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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
東の国とのつきあい方
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とりあえず降ろして貰えないだろうかと自身を持ちあげているグラーヴェさまを見上げたならば、なんとも言い難い表情をしている。何を言っていいのか解らない、そんな顔だ。

いやまぁ流れでちょっぴり愚痴ってしまったけれど、そんな顔をさせたいわけじゃない。

大体別にグラーヴェさまは悪くない。悪いのは業務指示を出さない株式会社イエクサであって、この世界の人々でもない。

そう、当然結界の外でなんか大きな声で喚いているおっちゃんでもない。

「……今回ね、右眼が痛くないんだよねぇ」

ぽつりと呟くように零した言葉に、グラーヴェさまの表情に疑問が浮かぶ。

そう、いつもなら。赤点と共にあの突き刺すような痛みが右目に走るわけだが、今回はまさかの無痛。

「それってね、つまり彼等は彼等の意思で今ここにいて、あの言葉を訴えているということに他ならない」

そう、となると彼等は深淵の龍に操られているわけではなく、ただ彼等の意思でもってこの行動を起こしているということだ。いやまぁ、何かしらの手入れはされているだろうけれど。神託とか言っちゃってるし。しかし今の時点で直接奴が関わっているわけではないのだ。

小さく溜息を吐き出して、結界の外を見れば何かおっちゃんの周りに人が増えている。マップを見ると総勢赤点だ。

これだけの人数が、敵意を持っているのだ。

彼等も傷付いているのだろうと、それは理解できることだし、きっと誰かしら大切な人を失うに至ったのだろう。

……龍の祝福、それが広まればこのような惨事が起きないと……心から信じているのかもしれない。彼等なりの正義感からこの行動を起こしているのかもしれない。

「祝福の効果効能なんてさ、想像するしかないわけじゃない?それがどんなものであるのかなんて、持ってみないと解らないんだし。私だってそれがどういう意味を持つのかはっきり言って解んないし。もしかしたらすごく良い物なのかなとか思ったりするのもまぁ解らんでもないよね」

実際解っている範囲ではろくでもないなとしか思えないけれど。

あの森に入れたところで殿下なんて死にかけてたし。あの時たまさかに遭遇できたのは奇跡と言って過言ではないと思っている。いやまぁ、もしかしたら龍が何かしらちょっかい出してたのかもしれないけれど……それこそ運命を手繰り寄せる的な?そこら辺は解らんが。

「……祝福、が、限られた王族のみに与えられることは、心苦しく思うことはあります」

小さく、そんな言葉がグラーヴェさまの口から漏れ出したので今度はおとなしく耳を傾けることにする。

「森の、龍の存在を感じることができる。それは、救いでもあります」

……その感覚はちょっと解りかねるが。そもそも龍の存在とか、初期の我々欠片も感じてませんでしたが?この役職でこの有様の時点で、祝福とかそんなに大層なモンでもないのでは?まぁそれは言っちゃダメなんだろうけど。救いと言うのなら、それはきっと必要なものなのだろうから。

「ですが、それはそれとして……今、ソラ様の御心を傷付けたあの祭事長は許し難い」

ギチ、と尚腕に力がこもる。

成る程、今の私の愚痴をそう捉えたのかなんてこった。

「ギブギブ。そろそろ空さんの肋骨へし折れるから」

ぺちぺちと胴に回された腕を軽くタップしながら訴える。

空さん別に頑丈ではないのでそこのところご配慮頂きたい。

「……っ、すみません」

腹に掛かる圧力が和らいだならほっと一息。

「んで、別に傷付いてはいないよ。早くしろってのは万人が思ってることだろうし、そこは理解してる。彼等の思いというのもまぁ、解らんでもない。けど、私達は万能ではないし、それこそ祝福なんてものが広まったとて、彼等の思う理想には辿り着かないだろうって……まぁそこらへんのお話合いは必要だよねぇとは、思う」

モザイク龍が森王族を害する動きを見せた理由もさっぱり解らないしなぁ。そこ攻撃して何かしらの特あんの?ホワイ?今現在祝福持った王族って現地で私達のお手伝いしてくれる人というポジションなわけだけど……龍の腕の動きを鈍らせたい?それなら理解はできる、か。でもなぁ……既に龍脈を通した東の地でそれをする意味はあるのだろうか。まだこの土地でイベント起こすつもりなの?あいつ。いやまさしく現在イベントの真っ最中だけど。

「そもそも祝福が王族のみって言うけどさ、それって血筋で発生しているとも言えるんじゃないのかな。なんかこう、祝福持った王族の始祖らへんに龍の関係者混じってたりしたんじゃないのかなぁ……」

後の世の人達が、それを持つことを喜んでも憂いても、そうであるからとしか言えないんじゃないのかと。そもそも祝福すらランダムで当たり外れあるって話だし、そこらへんの条件も解らんわけよな。だのに血の接種で増殖したらなんのこっちゃとなるわ普通に。

「龍の関係者……と言うと、腕様や指先様、と言うことでしょうか?」

「わかんないけどねぇ……一応人間だし、あり得るんじゃないのかなぁ?天穴の補修をするのが腕の役割なら、天穴のある場所に居を構えてもおかしくはない、んじゃないのかなぁ……?」

多分、きっと、おそらく。

毎度毎度不具合出る度森から出掛けてらんねぇわって話で。どんだけ遠いと思ってんだおい。

もうここ住むか!とかなる奴いてもおかしくないのでは?

それが王族の始祖だったり、元々在った王家に婿入りだか嫁入りしたのであれば、祝福とは腕の片鱗……とか?ワンチャン祝福を持つ王族にもスキル備わったりしないかな。どうかな。魔力鍛えたりできないかな。実験に付き合ってくれる王族いないかな。殿下とか別に普通に協力してくれそうな気がするんだけどどうかな。

「それはつまり、御使い様と婚姻を果たした者がいる、と?」

「まぁその流れだとそういう話になるよねぇ……今期の腕は海くらいしか結婚適齢期いないけど」

背の低い男ってこちらの女性的にどうなの?ありなの?

いや、こちらの世界の人々の背が高いだけでうちのこ別にちびじゃないけど。

「で、だ。まぁそんな話かもしれないところで、祝福を持つことそのものに負い目を感じるのは違うんじゃないの?って話をしたかったわけでね。そもそも得ようと思って得ているわけでもないのにそこを責められるのはちょっとおかしな話だと思うし」

「……それは、そう、なのでしょうが」

「逆に、祝福があっても龍脈にアクセスできるの陛下のみって時点で、はがゆくない?アクセスできたところで修復作業ができるわけでもないとなると尚更。一体何のための権能なのかさっぱりなんだよねぇ……で、そういう苦悩を知らずに責め立てるのはおかしいと思う」

まぁそういう苦悩もあるよってことが知られてないのもどうかと思うが。

龍のあれこれはなんせ、良い所だけを知っていて不具合については何も知られていないのが一番の問題だろう。なんかこう……悪徳商法とか詐欺みたいな気配を感じる。

恩寵は受けるが、あとは知らんというのもこの世界に生きる人としてどうなのかって話でもあるし。

ちゃんと文献なりなんなり残しておけ。調べるにもなんだかふんわりと龍って素敵!と言う感じだけ書かれた書物しかないってどうなってんだ。森王族の祝福に関しても、効果効能ちゃんと記載した書物必要では?取扱説明書必要なのでは?何故ないのか。なにもかも。

……いや、消されたのか?深淵の龍によって?それも可能性としてはあるのか。色んな意味で面倒くさいなおい。

「で、それを踏まえてあのおっちゃん達とは一度お話をする必要はあるよね。あとはまぁ、他人の血に不用意に触るのはご法度なのでそこらへんの教育的指導をば」

「言いたいことは解りました。が、話をと言うのであればそれこそ私が出ますので」

「いやいや、グラーヴェさま怪我しちゃう。危ないから駄目」

「いえ、ソラ様を矢面に立たせるわけにはまいりません」

「物理的に矢面でウケる」

「笑っている場合でもありません」

ぴしゃりと真顔でツッコミ喰らった。なんだかもうすっかり私の扱いを心得ているなグラーヴェさま。


いやしかし、真面目な話モザイク龍に唆されてこの仕儀であるならば、話をするべきは私だろう。常識的に考えて。

龍の加護なぞ森の王族にどうこうできる事ではないのだし、私達が森から出てこなければ何一つ物事が動かないのだから責任の所在は一応こちらにあるはずだ。森にお迎えに上がりますねとかも無理ゲーだしな。辿り着く前に死ぬわ。頑張って戦っても守護者が出てきてジ・エンドだわ。

罷り間違って祝福が増えて人員投下できるようになったところでそれは変わらないだろうし。

あの森聖域とか言われてるけど、死の森ぞ?

しかしこれ、先ずグラーヴェさまを説得せねばならんな……この若者も割とかたくなだから骨なことだな。とりあえず地面に足つけたいこの気持ちを誰か汲んではくれまいか。

そんなことを考えていたならば、語る言葉も尽きたのか結界の外で大演説をしていたおっちゃんが静かになっていた。すまん、全然聞いてなかった。後でもっぺんお願いしていい?カンペあります?

とりあえず静かになったなぁ、と視線を向けたならば、その手に何か……多分魔道具だろうと思わしき箱状の物を持っていてドヤ顔しているんだが。

「あれは……まさか……、」

はっと何かに気付いたようにグラーヴェさまが何だか焦ったような声を上げ、なんぞと首を傾げたならば、

ぽわん、と結界が消え失せたではないか。

なんかこう、シャボン玉が割れるような感じで、ふわんっと。

「おお……?」

思わずびっくりして声を上げたなら、おっちゃん達がぽかんとしたお顔でこちらを見ていた。

いやまぁ、そうだよな。

彼等の予定では多分、結界を解除されて焦ったグラーヴェさまと、何かおろおろしている神官さんが出て来る予定だったはずだものな。

グラーヴェさまが人間一人、拘束というかもはや前方に抱えて持ち上げている図とか想像もしてないよな。

「結界って……他力で消せるんだぁ……?」

「今気にすべきところはそこではありません」

「いやぁ、初体験すぎて……」

と言うか、結界を途中解除って本来別途スキルだったのか……セットじゃなかったのか。解除したところで魔力の返還もないし、なんらメリットのない仕様だと思っていたが……一応セット取得と言うお得感を持たせていたのか。

ええ……地味すぎる。

「な、なん、何と言う卑劣な!そのような年端もいかぬ少女を盾にするとは、森の王族に誇りはないのか!?」

いち早く立ち直ったおっちゃんがまた大きな声で批判するのを聞いて、グラーヴェさまが向きを変えて私をやや後方に下ろした。

「とりあえず私の後ろにいて下さい」

「そうはいくかって話よな」

足が着いたらこっちのもんだとグラーヴェさまの前へずいと出て、

「ちょっといいかなおっちゃん」

片手を上げて挨拶しながらなるべくフランクに声を掛けたなら、またもやひょいと脇から手を入れられて持ち上げられた。

「……小荷物みたいに気軽に持ち上げられるの、とても遺憾」

「お願いですから後ろにいて下さい……!何かあったらどうなさるのですか!」

「言うてグラーヴェさまが怪我しても困るでしょうが」

「あなたに何かある方が困ります!あなたはご自分のお立場をご理解なさっておられますか!?」

いやいや、それはこちらの台詞だが?王族たる自分を棚に上げて何を言うのか。

「あなた方もだ!この方を年端もいかぬ少女と言うのなら、この少女の双肩にかかる重責をいかに考えているのか!今少し早くの恩寵をと願う気持ちは解る!だが、この方がいかに無理を押してこの東の地を訪れて下さったことか!」

待て。少女のままで話を通すな。

こちとらアラサーだ。立派な大人だ。

「祝福が我等王家にのみにもたらされる事は、確かに不満もあろう。しかし、この身に宿る祝福はこの地を助くものではない。この地を潤す祝福は、全て御使い様の奇跡そのものだ。異なる二つを同義と並べ、責を問うのは誤りであろう。御使い様の成した祝福を踏み躙るような発言は撤回されよ」

腕に私をぶら下げたまま、何か難しいこと言ってるのちょっと絵面酷いな?いや、真剣な場面なんだろうけど……空さんこの空気に入りきれませんわ。

ほら、おっちゃんも目で問い掛けて来てるよ。

コレ、ナニ?って。

シリアスなの多分今グラーヴェさまだけになってるんじゃ無いかな。

「あ、ひらめいた」

「おやめ下さい」

空気に入れないついでに、花を咲かせるには雨が当たらなければいいんだよなと不意に思い立つ。思いつきのまま声を上げたなら、即座に制止されるの悲しい。

「まだ何やるかも言ってない……」

「申し訳ございません。カイ様のお声が脳裏を過り反射的に止めねば、と思いました」

「信用が足りぬぅ……だっておっちゃん花咲いて欲しいって言ってたから、とりあえず先ずは花咲かすかってなるでしょ」

「そうはなりませんね?とりあえずの矛先が非現実的だとは思われませんか?」

嘘だろなるだろ。先ずは先方の主張を少しくらいは飲んでだな、そこからお話をだな。全部否定から入るのは人間関係構築するのに悪手だと思うんだが。

そりゃあこちらも主張したい事はあれど、とりあえずお互い損しない範囲で相手のご意見も取り入れてだな……そもそも花咲いたら祝福がどうたらのお話は概ね解決では?

「だって血とか掛けられても花も迷惑するだろうしさぁ……」

「それは同意いたしますが……」

言いながら抱え方をさらりと変えるな。がっつりホールドするんじゃない。肋骨心配になるから。

「別に危なくないって。ちょっと屋根的なものをこう……アレしてだね」

「アレとは?」

胡乱な目で見られるの、コルドさん思い出すなこれ。

「ええと……空さんの私物に傘がありまして」

それもビニール傘だ。とてもおあつらえ向きではなかろうか。

「それ使えばいいんじゃないかな、と」

だから決して大それた事をしようとしているわけではないのだ。

そりゃちょっとばかし、クリエイトウォーターで氷のドームでも作ればいいんじゃね?とは思ったけど、氷は溶けるし、そこのあたりの対策が思いつかなかったので没案だ。

雨除けしてからヒールでも撃ち込めば多分咲くだろ、と。その程度の思いつきなのだ。

「だからとりあえず花咲かせていい?」

「……私が、あなたの要望を断れないと知っていてそのような事を仰せになる」

「ええ……別に駄目ならまた別の方法を考えるよ。けど、今日に至るまで彼等の願いは叶わなかったのなら、せめてできることを可及的速やかに行うことは私なりの誠意かな、と」

ぷらぷらと足を揺らして、グラーヴェさま腕疲れないのかなとか思いながらもおっちゃんを見る。

相変わらずナニコレ状態ではあるが、目が合った。

「私は、私達は飛べるわけじゃないし、唐突に行きたい所に行けるわけでもない。見ての通り足も短いし、走ってもたかが知れてる。あと戦えない。弱い。そりゃもう弱い」

けど、森を抜けて来たんだ。遅くなったのだろうけど。彼等の気持ちには間に合わなかったのだろうけど。

「ごめんね。間に合わなかったんだよね。許せないんだろうね。でも、おっちゃん達の嘆きに、世界を道連れにされるのは……困る」

一応死にたくないので。一家揃って平和に暮らしたいので。あと、知り合った数多の人々にも平和に生きて欲しいと思うし。

「祝福を待つ人達の力添えなくして、私達はきっと加護を取り戻せない。増えるとそりゃ助かるよね。でも、おっちゃんに語り掛けたのは、龍じゃない。それは深淵の囁きに他ならない」

たぶん。憶測だけど。でも大体合ってるはず。

だって社長がマトモに話しかけてくるとかないからな。アイツ言いたい事しか言わねえのよ。大体意味不明なやつ。

「……御使い、さま、」

疑わしいような、そんな千切れた言葉で呼ばれたならば、ひとつ頷く。

「恨みも、怒りも、悲しみも。向けるべきはグラーヴェさまにでは無いよね。いや、私も向けられてもごめんねとしか言えないし、これでも頑張りましたって言い訳みたいなことしか言えないけど」

でも実際ここが限界値だよなぁ……とも思うし。

今こうしている間にも、南北ではきっと間に合わない人達がひとり、ふたりと増えているのだろう。

その怨嗟をすべて受け止められるわけもないが。

いや、だってこっちも巻き込まれた側やぞ解ってんのかと。そこんとこどうお考えですか的な。

でも、まぁ実際こんな現場にかち合ってしまったならば、せめてもこう……なんかそれっぽい感じが必要かな、と。現実として、間に合わなかった命があるのだと知るとクルものもある。かなしいとか、くやしいとか、何だかこう……言い表し難い気持ちが胸中に飛来して情緒乱れるわこれ。

「せめて、花は咲かせる。本当に望んでるのは、そんなことじゃないんだろうけど。でもグラーヴェさまを害しても、それもまた、おっちゃん達の望みじゃ無いよね」

それは、捌け口の無い気持ちをぶつけるだけの行為でしかないのだろう、と。

それを、八つ当たりと言う言葉で表現するのは些か疑問もあるが、端的に言うとそうなのではなかろうか。

八つ当たり先に丁度いい奴が街に来た的なアレではなかろうか。

「……どうして、」

おっちゃんの顔が悲しそうに歪んで、漏れ出た言葉には既視感がある。どうして、と。モザイク女に散々ぶつけられた言葉だな……と。

にがつ……だと……?

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