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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
森とのつきあい方
13/124

13

さて、起きてきました母さんが。

琴子さん、毎日快眠で何よりです。朝食取って食休みがてらだらだらとくだらない話をしながら

「そういや、計算してみたんだけどな」

と、親父が切り出す。

「何を」

「いや、クリーンが一日5回使えるようになるまでに何回すっからかんになる必要があるか」

……うわぁ。流石数字に強いなこの爺さん。

「7回、すっからかんにする必要がある。まぁ7回したら6回は使えるようになるけどな」

「一日1回やっても一週間かかるのな」

「で、10回すっからかんになれば13回クリーンは使えるようになる」

うーん、早いんだか遅いんだか。

「ちなみに、2週間で39回。端数は0.37376だそうだ。ひと月も続ければ2619回」

「分母が増えたら加速度的に上がっていくわけな」

「ただ、そんな阿呆みたいにすっからかんにできる算段がつくとは思えないので毎日すっからかんは現実的ではないだろうなぁ」

それもそうだ。

「消費の多いスキルをインストールするにしても、限度はあるだろうしなぁ」

結局、使えるようになる魔法スキル次第でどの程度上げて行けるかが変わってくるわけか。


「なら、とりあえず薬魔技師と鑑定いっちゃう?」

「待って。待って。薬魔技師はまぁいいとして、鑑定は朝食消化してからにして」

「まぁそうよね。洗面器とバケツ持ってくるのはちょと嫌だものね」

「まぁ薬魔技師インストールしたらとりあえずゴミ燃やそうぜ」

燃やすことに大変前向きな弟の将来がおねーちゃんは心配ですよ。


さて、そんなわけで薬魔技師のインストールですが。


もうね。解るな?

知識系のインストールは頭痛がセットなんだわ。これきっと基本なんだわ。あと魔力の使い方とかも知らなきゃならないようで、また左のみぞおちあたりが熱を持って結構痛熱かった。七転八倒する程でもないけど、キツイのはキツイというのはデフォルトなんだと半分以上諦めておくしかない。


で、薬魔、所謂魔法薬作りの入門編インストール完了しました。

なんと、お得なことに魔法薬を作る際使用する薬草の乾燥や粉砕に必要な魔法、この使い方もちゃんとセットで覚えられた。すごい!なんてお得なセット商品なんだ!ショッピングとは親切度が違うな!


でも、だ。

入門編だ。

当然ツリーが生まれるよね。知ってた。


【薬魔技師】

・初級魔法薬(済)

・中級魔法薬

・上級魔法薬

・特級魔法薬

・アラカルト


アラカルトって、なんだ。

これ一品料理とかそういう、料理屋さんで見かけるあれだろ。え?なに?症状に応じてお好みのお薬作れるようになりますよ的なあれなの?ちょっとわかんないんだけど。なんでそういう意味不明なものぶっこんできたの?

まぁ余裕が出たら取得する程度に置いておこう。

そんなことより。


「現魔力では一個も作れない件について」


そこよ。

今の時点でできることとして、まず乾燥したら魔力が尽きる。粉砕しても魔力が尽きる。そしてそこから調合しても魔力が尽きる。仕上げにさらに魔力が必要。

「……全員で、一個ずつの過程をこなしたら何とかひとつ作れる、か」

親父が計算表を見て呟く。

「一人一個作れるようになるまでに6日掛かるわけな」

「ちなみに、二人で一つ作れるようには?」

「明後日には」

魔力を順調に伸ばせばそんな感じらしい。

「結構効率的に魔力鍛えられる、か」

「ついでに薬を備蓄できるなら御の字かねぇ」

「問題は薬草があるかないか」

そこだ。

「そればっかりは鑑定取ってみてちょっと外出ないと解らないわねぇ」

結界内でまず探しましょうね、って当然だわ。

「まぁでも、この乾燥はすぐにでも使えるんじゃねぇの?」

親父が引っこ抜いた低木乾燥させて焚き付けに使おうぜ、とばかりに海が乗り気である。なるほど確かに。

でもそれは最低でも2回使えるようになってからだ。外でノックダウンされたら誰が家に運んでくれるというのだ。脱力した大人を運ぶなんてしんどい作業誰もしたくないわ。


ちなみに、初級魔法薬は所謂ロー・ポーションとか言われるブツが作れるらしい。ちょっとした切り傷とか治せる不思議薬。どうも魔力的な何かで細胞を補うらしいので、生物学的な治療とはまた異なる治療の模様。魔力的な何かって何。そしてそれ定着しちゃうの?大丈夫なの?

……まぁ大丈夫なんだろうな。きっと。多分。

あとロー・キュアポーション。こっちは病気関係に使えるポーションらしい。風邪菌殺すとか免疫高めるとかそういうのじゃないらしい。これもまた魔力的な何かで何故だか元気になるらしい。え、こわ。何それ。不思議すぎない?あと毒とかにも使えるそうな。結構な万能っぷりが尚こわい。

魔力的な何かって言えば何でも納得すると思うなよ。いや。せざるを得ないんだけど。


まぁそんなこんなで薬魔技師は思ったよりも親切セット販売だったのでほっと胸を撫でおろし、ついでに燃えるゴミを燃やす為に堀り掛けの穴まで行って、スコップ以外の物も使えそうなものは使って皆でほりほり穴を広げてゴミファイアーを楽しんだ。

まぁ生ごみ含んでるからね。なかなか燃えなかったけどな。結構頑張って酸素の通り道とか色々考えて棒突っ込みながらもなんとかかんとか燃やしたよね。

灰になった元ゴミに関しては母が、芋を植える時に切り込み入れた芋の周りに灰まぶしたら虫がこなくなるので必要、と言っていたので袋につめて保存することにした。何でこの人そんなこと知ってるの?実家農家とかじゃなかったよね。じーちゃんもばーちゃんも別に農業経験なさそうだったよね。


で、そうこうしている内に朝食は十分に消化されただろうから、後回しにしてきた鑑定のインストールを、だな。

……嫌だけど。本当に嫌だけど。

でも覚悟を決めて行うことに相成りまして、炬燵に集合したならどうせ汗噴き出すの解っているからそれぞれがタオル首にかけてクッションも用意して悶える準備万端で着座した。


今日もよいお日柄で。晴天故に窓からは木漏れ日が差し込み寒い冬の気候だというのに室内はほんのり温かい。

そんな麗らかな昼下がり、我々は地獄を見る覚悟を決めたのだ。


「じゃ、いくわよ」

さしもの母もキリリと真面目な顔で、若干腰が引けているがインストールの執行を宣言した。


『鑑定の取得が選択されました。ダウンロードを開始します』


お馴染みのイエクサのアナウンス。明滅してダウンロードをしている間にころりととりあえずクッションに身体を預けて寝転がる。

もう最初から寝転がってりゃいいよねという発想だ。どうせ痛い。とてつもなく痛い。

耐性ついてるから余計に鮮明に痛いかもしれない。超嫌だ。物凄く嫌だ。でも精神頑強のせいか覚悟を決めた以上割と受け入れる姿勢な自分が本当に苦痛。完全に毒されてるとしか思えない。


『ダウンロードが完了しました。鑑定、インストールを開始します』


来た。

ぐ、と奥歯を噛みしめたその瞬間

ガツンと脳が揺らされるような激痛が走る。視界情報は今見えているものを映していないのか、チカチカと明滅したかと思えばぶわりと異界に放り出されたような感覚に陥った。

それは知識の渦、なだれ込むように叩き込まれる何かしらの意味を持った言葉の羅列がごりごりと脳に焼き付けられているような激痛が頭を蹂躙し、果ては脳の痛みのせいか電気信号がバグっているのか身体のそこここが焼き鏝を当てられているのではないかと思う程に熱を感じて悲鳴のような声が反射的に喉を付いて吐き出される。陸で溺れてしまいそうな程、その渦は大きく息を吸う暇がない。けれど多分、吐き出した言葉の次には反射的に空気は吸い込んでいるのだろう。意味をなさない言葉を口から垂れ流しては痛みに震えて、視界すら効かない世界に投げ出されている。


そうして、やっぱり15分。

唐突にその渦は終わりを迎えた。ぷつん、と途切れたその衝動でがくりと全身の力が抜ける。

息が上がり、肩を揺らしながら短い呼気を吐き出しては悪夢から現実に戻ってきたかのような感覚を味わった。


当然全身汗まみれでべっとべとである。知らない内に涙も出ていたようだし、なんなら鼻水よだれも出ていたようだ。首にひっかけていたタオルがちょっと脇に転がっているという事は途中何かしら使おうとしたのだろうか、私。知らんがな。最早無意識だわ。

タオルを引き寄せて顔を拭って、大きく息を吸い込んで少しだけ肺にとどめた後に盛大に吐き出した。


生還したぞ!

いや、気を失えないにしてもちょっと遠くにぶっとんでた気がするんだよね今回。情報量多すぎて絶対バグってた。

その割にその情報は表層には出てこないのか、すとんとどこかにしまい込まれているような感じだ。鑑定、って使おうとしたらその情報から出してくるだけの代物なんだろうな。


「……あいかわらず、しぬかと、おも、た」

海が、途切れ途切れに呟いた。もうね、頷く元気もないわ。

「あたま、はじける、かと」

弾けなくてよかったね。いやホント。


でも、これでとりあえず目下必要と思われるスキルのインストールを完了したのだと思うと、達成感が半端じゃない。

もう本当に嫌で嫌で仕方がなかった注意文付きが一旦終わりなのだ。この先注意文付きをインストールしなければならない憂き目に遭わないことを切に願う。


我々の心中とは真逆の、穏やかな昼の日差しが室内を明るく照らす。なんならうたた寝とかにうってつけの空気感の中で何やってんだか。

そういえば、ふと気づいたのだけれど。

この森、鳥の声がしない。

元々の住宅街ですら、朝から妙な鳴き声の鳥とか鳴いているのに何の鳴き声も聞こえないのだ。まぁ奇鳥とか怪鳥とかいても嫌だからいいんだけどさ。


それにしてもこの鑑定というスキルな。結構不親切な奴であることが判明した。

自分の中のデータベースから情報引っ張ってくるのに、魔力使うんですってよ。は?である。お前こんだけの苦痛与えといてまだ対価払わせるの?詐欺商法じゃない?と言いたい。

まぁ現時点の魔力でも3回は使えるとのことなのでクリーンよりコストはリーズナブルではあるようだが。いや、それでもよ。文句しかないわ。やっぱ許さんわ。


まぁ不平不満を垂れ流していても現状は変わらないので、目下できることをコツコツこなしていくしかないのではあるが。

ある程度回復したならとりあえず、贅沢品と化した珈琲を揃って自分へのご褒美として飲んでひといき。

その後結界内をうろついて各々外で2回ずつ鑑定をしてその辺の草とか低木とか調べてみたところ


あったんです。

薬草と呼ばれるブツが。


え、そんな親切なことある?本当に?騙されてない?


「……あったなぁ」

「これ、ローポーションの材料だなぁ」


嘘だろマジで。

家から50mも離れていない場所に割と普通に生えている、どう見ても雑草ですやんという見た目の草。裏返すとちょっと葉脈が青っぽいのはなんだろうか。これも魔力的な何かなのだろうか。

海と一緒にその場で屈んでそいつをまじまじと観察していると、10mくらい先で母さんがあったー!とか元気に声を上げた。

ええぇ……そんなほいほい生えてていいものなの薬草って。

この世界観ホント訳わからん。この辺をイージーにする理由って何?あ、ポーション作成そのものがそれほどイージーじゃないからなのか。そこらへんでバランス取ってるのか?

もうね。

イージーなことが起きると逆に不安すら感じるあたり、トラウマ凄いわ。


とは言え、ここで薬草らしきものを眺めていても仕方ないので鑑定さんの知識に従って根は残して葉を丁寧に収穫することにする。当然ながら手袋はしている。薬草だからって素手で触れて大丈夫なんて思ってない。異世界特有の病原菌とかありますねんとか言われても今さら驚いたりしないからな。

ちなみに使った手袋は、今日のところは帰ったら全員バケツにぶちこんでおいて、明日からこつこつクリーン掛ける予定だ。

ポーションも作ってみないといけないし、クリーンも使う予定が満載だしで割と魔力は使う先が多いように思える。これなら毎日使い切るのもそれ程大変ではない、かなぁ。

でも最後の魔力はちゃんと家で出し切るようにしなければ。そこだけは絶対に間違えてはいけない。

結界の中であったとしても、冬の寒空で身動き取れなくなるなんてご法度にも程がある。


「薬草あったわよー」

ほくほくとした笑顔で母が寄ってきたので、ん、と頷いてこちらもひらひらと手元の薬草を見せておく。

「こっちも」

「あれ、私の見つけた奴と違うわね」

「そうなの?これローポーションの材料になる月影草ってやつらしいよ」

「あ、それローポーションなの。こっちはキュアポーションの材料らしいわ。紅涙草」

……何その物騒な草。血涙をイメージさせるじゃないの。でも葉脈がなるほどちょっと赤っぽい。絞ったら赤い汁が出てきそうで怖いじゃないのよ。


ちなみにこの入門編ポーションの材料はそれほど多くない。薬草が二種類か三種類くらいと、水、あと魔力でよいらしい。

乾燥に関しても先に積んでおいたものに関しては別に天日干ししておけばいいよねと、乾燥に使う魔力の消費を抑える方針で、他の薬草を集める間は自然乾燥させる予定だ。

しかし、結界内にすべての材料があるとは限らないのがネックだな。そうだ。そうとも。一つ二つ見つかったところで気を抜いてはいけない。

明日からもコツコツ鑑定試しながらも最終的に憤る準備は万端にしておかなくては。


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