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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
森とのつきあい方
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3

は、そうだ。スキルだ。

スキルとやらで何とかならないものか。

天啓のように思いついたのですぐさまイエクサに声を掛ける。

「イエクサ、スキルについて教えて」


『はい、スキルとはレベルが上がれば使える特殊機能です』


それはさっき聞いたんだよ!そうじゃないんだよ!

「イエクサ、スキルとはどんなものがあるのか教えて」

質問の仕方が悪かったんだ、そうだよね。

そうしたら、今度は返事が返ってこなくなり、そうかと思えばイエクサのボディの電気が明滅してくるくると回り始めた。

なんか考えてるんですけどこのスマートスピーカー。

そして、ぽこん、と妙に軽い音がしたと思ったなら存在しないはずのウィンドウがリビングに顕著した。

なんぞ。

「うっわ、びびった」

海がびくりと肩をゆらして、それからウィンドウをまじまじと眺める。

小さい字が夥しい数羅列されているウィンドウだ。これ、もしかしてスキル一覧なのか?多くない?

指先を伸ばして画面をスワイプするとスマホのように文字がスライドしていく。操作感はこれでいいようだ。

じっくりとっくりと文字を目で追い、ちょいちょい目が滑りながらもスキルの確認をしていく。


すると、最初から取得済みとなっているスキルがいくつかあることに気付いた。

まず【自宅結界】だ。

これはどうやら家の中は安心安全ってことらしい。仕様装備とは助かる。

だが逆に考えてみてくれ。結界ないと危ないってことじゃない?え、親父ほんと大丈夫なの?生きて帰ってこいよ真面目な話。

それから【ライフライン】

電気水道使えるのはこいつの恩恵らしい。

電気ってどこから来てるの?とか上水どこから引いてるの?とか排水どこに消えてるの?とか細かいことはいいんだ。心底助かる。これがなければ生きていけない自信がある。

そして【マッピング】だ。

探索済みのエリアを表示してくれるらしい。


「お、これで親父の現在地わかるんじゃねぇの?」

「本人じゃなくても見れるものなのかしら?」

「データがイエクサに集まるならワンチャンあるよね」

と言うことで、マッピングスキル発動を決めた。

そうしたなら、またしてもイエクサがくるくると電気を明滅させたと思ったなら、ぽこん、と新たなウィンドウが現れる。

真っ黒な画面の真ん中に青い点が3つ。多分これが我々なのだろう。そしてそこから西側に、線がへろへろと蛇行しながら伸びている。その先に青い点。これが親父であると推測される。

線の半ばくらいに居るということはきっと帰宅途中なのだろう。

「おお、動いてんじゃん、生きてるわこれ」

とりあえず一安心だ。

しかし、この黒いエリア広すぎない?もしかしてこれ森の範囲内?広大過ぎておふざけでらっしゃるとしか思えないんだけれど本気なの?馬鹿なの?

伸びた白い線はそり残したひげみたいな短さで、これで1kmなんだってくっそウケる、いやウケないわ憤りを感じるわふざけんじゃないよ。

しかし、画面を見てああよかった生きてるなと生存確認をした所で

「あ」

と、母が一言。思わず声を上げてしまったと言わんばかりの無造作な声で、画面を見ながらゆるり指を指す。

そこにはマップ上に現れた赤い点。

赤い点って、大抵のゲームにおいてエネミー表示だと思われますがいかがでしょうか。

そしてその赤い点は着々と青い点に近づいておりますが現場はどうなっているんでしょう?……爺逃げろ。

「これ、やばいんじゃねぇの?」

カップを置いて、海が立ち上がる。炬燵の天板に膝がガツンと当たっていてぇとか言いながら、それでも焦りを浮かべたその表情。

いや、正直やばいよね。そもそも我々まだパジャマだよ駆け付けることもできないよね、と続いて立ち上がって着替える為にバタバタと行動を開始する。銘々可能な限り迅速に行動を起こしているが、やはり脱いで着るだけの海の着替えが一番早い。

長袖のTシャツにジーンズ、袖を通した防風パーカーで、

「何か武器になるもんあったか!?」

叫ぶように声を上げて玄関まで走る。

確か、DIYに使ったコンクリート粉砕したハンマーがあったはずだ。

「庭にハンマーあると思う!」

下着を身に着けながら私もまたシャツを着こみつつ叫び返すように返事をする。

そうしたら、やや遠くなった声が

「超近接武器じゃないですかやだー!」

と返してくる。うん、そうだね。解るよ。でもね、現代日本に近接武器もどき以外ないんだよ。わかるだろ?

まだそれリーチある方だと思うんだ。マルチツールの拾得ナイフとかあっても困るだろ?あとお前のお気に入りの肥後守とかさ。何とか中距離になりそうなものとなれば、制汗スプレーとチャッカマンで簡易火炎放射くらいか?

とは言え、ないものはない。

シャツを着こんでカーディガンを羽織り、ジーンズに足を突っ込んで玄関に走る。

寝癖が爆発していても、すっぴんであったとしても、もう知ったことではない。

ちなみに、マップ画面は全員が移動を始めた時点で3つに分裂してそれぞれに付いてきている。

お前分裂できたんか。


全員が何とか外出できる程度の状態になったところで玄関に集合し、扉を開け放つ。

ぶわりと森の空気が入り込んできて、肺を満たした。キンと冷えた空気に、上着が必要だと思い直す。

カーディガンじゃ無理だわ。凍えるわこれ。

全く見覚えのない景観が扉の向こうに広がり、日常の決壊をひしと感じる。

決して我々はブラック企業で使いつぶされている社畜ではないのだ。現実世界に絶望もしていなければ、日常に大きな不満もない。それなりに忙しい時期なんかはそりゃ愚痴だって漏れるけれど、有給だって取得できる程度には普通の会社に勤めているのだ。

そりゃあ、繁忙期なんかは有給の取得ができないこともあるが、そんなもんどこの業界でも一緒だろう。

とにもかくにも、唐突に日常を奪われる謂れもなければそんな願望もないのだ。異世界転移は妄想だけで十分なのだ。

肺に吸い込んだ冷たい空気を絞り出すように吐き出し、溜息をつく。


と、次の瞬間マップ画面に異変が起こる。

青い点に接触したと思われる赤い点が、猛烈な勢いで撤退していったのだ。

「……ええ?」


何したんだあのマッシブ爺。


マジかよ。


そして青い点もまた、速度を上げて帰宅コースを移動してくる。

「走ってんな、こりゃぁ」

コケるでないぞ、爺。若い時とは身体が違うんだぞ。脳が若い頃の身体能力を忘れていないと、その差でコケるそうじゃないか。

「……迎えに行くべきか、待つべきか」

どちらのリスクが上だろうか。

赤い点を撤退せしめたのなら、むしろ今我々がのこのこと出て行って余計な危険を増やす可能性のほうが高いのではないだろうか?

海の手元のハンマーとて、使う気で持っていたとしても実際使えるかどうかは解らないことだし。

いや、だってな?生き物をコンクリ粉砕する勢いでぶん殴るだけの心の強さってなに?無理じゃない?

よしんばそれがその時できたとしても、後から心の傷にならない?普通。

現代社会において生き物を殺傷するとかそんな能力も根性も身に付かないよね。むしろ慈しむ方向で教育されるよね?倫理道徳がそれを責め立てるよね

とにもかくにも、飛び出す勢いが削がれた事で、玄関ドアの前で3人沈黙しながらマップを眺める。

大体距離にして400m程か?全力疾走して爺さん体力大丈夫か?

私なら100mで力尽きるな。なんとか頑張ってくれ。他に赤い点は見えないから、今は安全だ。脇目もふらずに帰ってこい。

「そもそも、今私たちどの程度のことができるのかしら?さっきスキル画面を確認した限り、攻撃系のスキルって後からしか身に着けられない感じだったわよね?」

母がそう、悩ましいと言わんばかりに眉根を寄せて呟く。

そう、それだ。

こんな環境にぶん投げるならせめても少しくらいの攻撃性は持たせていてくれていいのではないだろうか。

防御系でもいいが。全くそういったスキルは取得されていないようだった。デフォルトステータス低すぎない?

かなりの数のスキルがあったし、どれほどレベルを上げろと言うのか。

きっとすべてを取得するのは不可能だろう。

と、いう事は厳選して選ぶ必要があるのか。

RPGのキャラメイクに通ずるところがある。チョイスをミスると序盤で積むやつな。でもこれはゲームとは違ってリセット機能がないのが余計に世知辛いだろ。

なるほど、積みゲーか。どっちにしてもクソゲー仕様じゃねぇか。ふざけんな。

まぁ、まだ可能性はゼロじゃない。すべてのスキルを確認できたわけじゃないからだ。救いはある、かもしれない。


そうこうしているうちに、どんどんと青い点が近づいてくる。

「あ、帰ってきたわよ」

「はっや、爺舐めてた」

最近老眼が進行しつつある母がいち早く、まだ点でしかない親父を発見する。そしてぐいぐいとサイズアップしてくるその速度に海が少し引いたように独り言ちた。

いや、本当に舐めてたわ。私より速いよあれ絶対。

そしてその姿はいつものトレッキングスタイルである模様。ジーンズに赤い防風パーカー、トレッキングシューズ。背中にしょったボディバッグにはきっと飲料とタクティカルライトでも入っているのだろう。だが、いつもと違うところを挙げるとすれば片手に持った、なんだあれ?制汗スプレーのような……あ、いや。あれ制汗スプレーだわ。私のだわ。間違いないわ。

え?何?エネミー制汗スプレーで撃退したの?火炎放射しか考えつかなかったけれどあれ単体でも攻撃力あるの?どうなの?

「爺さんファイトー!」

「爺さん言うなー!」

大きな声で母が声援を送れば、悲鳴のような返事が返る。なかなかしっかりとした声ではないか。

「あ、ありゃまだ余裕あるな、よかったよかった」

そうして、早々に靴を脱いで玄関に上がり込む海。

お前薄情って言われない?いや、一番最初に立ち上がったのお前だけどさ。

ハンマーを玄関床に置いて、ポケットを探って加熱式タバコを取り出して点火する姿はもうすっかりリラックスモードだ。切り替えの早い男である。


そしてその時は来た。ようやく帰ってきた親父は全く失速することなく開け放たれた玄関ドアをくぐり、そのまま玄関に突っ伏すように上半身を乗り上げ倒れこんだのだ。

肩で息をしながらふいごのように胸を上下させ、ぼっさぼさの頭にどこかから拾ってきたのか葉っぱが乗っている。

緑が彩るその頭髪はほったらかしにした為に黒と白が混じりあったグレイヘアーだ。微妙に比率がいいのか、お洒落で腹立たしい。早いとこ真っ白になればいいんだ。

走って汗が噴き出して肌はつやっつやにてかっている。

お前の手にあるその制汗スプレーな、そういうものの為に使うんだわ。

「おう、無事で何よりだがよ。普通こんなわけわからん状況なら黙って出掛けたりしねぇぞ」

頭のあたりにしゃがみこんで声を掛ける海に、息も絶え絶え

「し、死ぬかと思った……」

という返事。

そうだろうね。無事で何よりだよ。

しかし午前中にこれだけ疲労困憊になってしまえば、もうこの爺さん今日グロッキーじゃない?

使いものにならんな。

ともあれようやく全員が揃ったので、リビングに再集合して炬燵の4つ角をすべて埋めて着座して家族会議といけそうだ。


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