10
気っまずぅ……
走り出した馬車はそりゃもう遠慮もなく地面からの衝撃を尻に直通で伝えてくる。ハッキリ言って物凄く痛い。これを長時間は耐えられない。その上筋肉共の圧力が凄い。余計な真似をしたら縊り殺すぞと言わんばかりだ。しないよ。こちとら非戦闘要員なんだよ。お前ら筋肉と一緒にしないで頂きたい。
「ソラ、カイ、大丈夫か?顔色が優れないが……酔ったのか?」
「……いや、酔ってはいねぇけど……」
「うん……そこは大丈夫なんだけど……」
尻が痛い。
小さな窓から見える景色が爆速で流れているという事は、本当にこの馬モドキは速いのだろう。ただ、その分地面からの衝撃はえぐい。時折ガタンと大きく跳ねては硬い座面に叩きつけられるのだ。
「では如何なさった?」
言えねぇわ。尻が痛くてたまりませんとか。お前等なんで平気なの?そこも筋肉なの?それとも慣れなの?
「……あのさ、殿下。一個許可してくんねぇ?」
「何をだろうか」
海が切り出す言葉に、ことりと首を傾げる殿下。そして周囲の筋肉たちは怪訝そうに眉を顰めて海に注目が集まる。何を言おうとしているんだこの無礼なガキはと言わんばかりだ。
「……クッション出していいか?尻割れそう」
「なんと……それは、気付かずに……ああ、遠慮なく出してくれて構わない」
「マジかありがとう。もう駄目だ俺の尻は限界だ」
ちなみに、殿下から魔道具の話を聞いていたのでそれっぽく指輪とかピアス等のアクセサリーを追加で装備している。とは言え、手袋しているので多分しててもしてなくても見えないけど。安物だし何の文様も刻んでいないものなのでちゃんと見られたら即バレ決定だが、カモフラージュを何もせずにいるよりはいいだろうと一応それっぽく装備してみたのだ。
海に続いて私もインベントリから低反発クッションを取り出して尻に敷く。ちょっとだけマシ……ちょっとだけな。
「あ、殿下らも使う?」
「ああ、いや。気遣いは無用だ」
「そう?大丈夫ならいんだけどよ」
またガタンと跳ねる。ちょっと身体が浮いて沈むこの瞬間が一番キッツイんだよなぁ……
「ソラは小さいからよく跳ねるな。それが辛いのだろうか?」
「いや、小さくないわ普通だわ」
いきなりなんて失敬な事を言うんだ殿下この野郎。お前等筋肉と一緒にするんじゃないわ。これでも160cm近くあるわ舐めんなよ。160にはちょい足りないけどあるんだわ。体積と筋肉の重みが足りないだけだわ。この森に来たての頃なら脂肪のクッションがあったからもっと楽だったはずだわ。
ふと、隣の筋肉がこちらを見下ろす。でけぇんだわお前。最初にすこぶる嫌そうに手を貸してくれた苔色の目の筋肉だ。
「……殿下、よろしければ抱えますが?」
「ああ、それはいいな」
「良くない。まるで良くない。子供じゃないんだわ!」
「だが辛いのだろう?」
「クッション出したし平気だから。本当に勘弁して……」
そのやり取りを見て海がぷすーと笑って私を指さして
「おま、子ども扱いクッソウケる」
「うるせぇわ。身長は私のせいじゃないし別に低くねぇわ」
思わず憮然としてしまう。
「大体お前だってこの兄さんらに比べたら細見だから跳ねてんじゃないの」
「いやそりゃそうだろ無理だろこの厚みおかしいだろ。海くんに何を求めてるのお前」
「いや別に求めてねぇわ。客観的事実を述べているだけだわ」
そこでまたガタンと二人揃って大きく跳ねる。
「……確かにカイも跳ねているな。二人とも軍用馬車には不向きな体格だな」
「いやそりゃそうだろ、俺の服ほっとんど殿下に入らなかったんだぜ?それだけ厚みが違うんだぜ?」
「う……む。そうだな……ところで、この服なのだが……これも買い取らせてもらえるのだろうか?」
「え?気に入ったの?」
「その……着心地がよくて、だな」
マジか殿下。ちょっと恥ずかし気に袖口きゅっと持ってこれほしいなぁみたいな顔しちゃうのか。
「いや、まぁ……いいけど。むしろ殿下の服俺等が森で使っちまったし、買取じゃなくてトレードってことで全然構わねぇよ」
「しかし、そもそもアレはもう服としては使い物にならなくなっていたのだから、それは駄目だろう」
「いやいや、いいよ。そもそもオーバーサイズなんて殆ど着ねぇし。お蔵入りしてるよりは殿下が気に入って着てくれるならそのほうがいい」
確かに。このボアパーカー初めて見るもんな。こいつ基本ジャストサイズの服が好きだもんな。
「……殿下の服を森で使った、というのは?」
不意に、最初の若草色の目の筋肉が声を発する。
そちらに目を向けたなら、やっぱり厳しい表情をしておいでである。
「あー……匂いに敏感な敵がいたんで、丁度血塗れだったから、囮に使った」
これ状況伝わるだろうか。と些か不安に思いながら返答すれば、軽く目を見開き殿下の方を向き直り
「血塗れ?殿下、どこかお怪我を?」
と。あ、そっち。そりゃそうか。今どう見ても元気だもんね殿下。
「ああ、それはソラから貰ったポーションで回復している」
「ポーション?まさか、かの霊薬を……!?」
あ、ややこしい気配。そっと目を逸らしてみたなら真横の筋肉を素通りして海の向こうの金茶の髪の筋肉と目が合った。視線すら逃げ場がねぇのかよ。世知辛い。織部色の深い緑がじっとこちらを見ているではないか。遠近感を利用して目を合わせてくるんじゃないよお前。
「そうだ。だからこそ、この二人には並々ならぬ恩がある」
やめて。ほんとやめて。もっと軽い気持ちで出したのその時のポーションは。普通の物だと思ってたの。私達が悪かったからもうやめて頂きたい……!
その、何を企んでそんなものを持ち出したのか、と言わんばかりの猜疑心たっぷりの目線が辛い。何も企んでないよ。無害な一般人なんだわ。
「……このお二人は北の王族と仰られましたが、どのような経緯で森におられたのです」
「公に出て来られていないことから、ご事情があるのは解るだろう?つまりは、そう言う事だ」
どういうことだ。解らんぞ。そこらへんの設定をちゃんと此方にも教えておいてくれ殿下。
「かの国で、お命の危険があったからこそ、他の者が決して追いかけてはこない森へと退路を見出したのだ」
へぇ……そうなんだ。でも森で死ぬよ普通。それはちょっと無理がないかなぁ……。
「しかし、森で生き抜くには少々……その、」
じろじろと私と海に視線が集まる。頭から足の先まで無遠慮に観察されている。言わんとしていることは解る。つまり、貧弱であると言いたいのだな筋肉諸君。仰る通りだ。
「お二人は戦わぬからな」
「戦わずして森を生き抜くことが可能だと言うのですか」
「そもそも、接敵せぬよう隠密活動を主軸にしておられるようだ」
「……隠密、活動、ですか。それは……なんとも」
あ、暗殺者とかそういうのではないです。目を細めてさも胡散臭いものを見るのはやめて頂きたい。
「そう警戒するな。このお二人には他の命を奪うことはできぬ」
きっぱりとそう言い切る殿下に怪訝そうに眉を寄せる筋肉達。
「と、仰られますと?」
「待って殿下。命を奪う覚悟がないのは本当だけど、まさかと思うけどアレのことを言っているのなら誰だって目の前で生き物真っ二つにされたらああなるでしょ普通」
お前まさか私が吐き戻した話するんじゃねぇだろうな、それはちょっとあんまりだろう。人様の尊厳を踏みにじる行為だろうギルティ!
「戦場でそんなことを言っていたら生き残れないぞ、ソラ」
「戦場とか想定した生き方してないんだわ!」
逆に戦場を想定して生きてんのかよお前等は!ハッキリ言って嫌すぎる。収入得たら森帰るわ!森の奥深くで隠遁生活するわ外も外で物騒ならおうちが一番に決まってる。
「……ああなる、とは?」
「やめて深堀しないで私にだって恥くらいある」
「つまり、人に聞かせられない状態になった、と?」
「それほど酷いものでもなかったぞ。ただ朝食を、」
「殿下!」
お前天然かよ!
「……新兵が戦場から帰ってきて大体起こすアレだ」
「ああ……アレですか」
そして濁した言葉でもきっちり伝わる言い方じゃ意味ないから。お前本当に、本当に覚えてろよ。次にお前にポーション飲ませることがあれば品質落としてやるからな!筋肉さん納得しちゃってるじゃないのばか!あーあみたいな目で見るんじゃないわあっち向け!
あんまりだろう……思わず顔を両手で覆って俯くしかできないではないの。
「……もしかしてと思うんだがよ……殿下って、あんまり女性と関わり持ってねぇの……?」
そっと海が呟くように問いかけたなら、そうだな、と応えが返る。
「私は基本的に軍事関係に特化しているからな……あまり女性と関わるところにはおらぬな。夜会等も堅苦しくてあまり好まない」
あ、脳筋でしたか……そうでしたか……。どこまでも筋肉でしたか……。
「成る程な……でも殿下。一応、これ女だから。もうちょっとだけ、ほんのちょっとだけ気配りしたげて?」
「だが、そなたらの疑いは晴らしておくべきだ」
「うーん。それはまぁそうなんだけど……そうなんだけどな?デリカシーってのが欠如してるんだわ……」
「……それは仕方のないことかと。殿下ですので」
ぼそ、と隣の筋肉が呟く。殿下お前そういう扱いなのか……そうか。
そもそも疑いがどうとか言ってるけど、北の王族って真っ赤な嘘ついたの殿下だからね。どうするつもりなんだわ。
私達は全くこれっぽっちも北の国について知らないし、知ってて精々がリグリスダットという国の名前くらいだ。それだけしか知らないのに王族でっすとか言えるかバカタレ。
「まぁいい。そういう設定で行くのでお前達も合わせるように」
って、一気に覆すのかよお前。
「は?」
筋肉さん目が点になっちゃったじゃないの。
「お二人と森で会遇したのは本当だ。ポーションを分けて頂いたことも……そして、お二人は森に愛されている」
愛されてねぇわ苛まれてるわ。
「お二人は、森の、龍の御遣いであらせられる」
「はいちょっと待った殿下!俺等それ納得してねぇから!違うから!」
「だが、それ以外にどう説明がつくと言うのだ?かの森に棲み、生き抜く存在を。そして森に祈りを捧げ、応えが返るその稀有なるお力を」
「全部駄々洩れかよ!殿下もうちょっと色々考えて!お願いだから海くんもう疲れちゃう!」
「大丈夫だ!ここにいる四人は私の直属だからな!」
「それのどこらへんに大丈夫さを感じたらいいのかも俺には解んねぇの!殿下がピュアすぎて辛い!」
ピュアなんてもんじゃない……何かこう、あれだ。もっと恐ろしいものの片鱗を見た気がするわ……あれ。これうちの母さんと同じ人種?超天然?やべぇ奴じゃねぇか……。
「ごめん、マジごめん、殿下通すと俺等が何かすんごい人間辞めてるみたいになってくるからちょっと直接聞いてお願い!」
「あ、ああ……解りまし、た?」
「そのどういう態度取っていいのか困ってる感じも辛い!いいよタメ口で全然いいよ!俺等ホント大したことないしがない森の一般人だから!」
海が壊れた……辛さに耐えきれなかったんだな……筋肉さんに直接挑むことにしたらしい。お前……流石だな。
「そもそも森の一般人、というのが……その、解らんのだが……?」
「原住民なの!棲んでるの!畑耕して薬草栽培して生きてるの!こないだ畑の芋全滅したの!助けて!」
余計なことまで言わんでよろしい。あと全滅じゃないよ。死んだのはサツマイモ畑だけらしいよ。ジャガイモ生きてるって後からメッセージ来てたよ。畑分けててよかったよね。
「それは……お悔やみ申し上げる……?」
「戸惑われるのも辛い!でもありがとうお悔やみ受け取るわ!」
勢いで乗り切ろうと言う腹かなこれ。
「その、だな。森に棲むということは可能なのか……?」
「それ殿下にも聞かれたわ。家の近辺だけ安全地帯なんで、そこにさえ居れば大丈夫。安全地帯出たら接敵しないように生きるしかない」
「どれくらい深い場所に棲んでいるのかは、聞いてもいいのか?」
「大体一週間くらい隠密活動して出てきたんで、そんくらい深い場所」
「一週間……。森に愛されているとは、どういう意味か聞いても?」
「愛されてねぇよ全然愛されてねぇよ毎日が死と隣り合わせだわ畜生……」
本当にな。森なんてトラウマ生産拠点だわ馬鹿なの。愛なんて欠片も感じないわ。
「もう本当に……俺等だってなぁ、森の奥で隠遁してられるなら出てこねぇよ……でも入用なもんってあるだろ?人間だもの……!地産地消だけじゃどうにもできねぇことだってあるんだ」
「あ、ああ。そう、だな。そう、なのか」
「……海、筋肉さん引いてるよ。ちょっと落ち着いて、ビークールキープクール」
「殿下が爆弾落としまくるから落ち着いてらんねぇよ……森に祈った俺が悪いのかよぉ……っ」
今度は海が顔を両手で覆ってがっくりと項垂れる。そうだね、それは全面的にお前が悪いよ。間違いない。あれで一気に誤解が天元突破したからね。
「……その、筋肉さん、というのは、俺のことか?」
ひく、と頬が少々引き攣って、なんじゃその呼び方は、と言わんばかりの御面相で言われてしまう。
「あ、ごめん。名前知らないから、つい。でも皆筋肉さんだからわかりにくいね、ごめん」
「そうではなく……そうではなくてだな……」
「そうであったな!紹介をしていなかった、申し訳ない」
「あ、殿下はちょっとお静かに。おやつあげようか?」
「あ、うむ。すまぬ。頂こう」
貰うんかい。いいけど。インベントリからクッキーを出して殿下に渡せばさくさくと大人しく食べている。ナッツ入りのクッキーがお好きであると休憩中に学んだ。空さんは学習したのだ。
「ええと、で、お兄さん?達のお名前は聞いていいのかな」
「殿下、毒見もなしに……っ」
「あ、やっぱり普通毒見とかあるのか。殿下割と何でも食べるからそういうのないんだと思ってた」
「何でも、だと……?」
「昨日の夕方前くらいに殿下と遭遇して、そこから夕飯と朝食とおやつと……なんか、割となんでも食べてたんだけど」
「殿下!あなたという方は……っ!日頃からあれほど……っ!」
あー……筋肉さん達も結構殿下に振り回されてるんだなぁ……唐突に説教が始まりそうな予感。なんか、ごめんね殿下。
最初は結構警戒してそうな感じはあったよね。うん。でも夕飯時くらいからもう色々開き直ってたよね殿下。そして今は全くこれっぽっちも私が出すものに躊躇しないよね。大丈夫なのこの人……。
「苦労してるのね……?」
そっと、隣の筋肉さんに向けて呟けば、きゅっと眉根が寄って軽く目を伏せほんのちょっとだけ首を振って
「……いえ、まぁ。はい」
はいって言っちゃうのか。素直な人だな。
結局殿下への説教が始まったので会話は一時中断。
もぐもぐとクッキーを飲み込んでからは少しばかりしゅんっとなった殿下が居たが、まぁ何だ……ちょっと反省したほうがいいと思う。うん。人懐こいのは美徳であるのだろうが、立場を考えるとあまりよろしい事ではない。きっと。
で、その後お名前を聞くこともできた。
最初に殿下に声を掛けてきたミルクティ色の髪の筋肉さんはフォルテさんと言うそうだ。厳めしい面構えのおっさん。いや、おじ様?男感凄い。太い眉が意思の強さと真面目感を醸し出しているむくつけき筋肉。
そして私のお隣にいるこげ茶の髪に苔色の目の筋肉さんがリダルトさん。海の向こうにいるのが金茶の髪に織部色の目のタッカートさん。タッカートさんはやや垂れ目気味の目をしている。年の頃は多分リダルトさんとそう変わらないのではないだろうか。青年なのか壮年なのかよく解らない感じがしている。
そしてここにきて一度も一言も発していないしこちらに対して何のアクションも起こしていない、驚くべき存在感のなさを誇る殿下のお隣、フォルテさんの逆側に座しているコルドさん。ちなみにコルドさんだけ髪の色が灰色でテイストが少々異なる。灰色の髪に金春色の目。そう、目の色も緑よりは青に近い。あと四人の中では一番若そう?多分。とは言え普通に20~30の間くらいだとは思うが……。面差しが少しばかり綺麗目なのか、それとも中性的なのか……そんな感じの人だ。
総じてめっちゃくちゃ男前!とか美形!とか言うことはない。でも普通と言うには少しばかり整っている……?のか?私の美的感覚はあまりあてにならないので言い切れない。元々私おっさん好きだからな……アイドル系より渋い系が好きなんだよ……そんな私に男性の美醜がまともに解るわけないよな。うん。
ちなみに、殿下一応国の軍部で第三騎士団の団長やってるらしい。この四人はその側近とのこと。フォルテさんが副長さんだそうだが、大体殿下のフォロー役なんだろうな、と一連のやりとりでお察し申し上げることができた。
いやぁ、大変だろうなぁ。想像以上に殿下天然だったわ。驚いたわ。
一人で私達と相対している時は殿下なりに気を張って警戒してたんだろうな。でも側近さん達と合流して物凄いリラックスしちゃったんだろうな……底抜けに天然だわ。
そしてそうこうしている内にマップのダウンロードが終わったのか、家を中心にしたマップが広がっていた。アレだけ必死になって踏破した森の線が想像よりも短い。辛い。いやまぁ、森の外の世界がそれだけ大きいという事なのだろうけれども。そしてぐいぐい一直線に線が引かれている。これきっと家ではガンガンレベルアップのアナウンス流れてるんだろうな、と思う。煩そうだ。それはもう煩そうだ。
そして移動しているこの青い点二つと緑の点一つと、あと大体オレンジ。しかもオレンジも赤みの強いオレンジだ。うーむ、真っ赤でないだけマシなのか……。一個だけ赤みが少し引いたオレンジがある。黄色に寄って来ている点。でも密集しすぎて誰がどれやら解らない。
それにしてもこの軍馬……でいいのか。この謎の馬みたいな生き物、休憩しなくて大丈夫なのだろうか。かなりのペースでぶっ飛ばしているように思えるのだが……普通の馬ならもう潰れていると思う。精霊種とか言ってたので普通の馬ではないのだろうが、それにしても体力無尽蔵である。殿下と一緒か。脳筋は脳筋を呼ぶのか。
もう尻どころか腰まで痛いわ。そのうち背骨も痛くなるんじゃないのこれ。軍用馬車とか言ってたけどもうちょっと中にいる人労わってあげてほしいものだ。せめて座面にクッション敷き詰めるとか、緩衝材的なものをだな。
「ええと、それで……フォルテさん?さま?」
「……呼び捨てで構わない」
「いやそれはちょっと……」
流石に初対面の年上に対していきなり呼び捨てとかフランクすぎやしないだろうか。
「いや、どの道殿下の設定で行くのならばあなた方は北の王族という事になる。となれば、我々に対して丁寧に言葉を繰る必要はない……逆に、我々が言葉を改めるべきでしょう」
「ええ……それもちょっと……。私達ただの森の一般人なので」
「ですが、殿下の仰るように誠にあなた方が森の御遣いであらせられるなら、我々ごときがお言葉を賜る事すら恐れ多いことです」
「いやそれは本当に誤解なので。そもそも私達森の事何も知らないし……」
「ならば、森に祈りを捧げ、その御力を頂くことができるというのは?」
「それは誠であるぞ!私はこの目でしかと見たのだ。カイの祈りを目の当たりにして、私は心が震えた!」
殿下シャラップ。ややこしいわ。
「あ、うん。確かに俺はあの時祈ったけど、そこまで大袈裟に表現するこっちゃねぇというか……な?」
「何を言う。あの祈りこそが、そなたらが森の子であると確信に至った全てであるというのに」
あ、そこで確信しちゃったんだ……やっぱそうなんだ。
「……うーん、結局森って何なんだ?聖域ってどういう事なんだ?龍って何?俺等それすら解んねぇのに、御遣いとか言われても困るんだけど」
「それな。何も知らないまま、ただ何とかかんとか森で生き抜いて、ようやく今日外に出る事が出来ただけに過ぎなくて……私達ですら、自分が何者であるのかそれすら解っていない現状なのだし……」
そう、結局そこに戻る。人間辞めてそうな気配は少しずつ感じているが……
「そうか……そうであったな。聖域について、森について……帰還にも時間が掛かることだ、話をしておこうか」




