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翌朝は割と大変だった。
何がって、殿下が。
結界解除一時間前に設定しておいたアラームで起きたなら海に声を掛け、その海が殿下の様子を見に行ってからなんか向こうのテントから「起きろ!起きて!結界きれちゃうから!」とか「朝飯食わねぇと元気でねぇから起きるんだ殿下!」とか「二度寝の誘惑に負けるな!殿下!アンタの使命を忘れちゃいかんだろ!」とか、何か聞こえてくるのよ。
ぐっすりかよ。
何なら二度寝の誘惑に堕ちそうなのかよ。
お前警戒心とかどこに捨ててきた。どうなってんだ。何故そこまでぐっすりしちゃったんだ。いや、疲れてたんだろう。それは解る。解るけどな?お前すぐそこに初対面の赤の他人いるでよ?王族がそんなので大丈夫なの?
いや、まぁ噂の筋肉があれば大丈夫なのかもしれないけどな?こちとら存在認識させないレベルで隠密しちゃえる系の人間なんだわ。結構危険人物だと思わん?どうなん?
こちらのテントをそのままインベントリにぶち込んで、テーブルやら椅子やら用意して朝食の準備しつつも聞こえてくる海の声は悲壮感がすごい。
「起きなさい殿下!今日は森の外に行くって言ったでしょ!」
オカンかお前。
そしてどんだけ寝汚いの殿下。海も相当寝汚いタイプではあるが、森の中ではちゃんと起きてくれるぞ?家では起こしても起こしても返事した後にすやぁとまたお眠りやがるので苛ぁとすることが多々あったそんな海でも起きてくるんだぞ?
「おふとん放しなさい!抱き締めない!」
抱き締めてんのか。そうか。
湯を沸かしてカップスープを作り、大きなクルトンを入れておく。パンは賞味期限的な事情から持ち歩けないが、クルトンなら何とか日持ちするので割と便利なのである。カップラーメンばっか食ってらんねぇんだわ。胃もたれするわ。流石に朝から飯盒炊飯なんてのもちょいと無理なので、今日はこれが主食。あとついでに栄養バランス食品のゼリー飲料な。……これパッケージ拙いよなぁ……器に捻りだしておこう。あまり見栄えしないのはご愛嬌よな。
コーヒーも淹れて、準備ができた頃にのろのろと寝癖ぼっさぼさの殿下がテントから出てきたのが見えた。もうね、寝起き悪い大学生そのものの姿じゃねぇか。一応ボアパーカーは肩に掛けているものの、袖は通していない。寒くないのだろうか。長袖のシャツに割とくっきり筋肉のシルエットが見えている……えっぐ。何あの胸筋怖ぁ……。
ちなみに剣は片手に引きずるようにして持って出てきた。装備しろや。油断しすぎだろお前。
「おはよう」
「ああ……おはよう……うん、おはよう……」
あ、駄目だこれまだ半分以上寝てるわ。海がテントを収納している間にちまちまと此方へ近づいて来たので挨拶をしたものだが、目がしょぼしょぼしている。眠い、と顔面が語っている。
「……久方ぶりにゆっくり眠れた」
「あ、うん。それは良かった」
ゆっくりしすぎである。
「実に快適だった……」
はぁ、と満足そうな吐息を零しながらまだうつらうつらと頭が揺れているのを、片づけが終わった海が後ろから近づいて腕を掴んで椅子に誘導する。介護か。
「いや、快適だったのも良かったけどよ。よくそこまで熟睡できるな……」
はぁ、とこちらは呆れの溜息を零しながら海が言う。最初こそお前も熟睡できてなかったけど、最近はアラームで起きないくらいには熟睡してるじゃないの。そんなお前がどうこう言うのかって話だ。
「結界解除まであんまり時間ないからとりあえず朝食、んで食べながら殿下ちゃんと目を覚ましておいて」
そう言って朝食を食べつつ殿下を観察すれば、なんかちょっと顔色が良くなってた。いや何よりである。あと昨日はうっすらと目の下に隈があったのが無くなっている。実に満足そうにスープ飲んでるんだけど……大丈夫かコイツ。
マップをちょっと確認したが、黄緑なのは変わらない。警戒心が無くなっているわけではない、という事なのだろう。それにしてはあまりに無防備なのでは?
「温かい食事が朝から食べられるというのは、こんなにも満たされることなのだな……」
ほっこり、じゃねぇんだわ。
まだ森の中だからね?そこんとこ解ってる?ここ決して安全地帯じゃないからね?
いやまぁ……どの道森の外に出るまでは行動を共にするなら、丁度いいし利用してやるか!ってなったのなら良いんだが……うーん、こんなにも普通に警戒してませんよと全身全霊で語られると、このマップの黄緑がなぁ……解らん。これが演技なのだとしたら主演男優賞モノではなかろうか。
それでも言及するのは憚られるので、朝食を終えて殿下に洗顔等朝支度を促しながら結界内を片付けて行けばそろそろ結界が解除される時間となった。
この頃になってようやく殿下も腰に剣を佩いて、パーカーにもきっちり袖を通して目もぱっちり状態まで覚醒したのだ。寝起き悪すぎぃ……絶対一人で野営とかしたら死ぬタイプじゃないの。あ、だからか。だから久方ぶりにゆっくり、なのか。ここ三日は殆ど寝てないのか。そりゃしんどいわ。
「準備はいいな?」
海が真剣な顔でそう告げる。
「おけ」
「ああ、大丈夫だ」
それに返事をして、隠密仕様に仕上がった私と海、そして何となく頑張って静かにしてます的な殿下の周囲の結界が消え失せる。
マップ上には見える範囲に赤い点はない。
そっと足を踏み出す。陣形は昨日と同じ。私が先頭だ。
さく、と足元に生えた草が殿下の足元で小さく音を立てる。この程度の音ですら気になってしまうのは臆病だろうか。ピリピリとした緊張を孕んだ時間が今日も始まる。
本日は晴天。何よりだ。
空気はからりと乾いているし、吹く風は冷たい。冬の張り詰めた空気が肺を満たし、知らず背筋が伸びる。
家の周辺に比べれば出てくる連中は割と常識的な範囲の敵さんなのでそこは救いだが、結局見つかったら危険なのは変わらない。熊さんの一撃なんて喰らったら間違いなく重症又は死亡である。猪さんの突進とかも駄目。複雑骨折待ったなし。
虫の類も勘弁してください。この辺の虫は人の頭大のでかいバッタみたいなのがいる。キック力半端なさそう。時々びょんって跳んでるのを見かけていたが、地面ちょっとえぐってんの。何それおかしくない?体積に対してその威力。当然総じて肉食であらせられるご様子。
そんなものが闊歩している森の中を、殿下を引き連れて歩くこの緊張感。マップ上では割ともうすぐそこである森の外。でもこれがまぁ長いんだよなぁ……
時折見つかる赤い点から殿下を死角に誘導しつつ、抜き足差し足でこそこそ歩く。
けれど、やはり匂い……だろうか。殿下、血の匂いこそ無くなったがリンスインシャンプーのフローラルな香りをさせてるもんなぁ……
ちょいちょい虫が近づいている気配がしている。マップの端に出たり消えたり……何なら後ろから赤い点がそろりそろりと距離を詰めてきている。うーむ……どうしたものか。
ちら、と海を見遣れば解っているとばかりに頷きが返る。そうして、取り出したパチンコで、そこらへんの小石を拾ったかと思えば昨日の殿下の血がしみ込んだ布を巻きつけて後方に吹っ飛ばした。
……これで多少誤魔化せたならいいのだが。ぞろりと赤い点が一点を目指して動いているという事はまぁ、一応引き付けてはいるのだろう。問題は……前方からもちょっと赤い点がそちらに向かって進んできていることか。
一応殿下をまたその点の死角になる場所に移動させ、何者が来るのかをじっと目を眇めて観察したならごそりと低木を掻き分け虫が現れる。やっぱコイツ匂いにかなり敏感だなと思う。いや、もしかしたら同じ虫同士で何かしらのネットワークがあるのかもしれないけど。ちょっと奥さん聞いたかしら、あっちから美味しそうな匂いがするんですって!みたいな。
しかして現れたその虫は首を振りながらも匂いの元を探っているのか、クキクキと硬い動きであっちをみたりこっちを見たり。
そうして、こちらに顔を向けた時に、姿勢が低くなり……その時点でスタンを叩き込む。
多分フローラルな殿下を捕捉されたわ。殿下が隠れた木に向かってこれびょんってくる奴だわ。
インベントリからまた殿下の服の残骸を取り出してそっとその場に置き、少し足を速めて逃げることにする。
なるべく遠くへ、速く。逃げなければ。
虫が集まると始末に終えない。あいつら数が厄介なんだよなぁ……。
さくさく歩けばやはり殿下の足音が多少大きくなる。あちらを立てればこちらが立たず……悩ましい問題だ。マップ上には赤い点の集まりが二か所出来上がっている。これが此方に一気に来たなら相当やばい絵面になる。でかいイナゴみたいな……?駄目だ鳥肌立ったわ。
と、意識を虫に持って行っているこのタイミングでガサガサと大きな音を立ててマップの端に現れたるは、猪さんです。猪突猛進であらっしゃるご様子で視認した次の瞬間にはもうだいぶ接敵してます、はいスタン。
走るべきか?
殿下がいるのだ、歩いては逃げられないだろう。
突進してきた勢いのまま慣性に従って滑り込むようにその痙攣し、麻痺した身体が吹っ飛んでくるのを何とか躱したならば、ぐいと腕を引かれて後ろにほぼ倒れ込むように持って行かれた。
「――っ!?」
あっぶねぇだろ!と言いたくなったが飲み込んで、ドンと背中が硬いものに当たる感覚に息が詰まる。そうしたなら先程いた場所に虫が吹っ飛んできていた。嘘だろびょんってされてたのかよ猪に気を取られ過ぎたわ。私の後ろの殿下狙いの飛びつきだったのだろうが、殿下がうまいこと避けながら引っ張てくれた模様。背中が当たったくっそ硬いブツは殿下の筋肉だった。嘘だろ壁じゃん。でも助けてくれたという事で、後で礼を言おう。
飛んできていた虫も着地なんて華麗なことはせずにそのまま弧を描いて地面に落ちる。海がスタンをしたのだろう。
「走るぞ!」
海が声を上げたのを皮切りに、一気に駆け出す。
こうなったなら音を気にせずにとにかく一直線に西に向かって走り出す。この三人の中で私の足が一番短い。背が一番低いのだから仕方ないのだ。お前等とコンパス違うんで!おいて行かないでねいやマジで。
マップ上の先まで集まっていた赤い点がぞろりと移動を開始している。勿論、こちらへ。
めっちゃ来てるめっちゃ来てるやばいやつこれ。一度結界で凌ぐべきか?でも時間を取られ過ぎるのは。まだ歩き出してから小一時間も経っていないのだが。いやでも命大事にだわ。やっぱ殿下連れてんのキッツイわ。走りながらぐるぐると思考が上滑りをする。森から出たい。でもこんな所で欲をかいて死にたくはない。
全力で走っていてもじわじわと距離が詰まるのが見える。
「どうするのだ!?こういう時は!」
「結界張って逃げるか気合で逃げるかの二択!」
「おねーちゃん結界推奨しまっす!ただしもうちょっとは追いつかれないからその分は走りきろう!」
「さんせ……って駄目だ前方接敵するっ!空!」
弾丸じゃねぇか!接敵を認識した瞬間にはもう目の前に虫がいるとか結界一択だわ馬鹿ったれ!マップ外から吹っ飛んでくるんじゃない!卑怯だろうが!
そうして、結界を展開したのが先か、まさかの殿下の腰に下げた刃物が陽光を弾き一閃したのが先か。
「……は、マジか」
足を止め、結界の中で肩で息をしながら、虫の残骸を見下ろす。真っ二つである。人様の顔のすぐ目の前で真っ二つである。
「うわぁ……おま、うわぁ……」
当然虫の体液がぶわーって。びちゃーって……降りかかるわけで。
「……す、すまぬっ、咄嗟に……っ!」
頭からびったびたである。何ならちょっと多分これ内蔵的なものまでぶちまけられている。
いや、よかれと思ってしたことなのは解る。助けようとしてくれたのだろう。解るよ。善意だ。これは善意。ありがとう殿下。うん。ありがとう。
「……ぅ……ぐ」
でも、朝食戻ってきたわ。
口元を手で抑えて身を前へ折る。胃が痙攣したようにびくびくと動いて食道を逆流してくる何かが喉を突く。
よろりとその場で膝を付き、虫の残骸のすぐそばに身を屈めてまさかの人前での嘔吐である。
いや普通に無理だわ耐えられんわ。
唐突にキチキチ言いながら牙を蠢かせたバッタみたいなでかい面が吹っ飛んできたと思ったら断面見えるレベルで真っ二つになり、その中身を顔と言わず頭と言わずひっかぶるんだぞ。なんならちょっと口に何か入ったわ。その時点でもうリバース決定だわ馬鹿なの?かつてない不幸な出来事がここにはあった。
「いや、そうなるわな」
海が目の前に落ちている虫の死骸を消し去り、私の背をさする。掌の動く感触に今一度胃が痙攣して中身をぶちまけることとなったが幾分すっきりした。
「殿下ちょっと悪ぃんだけど向こう向いててやって。曲がりなりにも成人女性がこんな様、流石に見られたくないだろうから」
「あ、ああ。そうだな、すまない」
テメェ昨日から曲がりなりにもってどういうことだ。と思ったものの、そっと目の前に差し出される水入りマグとプリンカップに何事かと涙で滲んだ視線を向けたら耳元に寄って来てごくごく小さな声で囁きを零す。
「この虫毒持ちだったみてぇよ」
鑑定したのか。そうか。見ればプリンカップの中身はキュアポーションで、ミドルだ。つまり、殿下に売れたら嬉しいな、の代物だ。こんなにも普通に使っているのを見られるのもあまりよろしくはない、との判断で向こうむいてて、という事か。一つ頷き口を水でゆすいでからポーションカップを干し、目を閉じて地面に手を着いたままスキルで水を生み出しひっかぶる。体液関係洗い流しておくべきだ。うへぇ、冷たい。あ、しまった。スヌード濡れたわ腹立たしい。いや、どうせ虫の体液やらなにやらで汚れていたし濡れていたのではあるが。
何度か水をかぶってそれらを洗い流したらインベントリにスヌードを収納する。首すーすーするわ寒いっての。そうしたなら海がタオルをばさりと頭にかぶせてきたのでありがたく水気を拭う。
「普通にトラウマだわこれ」
吐き出したブツにバニッシュを掛けて消し去り、無かったことにする。
「見てるだけで俺も心にダメージ受けたわ……」
そんな事を言いながらこれ海くんの予備ネックウォーマーとか言って手渡してくれる。ありがたく使わせて貰う事としよう。しかしお前ほんと色々卒なく持ってんな。
「殿下もういいぜー、気遣いありがと」
「ああ……いや、すまなかった。その、大丈夫だろうか?」
「あー、いやありがとうね。助けようとしてくれたんだよね。さっきも助けてくれたし」
へらり笑って手をひらひらさせて大丈夫だと仕草で伝える。大変申し訳ない、と眉を八の字にしている殿下が少ししょんぼりしていた。
「助けに、なっていれば良かったのだが……」
「いや助かったよホント。特に一回目は普通に気付いて無かったから結界間に合わなかっただろうし」
二回目は結界で弾きだせたとは思うが。それでもまぁ、助けようとしてくれたその気持ちがありがたいよねぇ。結果がえぐいだけで。
「しっかし虫、かなり集まってきたよなぁ……どうする?」
エリアスタンか、少しばかり結界繋いで移動して逃げてしまうか。悩むところだ。
「その……だな。この虫型の敵ならば、私も散々相手にしてきたので何とかなる、と思うのだ」
おず、と殿下がそう告げる言葉にうん?と海と揃って首を傾げる。
「私が先行して、虫型を払いながら進むと言うのはどう、だろうか」
「あー……それってつまり俺等が殿下の後を追いかける形になるってこと?」
「うむ」
「危なくない?それ」
確かに私達は見つからないよう移動できる。となると、集まる敵は全て殿下に群がることになるだろう。それはかなり危険度が高いと思うのだが……
「そなたらに会うまでは一人で凌いできた。それなりには腕は立つつもりだ」
それに、と続く言葉
「それに、魔道具の魔力を満たしてくれただろう?」
と。そう告げる殿下の目には何かしらの決意が漲っているように思えた。ずっと庇われているつもりはない、と。これあれかな。男の子の意地的な?プライドとかそういうアレか。
「うーん……そう言われちゃそうなんだろうけどなぁ……」
渋面を浮かべて海が唸る。そうよなぁ……諸手を上げて賛成とはちょっと言えないよなぁ……危ないよなぁ。
「だが、他に良い手はあるだろうか。現状、私がそなたらの枷となっているのは明白だろう」
「だからと言って危険だと解ってる事をさせられるか、っつーとそれはそれで話が違うだろ」
「なに、私とて死ぬ気はない。それに、危険となればそれこそ結界の魔道具もあるのだ。三度とは言え、使える。危険を感じたなら作動させると約束しよう」
だから、やらせてくれと言われてしまうと頑なに否定するのもどうなのか。
でもなぁ……
「でも殿下、方向解るの?」
これだ。三日もこの辺右往左往してたんだぞこいつ。隠密活動中、私達は声を掛けることができない。となると、どうやって方向を逸れた時に伝えるというのか。
「う……それを言われると、自信はないが……」
そうだろうな。
まぁ逸れたと思ったなら走って近づいてエリアスタンして修正すればいいのだが……あまりこちらの手札を多く見せるのもなぁ……と思う。
結界とインベントリ、バニッシュ。それからスタンはもう見せた。クリエイトシリーズも水と火は見せた。隠密活動スキルも見せてしまっている。ここまで来たら同じかと思わなくもないが、切り札はなるべく持っていたい。
……最悪の場合、グループトークで何かしらの魔法スキルの追加を両親にオーダーすると言う手もあるが。
「悩むな、これ。どうするよ」
「さりとて、そなたらとて……その、戦えないまま私の傍にいるのは危険であろう」
ちら、と気遣わし気に私を見る殿下に、あ、これもしかして私が虫の死骸に吐き出したから言い出したのか、と思った。いや、そりゃお前……でかい虫の死骸が体液内蔵ぶちまけながら降ってきたら誰だって吐くだろう。え、こいつ吐かないの?だとしたらそれはそれでどんな神経してんだって話になるんだが……。
「うーん、まぁ一度それでやってみてもいいとは思うけど。空はどうよ」
「……あんまり推奨できたもんじゃないけどねぇ。前途ある若者を危険に晒すのはちょっと抵抗あるわ」
「それを言うなら危険地帯を女性に先行させるのは、私とて抵抗があるのだが……それに、若者と言うがそれほど年の頃は変わらぬであろう」
むっとした顔をしてそう言い返された。いや、お前言っておくがこちとらもうアラサーだからな。年の頃はお前等より行ってるからな。舐めんなよ。
「まーまー落ち着けって。じゃあもうとりあえずやってみようぜ?こっちでなるべくフォローして、危なくなったら結界で退避させりゃなんとかなるだろ。俺等だって無限に魔力があるわけじゃねぇんだし、殿下が戦えるならそれも手段として考えることも視野に入れねぇと今日中に出られねぇわこのペースじゃ」
「そりゃそうだけど……」
「ってことで、殿下。覚悟はできてるんだよな?」
「無論だ。でなくば提案なぞしない」
「できるだけ俺等もフォローするけど、言うように俺等戦いのいろはも知らねぇから、そんな役に立たねぇよ。それも踏まえて、とにかく怪我しねぇようにしてくれ」
「解った」
かくして、殿下の先行ワントップが決まってしまった……マジかー。大丈夫かこいつ。おねーちゃんは不安で仕方ないよ……あとその物騒な刃物で切ったはったしている場面に耐えられるだろうか。いや、でも敵さんが食い合い殺し合いをしているところは割と見て来たし、大丈夫……か?でもなぁ、食物連鎖と防衛戦ってまた趣が違うように思うんだよなぁ。
とは言え、細かい事を言っていても始まらない。となれば、覚悟を決めるしかないのだろう。できる限りスタンでフォローしつつ、距離を稼げるよう努めよう。




