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さて、あれからどうやらあの爬虫類はこちらを追うのを諦めたのか、遭遇することなく進むことができている。実に僥倖であることだ。
もしかしたら川を越えては来ないのかもしれない。そこは知ったことではないけれど、この先はどういった連中のテリトリーだと言うのか。できれば熱感知とかやめてほしい。そういうの望んでない。スタンタードに対処させてほしい。
あと見た目に嫌悪感刺激する系もやめてほしい。大体見た目はアウトだけど。むしろセーフな見た目な奴がいない。
しっかし、川を越えたら割ともう開き直って足元ゴロゴロと岩だらけである。足運びを間違えたら捻って立ち上がれないかもしれない。そして岩の合間から伸びる木々の幹はやはり太い。何故だ。普通もっとこう、細くて頼りなげな木が生えているものではないのか。やはり我の強い木々の姿にうんざりとする。
そしてこの地形、死角が多い。岩の隙間に何かいてもこれ解らんじゃないの。マップをちらちら確認しながらでないととてもじゃないが歩けない。神経使うな東の森。思わず溜息を吐き出したくなるのを堪えつつ、えっちらおっちら歩みを進める。
時々岩と木の下がきらりと光るのはどうやら光を反射した水であるらしく、地下水でも流れているのだろうか。……いやこれ地下って言っていいのかも解らないけど。
もしかしてこの水も何かしらの材料になるのかなぁ、と思ってふと鑑定してみる。
【東の森の地下水:ミネラル豊富】
いやどうでもいいわ。そして地下水で合ってたわ。
であればここの木は水に直接根を降ろしているのだろうか。根腐れしない?マングローブ的なアレなのだろうか。実にわからん。
ちょいちょい手を使いながらも何とか進んでいるわけだが、これ普通にしんどいわ。誰だよ西より距離稼ぎやすいとか言った奴。私か。
結構起伏があるのが辛い。登ったり下ったり、時々木の幹を伝ったりとなかなかのアスレチックぶりを見せつけてくれる。これで体力の心配がなくて周囲に危険がまるで無いのなら、割と楽しいのではないだろうか。
とは言え現実は危険がいっぱいだし、体力は温存しないと帰りが心配だし、場合に寄っては走ることすら考えなければならないので楽しんでいる余裕もなくただただしんどい。
あと時々マップの端に赤い点が見えるのだけれど、小鬼だった。あいつら結構身軽にぴょんぴょん移動してやがる。土地に適応してるなぁと思わず感心しきりだ。こっちくんなよ。
それにしても岩の少ないところがないだろうかと見渡してみるが、見渡す限り同じような風景が続いている。これそのうち13kmも直線距離で制覇しないといけないの?普通に嫌なんだけど。辟易とするわ。
そのまま体感で500mも進んだところだろうか。少しずつ岩のサイズ感が小ぶりになってきて多少歩きやすくなってくる。川の付近は岩場なんですよってことなのだろうか。マップを見える範囲で見る限り、川は東の森の南北を縦断してそうな気配だ。という事はどこから攻めてもあの岩場には遭遇するんだろうな、と諦めに似た気持ちを抱いて小さく息を吐き出した。
しかし幸いなのはあの岩場には小鬼くらいしかいなかったことだろうか。今後も遭遇しないことを切に願う。多少歩きやすくなったことで進む速度が上がれば意気揚々とは言わないまでも少し気が楽になる。エネミー表示もないならば機嫌も上向くと言うものだ。
ま、油断した時に来るよね解ってた!
マップに灯る赤い点に最早予定調和だよねと思いながら視線をそちらに向ける。どうか小鬼であれと思ったけれどまぁね、あいつ視界に入ったらこの森の中なら割と目立つ色合いだから違うよね解るー……
さてこちら、新たに現れたエネミーでございますがまたしても爬虫類系。
いや、割とヤモリとか嫌いじゃないからいいんだけどね?爬虫類系なのはいいんだよ。フォルムとしては嫌いじゃないし、よく見るとつぶらな瞳をしているよねトカゲとかもね。
でもね、お前は違うわ。つぶらな瞳とかじゃないわ。何で目が六つあるの?そしてそのどれもがつり上がってるの?は?
あとね、トカゲとかヤモリは許せても蛇はちょっと……いや、差別じゃない。差別じゃないよただちょっと苦手なんだよお前のその長い身体な。それにしても長すぎるのではないかね?あとえらい立派な太さのある御身体であらっしゃる。つまり、でけぇんだよお前。アナコンダじゃねぇんだから勘弁してよ。あとその黒光りする鱗、東で流行ってるの?ツヤツヤと陽光を反射して光る鱗は硬そうで、小鬼の槍なんぞ通りそうに無いなぁと思う。
小鬼ってどうやってこの森で生きてるんだろう。不思議だな。
頭頂部にはやっぱり角がある。少し短めの角が二本、つんつんしている。
そして当然のようにこちらを『視て』いるように思える。ちろちろと見え隠れする舌が獲物を見つけたと語り掛けてくるようだ。
うーん、こいつも熱感知ということか。あれだけ目が多いということは感知は目でしていると思っていいだろうか。
とりあえずブラインド・フォグを撃ち込んでみた。
そうしたら、急に視界を奪われたことに激高したのか目算で9mはありそうな巨体がもんどりうつようにのたうちながらびたんびたんと暴れて周囲の木々の太い枝をへし折りまき散らせ、牙を剥き出しにしながらシャーと威嚇音をさせつつとにかく破壊の限りを尽くそうとし出した。
あ、ダメだこれ危ないわ。
追加でスタンをくれてやれば電気ショックを喰らったかのように痙攣してそのままズシンと音をさせて地に伏せる。
チラと両親に目を向ければ顔面で、うわぁ、と言っていた。顔芸は遺伝なのか。大変豊かな表情であることだ。
とりあえず場を離れよう、と手で示せば頷きが返ってきたので相変わらず東に進んでいく。
結局ブラインド・フォグ一択は危険であるということが解った。もうちょっと距離が近かったら多分最初の大暴れに巻き込まれて大怪我は免れない。やべぇやつだなアイツ。
でも何故だろう。獣と遭遇した時のほうが余程にひやりとした。いや、蛇だって割と俊敏に動くし、なんならあいつら泳ぎも達者であるのも知っている。絞め殺されるのも嫌だし牙で噛み殺されるのも嫌だ。丸呑みの踊り食いなんてもってのほかだ。あとあの尾で張り倒されるのだって遠慮したい。攻撃性は充分に備えているのに、恐怖心が少ない気がした。異形感が少ないからか?あの背中から何か生えててそれが動いてるとかだったらもっと生理的嫌悪とかも相まって震え上がる程の恐怖に襲われたのだろうか。
もしくは慣れてきた?この劣悪な環境に順応してきた?
したくねぇわー……もっと平和でほのぼのとしたスローライフ送らせてほしいわぁ……。
げんなりとしながらもマップは確認して、あの蛇が動き出してこっちへ来ないか警戒は怠らない。アレに追いかけられたら多分最初のコモドドラゴン擬きよりは早い動きで追跡してくることだろう。なんせ身体がでかい。進む力も体格相応なのではないか。
次はスタンしてからブラインド・フォグだろうか。それともスタンだけで逃げてしまうべきか。ブラインド・フォグがしっかりと効果を出しているのなら、追跡からも逃れることができる筈なんだが……うーん。
早足で歩みを進めながらも悩みは尽きない。
それにしても東も一筋縄ではいかないなぁ。序盤でこっちに来てたらそれはそれで積んでたな。相変わらずの積みゲーっぷりに涙が出そうだ。
せめても攻略のヒントとかどっかに落ちてくれててもいいと思うんだけど。イエクサに森について聞いてもあいつここは深淵の森ですとしか言わないし。そのくせ薬草ポイントは教えてくれる謎仕様。なんなのあいつ。親切なんだか不親切なんだか解らんのだけど。
ちょいちょい母がその辺の草摘んでインベントリにぶちこんでいるので薬草探索は後々楽になるだろうか。でも東の森には今作れる薬草生えてないよね。龍の鱗とやらが無いとどうしようもないよね。でも後々必要になるから頑張って頂きたい。
そういえば、前回西の森で摘んで帰った草の内、二種類程が薬草だった。ミドル・ポーションの材料と出たのだ。いやまぁまるで足りないけど。でも見た目が解れば次に見つけやすいのでラッキーだった。
ちなみに、ポーションの材料は月シリーズであるらしく、残月草と如月草の二種類がゲットできたのだ。あと他に必要なのが月虹草と月雫草、それから雪月花だとさ。名前だけは綺麗なんだけどなぁ。見た目も相応であればいいのになぁ。
はぁ、と肺から溜息の代わりに深めの呼気を吐き出した。相変わらず白く霧散するその吐息は寒々しいが、大概歩いているので身体はもうずいぶんと温まった。むしろ少し熱いくらいだ。
熱が上がれば熱感知の連中に見つかりやすくなるのでは?とも思えるのが難点か。寒くて凍えているよりは余程マシだけど。
しかして、マップの端に爬虫類どもがひっかかった時点でスタンとブラインド・フォグを作動させれば逃げることは可能だろうと思う。そういう意味では対処は可能だ。でもまぁ複数出てきたらまずいことになるのは西と変わらない。あとは結界を張って大人しくしているしかなくなるだろう。
あの蛇にしても、スタンの時間で稼いだ距離だけでも目隠しの効果でかこちらを見失ったらしくこちらに一直線に来るという事はなかった。
それにほっと胸を撫でおろしたものだ。
ところで随分逃げ進んだわけで、そろそろじゃないかと思うのだけど。インベントリからタオルインスマホを出して確認してみる。
と、グループトークにメッセージが届いていた。
『暇すぎてしらたまさんに遊んでもらっているわけだが、ハッスルしすぎて引っかかれた。猫用爪切りどこ?』
どうでもいい。ロー・ポーション飲んでろ。
『爪切り』
10分後くらいに今一度爪切り要求メッセージが入っている。帰ったら出してやるから大人しくしてろ。
『空のへそくりおやつ食っていい?』
駄目に決まってんだろ。何故私のへそくりおやつの場所をお前が知っている。
『洗車した。あと車全台エンジン掛けてオイル回しておいた。褒めて』
よくやった。でもお前ちゃんとスキル画面見ておけ。
実にこつこつと関係ない内容でメッセージが入っているので一番大事な要件があるのかないのか解らないし、最新メッセージまでたどり着かない。こいつ一人にするとろくなことしねぇな。
『そういえばレベル上がらない件について』
まぁ距離は今最大値が西だからそりゃそうなんだろうよ。やっぱり方角変えたところで距離カウントは回らないらしい。残念。
トーク画面をスクロールしつつ、一番下まで行けば
『clearなった。帰ってこーい』
およそ15分前にはそのメッセージが送られていた。5km難しいよ!余分に歩きすぎたわクソが!
歩きスマホ状態で確認したそのメッセージに、ぴたりと足を止めて両親を振り返ればこてりと首を傾げて母が疑問を表現する。それにスマホの画面が見えるように差し出せばあー、と言わんばかりに頷いてくるりとターンした。はよ帰ろうという事だろう。
親父にも目を向けたなら、了解と言わんばかりに親指を立ててこちらも踵を返して帰り路に着く。帰りはマップが開拓されているからエネミー表示が解りやすくていいよなぁとしみじみ思う。
インベントリにスマホをしまってから、とりあえず今回は結界の世話にならずに帰れそうだなと安堵した。
蛇とかトカゲモドキとか、帰りに遭遇しませんように。




