表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
41/124

15

朝、扉をノックする音で目が覚めた。結構普通に熟睡していたのでもぞりと起き上がれば隣のベッドではまだ海が爆睡している。

カーテン越しの光は隙間から陽光を差し込ませ、今日が晴天であることを伝えてきていた。

コンコン、と再びノックされる音にのそりと緩慢な動作で起き上がり、扉を開いて寝起きの乾いた喉から声を絞り出す

「はぁい……おきましたー……」

掠れた声でもなんとか音にはなったが、眠気をふんだんに含んだそれを聞いた扉の向こうの相手がぐいと扉を3センチほど残して閉めてくる。

なんぞ?と思って隙間を見ればはぁ、と溜息が返ってきた。

「……妹を持つ兄として、忠告しておきます。女性として、寝起きの無防備な姿で異性の前に出てくるのは如何なものかと。この場合、カイ様に出て貰うのが最適でしょう」

朝イチ説教である。驚きだわ。

「……海まだ寝てる」

不満たらたらに反論すれば、今一度溜息が返ってきた。

「起こして、身支度を整えてから出てきてください」

そう言われたならパタンと扉が締められた。今のはコルドさんだな、と寝ぼけた頭で考えながら海を振り返る。扉の向こうではフォルテさんであろう声が殿下を起こす為に割と大きく響いてきていた。殿下……やっぱり寝起きくっそ悪いな。大変だな、と思いながらもすやすや眠る海の肩を揺さぶれば、眉が寄ってうっすらと目が開く。ここで油断してはならない。こいつはここから再び寝るタイプだ。

「朝だって。コルドさんがはよ身支度整えて出て来いやって言ってる」

「……うん……うん……」

「はよ起きろ」

「うん……うん……」

かぶっている布団を引っぺがしてやればきゅ、と小さく丸まって寒そうにしてうぅん、とか何とか言ってやがる。うぅんじゃねぇんだわ。起きろや。


なんとかかんとか起こして、身支度を整えて揃って部屋を出る頃には殿下もなんとか起きているのか一応寝室から出てきていた。ただし、フォルテさんに首根っこあたりを掴まれた状態でふらふらとかろうじて立っている状態だ。目はほぼ閉じている。駄目だなあれは。海はちゃんと自分で歩いているというのに……眠そうではあるが。

出てきた私達を視認したコルドさんが、眉をひそめて寄ってくる。おはようと挨拶したならおはようございますと返事をしてくれて、その手を伸ばしてきたかと思えばもすもすと頭に触れてきて、はぁ、とまた溜息。

「……寝癖くらいなんとかしてくださいよ」

「今からするって。洗面台使っていい?」

「どうぞ。カイ様も、どうしてその短さでそうなるんですか……寝相悪すぎません?」

「いや俺もびっくり。何で跳ねるんだろうな?」

短い髪が縦横無尽に跳ね回っている海の頭ももすもすと触れて不思議そうに首を傾げるコルドさんはきっと頭髪に煩いのだろう。

洗面台まで揃って行き、歯磨き洗顔寝癖直しと最後の身支度を整えたなら、また後方で殿下!とかって大きな声がしていた。まだ起きねぇのかよ殿下。

「今日はお二人とも随分ざっくりとした服装ですね?」

戻ればタッカートさんがそう聞いて来る。森の中をサバイバルするでもなし、そこまで重装備である必要がないと判断したのだが……拙かっただろうか。ニットのざっくりセーターに、オーバーサイズのボアパーカー。下がジーンズであるのは変わりないが、確かにラフではあるだろう。そもそも今日移動だけだろうに、楽な恰好をしていたいと思うのは普通だと思うのだが。

海は海で、タートルのニットセーターに裏ボア付きのジャケットを着ている。

「森散策用の服装は日常ではちょっとしんどいので」

そう素直に言ったなら、なるほど、とか言って頷いていた。

「……大きな上着を着ていると、尚の事小さい子に見えますね」

悪気しか感じない言葉を加えられた件について。

「小さくないわ。周りが大きいだけだわ」

「いえ、でも。あなたも150cmに届くかどうかの少女を見たら小さいな、と思いませんか?」

「……うん、まぁ……思うねぇ……ちっちゃいな、と」

でもそれは少女と言っているのだから普通ではないだろうか。まぁそれくらいなら大体中学生に上がったくらいかな?くらいのまだまだ身長が伸びる年頃の少女を想像する。

「我々が見たあなたはそんな感じです」

「年齢層!年齢層の問題!顔立ちとか肌質とか色々鑑みた時に身長だけで判断することはないと思うの!」

「ははは、ところで朝食の準備が整っていますよ」

笑顔で流されたんだが。いい加減そろそろ怒るからな。

に、してもだ。マップの表示がもう普通に黄色なんだが。一体何があったというのか。妙に気安い感じで話しかけてくるものだ。いや、まぁいいのだが。ギスギスしているよりはずっといいのだが。理由が解らないので少々怖いものがある。

……森では赤しかいなかったからなぁ。全部敵だし全部殺しに掛かってくるし全部逃げるしかなかったから、こう……様々な思考が入り乱れる人間とのコミュニケーションが難しく感じる。好悪の念というものは実に解らん。


解らんなりにまぁ多少は良好な関係になりつつあるという事だと納得しておく。

並べられた朝食はやはり朝だと言うのに随分なボリュームに感じた。メインはクラブハウスサンドと言えばいいのだろうか。こんがりトーストされたパンにたくさんの具が挟まっている。ひとつひとつがやはり割と雑な大きさであったのだが、私と海の分は切り分けられていた。お心遣い感謝である。

カップに注がれた珈琲がえらくいい香りをさせているのだが、そっと添えられたミルクとシュガーポットにやはり子供扱いしてんなコイツ等とひきりとコメカミが引き攣る。しかし、ミルクはありがたく注ぐことにして、小さなスプーンで混ぜておいた。海がブラックのままで飲む様を見て、大丈夫ですかとかなんとか言ってるコルドさんは一体何目線で我々を見ているのか。

それにしても、この人達は本当によく食うな……体格相応なのだろうが、見ているだけでも腹が膨れるレベルだ。ひとくちひとくちも大きい。豪快ではあるが、決して下品ではない。そこも不思議だ。殿下の側近というくらいなのだから、いいとこの坊ちゃん達なのだろうか。

少し垂れ目がちな織部色の目を細めて微笑むタッカートさんが、そっとデザートを皿の横に置いて来る。いや、だから食えないって。この皿食いきるのも難しそうだからどうやってインベントリに入れようかなとか最早考えているところだって。朝からそんな無限に食うとかできないから。何故そんなに食わせたがるのかこの連中。

海は海で、コルドさんと食え、食えない、のやりとりをしていた。

インベントリからタッパーを取り出し、サンドイッチの残りを詰めていたなら海も横から空いたスペースに詰めてくる。おやつの完備が完了した。ちなみに昨晩のパンもおやつ候補だ。どこかでバターか何かで焼いて食おうと思う。どれくらいの賞味期限なのだろうか。まぁ今日明日くらいは持つだろう。多分。

「しかし本当に色々入る収納ですね。どのくらいのサイズがあるんですか」

心底不思議、と言わんばかりに首を傾げながらリダルトさんが問いかけてくるのに対して、さぁ?とこちらも首を傾げた。

重量制なのだから、サイズとか言われてもなぁ……少なくとも森から王城とやらまで行けば800kmにまでなるのならば……ええと?自宅から考えても3,000kgは軽く超えるな……3t以上余裕で入るようになるのか。おお、車入るじゃないの!私の愛車が入るわ!これガソスタ解放しなくっちゃだわ!また帰ったらやることが増えたな。山積していくタスクに頭が追いつかない。端から忘れそうで困る。

「なんか、たくさん……?」

「なんか、たくさん……」

復唱して少し眉を寄せて困ったような顔をさせてしまった。でも、なんかたくさんなのだわ……

「いや、まぁそうなんでしょうが。着替え等もすべて収納しているんでしょう?」

「うん。荷物全部入れてる」

日用品から着替えから野営道具からすべてだ。両手は開けていたい。いつだって。

「森の中にはそんな魔道具が存在しているのが普通なんですか?」

ちら、と目線を向けられたのは右手人差し指につけたただの指輪。少々太いデザインではあるが、残念ながらただのシルバーの安物である。インストーンで引っかからないシンプルなデザインが気に入って購入した代物だ。別に西の国に合わせたわけではないが、嵌っている石はペリドット。意図して緑なんじゃない。本当だ。

「いや、どうなんだろう。解らない……」

そもそも魔道具という存在が森の中にあるのかどうかも解らない。なので嘘はついていない。

そっとタッパーをインベントリに戻しながら曖昧に返事をしたなら、ふむ、と言って目を伏せた。納得はしないが追及もやめておいてやるよ、という姿勢なのだろう。

「ところでお二人とも、明日の昼頃には王城に着くのだが……薬草と、ポーション、どちらも買い取るということは可能だろうか」

ふと、殿下が食事を終えてから問いかけてくる。それに目をやり、ようやくぱっちりと目が覚めた殿下の顔を見たなら真剣な眼差しが突き刺さった。しかし、その頭は寝癖で爆発している。

「……どちらも?それは何故?」

ひとつでは駄目なのか?なんならポーションだけで充分なのではないか?用途が解らないのは少々頂けない。

「薬草で治るか否か、確定ではないから……では駄目だろうか」

「それならポーションだけでいいのではないの?薬草で治ったのならポーションは余るよね?念の為手元に残しておきたいとかそういうこと?」

じ、とその目を見詰めてやれば、少しばかり困ったように眉が下がる。

「……欲深と思われるであろうか」

いや、念の為に唸る程持っている私達の方が余程に欲深いと思うけど。

しかし、だ。霊薬の扱いについても正直解っていない。かつて祝福を受けた者達と、管理者の間にはどのような取り決めがあったのだろうか。ただ単に、困ってるの?いいよーとかそんなことなら霊薬とまで言われる存在になっていなかったのではないだろうか。

とは言え生産数そのものが少ないのなら普通に吐き出していても霊薬扱いされていた可能性もある。

うーむ、悩む。

でもなぁ……なんかあった時にまた殿下が森まで来るのって大変だよなぁ……それこそ次は死んでしまうかもしれない。今回はたまさかに私達と遭遇したから熊さんから助けられたけれど、そもそもあの時私達があれだけ浅いところにいたのは偶然でしかないのだ。勝手に森の養分になられるとか、それは嫌だな……うん。

「……構わないよ。備えあれば、とも言うし。何かあってあの森にまた単騎突貫されるよりはこっちも安心感あるし」

それに、収入が増える分には問題はない。

肯定の意を示したなら、ふにゃりと真剣な顔が緩んでゆるく微笑む殿下は肩の力を抜いたのかこわばりが抜けたように見えた。

「ありがとう……恩に着る」

いいえどういたしまして。とは言え、ポーション一回分を取り分ける入れ物が必要だよなぁ、とふと思う。いつもプリンカップで飲んでいるのだから、小分けにはしていない。丁度良い入れ物とかあっただろうか……うーん。

「でも問題があると今気づいたわ」

「問題……?」

「うん。容器が必要だわ。保存できるやつ。大体180ml程度入る容器」

というか、かつての管理者はどうやってポーションの受け渡しをしていたのだろう。謎ばかりだなぁ……100均解放したらなんとでもなりそうではあるが……そんなところに労力とお金かけるのも何だかなぁ、とも思う。

「速やかに手配いたします」

タッカートさんがそう告げて席を立つ。今から殿下の身支度を済ませ、出発するまでに用意できるのだろうか。そいつは凄い。足早に部屋を辞していくその背中を見送り、街に出るなら私も行きたかったわと思ったが、きっと宿内でなんとかするんだろう。高級宿っぽいし、なんかお土産屋さん的な何かがあるのかもしれない。もしくはキッチンからそれっぽい容器を貰ってくるとか?解らんが、何とかするんだろうきっと。


そうして、出発する頃には本当に何とかしてきたタッカートさんに手渡された容器は、香水瓶にも見えるえらくお洒落なガラス容器だ。サイズ感も申し分ない。これにキュアポーション入れたらきっと映えるな。休憩時間にでも移し替えて、入れたら写真撮っとこう。

礼を言って受け取り、インベントリに収納してから馬車に乗り込む。今回はもうとりあえず手持ちのクッションを人数分ばらまいておいた。どうせ箱冷たいんだから背中にでも差し挟んでろ。無駄に我慢しても良いことないだろうが。

少しの戸惑いを含んだ顔でクッションを受け取った面々は、まぁそれならと背中に回して使うことにした様子。リダルトさんとタッカートさんは割とすんなりと使用する姿勢だった。一日目から使っているので躊躇いがなくて大変よろしい。そしてどうぞ、とばかりに手を広げて膝を開けてくるのではあるが……うーん。休憩の度に行ったやりとりで毎度のことながら、どうぞって言われてはいどうもで座れるものでもないのだが。

「馬車出ちゃいますよ。危ないので早く座ってくださいお二人とも」

と促される。快適性は十分に理解しているし、座面に座って無事に居られる自信はまるでないのでやはり渋々とその膝に腰かけることになるのだが。この微妙な心地をご理解頂きたいものだ。

「……おじゃまします」

「はい。そろそろ慣れて下さい」

「いや慣れないよ人様の膝の上に乗ることに慣れたら大人としてどうかしてるよ……」

きゅ、と腹周りにシートベルトよろしく手が回されて固定されたなら隣でタッカートさんの膝に乗って渋面になっている海と目が合った。そちらもそちらでタッカートさんが半笑いである。

「あれ?今日はカイ様なんかいい匂いしますね」

すん、と海の頭に鼻を寄せてタッカートさんが言う。

「やめて匂い嗅がないでどういうことこの扱い、辛い……っ!」

「昨日の風呂上りからさせてる匂いですよねこれ」

あー、シャンプーの匂いかぁ……なまじ身長が多少あるから丁度頭が顔に被るから嗅がれることになるんだよなぁ……。

と、他人事だと思っていたならすん、と頭の上で鼻のなる音がした。

「……いやそれは駄目でしょ普通に絵面やばいから。犯罪だと思う」

リダルトさんがわざわざ首を傾けてまで人様の頭嗅いでやがった。セクハラじゃねぇかな。

ガタン、と馬車が走り出す。ごとごとと石畳を車輪が叩く音が響いている中、リダルトさんが殊更不思議そうな表情でもって姿勢を戻す。

「そもそも昨日まで全く匂いがしなかったことが不思議なんですよ」

「森で匂いは生死に関わるから」

「匂いが生死に……ですか」

「嗅覚鋭い獣の類とか、虫の類とかに見つかったら死ぬから」

「はぁ……成る程。それで、匂いにも気を使って無臭であったと……」

人間そこまで匂い消せるんですねぇ、と微妙に納得感の薄い顔で頷いていた。スメルレスって魔道具にないのだろうか。……ないんだろうなぁ、この感じだと。

スキルに関しても、一体どこまで一般的で何から非常識なのかが解らないのが難点だな、と思う。大体私の知らないスキルがわんさかありそうなのでそこらへんも学んでいく必要があるのだろう。まったく異文化すぎて困惑しかないわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ