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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
森とのつきあい方
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16

奴らから離れて暫くして、またしてもマップに赤い点が出現した。

もういい。もういいんだ。出てこなくていいんだよ。

もっと平和に過ごしたいんだ。

溜息を吐きたい気持ちをこらえて、赤い点の方角に目を向ける。今度は何じゃい、ともういっそやさぐれているくらいの心持ちで見やるその方向には、特に何か変化らしいものはない。


はぁ?である。

だってマップさんが居るって言うんだもん、何かいるでしょうがよ。

わけわからんね。海と顔を合わせてお互い首を傾げる。

どういうこった?


とは言え、エネミー表示がある以上その方向は進まないのが適切だろう。不可視の敵とか、もしかしたらこちらと同じように認識できないだけなのかもしれないし……

しょうがないのでまた進む方向を変えることにした。

もう大概迂回させられているが、安全には替えられない。危険の気配を感じて尚そこに突撃をするほど我々は命知らずではないのだ。そんな勇猛果敢とも無謀ともとれるような行動はしない。

しかし不可視の敵、ともなるともうどうしたらいいのか。エネミー表示は微動だにしないので、こちらも認識されてはいないのだろう。

そそくさとその場を後にしながら、じわじわと西進していく。


随分と歩いた。

迂回が多いのが口惜しい。けれど、マップは確実に進んでいる。直線距離はどの程度稼げているのか、それは解らないにしても少なくとも多少レベルは上がっているはず。

今後の為に野宿をする準備もしなければならないなら、今回のレベルはショッピングに注ぎ込んでみるのが手だろうか。

それとも薬魔の種類を増やす?正直あの獣の爪が軽く触れるだけでも大怪我は免れない、はず。スタンやバインドが間に合うかどうかすら、先程の動きを見ると自信がない。奴ら無茶苦茶早いんですわ。流石獣。瞬発力がえっぐい。


まぁ上がったレベルを確認してからの話なので今考えても仕方がないのではあるけれど。

あと、ちょいちょい骨落ちてるんですけど。この方角。

あいつらの巣とかあったりしないだろうな。絶対嫌なんですけど。


視線を巡らせて、ふと上に目を向けてみた。

「――っぃ」

あっぶねぇ。声出るとこだったわボケ!ちょっと出た?出たな。すまん。

バッと海が振り返り、その顔がこのクソボケ!と言っている。ホントすまん。


でもな、お前。

木にな、何かな、ぶら下がってるんですわ。

思わず首を振りながら手振りでごめんごめんと必死に謝りつつ、あれあれ、と指で上を示せば海も喉の奥で息が詰まったみたいな、声が出そうで我慢しきったみたいな呼気を零して物凄い渋面を作った。

マップ画面には赤い点はない。ということはこのぶら下がっている何か、まぁ直接的な言い方をすれば小鬼の死骸なんだが……これは私達に害のないものだ。精神的な害はあるけど。


何なのこの森。何で木に死骸ぶらさがってんの。全然意味不明ですわ。

百舌鳥でもいんの?百舌鳥的な何か?

でも鳥類の気配なんてまるでしないじゃないのよ。鳥の一羽も見かけないし、羽ばたきの音も今のところ一度も聞いたことはない。

となるとこれは何?


しかし、小鬼はあれか。森の中では食物連鎖のピラミッドで言えばかなり底辺なのだろうか。

……私達もピラミッドで見れば最底辺だな。こりゃ。絶対勝てる気がしない敵しかいない。なんなら小鬼と殺し合いに発展したところで這う這うの体で逃げるのが精一杯なのだろうよ。

小鬼を吊り下げているのは何らかの蔦植物なのだろう。なんなら蕾がついているから花でも咲く植物かぁ……

もうね。唐突なグロは本当にやめてほしい。メンタルもたない。

心臓がどきどきと鼓動を打つのが耳の奥にまで響いてくる。本当にびっくりしたんだわ。


ふぅ、と少し深めに息を吐き出した、その瞬間

蔦植物の蕾がふるふると震える。え?蕾って震えるの?は?開花するのにそんな早送りみたいな演出しちゃうの?

そして、ふるえる蕾と同時進行で小鬼の死骸がみるみると枯れていくのが見える。ええ……?

戸惑いと驚愕がないまぜになって呆然としていると、海がぐいと腕を引いてくる。

なんぞ、と思いながら引かれるままに少し小走りでその場を離れて行くと、ぽん、と妙に間抜けな音がしたと思ったらマップに赤い点が灯った。

つい先ほどいた、あの場所に。


え?と思ったなら、ざざざと草木を這うようにして蔦が走って追いかけてくるではないか。

巻きつけた小鬼の死骸を引きずりながら、花に見えなくもないがどう見てもそれ口ですよねふざけんな風情がねぇわ!という形の半分植物みたいな何かが花粉らしき黄色の煙を纏いながら差し迫ってくる。


あ、これあれだ。

視覚・嗅覚・聴覚どれにも頼らない系の敵ですわ。

って、ふざっけんな!死ぬわ!

多分これ神経とかないわー!と思ったなら選ぶスキルは一つだけだ。バインド。

魔力が鎖となって花のような異形に巻き付いて絡まる。同時に海も作動したようで、小鬼の死骸も纏めてぐるぐる巻きになっていくのを視界の端に捉えて音とかそんなこと考えずにその場から二人脱兎で駆けだした。


あれは卑怯だろう。こちらを何で知覚しているのかが解らないのが末恐ろしい。

根とか何か、張り巡らされているわけ?それ踏んだらアウト?

じゃあどれが根なの?蕾の状態ならマップさんすら欺いてしまうわけ?

もしかして、先に知覚できなかった不可視の敵はアレなのかもしれない。違うかもしれない。

けど、開花した状態で獲物がテリトリーに入るのを虎視眈々と待つタイプの敵ならあり得る。今回は開花直後にテリトリー内に私達が居た?だから追ってきた?

どの道今できることはとにかく逃げることだ。心臓が痛い程跳ねている。けれど、パニックにはなっていない。ありがとう精神頑強。君のおかげだ多分きっとおそらく。

じわりと汗が滲む。熱いわけじゃない。むしろ寒気がするくらいですが何か。


相変わらず殺意が高い。あんなもんどうしようがあるのか。

除草剤でも撒くか?あ、いいかもしれない。でも罪のない森の木々まで犠牲にするのはどうなのか。いやまぁ正直ちょっと減っても問題ないような気がする。そもそも青鬼に踏みつぶされてるんだから私達が身を守るために除草剤撒いても許されないだろうか。

まぁ、ないけどな。そんなアイテム。

ホームセンター切実に求む。

でもその前に薬局な。大人のおむつとか無いとやっぱり不味い。正直びっくりしすぎて膀胱が超刺激された。しかもそんな状態で走っている。これ漏れたらどうしよう。いい年こいておもらしはしたくない。


無我夢中でとにかく逃げる為に走り抜け、時々はマップを確認しているが幸いにも赤い点は出現しない。

結構無理な進路で走っているのでかなり一気に西に進んでいるのも確かだ。それを喜ぶ余裕は残念ながらないし、帰りどうすんだよこれ……とも思う。

それでも、息が上がって肩で息をする頃に唐突に、森が途切れた。

ぶわっと空気が変わる。

急に開けた視界に一斉に陽光が降り注ぐのが眩しい。

思わずそこで足が止まる。いや、止めざるを得なかった。


眼前に広がるのは湖だ。このまま走り抜けたらドボン間違いない。それなりの広さのある湖の淵に沿って森が途切れている。

その為に空が開けて陽光が差し込み、水面に反射してきらきらと目に痛い。

エネミー表示はないという事は、この湖には水生の敵はいないということでいいのだろうか。

はっはっと息をしながら、急に世界が変わったような静謐な空気に暫し呆然とする。そうかと思えばどっと疲労が身体にのしかかり、座り込むまではいかないが両手を膝について上体を傾けて強張った身体から少し力を抜いた。

海も似たようなもので、こちらは腰に両手を当てて上空を見上げて大きく口を開けて酸素を取り込んでいる。


数分、そうして呼気を整てからインベントリから水を取り出し一口含む。口の中がカラカラだ。喉もはりつくような不快感を訴えている。

あと、何か知らんが末端が痺れているんだが……疲労でこうなるものだろうか。走っている最中何度も手足が縺れそうになったのだが、動揺からくるものだと思っていたのだけれど……もしかしてこれ妙な植物にでも触れて状態異常起こしてんじゃねぇだろな、と念の為自分を鑑定してみると


【神経毒状態:死樹見草の花粉に含まれる毒素によるもの。経過時間と共に重篤化する傾向有】


はー、へぇ、ふぅん……?

花粉、ですか。そうですか。

範囲攻撃とか、するんすか。


鑑定結果に思わず真顔になってしまう。は?である。またしてもは?である。

花粉、とか。どないせよと?

ああ、いや。うん。とりあえずここで、初お披露目のロー・キュアポーションの出番ですね?ええ、わかります。

インベントリからロー・キュアのペットボトルを取り出してプリンカップに注ぐ。それを海が怪訝そうな顔で見てくるがとりあえずそれをくいっと飲み干し……飲み干し……うへぇ。甘苦い。

決して美味しくないんですがこれは仕様ですかお前ほんとふざけんなよ。

眉間に皺を寄せながら、タオルに入ったスマホを取り出して見せると海も同じようにスマホを出す。

『神経毒だと。さっきの花だと思う』

『マジか』

『お前も飲んどけ?不味いけど』

『マジか』

とりあえずプリンカップにもう一度注いで海に渡すと飲み干してから舌を出して不味い、と顔で表現してくれた。なかなかの顔芸である。

『ところで相談がある』

ひとしきり顔芸をしてから、海から相談が持ちかけられる。

なんぞ?と顔を見て続きを促せば、少しバツの悪そうな顔でメッセージが流れてきた

『御小水を』

ああ、うん。それな。

わかるわ。

『激しく同意』

それにしてもお前、何故に表現が御小水なのよ。恥じらってんじゃないよ。チンピラの恥じらいとか需要ないんだわ。私以外。

『穴掘って周囲警戒しながら交代でよき?』

インベントリにポーションをしまい、かわりにスコップを取り出して聞けば、頷きが返るのでとりあえず足元にザクっとスコップを刺す。

土かってぇなおい!


足も使ってちょっとした穴を掘って、マップも確認しながらなんとか出すもの出して埋めておく。

とりあえず少し落ち着いた。

あと、ロー・キュアの効果がちゃんとあるのかどうか確認するために今度は海が鑑定をする。何故か対象は私だが。

『健康体ってよ』

『お前は?』

『俺違和感ねぇし。まぁお前が大丈夫なら俺もロー・キュア効いてんだろ』

まぁな。そうだけどな。


しっかし、死樹見草ってあれかなぁ。シキミにかけてんのかな。あいつ毒性強いし。それとも死期を見るとか?まぁどっちでもいいと言えばいいのだけれど、物騒な名前が判明してしまった。ろくでもねぇな。


『おい、この湖』

『なんぞ』

『鑑定してみたら、ポーションの材料だってよ』

何故鑑定したのか、その行動理由のほうが知りたいわ。

『マジか』

『マジ』

ええ、じゃあこれ汲んで帰るくらいの事しないときっと母からクレーム来るわ絶対。

ちらりと袖の下の時計を確認したら、もうあと30分もすれば正午になる。となれば、今日はここで水汲んで引き返すことになる、か。

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