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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
30/124

5

「あー、緊張したー。何とかいい場所見つかってよかったー」

「それなー」

何とか、野営できそうな場所まで何事もなく行きついた。結界を張ってアラームをセットしたなら一番最初に胸中の緊張を吐き出した。はぁ、と大きく安堵の息を吐く。

無茶苦茶肩凝るわ。殿下連れてると緊張感半端ないわ。ちょっとしくじったらアウト感がすんごい。

「……そなたら、本当に物凄く慎重に森を抜けるのに長けているのだな」

ちょっと感心したように殿下が呟いた。何この古風な喋り方の大学生、とか思うくらいに違和感凄いな。見た目だけしっくり来てるのに喋ると実に妙な感じだ。

「いやそらそうよ。これだけで生き延びてるから俺等」

「索敵能力にも驚いた。私が気付いていない相手にも気付いていたのだから正直脱帽だ」

うん?とその台詞に違和感を覚えたのでちょっとマップ画面を殿下の前に移動させてふよふよさせてみた。しかしまるでその存在がないかのように扱われている。という事は……これ、私達にしか見えてないのか……?それは朗報。


もう太陽は随分と傾いて、辺りはオレンジ色に染められている。木々の枝葉の向こうの空は赤から紫へのグラデーションの、その一部を見せてくれていた。今日もまた、夜が来る。

冬の寒気に加え、太陽の温もりが失せて行く。徐々に気温が下がり、吹き去る風に身が震える。そんな夜が。


ま、テント出すしお布団ガチ目で羽毛だしふっかふかだから大丈夫だけどな。そんな辛い思いしながら夜を越すなんて絶対にお断りだからな。

とは言え、だ。殿下どうするかなぁ、と考えていたら海がのこのこと結界から出て、そこでもう一つ結界を張った。一部結界が重なっている状態でやや広いスペースの結界となったのだが……え、そんな使い方あったの?

「あ、上手いこといった」

「え、なにそれ初見」

「いや、俺も初チャレンジ。いけっかなー、と思って」

「思って、って。これ凄い発見じゃない?その気になればかなり広い結界張れるんじゃないの?」

「それよそれ。スペースさえ有れば自由度高いよな」

またしても結界の便利機能が発見されてしまった。可能性無限大かよ……。

「で、まぁ広くしたところでだな。流石にお前、一応、曲がりなりにも、全くそんな気配がなくても、女性なわけじゃん?」

「色々言いたいことはあるが続けろ?」

「目がもはやキレてんのヤメて。いや、一応女性なわけだから家族以外の異性と同じテントは拙いと思ってだなぁ……」

ごそ、とインベントリから取り出だしたるは、

「じゃーん。海くんの城」

テントやないか。マイテントとかいつ購入してたんだわ。お前のインベントリ唸りを上げすぎではなかろうか。

「どっかで別行動とかになったら困るなって思って、用意しといたんだよ。こっち殿下に使って貰ったらいっかなーって」

「成る程。確かに。そもそも殿下だって私達と一緒だったら安心して眠れないだろうし」

「……あの、だな」

二人で盛り上がっていたら大層言いにくそうに殿下がおずおずと声を掛けてくる。なんぞ、と視線を投げれば少し困ったような顔で

「先程魔道具を知らぬ様子であったが……そなたらの、その……結界も、収納も、もしかして魔道具ではないのだろうか……?」

「あ。うん」

「うん、そう」

問われた言葉に躊躇いなく応えを返せばさらにへなりと眉が下がる。

「そんなことが……あり得るのか」

「逆に魔道具について知りたいくらいなんだけど」

「う……む。そうだな……」

「あ、でも話長くなりそうだから椅子とテーブル出すわ。夕飯食べながらにしよう」

言うて、インスタントだけどな!


そうして、テントとテントの間に食卓設置して食事しながら聞いた話では

曰く、魔法スキルと言うものは魔道具に刻む事で使用できるもので、人間には備わらないとのこと。魔道具を使うには事前に魔力を込めておく必要があり、殿下もまた結界の魔道具は所持しているものの、使用できる回数は精々が三回程。この森に入ってから、薬草を探して戦い、逃げ、時には結界で身を守り、夜を越えて二日程はなんとか凌いだらしいが、今はその魔道具空っけつらしい。魔力込めたら使えんの?と聞いたら、結界を張れるほどの魔力を込めるには二・三日掛かるとのこと。

ええ……魔力鍛えてないの?それとも魔力鍛えるのって一般的な事ではなく、これまた私達が特殊な個体なのだろうか。……まぁ端末扱いだもんなぁ。普通の人間ではない可能性は充分にあるわなぁ……。

とは言え勿論結界の魔道具を一両日中に満タン充魔できる人もいるらしく、そういう魔力の多い人は充電屋さんみたいな仕事をしておられるそうな。宮廷充魔力師的な?職業があるらしい。へぇ……である。

現在殿下が所持しているのは空になった結界、空になった風属性攻撃、都度魔力を込めたら使える収納魔道具、この三つ。この収納魔道具に入る物の大きさは精々が1㎡分の荷物らしい。そりゃ椅子とかテーブルとか出てきたらドン引きだわな……。食料とか水とかそういうのが大半を占めていて、野営道具としては厚手のマントくらいしか持ってないそうだ。テント入れてたら他のモン入らないってさ。こっちのインベントリ重量制なのに対して大きさ縛りは中々に面倒が多そうだなと思った。


「……しっかし、それ聞くとなんか、俺等人間辞めてんなぁ……マジかよ」

「むしろこの身が魔道具とかそういう可能性……?嘘だろマジかよ」

二人揃って思わず頭を抱えた。マジかよ。やっぱり人間扱いじゃないなこれ。インストールとかされちゃってるもんな。

「いや、誠に不思議なことだ。人に魔法スキルが備わるなど、聞いたことがない」

「えー……でも人間のつもりなんだけどなぁ……お腹も減るし」

出すもん出すし。

「まぁとりあえず前例がない、ってことは解った。あんま人前でほいほいスキル使うのはリスキーってことよな」

「ところでその結界の魔道具ってどんな形の物なの?見せてもらえたりする?」

何なら充魔できちゃうかもよと思って言ってみれば、少し躊躇いを見せながらも左手の中指に嵌めていた太めのリングをことりとテーブルに置いた。

真ん中に置いた電気ランタンの光を反射してキラリと輝く。ちゃんと磨いてるなぁ……。

「これだ」

「……アクセサリーやんけ」

何かちょっとごつめの指輪してんのが尚の事大学生っぽさを醸し出してるなぁとか思ってたけど、これ貴重品だったのか。驚きだわ。

じぃと見ても何がどう魔道具なのか解らない。とりあえず鑑定してみよう、と鑑定スキルを作動したなら

【結界の指輪:魔力不足】

と出た。まんま過ぎて何も面白くない。

「……触ってもいい?」

「ああ。構わぬ。そなたらからすれば玩具のようなものだろう」

つまり盗られる心配ねぇからいいよってことか。では遠慮なく。白銀のシンプルな太めの指輪を手に取った。くるくると回しながら余すところなく観察すれば、内側に何か文様が掘られている。これがスキルを刻む、という事なのだろうか。

あと、なんだろう。みぞおちがもにょっとするんだけど。身体の中で魔力が動く気配がしているという事、だよなぁ……ええ?何事。

魔力の脈動が治まるまでにおよそ5秒程度。短時間だったが間違いなく反応していた。

「あれ?それ魔力入ってんじゃね?」

「は?」

「いや、今鑑定したら魔力充填済って出たぜ?」

「え、ちょっと待って。これ手に取ったら勝手に魔力動いた気配したけど、自動吸引されんの?聞いてないんだけど」

「いや、そんなはずは!そんな事をされたら身動きが取れなくなるではないか!」

いやそらそうよな。ええ……?困惑しきりだわ。

「うぅん……?もしかして、結界のスキル持ちだから共鳴したとかそんなん……あるのか?」

「だったら風属性の攻撃スキルの魔道具なら反応しねぇってことになるのか?」

「いや解らん。なんも解らん。とりあえずこれ返すね」

何か充魔サービスしちゃったわ。無意識で。別にいいけど……。

「ちょっと風属性の魔道具も見せてくんねぇ?ダメならいいけど」

「ああ、いや。構わないのだが……その、すまない。魔力を奪ってしまった形になったようで……」

「それは良いんだけど……見せてって言ったのはこっちだし」

別に大した量の魔力は持って行かれていない、と思う。体感的に。そもそもハイポーションを作る際の魔力がえぐいので現時点でかなりの魔力を保持しているのだ。結界だって使い放題……とは言わないがかなり余裕があるもので、それこそ森を抜けるのに踏み切った理由でもある。

……帰ったら母の魔力が天元突破していたらどうしよう。すんごい事になっていそうだ。こわぁ……。

そんなわけで自動吸引されたこと自体は別段気にしていない。ただ、そういう仕様であるならちょいと怖い代物だな、と思っただけだ。

いかにも申し訳ないと言わんばかりの顔で、充魔の終わった指輪を手に取れば本当だ、と呟いて殿下はその形の良い指に戻す。それから、今度は右の耳飾り……これもシンプルな白銀のカフスだが、それを外してテーブルに置いた。

「これが風属性のやつ?」

「ああ。烈風の刃を生み出すものだ」

へぇ……攻撃系かぁ。これも鑑定してみたなら

【ウィンド・エッジの耳飾り:魔力不足】

と来たもんだ。そのうちスキル画面で調べよう。あれ家でしか見れないんだよな。その辺融通利かせて欲しいものだ。

そっとその耳飾りを手に取れば、やはり内側に文様が刻まれている。やっぱりこれがスキルを刻むという事なのだろう。しかし今回は特に己の魔力が動く気配はしない。

「んー……?」

「やっぱ吸われんの?」

「いや、今回は反応しないっぽい」

「へぇ……じゃやっぱ持ってるスキルの魔道具だから吸われた可能性が高いのか。意図的に充魔はできねぇの?」

そう言われて、意識的に魔力を操作して魔道具に向けて動かしてみる。魔力操作ってこういう時にも活躍するのな、とポーション作りで鍛えた甲斐とやらを見出せそうだ。

「んー……あ、できた?できたかもしれん私天才かもしれん」

徐々に魔力が何か、不可視の器に注ぎ込まれるような感覚と、それが満ち満ちたそんな感覚がしたのだ。

「お、マジだ魔力入ってら」

再び海が鑑定したなら充魔完了しているらしい。凄いな私。誰か褒めてくれまいか。

とりあえず殿下に返却したなら戸惑いながらも受け取ってくれた。

「……確かに、補充されている、な。その、お身体は大丈夫なのだろうか?二つも満たして」

「一応、大きな問題はなさそう、かな。多分……これって何回くらい使える代物なの?」

「15回程、だな」

震える事実が判明した。15回しか有効な攻撃手段がない、だと?その上隠密活動も搭載していないとなれば、噂の筋肉と腰に下げたその刃物が頼みの綱なの?己の肉体を信じているの?そりゃ無理だろう。結界だって3回しか使えないとか、恐怖に慄くわ。

「そんな微々たる回数でよくこの森入ろうってなったな……俺ならならんぞおっそろしい」

「……他に手がなかったのだ。仕方もあるまい。僅かな可能性に賭けてでも、成さねばならぬことはある」

眉根が寄り、悔しいのか悲しいのか。それともそんなことを私達に言われなくても解っているわとお怒りなのか、なんとも読めない曇った表情をしながら、拳を握りしめてそう呟く殿下。

「随分切羽詰まった物言いだけど……大丈夫なの?この森に入って今日で三日目なわけよな。お国からここまでの移動はそんなに日数かからないの?」

「いや……あまり時間は残されていないだろう。森までは早馬を乗り継いでも一週間は掛かる」

早馬って、確か速い馬に身体括りつけて昼夜問わずぶっ飛ばすあれよな。それ乗り継ぐの?死なない?そっちのほうが大丈夫かお前。


そしてこういう時なんと言っていいのかが解らない。間に合うといいねと言えばいいのか、退紅草の採取とか万が一、億が一可能であったとしても間に合わなくない?と言えばいいのか。唐突に空気が重くなったんだけどヘルプ求む。

あと、結構浅いあたりで三日目を迎えるその事実を伝えるのちょっと躊躇う空気感。マップないもんね……そりゃ方向も見失うよね……多分明日には森出られるよ、なんて……到底言い出す空気ではない。

「まぁでも、明日には森から出られるだろうし、間に合うってきっと!」

おおおい!マジか!お前マジかよ!お前に慈悲はないのか。

「俺等も念願の森の外だしな。気合も入るってもんだわ」

「……明日、には?私は森に入って三日目なのだが……?」

ああ、ショック受けてるじゃないの、嘘だろお前みたいな驚愕の表情になっちゃったじゃないの!きっと浅いところで接敵しながら右往左往している内に進んでる方向ごっちゃになって行ったり来たりしてただろう事実が明るみになっちゃったじゃないの。かわいそうに……。

「いやでも、ま……間取り感覚で明日には出れると、そう全身が囁いてるんで……」

マップって言おうとしてあ、やべという顔になって言い直した言葉がそれか。間取り感覚ってなんだよ。お部屋じゃねんだわこの森は。

「なんと、誠にそなたらは森の子なのだな……そんなことまで解るのか。そして私はまるで森に歓迎されていなかったのだな……」

森の子ですってよ。何なのその森の人みたいな扱い。いや、森在住の人なんだけど、間違ってないんだけど。森に産んでもらったわけじゃないんだわ。家には両親いるんだわ。あとこの森誰ひとりとして歓迎しないと思うよ。私達だって歓迎されてないよ。ワンキル待ったなしだよ安心しろ。

「……ところで殿下、ひとつお願いがあるんだけど」

「なんだろうか」

「うん。本当に、話ぶった切って申し訳ないし、今何も関係ない事なんだけど」

「うむ……?」

「洗髪しよう」

「は……?」

掛ける言葉が見つからなかったのでもういっそ話題を変えてしまおうと切り出してみたなら、それこそえ、今それ言うの?みたいな顔でぽかんと口が開かれた。いいね、その間抜け面。さっきの微妙に悲壮感出てる顔よりずっといいぞ!若者が悲しげな顔しているのはあまり見たいものではない。

「ずっと気になってた。洗髪しよう。お湯沸かすから。三日、あるいは移動中もきっと洗髪してないよね。そりゃそうだよね。そして明日森から出たらダッシュでお国戻っちゃうんだよね。だったら今しかない。洗髪しよう」

「……待ってくれ。もしかして、もしかしてだが」

あ、駄目だ。とんでもなく悲壮な顔になったわ。

「……におうのだろうか」

そりゃそうだろ!当たり前だろ!頭皮油でちょい髪が固まってるレベルだぞお前!埃や土、血の汚れに獣の何かしらの体液も浴びてるんだろそれ!くさいに決まってるだろうが!

と、胸中で叫びを上げながらもそれはちゃんと飲み込んで

「……少々」

と。幾重にもオブラートに包んだ返事をした。あまりにも多くの思いを押し包んだ言葉だったので思わず目を反らしてしまったが許されるだろう。少々なんてもんじゃないから安心しろ。相当だわ。


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