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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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20

ふに。と遠慮がちに頬をつつかれる感触で意識が浮上した。ふに、ふに、と極々弱い力でつつかれている……何してんだよ、と薄っすら目を開けたなら不思議そうな顔をした殿下が私の頬をつついていた。

「……でんか」

恐らく寝起き一番のとんでもなく目付きの悪い半眼で睨みつけるように見えたのだろう。慌てて手をひっこめた殿下がいや、あの、とか言ってやがる。

「カイが言ったように時間が経ったので、起こそうと思ったのだが……」

普通に声掛けろや。

「あまりに柔らかそうだったので……つい」

お前そういうとこだぞこのド天然が。つい、で人様の頬つついていいもんじゃねぇことくらい解るだろうが。悪気がないのが性質が悪い……はぁ、と溜息を絞り出したなら一度目をきつく閉じて開く。しぱしぱする……寝足りない感覚だ。身体がだるい。

「……そう。起こしてくれてありがと」

身体に力を込めてちゃんとソファに座り直せば、寄りかかっていた海がずるりとこちらに倒れ込んできた。お前は起きてねぇのかよ。

すやすやと気持ちよさそうに寝ている寝顔は実に幸せそうだ。その頭をぺしりと軽い力ではたいても、まるで反応がない。お前熟睡しすぎなんだわ。

「海、起きて。休憩終了」

ぺしぺしとはたいてもきゅ、と眉間に皺が寄るのみで起きる気配がまるでない。殿下の後ろからフォルテさんが覗き込んできたかと思えば目が合う。

「……寝起きが悪いと、大変ですね」

実に、万感の思いが籠った一言だ。思わずこっくりと頷いてしまった。今、何か通じた気がしたよ……フォルテさん。お互い大変だよね。でも海は殿下よりはマシだからね。

「殿下も大概だもんね……フォルテさん苦労するよね……」

「ええ……大概ですからね……」

「ところでフォルテさん、何だってまた言葉がその感じなの。違和感凄いんだけど……」

何かまた敬語モードになっているフォルテさんに、とりあえず文句つけておいたなら困ったように眉を下げられてしまった。

「……誠に森の御遣い様であらせられるお二人に、私ごときがあのように接することはもはや到底叶いません」

「ええ……」

「数々の御無礼を、いかにして、」

「いやちょっと待って」

何か、先程のパフォーマンス効きすぎてる……?

こんな結果を望んだわけでもないのだが……あー、龍の腕なんですね本当に。じゃあ祭壇行きましょうかーくらいの感じでお願いしたいのだが。何でこう、物凄い重々しく受け取られてるのか。違うだろ。そうじゃないだろ。私達の本質は何も変わっていないのだから、態度とか言葉遣いとか改めろなんて全く思っちゃいないんだわ。

大体、ご無礼ってなんだよ。それは職務上必要な事だった筈でしょうが。どちらかと言うとお仕事の範囲内で可能な限り親切にしてくれたよねぇ筋肉さん達。

うーむ、と思わず眉間を抑えてしまう。面倒くさいな……人間関係ってのは。

「ええとね、フォルテさん達にはすごく親切にしてもらったと思ってる。それに、言葉に関してもこちらの要望に合わせてくれたわけで、できればあのままが望ましい。私達は、そりゃまぁ森の人なんだけど、決して偉い人でもなければ尊いなんてもってのほかで……なんか、あれだ。普通の、不審者……?みたいな?」

「普通の、不審者……」

「いや、うん。不審者疑惑が晴れたわけだよね。だから普通の森の一般人?的な」

「普通の森の、一般人……」

「ソラ、普通に考えて森に一般人は棲めないと思うぞ」

フォルテさんが困惑しながらリピート機能を搭載している中、殿下がにこやかにツッコミを入れてくる。そう、これくらいのフランクさでいいんだよ。

「いや、まぁものの例えでね。だって妙に丁寧にされると、なんか……なんだろ。寂しい?ともちょっと違うけど……いやだなって思うから」

多少ぞんざいなくらいで丁度いいのだ。こちとら一般人なのだから。

「……だからまぁ、殿下くらい動じない感じを希望」

「成る程……お望みがそうとあらば、可能な限り善処いたします」

してねぇじゃん。口だけかよ。可及的速やかに対処しろや。


「ところでソラ、祭壇なのだが……大司教殿が管理する魔道具がなければ開けることができないのだ。その大司教殿に至急連絡をやってはいるのだが……」

また魔道具か……鍵にもなるの?魔道具。ホントなんでもありだな。

「どれくらいかかりそうなの?」

「明日の、朝には……誰かしらお越し頂けるかと」

あ、はい。そんな掛かるの。でもきっとこの感じだと最速でそれなんだろうなぁ……。

「解った。もう海も起きそうにないし、明日の朝で大丈夫。となると、宿とか取らなきゃだから申し訳ないんだけど薬草とかの代金って頂けるのかな?それとも庭とかにテント出していい?」

「泊まる部屋は当然用意させて頂く……!確かにカイのテントは快適だったがここにきて野営をなさろうと言うのはどうかと。あと代金についても早急に用意させるので少々お待ち頂きたい」

「あ、そうなんだ……ありがとう」

「いえ。こちらの都合で長らくお待たせして申し訳ないことを……」

少しばかり眉を下げてしょんぼりした殿下に、へらりと笑って見せてひらひらと手を振って構わないとの意思表示を示す。ちょうど寝足りないと思っていたし、この感じだと魔力回復にはもう少々休息が必要だろう。祭壇で何があるか解らないので魔力はできれば充分に保持しておきたいのだ。

そう言えば、こちらの都合とやらのアレだ。宰相さん。どうなったんだ……?ディベル殿下もそうだが、室内に見当たらないのだが。ここに居るのは殿下とフォルテさんくらいだ。気を使ってくれたのだろうか。うーむ、ありがたい。

「朝には祭壇に行けるってことは、宰相さんにご納得頂けたってことでいいのだよね?」

「……お二人には誠に失礼を致しました。あの者の処分につきましては追って、」

「おおおっと待って不穏!凄い不穏!処分って何!?望んでない望んでない全然そんな展開望んでない!発想やばいな!」

身分社会こっわ!急展開すぎて震えるわ。え?いや、え??

きょと、と殿下が目を丸くして見てくるし、フォルテさんも意外そうな顔をしているわけだが……どうしてそうなった。

「いや、あのね。多分だけどあの宰相さん相当有能な方でしょ?」

「……それは、まぁ。頭が固いところが玉に瑕ではあるが……」

「だと思った。で、処分ってことは何かしらのペナルティ与えちゃうの?それは大きな損失につながるんじゃないの?確かに疑われまくったけど、それはそれで必要な事だったと思うのよ。だって私達大概不審人物なわけでね?殿下達が騙されてないか、殿下達に害がないか、それを一番に考えてたんでしょ?あの人」

様々な可能性を考慮して動かなければならない立場でもあるはずだ。で、あれば王族が言うから了解!とかイエスマンでは国が傾くのでは。否定的な人間だって時には必要だと思うんだよねぇ。

「う……む。だが、お二人に対してあまりに無礼を……」

「無礼とかじゃない。アレは職務に忠実だって言うの。褒めこそすれ、咎める事じゃない筈。それに、海だって言ってたでしょ?疑う事が仕事だと解っているって。私達の渾身のパフォーマンスで解って貰えたなら後はもう労いたいレベルだわ」

いやホント。多分ご苦労なさっていることだろう。あの額の広さ。頭皮に日々ストレスを与えているに違いないのだ。

待たされる事に確かに仕方ないとは言え苛々はした。でも相手の立場を慮ることができないほど私も海も子供でもない。だからこそ、これだという証拠を提示したのだから。

何もせずに殿下達が宰相を飛ばして手続きをしたりしたら、あの人立場ねぇじゃんとかとも思ったんだわ。中間管理職って大変だよね……!責めてないで労わってあげてよ真面目に。哀愁漂うおっさんとか涙しか誘わないから……!私そういうの弱いのだわ。

「だから、そんなの望んでないから……って言うかぽっと森から湧いて出た私達がそんな国の中枢の人事に関わる事やらかしたとかストレス過多すぎて死にそう……胃が痛くなるからほんとやめて……」

もうね。この城ついてからストレスしかないんだが。まさか、森が恋しいと思う日が来るなんて思わなかった……息を潜めて生きているあの日々に慣れてしまったのだな……。いや、その事実すらストレスだわ。一度殴らせろ、龍の野郎。

「……それが、ソラの望みなのであれば」

いかにも釈然としない顔で殿下が頷く。渋々と言った様子に、本当だろうなと些か不安なのだが……。

そもそも見方を変えれば国に紅の霊薬を二回分もたらした功労者と言ってもいいのでは?結果論とは言え、かなり国の為になってるじゃないの。出し惜しみしててホントごめんねと言う話でもあるが……。


しかし本当に人がちょっとお昼寝……いや夕方だが……している間に剛速球で話が進んでいた様子。あっぶねぇな。宰相さんには大変申し訳ないことをした。

「そう言えばその宰相さん、どこ行ったの?ディベル殿下もだけど……」

「隣の部屋に控えております」

「あ、そうなの」

「結界を張った時点で、他者が傍にいることを望んでおられないと思い……違ったろうか?」

「あ、いや。うん、お気遣いありがとう」

まぁエネミー表示が近くに寄らないように、とは思ったが。そこまで他者に対して排他的になった覚えもないのだけれどもな。なんせ人様の御宅でお昼寝しようってのだから。

しかし、そうか隣か。……先程の話から想像するに、空気すんごい悪そうだよなぁ。

視線を巡らせれば扉が見える。廊下に続く扉ではなく、恐らくあれが隣室に続く扉なのだろう。私の視線を追ってか、殿下もそちらを見遣り、

「呼びますか?」

と聞いて来たので、ああ、うん。と頷けばフォルテさんが扉に近づきノックをしてからそっと開く。


2、3言の会話をしたかと思えばひょこりとディベル殿下が顔を出し、その後に宰相さんもやけにゆっくりとした動作でこちらの部屋に入ってきた。

うーん、顔色があまりよろしくない。ストレス過多だなあれは。

「ソラ様、先程は宰相が大変な失礼を、」

「ごめんなさい。いやホント」

またしても何かしらの謝罪がディベル殿下から繰り出されそうだったので、もうこれは行儀が悪いとは思うものの遮らせて貰う。

「まさかこんな大事になるなんて思ってなかった。宰相さんは職務を遂行しておられただけだというのは解っているのに、フォローが足りないまま寝落ちしたのは私達の落ち度だ。本当に、申し訳ないと思う」

驚きを顔面に張り付ける面々を前に、ソファから立ち上がり頭を下げる。

「殿下達の為に、国の為に、お仕事をなさっている宰相さんが責められたと言うのなら、それは私達の失態でしかない」

「な……!何をおっしゃいます御遣い様!」

「いや、ノクト殿下と出会って数日の私でも解るもの……きっと苦労なさっているのだろうな、と。殿下人懐っこいし、純粋だし、割とすぐに袂を開いちゃうし、そりゃ宰相さんも通常の3倍は疑い深くなるよね、って」

何かしらの反論か、慌てたように反応を返した宰相さんの言葉を遮ってさらに続けたなら殿下がそんなことは……、とか言ってるが知らん。フォルテさんはうんうんと頷いているから事実だろうがよ。

「なのに、放置して寝落ちして、本当にごめんなさい……私達は決して貴方を責めるつもりも追い詰めるつもりも無かった。ただ、貴方を納得させることを目的として行動を起こしただけに過ぎないので……」

そもそも、無礼と言うならこちらの方だ。こういった場所にそぐわないラフでカジュアルなこの恰好……舐めてんのかとか言われてもおかしくない。せめてもスーツ一式くらいは持ってくるべきだった。大人として、社会人としてTPOに合った服装というものくらいは解るというのに。こんな格好じゃ襟を正すことすらできないではないか。

いやだがしかし、森から出て直行でどっかの国の城とか誰が想像できるというのか。そこら辺の村なり町なり見つけられたらいいなぁ、とふんわりとした希望を抱いていただけなのに……。流石にこれは予想外過ぎるので、許されたいと思う。

「御遣い様……」

「貴方は正しい事をしていた。それくらいの事は私にも解ります。ですから、お謝りにならないで下さい。殿下達も、宰相さんも、決して」

そんな滅茶苦茶本気で謝られても正直居心地も悪いからな。何度も言うがこちとら一般人だからな。なんか妙な役職いきなり押し付けられた一般人だからな。知らない間に所属していたらしい龍社長の会社の運営方針すら解らないからな。ずっとニート気分で森散策してたんだから正直戸惑いも凄いのだ。

なのにそんな物凄い偉い人相手にするみたいな態度取られてどうしようがあるというのか。対応困るわ普通に。

ところでがっつり宰相さんのマップ表示がガンガン緑になったんだが……ええ?こんなんで大丈夫この人……?

と言うか、この部屋緑しかいねぇな……?ディベル殿下もいつの間に緑なのか。そんなにポーション生成って効果覿面なのか……怖ぁ。不用意にしちゃいかんなやっぱ。森に祈る設定続けて出し惜しみしていこう……そうしよう。

「ご慈悲に……なんと、申し上げればよいのか……」

ぐ、と目を伏せ震える声で宰相さんがそう呟く。いや、慈悲とかじゃないんで……そんな感極まったみたいな反応されても困るんですが……。むしろこっちが寝落ちしたこと責めないでくれるのありがとうなんだが。

「とにかく、宰相さんを咎めるのは無しの方向でお願いします。私達としては祭壇に案内して貰えればそれで充分なので」

「……ソラ様が、そのように仰るのであらば。その御心に添うよう、善処いたします」

そっと礼を取り告げてくれるディベル殿下も説得完了であるようだ。もうね、腹の内はどうかは知らんが納得してくれ。空さんがストレスで禿げる前に。

そして海がすやぁっと寝ているのが業腹なんだが。ねーちゃんもう疲れたんだけど。お前本当に一度寝ると起きないよね。逆に感心するわ。

「それで、明日の朝から案内してもらえる予定だと殿下に聞きましたが」

「はい。それが最速となります……お待たせして申し訳ございません」

「ああ、いえ。色々他にも業務があるだろうに、急がせてしまってすみません」


とりあえず、話は纏まった。

となれば、お泊りさせて貰えるということでお部屋にご案内しますとか言われたんだけど、その際海をフォルテさんがまさかのお姫様抱っこで持ち運ぶ流れとなった。うわぁ……写真撮りたい……なんぞこの絵面。やばいな。面白過ぎて腹筋死ぬわ。

ちなみにお部屋は別々に用意されていたが、一緒が良かったので勝手に海の部屋に入り浸ることにした。いや、だってね……?すんごい広いの……全然落ち着かないの……ついでにベッドもキングサイズだか知らないけれどでかすぎるの……庶民にはハードル高すぎると思う。

一応そっとお部屋付きの侍女さんには告げて、殿下への言付けをお願いして置いたのでまぁ大丈夫だろう。

とにかく明日に備えて魔力回復の為に寝るべきだ。ちなみにこのお部屋、お風呂も手洗いもついてるらしい。……すげぇな王城の客間。

これ宿泊費用は経費で落ちますか龍社長。高級ホテルのスウィートルームみたいな部屋なんですが。ビジホじゃないんですが。あと夕飯はお部屋に運んで下さるそうですよ。どこまでも至れり尽くせりで震えるわ……。


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