24
次の瞬間、感情が爆発した。
腹の底から湧き上がる熱のような感情がぐわっとこみ上げて頭に血が上る感覚がする
「……っ!ふ、ふ、ふざ、ふざっけんなーっ!イエクサぁぁぁぁ!!」
「何でお前がここに在ってえらっそーにアクセス権とか言ってやがる分解すんぞてめぇぇぇ!!」
海も似たようなものなのだろう。揃ってその場で絶叫し、一歩ダンッと踏み出したならなんか後ろの護衛二人がぐいと身体を引き寄せて来て
「ソラ様!何を突然お怒りですか!?お腹がすいたんですか!?」
「お、落ち着いてくださいどうなさったと言うのですカイ様!?」
腹はすいてねぇわ!!食ってから来ただろうが!
『すみません、よく聞こえませんでした』
「死ねーっ!!イエクサおま、お前!業務改善しろやクソがーっ!」
「ノーヒント!ノーヒントは無理に決まってんだろ業務通知しろやぁぁぁ!!」
じたばた暴れながらもイエクサに向かって駆け出して拳を振り上げそうなこの身体を抑え込む筋肉に抗えない。
許さねぇぞこんなところでお待ちしておりました的なことしてんじゃねぇわ!
家で言え!全部!家で言えよ!!
何がアクセス権を一部取得しましただ!そこの条件すら解って無かったんだぞ解ってんのかきっさまーっ!
『どのような業務の改善をお求めですか?』
「全部だよ全部!!業務通知しろや!報告連絡相談は基本だろうがクソがっ」
「サラリーもだサラリー!死ねってか俺等に死ねってか!!色々説明しろやテメェ!」
『株式会社イエクサは、完全出来高制となります。社宅などの福利厚生は充実しております。業務通知はアクセス権がありません』
株式会社なのかよ!?そしてあれ社宅だったのかよぉ!立地条件悪すぎるだろうがっ!
そして一番大事な業務通知にアクセス権がないのが問題だろうが!会社の運営方針から変えてしまえ!!
「イエクサそもそもお前何なんだよ結局!」
『その質問にはアクセス権がありません』
暴れ出したい八つ当たりしたい!
ああああっとか叫び声を上げながらその場で地団駄を踏みながら筋肉に拘束されているこの状況はカオス過ぎないだろうか。
「お、落ち着くのだお二人ともっ!リダルト、タッカート、一度森の中に……!」
成すすべもなく森の中に引き返してイエクサが見えない範囲で、それでもあいつから発せられる強い光が感じられる場所まで拘束されたまま運ばれた。
ふー、ふー、と上がった息をそのままに、恐らく過去最強に凶悪な面構えになっていることだろう私達を見て殿下達がおろおろしている。
「その、だな……私には、先の光の神託と、お二人の会話は聞き取れなかったのだが、それほどに深刻な事が起きているのだろうか……?」
「ちょい待ってくれ、八つ当たりしそうだから時間くれ……!」
「海に同じ……!今駄目暴れそう」
完全に頭に血が上っている。
このままでは駄目だ。
とりあえず、殿下が聞き取れなかったということはイエクサの言葉は龍の言葉と同じく殿下の知らない言語だったのだろう。そして、もしかして自動的に私達はイエクサの言語に合わせられたのだろうか。いや、相当口汚く罵ったので聞き取れていなくて良かった。
頭の血管切れそうだわマジで。
ふつふつと煮えたぎる感情が腹の底で渦巻いている。
こんな遠いところまで来て、急な役職押し付けられたと思ったなら神具の修繕業務が発生し、いそいそ来たならそこにいたのはイエクサだぞ?いや、地味に聖杯みたいなのもあったが。
それ以上にイエクサの存在だ。あいつ何なの?初日からわけが解らなかったが、こんなところに出張イエクサとかあんの?は?
挙句の果てに株式会社イエクサだと?就職活動した覚えもないんだが?こんなブラック企業願い下げなんだが?そもそも株主存在してんの?こんな斜陽の会社の株買うような奴いねぇだろどう考えても。破産一択だろう。
いやそれは良いんだ。どうでもいい。
そんな事よりあいつ、やるべきことをやっぱり知っていたんじゃねぇか。業務通知にアクセス権がないとか言ってないでせめて最初に何かしらの説明をしろや。放置すんなや。
何故私達がこの世界にいるのかとか、私達が何者として喚ばれたのかとか、あるだろそういうの。
あと今回解放されたアクセス権って何なの。一部、じゃ解んねぇんだわ。
「……ちょっと、もう一回行ってくるから離して」
ふー、と長く息を吐き出してリダルトさんに願い出れば、やや困ったように眉を下げて私を見てから殿下を見た。
「ソラ……しかし、」
「今度はアレがあるという心構えの元行くからさっきよりマシなはず」
「その、アレとは……?」
「……言えない。今はまだ」
正直イエクサの正体すら解っていないのだから、言えることはない。だが、まだ話をしなければならないのは間違いない。
「海、落ち着いた?」
「落ち着いたとは世辞にも言えねぇ……が、とりあえずいきなりブチ切れることはねぇと思う」
そうして再び光に向かって歩を進める。引き返した分を今一度歩けば、やはりやたら強い光を放つイエクサが祭壇の上を陣取っている。
深く深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。湧き上がる憤りを数字を数えて紛らわしながら先よりも近づいて行けば、くるくると明滅するそのイエクサのボディ。
「イエクサ、取得したアクセス権について教えて」
そう声を掛ければ、ぽこん、と音がしてイエクサのボディが尚光輝く。
迸る光の渦、その奔流に飲み込まれ、投げ出されたこの身は視界を失いふわりと身体と意識が剥離するような感覚に見舞われた。
うわん、と耳鳴りがする。
まるで水の中に投げ出されたような浮遊感の中、頬を風が撫ぜるような感覚。
瞼を貫く強い光は収まっていたので、そっと目を開けば眼前に広がるのは広い青空。どこまでも抜けるような空と、どこまでも続いていくような広大な大地が遥か下に続いている。
浮遊感ではなく、浮遊していたのか……と全く納得できない状況であるのにも関わらず妙にすとんと納得できた。
視界は流れ、この身が浮遊しながらも移動していることを知る。
村、町、街、森、草原、山、荒野……様々な景色が瞬く間に流れては視界から失せて行った。
そうして、辿り着く大きな大きな森。龍の森、だ。
龍の腕とは、森に喚ばれる存在。
異なる世界より喚ばれることもあれば、同一の世界から喚ばれることもある。
龍の一部として、その意思を読み取り成すべきことを成す存在。
龍脈を整え、龍の御力を循環させる為に存在する。
ある者は、攻撃スキルを多く所持し、その力を揮い守護者に粛清された。
ある者は、震え、怯え、飢えて死んだ。
ある者は、現状に耐えきれずに正気を失い、またある者は私達と同じように森を抜けようとして失敗した。
トライアンドエラーを繰り返しながら、攻撃性の高くない者を。それでも臆病過ぎない者を。精神の強い者を。そして身を守る事を考える者を。
何度も何度も条件を変えて喚び出しては失敗を繰り返してきた。
腕を喚び出すその力を蓄える事すら困難になっていく中、喚び出す周期はだんだんと長くなっていく。
そしてこの度喚び出した龍の腕。
4人の、生き汚く、生存本能が強く、闘争本能は弱い。臆病で、けれど生きることを諦めない我の強さのある程よい具合のオタク。
それが、私達。
――悪口じゃねぇかおい。
息絶えたかつての龍の腕達は、森に還り養分となり森を形成する木々となりその身に宿した龍の加護を森に撒く。
その加護から生まれ出ずるのが、管理者である龍の指先。
――つまり死んでからしか変容はしないということでよろしいか?
けれど、龍の指先もすでに本来の形を失って久しい。新たに生み出された指先達もまた、変容後の姿であるが故に龍の森は混沌とし続けた。
【深淵の森】とは、変容を繰り返し元来の姿を失った龍の森を指す。
これを、あるべき姿に戻す事ができたなら……
……ぷつり、ここで情報が途絶え視界が閉ざされる。
そして唐突に襲い来る頭痛と、倦怠感。
先までの浮遊感は既になく、ずしりと重い肉体の感触に短くは、と息を吐く。
額を抑え、耐えることなくその場に膝を付いてくずおれたなら、耳鳴りの向こうに私と海を呼ぶ声が聞こえた気がした。
ずきずきと痛む頭に、何かしらのインストールが行われたのだと理解する。アクセス権って強制インストールなのかよそういうの先に言っとけつってんだろ馬鹿ったれ……っ!
右目の奥が痛い。じわりと右目だけから涙がぼろぼろと流れ出し、蹲って歯を食いしばる。
隣では海もまた、蹲るまでは行かないまでも膝立ちになり片手で顔の右側を抑えていた。
「……結構重要な部分でこのデータ途切れてねぇ?」
呻き声に近い低い震えたそれで、海がそう言う。
「それな……」
けれど何となく、龍の腕については解った気がした。
まぁ放置プレイが許せんのは変わらんがな……!
そしてこの身が生きている間は変容しないであろう、という事も何となく解った。ほっとしたわ。
一生待ち侘びてろ。




