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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
森とのつきあい方
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脳みそをノックする感覚、と表現しようか。

内側から頭蓋を殴る感覚でも構わない。


そう、頭痛。


魔法スキルのインストールに伴う頭痛はまぁ大体そんな感じだ。

あまり連続でインストールするのはおすすめしない。何故なら、頭痛は吐き気も誘発するからだ。

食休みを取っていなければそれこそ、食べたおにぎりをリバースしていたことだろう。そんな勿体無いことをするだけの余裕、我が家にはありません。


とは言え、クリーンのインストールをこなしたことにより、我々は魔法使いになったのだ。

なんということでしょう。

ちなみに、クリーンも(1)だったので現時点では一人一回が限度だ。

逆に言えば、一度使えば魔力を鍛える為にすっからかんになる条件を満たせるわけだが……


大切なのは、就寝前に行う事だろうと思う。

とってもしんどい思いをしたなら、そのままオヤスミしてしまうのが一番よろしい事だと思うわけよ。私としては。

夕食も取って風呂も入って、それからというのが理想だ。

風呂洗いとか洗い物とかに便利に使いたいところだが、少なくとも一撃で魔力がなくなる状態でそんな真似はできない。

ちなみに、風呂の代わりにクリーンしたらよくないか?という発想もなくはなかった。だがしかし、そうはいかない。

これ、無機物にしか使えないんだってよ。

服とかには使えても、身体そのものには使えない。何故かって?生き物って様々な菌を保有しているからだ。その良し悪しを選別して悪い菌や汚れだけ取り去るなんてそんな器用な真似はできません、という事らしい。

逆に生き物にクリーン掛けたら免疫とかそういった機能がとんでもなく低下してあっという間に病気感染してしまうようだよ。おっそろしいなおい。ついでに体内バランスがったがたに崩れるから普通にまもなく倒れて死ぬ。

なんなの。利便性どこに捨ててきたのお前。風呂入れない状況でもこれがあるから大丈夫、みたいなやつじゃないのお前。がっかりだよ。


とは言え好奇心猫を殺す、という言葉があるのはご存じだろう。

とてつもなく、その効果の程は気になる。

どうせ暫くは散策どころの話ではないのだ。風呂に入る前にくたばっても、動けるようになってから風呂に入ったならいいのではないだろうか?大体どの程度回復までに掛かるのかを調べることも重要事項だと思う。

昼食を取り、食休みを得て今はもう夕刻だ。

窓の外は赤々と夕日の色で木々を染め上げている。

多少遅かろうと早かろうとしんどい思いをするのは結局一緒なら、今、ここで


と、好奇心に負ける方向で思考を葛藤させていると、私よりも先に好奇心に負けた奴がいた。

海だ。

こいつもなかなかツワモノよな。

すい、と先程まで茶を啜っていた湯呑を持ち上げ、おもむろに

「クリーン」

と一言。

いや、これ声を出さなくても使うことを意識したら使えちゃうらしいよ。でも気分的に声出したくなるよねわかるー。

「って、チャレンジャーか」

ツッコミを入れても時すでに遅し。海のクリーンは発動し、湯呑はつやぴかに使用前ですよの顔を成した。

「おお、きれいになった」

「茶渋も消えてるわ、なんて有能」

年季の入った茶渋すら消すのか。どうなってんだこの魔法スキル。

有能過ぎない?

「これもしかして、服に使えば醤油のシミとか消えるんだろうか……」

ぼそ、と親父が呟いたのを聞いた母が、じとりとした目で親父を睨む。

「私の知らないところで醤油シミ付けて放置してる服があるの?」

「あ、いや。……すまん」

時間が経過したらそれだけシミは取れないんだから、やらかしたらすぐ報告しなさいよな。ガキじゃないんだから。


しかし、クリーンを唱えた海が湯呑をそっと炬燵の天板に置いて以降ころりとあおむけに寝転がったきり何の反応も見せない。

息はしているのは胸が上下しているから解るんだが……

「おーい、どしたんお前」

「……しゃべるのすら、おっくう」

「そんなか」

え、いや、えっぐいな。

どちらかと言うと割とお喋りな性質よねお前。もうそりゃとってもしんどいという事象について微に入り細に入り口頭説明をしてくれるものだとばかり思っていたのに、喋るのすら億劫て。

指先一つ動かしたくありません、みたいなうつろな顔でほとんど閉じたような目を天井に向けて無気力にぼぅっとしているではないか。

魂抜かれたみたいな有様である。


「ええ……こんなになるの。外で使ったらやばかったな」

いや本当。海が家の中でやってみるべきと言わなかったらまた死亡フラグ乱立してたわ。

「しっかし、これどれくらいで回復するんだ?」

転がった海に目を向けて親父が首を傾げている。知らんがな。

「それも込みで調べておく必要はある、わよねぇ」

ちらりと時計を見ながら母が、父の手元のメモに時刻を記入していた。

心配はしていない。

何故なら命の危険のない場所で、命の危険のない行為をしているだけだからだ。

ただ、もんのすごくしんどい思いをしている、ただそれだけなのだから。そしてその行為を、追々我々もやっていくことになるのだから。


もうねぇ。是非とも我々の資金が尽きる前に、ある程度散策できるだけの魔力と自信と根性を身につけさせていただきたいものだ。

結構タイムリミットは伸びた、と思う。

何なら米が尽きたなら芋類を主食に生きて行ける。ジャガイモは好物だ。塩振っただけでも最高においしい。サツマイモも好物だ。あいつは最早スイーツだ。

親父が庭の拡張を狙っているから、何なら低木くらいならスコップ使って掘り起こしてしまえば多少の面積アップは望めるだろう。

そうなれば、土を耕したりなんなりと作業はあるが、小規模な芋畑くらいなら作れるはず。……たぶん。

いや、正直芋の栽培に適したあれこれなんてものは知らない。肥料なんてのも、残念ながら我が家にはない。そもそも元あった庭なんて狭すぎて庭と呼ぶにも烏滸がましいくらいなのだ。一応なんか植えてはいるが、ほっておいても結構育つ系の木とかが植わっていて、季節になったら花が咲いてきれいだなぁ、と眺めるくらいだ。時々育ちすぎた枝を伐採している程度の手入れしかしていない。


だって、大半駐車場として使ってるんだもん。

コンクリートで地面覆ってるんだわ。そしてその上にそれぞれの愛車が鎮座ましましてるんだわ。

ちなみに、この森の中では当然車なぞ動かしたら即座にそこらへんの木と接触事故を起こすだけなので何かスペース取る箱と化している。

私の愛車も当然、ただの鉄製の箱でしかない。

あんまり長期間放置してオイル落ちてしまったらどうしよう……とか、整備の不安があるのが切ない。まだこいつローン残ってるんだよ。2年ほど。

時々エンジン掛けてやらんとなぁ、と思う。


インベントリにしまえればいいのに、と思うが、レベルが上がった事で使用可能となった容量は所詮17kgだ。

お前、車はトンあるんだぞ。一体どれほどレベル上げれば収納できるようになるというのか。1000kg以上ある物体を収納するには当然レベルが1000以上必要なわけで。馬鹿なの?それ全部徒歩なの?

徒歩が辛いなら自転車で行けばいいじゃない、と思われる層もいるだろう。だが、全員が車を所持していれば自転車などという素敵な乗り物は一台も存在しない。あってなんとかキックボードくらいだ。これならインベントリ入るなぁ。でもこれ2台しかないわ。

あとは海のバイクか。これなら200kgも入るようになれば……って、遠いわ!!


もしかして乗り物系はすべてお陀仏になるしかないのか。まぁそもそも燃料ないもんね。そうだよね……ガソスタイエクサとかそのうち出てこないかなぁ。いや真面目な話。

森さえ抜ければ車が使えるくらいの得点は欲しいわ普通に。


しっかし、ぐたりとへばった海を眺めていても仕方がないので母が夕飯の支度に立ち上がったのでまぁ私も風呂でも沸かすかーと腰を上げる。

親父は親父でメモをノートパソコンに律儀に打ち込んで整理していた。

あと、エクセル開いて現在のレベルと取得したスキル、残りの取得可能なポイントが自動計算できるように関数作っていた。暇か。

そして結果、一応結界の外直線距離で少なくとも5.1km進んでいる事が判明した。300mの幅分は解らないが、最低でもそれだけ進んだ結果のレベル17だもんな。はいはい。了解ですよ。

でも割とこれ便利かもしれないなぁ……取得スキルが増えたらそれだけ何が何やら解らなくなる可能性だってあるのだし、今後取得したいスキルができたときにどの程度レベルを必要とするのかもすぐに解る。

まぁ本人はきっと、老眼鏡なしでパソコンが見える事を実感したいだけなんだろうけど。


それにしても異世界二日目、いかにも身動きが取れない状況になってしまったものだと溜息一つ。

明日はきっと、薬魔技師と鑑定でグロッキーになることだろう。

とは言え、その二つを取れば結界範囲内くらいは散策して、その辺の草を鑑定してみるのも悪くはない。もしかしたらワンチャン薬草があるかもしれない。あったらいいな。ありますように。

鑑定するのにも魔力いるとか言うんじゃねぇぞ。そうだったらもういよいよもって許さない。何をどう許さないかは解らないが許さないったら許さない。

振り上げた拳を打ち付ける先がないこの憤りを、いつかぶつける先が解ればいい。そんな気持ちを抱いて、二日目もぐったりと全力一杯疲労感と徒労感に満ちて終わっていくのだ。

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