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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
森とのつきあい方
20/124

20

結局一週間で海の足は治らなかった。

普通にしていれば痛みはないらしいが、階段の上り下り等足首に負担が掛かる動きをした時にズキリと痛むようで、よく階段で手摺に捕まりながら片足引きずりながら歩いているのを見かけるようになったのだ。これ、もしかして自然治癒しないレベルなのでは……?

……殺虫剤ほしいな。思わず殺意の波動に目覚めそうなくらいに業腹である。

いや、無理をさせた自分にも腹が立つ。もう最悪木の上で一晩明かすくらいの覚悟が必要だったのかもしれない。それならせめても追いポーションで治っていたかもしれないと思うと悔しくてならない。

こうなったなら、やはり薬草採取を早々に行う必要があるだろう。最悪野宿くらいしてみせるよおねーちゃんは。絶対にお前の足を健常な状態に戻してみせる。

待っていろ。そして一緒に西を制覇しよう。


「さて、んじゃあ行ってくるわ」

すちゃっと片手を上げて親父が海に言い放つ。

そう、今日は両親と一緒にスリーマンセルで東に直進5km程行くのだ。


結界は取得した。魔力アップ修行を始めた翌日いきなり取得できたのだからもう本当におちょくってんのかと言いたくなったが、それはそれとして……この結界、非常に使い勝手が悪い。結界が張れる範囲はおよそ二畳分のスペースで纏うなどと言うことは先ずできない。

だがこの結界の効果は自宅結界とほぼ同じで、中に居れば先ず敵に認知されなくなる、音も漏れない、攻撃も通さないし物理的にも接触させない不思議空間ができあがるのだ。時空歪んでんの?と聞きたくなるような効果ではあるが、一度展開さえしてしまえば中にいる限りは安心安全なのは間違いない。しかしコストで言えばクリーンおよそ50回分と来たものだ。暴利な商売してやがる。その上一度張ったら8時間固定で、途中で消すことは可能だが消したところで魔力が返ってくることはない。返金制度ならぬ返魔力制度はございませんというあくどいやり口に驚きを隠せない。

しかして、あるのとないのとでは安心感が大違いだ。3人いれば4回ずつ、合計12回使ってもまだリトライ一回目よりも魔力が残る。これで駄目ならもう何しても死ぬだろ絶対。

まぁそんなわけで安全度は段違いに上がったので、ドラッグストア目的に東へ繰り出すのだ。

もんの凄く不満顔で海はぶすくれつつも、玄関先まで見送りに来ては絶対に無理はするなと、危なかったら結界ちゃんと使えと口酸っぱく言ってくる。心配性め。

でもまぁ、見えないところで何かあったらと思うと不安で仕方がないのは解る。正直私も見えないところで危険な目に遭われるくらいなら一緒に行動したいタイプだ。だからこそ同行するわけだが。一緒にいたところで何ができんのお前とは言うなかれ。気持ちの問題だ気持ちの。


そんな海にも一応仕事がある。ドラッグストアがclear表示になったらメッセージを送ってくるという仕事だ。

大体このくらいだろうと思える場所まで行ったなら状況が許す限りこまめに確認して、帰れるタイミングで早々に帰りたいと思う。無暗に遠出してまたわけの解らん新キャラが出てきたら目も当てられない。

進む方角が変われば出てくる生き物もまた変わってくるかもしれない。そうでもないかもしれない。実に計り知れないが、できれば対処しやすいのがいいなぁ……もし対処しやすかったら西ではなく東を攻めてしまうのも手だろうと思う。

そもそも人里が東西南北どちらにあるかすら解らないのだからどっち行っても同じと言えば同じなのだ。

とは言え今日は5kmだ。昼までには帰れる予定のお出かけだ。無事に帰ってきて家族で食卓を囲んで午後のひと時を過ごせるよう頑張ろう。

隠密仕様にスキルを作動させ、沈黙を守りながら東へと歩みを進めれば、相変わらず鬱蒼とした森が結界の外からは出迎えてくる。

冷たい冬の空気に吐き出す呼気は白くなり、心なしか鼻が痛い。もしかして西より寒いのか、こっちの方角は。きっと赤くなっているのではないだろうか。

この森にぶち込まれてからもう少しでひと月が経つ。なんだかんだで身体能力向上の恩恵か、少しずつ余計な脂肪が削がれてその影響もあってか寒い。

木々の合間を縫うように歩けばすこし足元がゴツゴツしている。柔らかな土の上を歩く感触よりは、岩の上を歩いているような感触だ。まさか東は岩盤メインの土地だったりしなかろうな。そこまで東西で環境が違うとか、そんなわけの解らない話はやめて頂きたい。

土より衝撃を逃がさない分、足が疲れるのは見えているではないの。岩塩がこの先にあるというのならそういう事もあるのかもしれないが、それにしたって節操のない森だなおい。

とは言え木々は普通にその岩盤を貫いて根を張っているということだから、そこまで頑強な造りではないのか……わからん。もしかしてこの森の木って滅茶苦茶強いの?最強なの?いやまぁ、幹が太いし立派な木が多いのは認めるところではあるが。そこまで我の強い木って何なの。どこまでも理解の範囲外だわ。


しかして、どうやらその予想は当たっていたらしく暫く歩いていくと木の密度が減っていく。その代わり、足元に岩が剥き出しになっている箇所が増えてどうにもこうにも歩きにくい。その上木が減ったと言っても西の森より少ないだけで、決して視界良好という訳でないのが解せない。多少陽光は入りやすいのか、自宅周辺程度の明るさがあるのが救いだろうか。朝の爽やかさを感じるくらいには明るい。

上を見上げれば木々の枝葉の合間から、青い空が見えている。雲も白く棚引いて、空の様子は異世界でも変わらないんだなと今更意識的に認めてほっとした。こんな些細な事を気に掛けるだけの余裕すらなかった事に少しばかり苦い思いだ。

そりゃまぁ、突然日常が瓦解すれば浮足立つのも仕方がない事だと思わないだろうか。その上しょっちゅう理不尽な思いをしている気がする。憤りと混乱と、現状を打破する事への情熱で頭がいっぱいになるのは普通だと思う。

未だに毎日ふざけるのも大概にしろ、と思ってはいるが……それはそれとして空を確認する程度の余裕ができたのかと、しみじみとした心地である。

ふぅ、と細く息を吐き出せば白いそれが霧散する。本当によく冷えるな東は。

なかなか末端が温まらない。歩いている以上少しずつは体温は上がっているし、身体の芯には熱が灯っている感覚はあるのだが、足先や指先はじんじんと冷えてどうにも冷たい。特に足は、岩盤故にかそもそも地面が冷たいのだろう。


不意にカツンと、石が転がる音がする。

まさかに足元の石ころを蹴り転がしたなんて不用意な真似をしたのかと両親に目を向ければ揃って明後日の方向を見ていた。釣られるようにそちらに目を向ければ

――小鬼か。……小鬼か?

何かいた。

フォルムは小鬼だ。だがしかし、微妙に違うんだがこれ何ですか。環境によってこいつら色変わるの?は?

サイズ感はいつもの小鬼だ。けれど色が、いつものなんだ、くすんだ緑みたいな色ではなくて今度はくすんだ黄色なんですが。黄土色と言っても別に構わないかもしれないが、それにしては明度が足りない。やっぱりくすんだ黄色だ。頭から生えている角が今度のコイツ三本あるんですが。しかもえらい短いのが三本。吹き出物が進化して尖りましたか?いや流石にそこまでは小さくないが、それにしたって小さい三角錐がぽつぽつぽつと三本禿げ散らかした額を飾っている。……禿げ散らかしたとは言うものの、こいつらに頭髪が存在しているかどうかすら解らないのでデフォルトならすまん。

手に持つ獲物は西の小鬼に比べたなら太さの足りない木の枝で、こん棒と言うには貧相だ。けれど、刺突武器ですと言われたらそうかもしれない、と納得できる程度に先が尖り気味なのであれは槍なのかもしれない。

うーむ。という事は打撃より刺突が必要になる外敵がいる土地だと言うことだろうか。何がいるんだ真面目に勘弁してくれ。あと相変わらずスタイルは餓鬼っぽく腹がでっぱりその他はガリガリで、栄養足りてなさそうな感じは東西統一事項だった。


そしてこちらを華麗にスルーしてくれる安心感も同じであるようで、全く視認されている気配がない。いやぁ、小鬼は見つかりさえしなければ本当に安全な連中だ。どうかそのままでいてくれ。両親と顔を見合わせたなら、クイと親指を立てて進む意思を伝える。当然足元の石など転がさないよう充分に注意しながらその場を離れていくのだ。

しかし、これもしかして東西南北で小鬼の色が違うのだろうか。そして東西南北で環境も違うのか?どうなってんだこの森。どこが一番進みやすいか調べる為にスキル取得で距離縛りがあるとかなら、まぁ必要な事だったのかなと思わなくもない。腹が立つのは変わらないが。

しかし西の森に比べて低木が少ないので枝葉を避けて歩く手間がない分距離が稼ぎやすいなぁと思う。もしかして東に行った方が早いとこ森の外に出られるのでは?

などと考えている時に、マップに灯る赤い点。先程通過したあたりだ、と振り返ればのそりとそいつは姿を現した。

爬虫類系、だ。

何か昔なんとかチャンネルで見たコモドドラゴンを彷彿とさせる立派な四肢と陽光を弾く爪。だがちょいとばかりサイズ感に物申したい。でかいんだわお前。何その1.5mはありそうな本体。しかもそこから伸びる尻尾も随分立派じゃないの。ビタン、と地を尾で叩けば地面の表面が砕けてカラカラと石が生まれる。この辺妙に足元石転がってると思ったらお前が犯人か!

外皮は鱗で覆われているのだが、それ随分堅そうな鱗ですねと言いたくなる黒光りするそれであり、ついでに額には例のごとく立派な角が一本ある。この森角持ちでないと生きていけないの?と思わず聞きたくなるくらいに角持ちが多いよね。鬼の系譜なの?

あとはやはり居並ぶ牙が肉食感を演出している。ギザギザと並んだ牙達はどう見ても草食ではない。どうせこいつも主食は小鬼なんだろ。

しかしそれくらいの特徴であれば、割と異形っぽさが少ないなぁと思えるあたり大分毒されている。


距離はそれほど直近という訳ではない。なので見つからない内に逃げてしまうべきだ、とまた進もうとハンドサインをしようと腕を上げたなら、爬虫類がぐりんと首をこちらに向けたではないか。

ばちりと目が合う。

――は?

いや、ちょっと待て。ちょっと待て。

おかしいだろう、こっちは隠密スキルマシマシで搭載しているし、今の動きで何一つとして物音は立てていないはずだ。もしかして衣擦れの音すら許さないとでも言うつもりかお前それはおかしいだろう!木々のざわめきで相殺される程度の音でしかない筈だ何でこっち見たんだ

ひゅ、と呼気が詰まる。

これは見つかりましたわどう考えても。ダンッ、と爬虫類がその前脚を力強く一歩踏み出すと同時にスタンを叩き込み両親に肘から先を振って急いで場を離れる!と伝えたならば足早について来る。

なるべく音を立てないよう気は使うが、距離を離れなければ。

いやでもあいつ、何を以てこちらを視認したんだ?距離を離れたところで意味があるのか?

マップをちらちらと見ながらざくざくと早足で歩を進めると、赤い点が動き出す。間違いなく、追ってきている。その速度は獣程ではないが速い。

まずいな、と背筋が冷える。アレが何を目印に此方を認識しているのかが解らないのが一番まずい。

どうする?どうすればいい。

ひたすらスタンしながらこの先の道を歩き続けるなんて精神的に持たない。多分あの尻尾ではたかれた時点でジ・エンドだろう。岩をも砕く尻尾ぞ。骨くらいなら持って行かれそうだ。

とは言え今できることはそれしかないのも現状。どうしよう、どうしたらいい。

悩みながらも、奴が見えたら今一度スタンを叩き込む為に両親に先に行くよう手でサインしようとしたなら、親父がおもむろにポケットから何かを取り出し奴のいる方向に大きく振りかぶってぶん投げた。

ガサッ、と音がして木々の向こうに消えたそれは白い塊に見えたが……何をしたのか?

あと肩強いっすね。結構な飛距離でぶっ飛んでいった代物が何であったのかが解らない。けれど、目を合わせたら特に反応もなく行くぞと手で示される。


後ろを気にしながらも最後尾を歩いてスタンの準備をしながら歩いていると、マップ上で赤い点が止まるのが見えた。

何故に?

ひたすらに疑問でしかないが、逸る気持ちそのままに足早に距離を開ける為東を目指す。

どのくらい距離が開けばアレはこちらを諦めるのだろう。アレの足を止めたのはきっと親父が投げた謎の物体だろうとは思うのだが……それが何であるのかも解らない。聞くに聞けない。会話というコミュニケーションが取れない現状が歯がゆい。スマホ出してる余裕もないし、実にもどかしい思いだ。


そして東へと歩を進めていたなら空気の匂いが変わった。むっと湿度を増して土の匂いが強く感じられるような気がする。雨の降る前のようなにおいだ。生えた木がまばらになって行き、それでもそのまま進めば私の身長程度の幅のある小さな小川が流れていた。

川ってさぁ、山の水が海に流れるものだと思っていたのだけれど……森の湧き水でもできるのかな。流れてゆれる水面は陽光を弾いて宝石のように煌めいている。マップに赤い点がない時点で水生の敵はこの水場にもいないということだろう。水深はあまり深くなさそうだが、水が澄んでいるからそう見えるのか本当に浅いのかは解らない。

そしてこの川がどこを起点に流れ出して、どこを終点にしているのかが解らない以上渡らなければ東へと抜けられない。

このクソ寒い中、靴が水浸しになるなど絶対に嫌だ。だからと言って長靴があるわけでもない。

困ったな、と思ったならまたしても親父がいそいそと動き出して、インベントリから何かを取り出す。ごそ、と取り出したのは木の根が混じった土だ。もそ、もそ、と飛び地のように土を盛って足場を作って行く姿にこの爺さんの臨機応変さにいっそ尊敬の念を覚える。

でもその土何故にインベントリに入れてたの?と言うか家の周り掘りすぎじゃない?いや、役に立ってるけど……うぅんと感心と同時に謎すぎる行動力にもしかしてこの爺さんサバイバル向いてるの?と思ってしまう。


それほど広い川ではなかったので飛び地ができたならそこを渡ってしまう。

そして、渡った先で初めて親父がスマホを取り出したので、それに倣い私も母も取り出す。

『さっきのトカゲモドキ、多分熱感知だなー』

『熱感知?投げたあれ何?』

『使い捨てカイロ』

『まさしく使い捨てたのね。熱感知だったらステルスしてても見つかるわねぇ』

どうするの?と母が目で聞いてくる。いや、どうすればいいのさそんなの。

『最終的には岩塩地帯まで行かなきゃならないなら、対策は必要よね』

『目で熱を測るならブラインド・フォグで何とかならんか?肌感知ならもうどうしょーもない』

あー……ブラインド・フォグねぇ。そういえば今のところ使ってないな、とその存在を思い出す。今の魔力なら多少使ってもそれほど苦しい状況にはならないし、次はそれを試してみるか。

……しっかしこの爺さん頼りになるな。体力もあるし正直親父とツーマンセルでもいい気がしてきた。でもスキルを使うには一歩遅れるのが難点なのだよなぁ。物理でなんとかしようとするところがある。

『まぁ、俺が共有したい情報は今のところこれくらい』

『了解、ありがと』

最悪使い捨てカイロの大盤振る舞いでもなんとかなるかもしれないか、とひとつの手段として考えておこう。資金問題がまたしても浮上してくるのでその場合東はやはり後回しになるだろうが。

そしてスマホをインベントリにしまってさあ進むか、と言う空気になったところでグループトーク画面に海からメッセージが流れてくる。マップで見てもまだ5kmには遠そうだが……?

怪訝に思いながらメッセージを確認したなら

『暇すぎて巻きたばこが100本出来上がってしまった』

と、写真画像付きで送られてきていた。

知らねぇよ!くっだらないメッセージを送ってくるんじゃないわこのバカタレ!あと最近加熱式タバコのストック切れたと思ったらそんなことしてたのかお前。確かに加熱式タバコの前は紙巻吸ってたもんね。フレーバー自分でブレンドしたいとか言ってネットとかで葉タバコ買ったりしてたもんね。だからって今内職みたいにエンジョイしてんじゃないわ。ポーション作ってろ!

『有罪』

『いやん。無事でなにより』

それだけの短いやりとりをして、インベントリにスマホを叩き込む。

全く、へそから力が抜けるようだわ。

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