇんだわ。堪えたのは事実だろうが。

「なれば神殿に伝令を」

そう殿下が言えば、フォルテさんが指示と行動を開始する。

有能な副長だよなぁと思いながら眺めていれば、タッカートさんが海を拾って馬上に乗せていた。

御者さんも、馬車ごと回収できたようで何よりだ。

城での乱戦ではやはり負傷者が何名か出たそうだが、重傷者はいないとのことだ。

とは言え、このような事になった以上色々とまた考えなければならないだろう。


人様を巻き込んでどうこう、と言うのは頂けない。

広域にしたままのマップに目を向ければ、赤点はまだ城下に在る。

それが北の王族にむけた赤なのか、それともこの度の騒動に関係する赤なのか……判別できないのが難点だ。

だが、探すべきは街の外の赤点だろう。

外壁を越えた、と言う事は敵は外にいる筈で……と、マップを睨みながらうんうん考えていたならリダルトさんが軽くこちらを覗き込むようにして目を合わせて来た。

かと思えばそっと差し出される飴玉と思わしきおやつ。

「お疲れの時は、甘いものがよろしいかと」

ブレねぇなこの人。

確かに虚空を睨んでぼんやりしているように見えたのかも知れないが、そこでその行動なのかよ。

でも実際疲れたし糖分欲しいからありがたく頂くわ。最近魔力ゴリゴリに削られて疲れる事増えてない?酷い話だ。

「ありがとう」

礼を述べて大粒の飴玉を口に放り込み、口の中で転がす。

大きいのでカロカロと歯に当たって音がして、何だか平和な音色だなとほっくりとした心地になった。

「随分と雨にも当たってしまいましたね。身体が冷えてしまう前に帰城いたしましょう」

ほんのり微笑んだリダルトさんに促されるようにコルドさんが馬首を帰路へと向ける。

「帰城命令も頂きました。とにかく先ずはお二人を安全な場所へ」

タッカートさんもコルドさんの馬に並び、先行するリダルトさんを追う形で進んで行く。

他の騎士さんも、何名かはぞろぞろと着いてくるので事後処理組と帰城組に別れたのだろうか。

タッカートさんの馬上の海と目が合えば、左右で違う瞳を晒したまま少し眉を下げて笑うその顔は少し情けないそれ。

「滅茶苦茶痛かったな。ねーちゃんは大丈夫か?」

「いや普通に痛かった。目玉破裂するかと思ったわ」

「解る。……あの汚ぇ鱗、何なんだろうな?」

「龍の鱗を持ってたら引っ付かなくなるとこまでは解った」

「マジかよ大発見してやがる」

そうだろうそうだろう。有用な情報だろう。褒めろ。

「ただ、森の鱗を嫌がるってことはやっぱあの汚ねぇ鱗は別モンってことか?」

「かもしれないねぇ……森の龍に仇名す存在?的な?」

それと龍の加護が弱っていることの関連性はどうなのだろう。

まぁどちらにしても云百年も掛けてあれこれやっているのだとしたら気の長い連中である。

「今までの腕が天穴に辿り着けなかった理由もそこにあんのかねぇ?」

「どうだろ。業務連絡がないからじゃないの」

「そこに妨害があるとか?」

「だとしたら最初から積んでるよね。マジ運ゲーすぎない?」

「それな。大概運ゲーよな」

まぁそもそも色々鑑みると森を生き抜いたことすら運要素強いしな。

「しっかしどんどん面倒くせぇことになってきたよなぁ……」

「それな。森から出たらもっとこう、イージーなイメージだったんだけど、逆に色々見えてきて面倒が山積してる感じしかしない」

別段こんな面倒なあれこれを求めていたわけじゃない。

ただ、ちょっとお小遣い稼いで森で隠遁生活ができる程度の生活基盤を整えたかっただけなんだけど。ままならない。

世界規模のお話に巻き込まれるとか誰が想像できたというのか。さっぱりだ。一般社会人に求めるには少々ハードルが高すぎるとは思わないのか。

しかも拉致誘拐だと?舐めやがって。

何を目的に誘拐されたのかが解らないのもまた問題だ。

殺害を目的としているなら誘拐なんて手間を掛ける必要はないだろうし……何かしら、龍の御遣いに用事があるという事なのか。

――用事つってもな。

何もできんぞ我々は。御遣いですと言うのすら気恥ずかしくてたまらんと言うのに。

全くこれっぽっちも与えられた立場に心と頭がついてこない。爆速で置き去りにされている現状で、どんどんと矢継ぎ早に事が起こるの本当に何とかしてくれないだろうか。むり。普通にむり。

はぁ、と溜息を零せば湿気た空気に吐息の水蒸気が白く浮かんで霧散した。

しっとりと濡れた服が重いし寒い。

思いついたように後ろに座るコルドさんがマントを被せてくれるもので、ほんのり外気が遮られる。

上を向いたなら、コルドさんの灰色の髪からぽたりと水滴が落ちてきて顔面に被弾した。

「寒そうだったので。違いましたか」

掛けられた声に、へらり笑う。

「うん、寒かった。ありがとうコルドさん」

筋肉あったかいな。最高かよ。

「いいえ。お風邪を召されませんように」

「コルドさんもね」

「俺は鍛えてますのでご心配なく」

脳筋の発想じゃないかなそれ。鍛えてても風邪は引くと思うよ。身体冷やすなよ。

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