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それから、随分と頑張った。
魔力鍛えるついでのポーション品質向上や、発展形スキルの御開帳、東の森に龍の鱗採取と薬草採取。
必要な物が揃ったならば、苦労しつつも何とかなった。これで上級薬魔技師のスキルも使えるわと意気揚々と作ったハイ・ポーション低品質は地獄のように不味かった。とてもではないが飲めたものでなかった。ヘドロ飲んでんのかと言いたくなった。もうこれ回復薬じゃないよ毒だよ。酷い話だ。
必死になって普通品質までは持って行けたが、これでもミドル・ポーションの低品質クラスの不味さがある。酷い。ちなみに母のみ、ハイ・ポーションを上質で仕上げることに成功している。この人ホント凄いな。この情熱に脱帽である。
ちなみに、何だかんだとトライアンドエラーを繰り返しながら西の森を徐々に攻略しながら過ごすこと早二カ月。
それはそれは酷い目に遭いながらもなんとか生き延びている。
そう言えば、幸運値とか存在しなかった。そうだよね。そんな曖昧なもの数値化できるわけないもんね。スキルでどうこうしようなんてそれこそ愚かの極みだったわ畜生。
ちなみに、スタンしまくって身に着けた発展形スタンはエリアスタンなるもので、半径5m内の敵にスタンができるという微妙な仕様だった。5m……近くない?無理じゃない?何なら普通のスタンのほうが視界内なら効果ありな分使い勝手よくない?
いやまぁ、取ったけど。発展形だからレベル3消費したわ……何なの。囲まれた時くらいしか使わないし、なんなら結界のほうが使い勝手いいわとなって、これは殆どお蔵入り状態となっている。
まぁそんなわけではあるが、結構コツコツと森の攻略は進めているし、家の周りだってホームセンターのお力と、ついでに家電量販店の力も借りて伐採系スキルも使いつつ結構開拓が進んでいたりする。結構薬草畑が盛況で、琴子さんハッスルしておいでである。
いやそれにしても、家電量販店外れ扱いして本当に申し訳なかった。
数日野営とかするようになったら、いるわ。普通に。スマホの充電切れるんだもんよ。予備バッテリー必須だし、何なら太陽発電の充電器とかも必要だったわ。あと野営中の電気ランタンとか、電池込みで必要だわ。
あとここ二カ月で大分森の事が解ってきた。何事もなく進むことができたなら一日に30km近くは進める。勿論引き返さないこと前提ではあるが。
そして現時点で4日先まで進むことに成功しているのだ。……いや、まだ離れた所では何かしらあるので順調とは言えないのだが。それでも、だ。
地図上で見ればあと三日か四日程進めば端に出られるのではないかと思う。多分。
つまるところ、地図の端までは一週間前後で到達できそうだな、と。
安全な道を探りながらではあるので歩みは遅々としているが、ある程度通る道が決まればそれくらいで行けるはずだ。
それくらいの攻略度を誇っている。いや本当に、血と涙と汗の結晶である。
現在の直線距離はなんと112kmほどだ。レベルも373である。凄い。これなら海の小型自動二輪もインベントリに収納できる。ただしガソリンがない。
いや、手に入れる方法はある。あるには、ある。
何故ならショッピングを複合店にまでこの二カ月の間にしてしまっているからだ。つまり、またしても発展形ツリーが発生したのだ。
靴屋が西に15kmだった時はガッツポーズをとったものだとしみじみ思い起こせる。西最高か。
でもあとの東南北の15kmとか誰が行くんだ。
東はもうちょっと、龍の鱗から進めばいいじゃない、くらいの距離ではあるので行ってもいいが……岩場しんどいしやっぱり熱感知の連中と遭遇すると割とひやひやする。特に蛇な。あいつマップ見てないと、音もなく忍寄ってくるんだわ。油断できない相手であることこの上ない。あの図体で隠密行動とか。これが本当のスネークですよってかやかましいわ。
そしてそれを成したところで解放できる店舗はなんと、サイクルショップだ。自転車屋さん。……ホームセンターに置いてないと思ったら別換算でしたかー……舐めてやがる。いや、欲しいけどさぁ……まぁキックボードで暫くは何とかなるよねぇ。と放置である。
そして南。あの湿地帯を15km抜ける?馬鹿じゃねぇの。5kmであれぞ?あの霧の向こうに何があるのかなんて考えたくもないし、夢も希望も感じられないんだけど。ちなみに店舗は百円均一。……欲しいんだけど、マストじゃない。あれば嬉しいけど、なくても何とかなる。という訳でこちらも放置。
最期に北な。衣料品店を結局はオープンしないことには服が割と欠損していくのだ。あと私と母の体系が結構変わってしまったのもある。仕方なしに北を5km攻略もした。北はなんと樹氷地帯でした。凍え死ぬわ。馬鹿なの。おっそろしく幻想的な空間ではあった。きらきらと陽光を弾く氷が木々を覆い、時々氷の木まで生えていた。ちなみにこの氷の木にマップ上で赤い点がついていた。動くんだわー……木のくせに動くんだわ。しかも内蔵とか何も入ってなさそうなのに動くし枝伸びるし串刺しにするし、根から仕留めた獲物をごっくんするし。氷の木の中に小鬼の死体が時々入っていて震えた。消化中とか、グロい。あ、北の小鬼は灰色だった。なんだろうな……一番普通だなと思ってしまった。
まぁそれ相応に北も物騒なところであったので、15kmも進みたくない。進んだところでオープンできる店舗がガソリンスタンドであるのは魅力ではあるが。二輪ではなく四輪がインベントリに入るようになってから考えるよ……うん。氷の木の索敵エリア結構広いから、怖いんだわ。近づいてないのにあの氷の枝がヒュッて飛んでくるの真面目に心臓きゅってなるから。多分根っこ感知なんだわ。何とか致命傷は免れたけど当然怪我したわ服死んだわ。服を買う為に服を殺したわ。もう意味不明である。
まぁそんなこんなで、現在ショッピングは足踏み中である。とりあえず西攻略してしまおうと邁進中なのだ。
レベルに余裕ができたのでスキルも増やしてはいるが、どうにも使い勝手が微妙なものが多い。野営生活にお役立ちの魔法は色々取り揃えたが。
先ず【クリエイトウォーター】と【クリエイトフレア】。水と火を生み出すスキル。これがあれば湯が沸かせる。食事面でインスタント系が大活躍です。
乾きものばっか食べてらんないんだわ!
あと【クリエイトボルト】も取得したが、残念ながらアンペアが合わないらしく充電には使えなかった。融通利かせろよ。
さらに少々物騒なのだが、【バニッシュ】というスキルも取得した。物質を消し去るスキルだ。とは言え、それほど大きなものは消し去れないので攻撃には向かない。これも生活魔法として取得したのだ。何に使うのかって、そりゃトイレでしょうがよ。出したモン消さなきゃ溜まっていく一方じゃないのよ。
そこらへんに撒くわけにもいかないし、消すよね。まぁ最大でもバケツ一杯分程度のものしか消せないので程よい使い心地である。燃えないゴミの処理にも使える。
あと、回復魔法も身に着けた。【ヒール】これ、物凄い魔力食う割に回復力ローポーションと変わらんのでやんの。使わんわ。ポーション飲むわ。今現在の魔力なんてクリーンで換算したらもう2620回分以上なのだが、一度しか使えない。はぁ?である。魔力鍛錬用ですかと言わんばかりの仕様でびっくりだ。
あと諸々、森林伐採系魔法スキルとか開拓用にいくつかあるが割愛しよう。散策には関係ないものだ。
そんな現状で、割と果敢に活動をして日々を生きている。最近は家にいる時間より野営している時間が増えてきているのが辛いが。しかしいい加減そろそろ森の外に出てしまいたいのだ。結構衣料品とか日用品とか諸々購入していると飛ぶように残高が減って行く。そろそろ懐を補充しないと不安があるのだ。
……どうすっかなー、と現在海と共に曇天の空を結界のテント内から見上げている。そう、悪天候時に森の散策とかやってらんねぇよと言うお話である。
家から四日程の距離のある場所で野営中でのことだ。
夜が明け、アラームで目を覚ました時点でぽつぽつと雨音がテントを叩いていることには気づいてはいたが、割と普通に雨だった。
とりあえず結界を掛け直して待機をしているのが今だ。
「止みそうにねぇなぁ……」
「そうなぁ」
空から降りてくる銀色の糸は地面を濡らして土の匂いを空気に溶け込ませている。まるで南の森に来たみたいな匂いがしていた。
ぱたぱたぽろぽろ、葉を打ち叩く雨の音が耳朶を打つ。
「あ、小鬼だ」
結界の外では雨に濡れた小鬼がガサガサ歩いていて、その手には仕留めた獲物なのか角の生えたモグラみたいなものを引きずっていた。
そうそう、家から離れれば離れる程、敵が割とまともな形になっていくのもこの森の特徴だ。角は大体生えているが、それでも割と普通の形とかサイズ感とかで異形度が下がって行く傾向にあった。
小鬼は今の所どこでも見かけるが。こいつらの分布エリア広すぎない?もうちょっと自分に合った環境を選ぶべきでないの?
この辺りなら割とこいつらも平和に生きていけるんじゃないの?森の奥に住むべきではないだろ絶対。大体ワンキルじゃないのあんなとこ。
まぁこの辺りもちょっと運が悪いと四本腕の熊とか出るけど。二本足で立った時の体長普通に2m近いとか怖いんだけど。でも熊ならそんなもんか?動物園ののんびりした熊しか見たことないからよく解らんのだが。
とは言えそれほど個体数は多くないのか、あまり接敵しないのが幸いである。
曇天を見上げていても特に変化がないので、インベントリからミルクパンを取り出してスキルで水を張り、湯を沸かす。
それからカップに入れてお湯を注ぐだけのコーヒーを二杯、淹れたなら海にも渡して一口啜る。あつい。
「今日はおやすみかねぇ」
「真実何もすることもできることもないオヤスミってキツイな。暇すぎねぇ?」
「ポーションでも作って暇潰すしかないんじゃない」
「材料は割とあるんだよな」
「現地調達もしながらやってるからねぇ……」
大抵は野営となるとさっさと食事を取って寝てしまうのだが、時々こうしてポーション作成しながら品質向上に努めている。持たされた上質ポーションを使い切ってしまうような事があれば、えぐいお味のポーションの世話になるしかないと言うのは地獄だからだ。
今の所なくなる気配はないし、それほど大きな怪我をするようなこともないが。備えあれば憂いなしなのだ。
家の庭にある薬草畑はもりもりと成長しているし、大体低品質のポーション撒きながら育てていればすくすくと勢力を拡大しようとするので逆に刈り取るのが大変なくらいだ。プランターに一部植え替えてインベントリに入れて、時々ポーション与えていれば材料にも困らない。
困るのは龍シリーズくらいだ。涙も鱗も手元で増やせないのが難点である。
涙なんぞ灯油缶でインベントリに入っているレベルだ。……この水腐らないよな?と少々不安感はあるが。
そう、インベントリはやはり時間経過があった。普通にあった。全然遅くなるとかそんな素敵な仕様はなかった。解っていた。そうだよね。うん。
でも荷物がそこに入れられるだけで充分に価値があるよ。お前はいいやつだ。
しかし森の中にも慣れたものだなぁ、と思う。
当初は結界の中とは言えこんなにも全力でリラックスしていられなかった。それが今となっては結界の安全性を信じて寛ぎモード全開である。夜だって普通に眠れる。
洗顔等は洗面器にスキルで水を張ればできるし、なんなら頑張ったら洗髪だってできてしまう。流石に浴槽を持ち込むことは未だしていないが、それも時間の問題だろう。風呂入りたい。汗拭きシートで拭うだけではいかんともしがたい不快感が残る。
大自然の中の、たった二畳のスペースではあるが割と好き放題していられるので解放感は半端ないと言っておこう。
結界張った瞬間にスマホのアラーム掛けるのだけは忘れてはいけないが。余裕を持たせて遅くとも30分前には切れることが解るように設定している。
「あ、そんなら俺の髪切ってくれよ」
「あん?」
唐突に、海がそんなこと言いだす。確かにこの二カ月放置されている頭髪はお互いぼさぼさだ。特に、海はツーブロックが見る影もなく無様な頭になっている。
……が、だ。残念ながら散髪するための知識なんてないし、そのスキルもない。
「それは無理だろ普通に。えぐいことになるの見えてるじゃないのよ」
「ツーブロックにしてくれとは言わねぇから。いっそばっさりやってくれていいから」
「いや、待て。落ち着け。もしかしたら床屋さんみたいなの森から出たらあるかもしれないじゃないの。帽子被ってもう暫く誤魔化そう。な?」
ハサミはある。けれど、これは精々前髪を始末するために持っているだけのハサミだ。決してそんなガチで散髪するためのハサミじゃない。
「えー……どうせ暇ならいいじゃん。酷い仕上がりでも文句言わねぇよ?」
「私が嫌だわ。言うてお前私の髪切れんの?」
「いや、それは罪だろ」
「解らんわお前の基準。お互い我慢するしかないのよこんな状況じゃあ」
「床屋イエクサとか発生しねぇかなぁ……西距離カウントで」
「その前に他方面15km攻略しないと次に行けないから。積んでるから」
全くなんてことを言いだすんだこの弟は。暇だと人間ろくなこと考えないな。よくないわ。
まぁそんな感じで、割と緩急激しい森生活をしている昨今の状況だった。




