表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
森とのつきあい方
24/124

24

穴ぼこ沼地ゾーンを抜けてもやっぱりじっとりとした湿気は空気に漂うし、地面はぬかるんでいるので足運びに気を遣う。

まぁ今更気を使ってもズボンの裾は泥跳ねでびっちゃびちゃだし靴なんて元の色が判別しにくいレベルで汚れているが。とは言え足音はやはり消しておきたい。

湿地帯って本当に面倒くさいなぁ、と心底思う。

それにしても、西も西でしんどいし、東も東でしんどいし、南もこれだ。イージーな所が今のところ見つからない。

北に希望を託すしかないのか。いや、なんかどうせしんどいんだろうな。


それにしても靴下湿気ってて不快感凄いわ。あの水色のウニめ許さんぞ。割ったら食えるのだろうか。……いや、食いたくない。腹壊しそう。無理。

そもそも海産物であるはずのウニが淡水にいる時点できっと味も違う。塩気が足りないに違いない。あとなんか臭そう。

それにしても、湿地帯なんだからカエル的なのが出てくると思ったんだけどなぁ……予想を大きく裏切ってきたなぁ。流石である。もういっそ感心するわ。なんなの。


まぁ相変わらず走った事で一気に距離は稼げたわけだが。そこだけが幸いか。

きっとまたグループトークに両親から何かしらのメッセージ届いてるんだろうなぁ。そもそもあの沼地ゾーンを迂回するべきだったか。でもなぁ……結構広い範囲で沼地塗れだったんだよな。相当迂回しないといけなかったので、まぁ沼から出てこなさそうだから行っちゃう?みたいなノリで行った私達も悪かったよ。

何か、魔力が増えたことで余裕が生まれて、それが油断に繋がっているのかもしれないな。気を引き締め直して進もう。人間余裕があるっていいことばかりじゃないよね。

しかし、あれだけの沼地が地下で繋がっている可能性とかハッキリ言ってぞっとしないものだ。ちょっと地震の一つも起きたら地面陥没しない?足元なくならない?

地震がそもそも起きにくい地盤なのかもしれないけれど、確かめようもないしな。

とは言え全ての地面の下が水場とは思えないので、通路みたいに繋がっているのだと勝手に思い込むことにしよう。

それにしても、沼地ゾーンを抜けたらマップに灯る赤い点がなくなった。いや本当に何よりです。そもそも地面に常駐している奴がいないのか?それだと精神衛生上大変よろしいことだ。


まぁそうは言ってもね。小さな沼がなくなったからと言ってでかい沼にぶち当たらないとは限らないよね。うん、わかるー。

……じゃねぇんだわ。

人様がほっと安堵の息を零してる次の瞬間にはでかい沼が急に木々の向こうに見え隠れするとか聞いてないんだわ。沼には鬼蓮みたいなのが咲いてるし、なんなら赤い点がぽつぽつ灯ってるじゃないのよ。

もうね。普通に近づかんとこってなるよね。

誰が鬼蓮の葉に乗ってみたいとか思うか。小さい頃は夢見たものだよね。でも、エネミー表示がある時点で夢も希望もねぇんだわ。

木々の隙間から見えたその沼地、是非とも迂回したい。

そう思って海を見たら、解っているとばかりに頷いて歩く向きを変えた。正直不快指数高いのであんまり迂回したくないんだけどねぇ……流石にあんなでかい沼地なら命取りになるのは言われなくても解る。


で、コツコツ迂回しているわけだが……何なの?沼地から出てきたのお前。人様の進路に現れたお前だよ。

マップの表示範囲ギリギリに急に現れたそれは、私の記憶では完全に水生生物だったはずなんだが。お前成長するまで陸に上がらないんじゃないの?ええ、おい。そこのオタマジャクシ。しかもでかい。私の常識を大きく覆すサイズ感だ。円の直径1mは余裕であるよねそのサイズ感。おかしくない?お前がそのサイズだったら成長しちゃったら大変なことにならない?

なんだかぬめりを帯びたつやっとしたボディは山鳩色で、緑色ちょっとかじってますみたいな顔をしている。それが陽光を照り返してつやつやしていた。まるんとしたその頭部分から伸びる身体には脚が生えているようで、その脚でもって陸上を歩いている模様。いや、手足生えてからだろ時期尚早すぎるわ。一歩踏み出す度に伸びた尻尾がずる、ずると湿った音をさせているのがもう最悪。

そしてその大きな顔面を横切るように付いた口をおもむろに開けたかと思えば、

「ゲロ」

鳴いた。

ふざけんなお前それは成長してからだろ。まさかその様で成体ですとか言わねぇだろうな。

かと思いきや開け放った口から弾丸のように舌が伸びて、帰ってきたと思ったらその先に小鬼さんいらっしゃいますやん。ここでもお前は食われるのかよ。

バクン、とお口の中にピンク色した小鬼が招待されたと思ったなら、一方通行ですよと言わんばかりにその口が閉ざされる。

……いや、オタマジャクシってそもそも肉食なの?普通は何喰って生きてんの?それすら解らないのだが、なんか口の中で小鬼が頑張って暴れている感が出ている。まんまるフォルムが時々歪にふくらんでは戻って行く。弾力凄そうだなあいつ。


しかし、あの舌の速度半端ないんだけど。あんなのにロックオンされたら多分スキル間に合わないんだけど。

あいつ見た目くっそ間抜けっぽいのに何でこんなに殺意高いの?やばくない?あとコイツ珍しく角生えてないんだけど。まんまるフォルムを崩さない為に角は生やさないのだろうか。その丸さに何かしらのポリシーでもあるんだろうか。

まぁコイツのポリシーなんてどうでもいいから場を離れよう。こんなのに目を付けられたら普通に死ぬわ。あとあの舌の射程距離どんだけあるんだよ。多分今マップ外の小鬼拾ってきたよな。もう本当にやだやだ。

海に行こう、と目配せしたなら眉が寄って口がへの字になっていた。大方考えていることはそう変わらないんだろう。

サーチされたらデストロイ一直線なの普通に震えるわ。

あとこっちが相手を認知する前に仕留められる可能性があるのが末恐ろしい。南も物騒な事この上ない。気を抜いてる場合ではない。

足音をさせないようそろりと足を運びながらしずしずと場を離れる。

あのオタマジャクシの生息域はこのでかい沼であるというのなら、ここにも近寄らないようにしよう。

帰り路の別ルート開拓が必要って、東より難易度高いわクソが。やっぱり私達って幸運値底辺なのだろうか……しょんぼりである。


ちまちまと迂回しながらも進んで行けば、マップ上でもうそろそろではないかと思える範囲まで出てこれた。

インベントリからスマホを出してメッセージを確認したなら思った通りグループトークにガンガンメッセージを受信している。

これじゃ海のしょうもないメッセージに文句を言えないではないの。

読み進めて行けば案の定、どこ通ってるんだとか危ないだろとか、やっぱり走る羽目になったじゃないかとか、そりゃもうご心配の愛のメッセージがてんこもりである。

最期のメッセージまで読み進めて行けば、最後のそれは『お昼ご飯はうどんにしようと思います』だった。メッセージの温度差がすごい。でもうん、寒い上に湿地帯だからあったかい物食べたい。凄くうれしい。

……って、違うんだわ。clear表示を求めてるんだわ。まだなのか、と落胆を覚えてインベントリにスマホをしまう。もう少しだと思うんだけどなぁ。はぁ、と溜息一つついて海に向き合ってまだですわ、と首を振る。そうしたらマジで?と言うかのように片眉を上げて見せたので、マジですわと頷きを返した。

しゃーねぇなと言わんばかりにまたそろりと足を踏み出してぬかるむ地面を歩き出す。

ところであのでかい沼地以降、木の密度がちょっと減り気味である。その割に陽光が差し込まずに、どちらかと言うと霧が掛かって視界がぼやけてきているので結局そんなに視野良好とはいかない。はた迷惑な話である。

霧の中からアサシン系の敵とか出てこないことを祈る。そもそもあのオタマジャクシがアサシン系だと思うが。あの舌が吹っ飛んで来たら避けられないもんな。どこから来るか解らんしな。うわやだ想像しただけで怖いわ。

歩を進めて行けば行くほどに霧は濃霧と化していく。いやもうホントやめてくれないかな。視界が利かないとマップさん広がらないから。超怖いから。

眼前5~7mくらいしか視界が利かない状態で、急に赤い点とか灯ったら心臓きゅってなるから。

思わず一歩が小さくなるというものだ。私も海も、恐る恐ると足を出しつつ、やだーと顔面で語り合う。中途半端に陽光が乱反射しているから余計に白く濁る霧の向こうはまるで読めない。

時々白い霧の向こうにピンク色がうっすらと滲むのだが……小鬼さんはここにも生息しておられるのね。へぇ。でもやっぱりその色目立つからやめたほうがいいんじゃない?もしくは夕暮れ時とかに闊歩した方が見つかりにくいんじゃない?夕日色に染まる霧なら多少は保護色効果あると思うよ。

まぁこの霧の中で保護色な敵とかいたらもう無理だけどな。対応できるはずがないよな。

じりじりそろそろと進みながら、何事も起こるんじゃないぞと祈る。まぁ祈ったところで意味はないけれど。そもそも祈る先ってどこよ。信じ奉じる神がいるわけでもないので、尚更祈りなんて自己満足でしかない。とは言え自己満足って大事だと思うわ。うん。


そうして恐る恐る、遅々として進まない歩みではるがそれでも一歩一歩確実に周囲を探りながら歩いた結果、海にトンと肩を叩かれて振り返れば黒いタオルを手にしてふりふりと振って見せられる。

あ、達成しましたかそうですか。いやよかった。

ほっとして、思わず笑顔も出ると言うものだ。頷いて帰ろうか、と踵を返す。霧を抜けたらちょっと方角変えて帰宅しようと思う。

インベントリに黒タオルというかスマホをしまうところまでを見守れば、海も頷いて一歩後ろに片足を引いて回れ右をしようとした

その瞬間

「おぁ!?」

急に声が上がる。なんぞ、と思って視認したその瞬間には海の手を掴んで

「ぅぎゃっ」

ぐいん、とあらぬ方向に身体が引かれる。

海の身体には妙に赤い太いロープ状のものが巻き付いている。これ、あれですよね。オタマジャクシの舌。

何故見つかったのか、と疑問に思う中とんでもない速度で引かれる身体につられるように共に空中を浮遊するように引き寄せられていく。その途中、一瞬ブレた景色の中で掠めたピンク色に、獲物ってこいつだったんじゃねぇ?と思う。命中率低いのかよオタマジャクシ!ちゃんと狙え!

とは言え、今考えるべきはオープンゲートしているあのオタマジャクシの口の中にウェルカムされてしまう前になんとかしなければという事ではあるがハッキリもう無理な。もうご招待受けてるわ眼前だわ速すぎるわ嘘だろ。

バクン、と喰われる海の全身とひっついている為に腰あたりでその圧力に押しつぶされる感触

「いぃっ……ってぇ!」

「くっせぇ!」

痛いんですけどミシミシ言うんですけど腰へし折れたら流石に後遺障害待ったなしなんですけどぉぉ!

あと確かにくっせぇな!生臭いな!やばいなこれ!

「うるぁ!」

スタンをしたのだろう、びくりと震える自分を捕らえているその塊。口の圧力が減る。

とは言え重い。

「ぐぎぎ……」

ずりずりと後ずさりながら全身を出そうと四苦八苦する。

「待って待って、舌外れねぇんだけどやべぇ」

「マジでか。ちょっと待ってぇぁあぁぁあ!?何か、脚掴まれた脚掴まれたいやーっ!」

視界の外で何かが起きている

がしっと足首を何かに捕まれて、

「あああなんかかじられてる気がするやばいやばいやばい」

肉とれる肉とれるやばいやばい

じばばた暴れても振り払えないというかたいして暴れられている気がしない。腰に力が入らないこの状態では暴れるにも限度がある

ぬっとりとした口の中で暴れながら可能な限り脚をばたつかせて何かを振り払おうとしてもなかなか強固に捕まれかじりつかれているようで、食いこんだ鋭利な感触がふくらはぎのズボンとズボン下のトレンカを貫通し、皮膚を突き破り、ぐずりと肉に差し込まれて

「――ぃっ!!」

ってぇわ!クソ!

「空!?」

見えない敵にスタンってできるのだろうか

いやまぁそこにいるし多分できるはず、とスタンを打ち込む

「あああ効果がない効果がないよー!」

「何が!?」

「見えないからスタンできん!やばい痛い喰われてる痛い痛い痛い」

ああーっとかもう声に濁点ついちゃうレベルで悲鳴が喉を突く。むりーっ

視界内縛りあるんですかそうですかー!?ふざっけんな死ね!誰か知らんが死ね!いやむしろ私が死ぬ!

そしてやってる間にオタマジャクシが動けるようになったらどうしてくれんだクソったれ!

「ちょっと待てもうちょっと、で取れる……取れた!」

ぐぎぎ、と凶悪な顔で舌を力づくで引きはがした海が身を乗り出し私の腰でできた隙間から口の外へ顔を出して、そうかと思えば脚に掛かる力が抜ける。

「スタンした!でもお前凄いことになってる!」

「わかるわ!超痛い!」

言われなくても解るし正直見たくないし感染症とか怖いんだけど

「あと小鬼だった!」

もう小鬼にシンパシー感じるのやめるわ!お前が喰われろ!


もぞもぞとオタマジャクシの口から這い出して、足をついた先はあのでかい沼地の浅瀬と思われる場所で射程範囲がえぐすぎることに震撼する。……もしかしたら別の沼かもしれないけどそれをマップで確認している余裕はない。

だってだ。あれだけ大騒ぎしていればそりゃ沼にいる他の個体もでてくるというもので、周囲にはぞろりとオタマジャクシが4体程集まっていた。

「ゲロ」

くぱっと口を開けて

「結界!」

弾丸のように舌が飛んでくるその寸前に悲鳴のように叫んで結界を作動した。

そうしたなら、視認できない速度で吹っ飛んでくる舌が結界を貫通して向こう側に伸びていく。結界内だけやっぱりこれ時空歪んでるよね、と思わずはは、と乾いた笑いが絞り出される。中に舌は入っている様子はないのに、一直線に向こう側にその先が伸びている妙な絵面だ。

しかし脚が痛い。痛みで脂汗が滲む。やばい。ズボンも血まみれだしなんなの普通に憤りと激痛しかないわ。

あとちょっと、結界の外でオタマジャクシの舌同士がこんがらがって喧嘩が勃発した。勝手にやってろ。

そして、今しがた這い出してきた痺れたオタマジャクシも結界張った時点で結界の外に弾き出されてるんだが……もしかしてこれ、口の中で結界作動したらぽろっと逃げれた……?

嘘だろそんな便利な使い道あったのかよ言ってよ。


勃発した喧嘩に小鬼も混ざっているんだけど。オタマジャクシの喧嘩に巻き込まれながら食い散らかされてるんだけど。

そりゃお前こんな連中のいるところにしれっと混ざったら食われるだろ馬鹿なの?

「空、ポーション」

周囲の状況にうんざりとしていたなら、そっと差し出される濃い青い液体。プリンカップに注がれたそれを見遣ればそれは海が悶える程不味いミドル・ポーションで、差し出す海は心配そうな顔なのだが……なんだろうなぁ。ちょっとこれ含みある顔だぞ。お前アレだろ。低品質の味わいを共感できる仲間が欲しいんだろう。

とは言え、脳が痺れる程痛いのは確かなので今さらもんどりうつほど不味いポーションを忌避する理由にはならない。とりあえず現状これでは歩けない。痛すぎる。

そろりとプリンカップを受け取り、覚悟を決めるように短く息を吐いてから、一思いにぐいっと一気に喉の奥に流し込む。

脳髄痺れる程の苦みとえぐみとついでにどっから現れたのか酸味までプラスされてとんでもないハーモニーを醸し出しながら可能な限り舌に触れないように流し込んだポーションが胃に落ちてカッと熱を持つ。酒じゃねぇんだからそういうのやめろ。

背筋を這いあがる震えはあまりの不味さに全身を襲う鳥肌を起因としたもので、耳の裏までぞわぞわするこの不快感は確かにもんどりうちたくもなる。思わずうおぉぉとか言っちゃうの解る。っていうか言わずにいられない。

胃の腑の熱は噛みつかれたふくらはぎに移動したかと思えばなんかもぞもぞした感触を与えてきてくすぐったいのか何なのか言い表せない。

ただ、言えるのは痛みが徐々に薄らいで、ついには無痛になったということ。

とは言え口の中は大惨事だ。インベントリからミルクキャンディを出して包装を剥いて口に放り込んでやれば痺れた舌先に乗る甘み。ころころと口の中で転がして舐め溶かして、甘みで口を塗り替える為に必死である。

「治った?」

「たぶん。痛くなくなった」

「ところでこれどうする?」

結界の外をぐるりと見渡して、海が聞いてくる。

外はもう喧噪というにはあまりに優しすぎる表現だろう。所謂戦場が広がっていた。小鬼は食われるしオタマジャクシ同士でどったんばったんびっちびっちと舌でお互いを押し合いへし合いしているかと思えば恐らく後ろ脚と表現していいだろうその脚が短くバタバタお互いを蹴ったり尻尾でしばいたりしている様がよく見える。

その中のたった2畳のスペースで、完全に隔離された状態でもってぽつねんと立っているわけだが。

「いや、どうもこうも……」

こんなもん、騒ぎが治まるまで動けないよ普通に。

「うどん伸びるよな」

「多分まだゆでてないから大丈夫」

っていうか準備すらされてないから心配すんな。

「あとな、俺思うんだけど」

「何」

「スメルレス切れたらくさいよなこれ」

ぬっとぬとに唾液にまみれた自分たちの姿から想像できるその匂い。これやばいやつですわ。髪までべたべたですわ。最悪すぎてゲロ吐きそう。

「そうな。切れる前に風呂入りたいよね普通に」

溜息しか出んわ。

「まぁとは言え、お互いなんとか無事でなにより」

「全く、誤射で捕まるとかふざけてんよな。ちゃんと照準合わせろよなこのオタマジャクシ。普通に俺の繊細なハートがきゅってなったわ」

あと口の中でもさらに胃の方に引っ張られるの普通に心の傷だわと言う海に、そんな吸引力まで掛かってたのかと少々ぞっとする。

「それから海くんの肩抜けるかと思った。お前もうちょっと体重落として」

お前マジ張り倒すぞ。こっちも肩抜けるかと思ったわ呆けが。

「……んでもって、ありがとな。一人で吹っ飛んでたら多分俺心折れてたしちゃんと生還できたか自信ねぇわ」

もじっと照れながら最後に一言。それ言う為に悪態ついたんだろうなと思えるあたり、このクソツンデレが。

「あー、うん。お互い様ってことでいんじゃないの」

「ん。ところでこの怪獣戦争暫く掛かりそうなんで、俺のインベントリがうなりを上げるわけですが」

ここで登場、折りたたみチェアキャンプ用。こんなこともあろうかと、じゃねえわ。こんなことあっちゃ駄目なんだよ。でも普通に助かるわ。沼の浅瀬なので充分に置ける。故に二脚出した椅子に腰かけてはー、と脱力。全く心安らがない休憩所となったが、少なくとも8時間は安全である。そこまで掛からないことを祈りながらスマホを出してグループトーク画面をチェックすれば相変わらずガンガンにメッセージを受信していた。

「すげぇガンガンくる」

「まぁ接敵してるし赤いマークがどんどこ動いてる真っただ中にいるからな今」

とりあえず、無事ですアピールしておくか。

『結界張って今キャンプチェアで休憩中。空を飛ぶという経験をしましたが、二人とも無事』

『何でそうなったの!?』

『いや、遠距離捕食タイプの矛先が逸れてこっちきた』

『全然解んないわ。帰ったら詳細求む。とりあえず今無事なのね?』

『全然無事』

『なんなら優雅にティータイムできるくらいの無事っぷり』

海もトークに参加しながらインベントリからペットボトルを取り出して一口水を飲む。

『お茶無いけどな。あるの水だけどな』

『かなしい。お茶ほしい』

『利尿作用あるからやめとけ』

『割と余裕がありそうで何より。ところで帰宅予定は?』

親父がぽこんと参加して、聞かれた内容に少し首をひねる。

『解らん。怪獣戦争が治まったらそそくさと逃げ帰る予定だけど、来た道戻るつもりがないので全く不透明』

『ああ、道なぁ。そもそもあんな道通る奴があるか』

『いや、だって沼から出てこない雰囲気だったから』

『え、南って沼なの?』

『結局出てきてただろうが』

もうリアルタイムに会話しているより目にやかましいなこれ。そして説教は帰ってからにしてくれマジで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ