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とりあえず、感謝の念を受けるだけ受けてもう疲れたところで、細かな報告を宰相さんから聞くということでディベル殿下と一緒に宰相さんがご退室なさった。それに続き、司教様は早々に神殿本部に渡りをつける為に行動を起こしてくださるという事でレガートさんと一緒に御帰りになった。大変名残惜しそうにちらちら私達を見るもので、とりあえずよろしくお願いしますと握手を交わしておいたが……何かもう。感極まってちょい泣いてたんだけど大丈夫か……宗教こわいね。
そして残った殿下とフォルテさん以下護衛騎士達は、にこにこしながら騎士寮へ私達を連行し、お部屋をじゃーん、してくださった。
要望通り、そこまで広くない、シンプルな部屋を用意して頂けた。私が海と離れるのを嫌がる為にベッドを運び込んで二人部屋にしてくださったとのこと。
ちなみに、殿下のお部屋の向かい。
元々殿下の執務室として使っていた部屋らしいよ。駄目じゃん殿下。どこで執務すんだよオイ。でもまぁ、フォルテさんが手配したのならきっと別に執務室を移動したんだろうけど……うーむ、いいのかこれ。
同じ階に隊長格の部屋があるので安心だな!とか言われたけど、いや、うん。どの道寝る時結界張るから大丈夫だよ……。
あと、お部屋じゃーんのついでに薬草とポーションの御代金を頂戴することができた。
貰ってから、フォルテさんを見れば何か血の気が引いて顔色やや青白くなっていた。で、早く収納にしまったほうがいいと大層丁寧な言葉遣いで言われてしまったので大事にしまったものだが……これがどの程度の価値なのかが解らない、と言えばお金についてのレクチャーをしてくれた。
この世界の通貨単位はレステと言うそうだ。へぇ……。
で、主にコイン型の物となる。
半鉄貨、鉄貨、半銅貨、銅貨、半銀貨、銀貨、半金貨、金貨、白金貨に分かれるとのこと。
それぞれ10進法で増えて行くそうで、半鉄貨10枚で鉄貨1枚みたいな扱いとのこと。
くっそめんどくせぇな……紙幣にしようぜ。
半鉄貨が1レステであるそうだが、基本的に鉄貨は流通していないそうだ。鉄は武防具に使われる事が多く、貨幣として使われているものもここ百年余でほぼ回収されてしまったそうだ。世の中が荒れているのがよく解る。
故に、今現在流通している中で半銅貨が一番下の貨幣であると言って過言ではないそう。
そんな中、貰ったコインは白金貨でしたわ。それも3枚。
白金貨に関しては最大価格のコインなわけで……?ええと……?物凄い額であるということでよろしいか?
ちなみに、一般的なご家庭の一月の生活に必要な額として、4人家族くらいならば銀貨が2枚もあればいいところだそうだ。フォルテさん達隊長格の通常時の月給も半金貨には届かないそうです、よ……?戦時とか危急の案件が発生した時は半金貨いくかな?いかないかな?くらいらしい。そりゃ顔色も悪くなるわ。
貰いすぎである。明らかに貰いすぎである。早々にお返ししようと思ったなら、薬草株ごとだったとか、例のパフォーマンスポーション二つも買い取っただとか、神具の修復の御礼込みであるだとか、そもそもが森で出した分も含まれているだとか、えらい駄々を捏ねて返却を固辞されてしまって結構長い事戦ったが、結局押し負けた。
けれど、この白金貨ってどうやって使うんだよとげんなりしたなら、フォルテさんが殿下に一枚は使えるよう崩して差し上げるべきではとか何とか進言してくれたのでありがたくもずっしりとした質量に変身して帰ってきた。それでも最小金額コインが半銀貨って辺りがロイヤルだなおい。
結果、白金貨2枚がそのままではあるが、1枚崩して貰った事により金貨4枚、半金貨50枚、銀貨50枚、半銀貨500枚……質量えぐい。半銀貨とか50円玉サイズのコインなのだが、これがじゃらじゃらしているわけで……あと金貨とかどこで使うねんと言う話である。ショッピングイエクサにぶち込めますように……と祈るような気持ちでハンカチ敷いたタッパーに海と半分ずつして入れておいた。何枚かはすぐに出せるように小銭入れに移し替えておいたが。まぁどの道インベントリ保管だこんなもの。いきなり大金渡すの何なの。
ちなみに、本当ならもっと用意したかったそうだが、国の情勢的に今はこれで精一杯なので分割払いで……とか言われたけどこれで満額だわバカッタレ。
いやもうこれ以上は受け取らねぇから!と今度はこちらが固辞しておいた。あったりめぇだろ馬鹿者が!普通に街暮らししてたら何年遊んで暮らせるんだよこれ。阿呆なのか。
まぁそれでも、何とか軍資金および森での生活費をゲットできたので当初の目的は完遂した。
次なる目的は神殿関係と、常識の備蓄である。異文化どころか異世界なので、色々学ぶことが多そうだ。
言葉だけでも伝わるのって本当にありがたいよねぇ……まぁこれがなかったら本当にイエクサ叩き壊しているところだったが。コミュニケーションの第一歩である会話が死滅とか無理じゃん?普通に。あっちの都合でこのスキルは最初からインストールされているに違いないのだ。
とりあえず城下の散策は明日以降、護衛の都合をつけてからとなったので、あてがわれた部屋でようやく海と二人になれた。
室内は10畳程の広さがあり、ベッドが壁際に離れて置いてある。真ん中の空いたスペースには小さなソファとローテーブル。実にシンプルで過ごしやすそうである。
窓はそれほど大きく取られていないが、西向きなので夕方には綺麗な空が拝めるだろう。……東側に殿下の部屋があるということは、朝日の直射で起こす作戦を取られているのだろうか。フォルテさんの涙ぐましい努力の気配を感じる。
はー、と溜息を零してソファに向い合せにどっかと腰を下ろしたならばお互い顔面に疲労を張り付けた。心身ともにしんどい。一応夕食時まで休んでいてくれとのことなので、夕食の時間には声を掛けてくれるのだろう。きっと。
ちなみに昼食はお部屋じゃーんの時にランチボックスに詰められたサンドイッチがローテーブルに置いてあったのでありがたく頂いた。
……案の定量が多かったのでやはり一部インベントリに入れたが。
「思ったより大事になってきて驚きを隠せねぇんだけど」
「それな。ニートから突然の躍進、私達にどうせよと」
ごそごそとインベントリからスマホを取り出して、グループトーク画面を開く。
「うわ、すごい文句来てる」
「いやまぁ事前通知なしにガンガンインストールされちまったし予想の範囲内」
親父、畑仕事中にインストール来ちゃったらしい。たい肥に突っ込んだって……マジごめん。あと目が緑なのそっちもなのね。今いる土地関係ないんだ……へぇ。
母さんは母さんで、ポーション作るの一個失敗したとか言ってる。ごめんて。後片づけ大変だったって、そうだろうねぇ……粉末薬草その他もろもろぶちまけることになったそうだ。
「俺等が悪いわけじゃねぇけど、何か申し訳ねぇな……」
それな。
とりあえず謝罪と近況報告を送ってみれば、丁度どちらもスマホを見ていないのか返事がない。
サラリー入ってるのかどうなのか知りたかったのだが……まぁそうだよなぁ。あっちはあっちでやることあるよな。常日頃からスマホ見てないわな。
「うーん……神殿行く時はせめて事前に通知しておく、とかしかできる事ないけどねぇ」
もしかしたらまた何か突発的な何かが発生するかもしれない。そこらへんが全く不透明なので正直どうしようもないのだが。やるべき事は積み上がっていくのにその根幹が解らないこのふんわりとした現状は実にストレスだ。この仕事はこの為にやりますよ的な計画案がない。目の前にあるこれ片付けておいてね、突発的な事態には臨機応変でよろしくねとか……いや、普通に投げ出したいわ。
「日程決まったら連絡しとくのがベターか。いやマジで、何があるか解んねぇから正直現場も混乱しきりよなー」
「常に後出しだもんな。ついていけるわけないっつーの」
ぐだぐだと愚痴を垂れ流しながらソファの背もたれに体重を預けていればうとうとと眠気が降りてくる。寝落ちした時の事を考えて一応結界張るかと思えば、海も同じことを考えたのかローテーブルを中心点にした結界が張られ、二畳の安全地帯が完成した。
緑人口が多いので呼びに来られてもそれほど困ることはないだろう。恐らく。
「……ところでさぁ、これ何で緑で止まるんだと思う?青にならないよね」
「あー……思うに、俺等の認識の問題とかは?」
「というと?」
「ほら、俺等って家族に関しては絶対的に味方だと認識してるだろ」
「うん」
「でもここの人達に関してはどこまで行ってもやっぱほら、他人じゃん?完全に味方だっつって、言い切れるかと聞かれたらそれはちと難しいだろ」
という事は、こちらの認識がこの人は絶対に味方なのだと思えば青に変わるのだろうか。え、こっちが心開いてないだけだよってことか。それはそれで何かすまん。
マップを指先でスワイプしながら拡大したり縮小したりして手遊びにする。
遥か遠く、行ったこともない土地であっても西の地であればマップである程度は地形まで解ってしまうし、どれくらいの人がいるのかも解ってしまう。本当にチート極まりないなこれ。
「……青が増える事があったとしたら、それは私達の認識としてその人は絶対に信頼できると思った時ってことかー」
「でもそれって難しいよなー。仲良くなったところで、それとこれとは別っていうか」
それよなー。大体、相手が一歩引いて敬ってくる時点で何か違うんだよ。それは味方じゃなくて信者っていわない?しかもそれは私達に対する敬意ではなく、私達の後ろに居る龍に対する敬意なんだろ?私が殴りたくて仕方ないあいつよ。
もうね、価値観の相違だわ。どっかで認識変わる出来事があればまた別なんだろうけれど。龍に超感謝する日とか来るんだろうか……どうなんだろう。
「だよねぇ。好意はあれど、信頼となると難しい問題だわ。世界そのものが違うのもネックよな」
「常識の軸がズレてんだもんなぁ。はー……疲れる話だよな。普通に」
「とにかくやることやって早く家帰りたいねぇ」
「でも他の方面も行かなきゃなんねぇんだろ?この感じじゃ。森通らずに行くってことはできねぇのかね」
「あー。外から?どうなんだろ。それも要検証かもねぇ。でもインベントリ内ポーションのストック増やしたいのと、あと魔力向上もしときたいよね次までには」
どのレベルのポーションを必要とされるのかが解らないのもネックだ。行ったはいいが、必要なポーションありませんとか普通にあり得る展開で嫌になる。全種類揃えておく必要があるかもしれない。となれば一度家に帰るのは必須なのだ。
「でもマップ西全開放のおかげで森の中でも接敵相当避けられるよな。どこに居るのか事前に解るのはでかい」
そう言われた言葉にこくり頷いて森にマップのフォーカスを当てる。
「あとは開花する奴と孵化する奴に気を付ければほぼ接敵なしで通れるよねぇ。西だけなら相当楽になりそう」
相変わらず赤い点塗れの森の中。中心にある青い二つの点を認めたならホームシックが加速する。そっと目を閉じて画面を適当にスワイプして森から表示を外してしまう。
「帰る前に西と北なり南なりの境界まで森の淵歩いてみようか」
「まー……森の淵なら人里なさそうだし安全、か?そもそも俺等の帰りってどんな感じに手配されんだろうな」
境目あたりが紛争地帯とは言え、マップ上では森の淵は基本人いないし大丈夫だと思うんだよねぇ。キックボードがここで活躍するのではなかろうか。
「またあの馬車は嫌よなぁ……」
「それな」
まぁでもあの馬車、どっかから借りた的なこと言ってたし、多分また別の方法なんだろうな。となれば、あとはどこらへんまで送ってくれるつもりであるのか。そこ次第で北か南、どちらの境界に行くか決めたらいいか。
森を攻略しなくても行けるなら家帰ってから、西経由で出て来て天穴巡りしたらいいのだろうし。遠回りだろうが安全策を取るのは当然だ。
でもなぁ……なんかなぁ……家から各方向に道ができないとそちらの方角出られませんとか普通に言いそうだよな。このクソ仕様なら。
とは言え、やってみないと解らないのだから今考えても仕方ないだろう。イエクサ専務がちゃんと仕事しないから本当に面倒だ。思わず舌打ちが漏れる。無能な上司はそれだけで罪だと思う。
「ま、今回のこれで相当レベル上がったし、車もバイクもインベントリ保管できるようになったし行動しやすくはなるんじゃない」
「……道がなぁ。俺のバイク、オフロード向かねぇんだよなぁ」
「……チャリ買うか」
「多分それが最強」
舗装道路なんて殆ど無かったもんな……そうよな……。あの馬車が通れれば車は通れる幅はあるとは思うけど……タイヤスタックしそうよな……。サイクルショップ解放しないとな……。
「そもそもこの世界の移動方法って徒歩と馬と馬車と、他何かないの?ほら、不思議魔道具でこう、なんか」
「いや、俺に聞くなよ知らねぇわ。街出た時にでも観察すりゃいんじゃねぇの?」
「まぁそうよな。……魔道具ってどんなのが一般的なんだろうねぇ……そこも学習しないと、何か、私達が持つスキルってイロモノありそう」
「そもそも人間にスキルが備わる事そのものがイロモノなんだろ。手持ちのアクセで誤魔化しちゃいるが、あんま適当なことしてっとバレるよな」
いや、正直ちょっとバレててもおかしくないと思う。
なんか御大層な役職がついているのだし、そういうこともあるよと思って頂けたなら幸いだ。
しかしグループトーク返事ねぇな……空さん悲しくなっちゃうんだが。怒ってんの?おこなの?平身低頭謝るから返事して頂きたい。
それともノックダウンしてるの?不意打ちのインストールで心折れちゃったの?ホントごめんね……。
「あー……ったく、問題しか出てこねぇな」
ぐったりとソファの背もたれに凭れ掛かって愚痴る海の姿に、それなと頷きしか出て来ない。いっそのこと異世界知識とかインストールできないものか……無理か。そんな親切あるわけないわな。チュートリアルすらないんだからな。
しかし、龍の加護とやらは森に集約してからも多少は、龍脈が生きている間はこの世界に影響を与えていたのだろうか。そうでなければ祭壇に神具を置く意味もなければ祝福で王族を繋ぐ必要もないのだろうし。
それに、ディベル殿下が言っていた……龍脈の加護が満ちている、と。
まぁ生まれてこの方枯渇していたのならそりゃ多少注がれただけでも満ちていると感じるのかもしれないが。そこらへんもよく解らんな……そもそも龍社長、結局今どこにいんの?ぼんやりと霧状に姿出すだけとか、オンライン会議じゃねぇんだからさー。
そこも問題なんだよなぁ……御力が弱くなっていった理由も解らないし、例えば天穴を全て龍脈と繋いだとして龍社長はそこから何がしたいと言うのか。
考えても仕方ないことなのだろうとは思う。が、だ。考えることを辞めたらそれはそれで拙い気もする。なるようになぁれーとは行かないだろう流石に。そうは言っても現状は流れに身を任せるしかないところも多々あるのは事実だ。
結構このロルクェストという国に振り回されてるような……逆に振り回している気もするが。でも振り回す気なんてまるで無かったので勝手に許されようと思う。




