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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
東の国とのつきあい方
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16

風呂の湯はやはり張りなおしだった。

この寒気だ、しかたもない。晴れ渡る星空を見上げながら温泉の素を入れた湯にしっかり浸かれば身も心もほっかほかになる。

温泉の素の何がいいって、湯冷めし難いのがいいよね。いや、物によるんだろうけど。

後片付けをしている最中も寒くならないの真面目に助かったわ。

色々拝借したものも綺麗にしてから返却したし、使ったものも綺麗にしてからインベントリに戻した。あれこれやってからテントに戻ればなんやかやと諦めたのか、グラーヴェさまがちゃんと寝てて助かった。

あまりトークは得意ではないのだ。話題を探しながらもだもだするような時間を過ごさずに済んだ事を幸いに思う。

結界を張りなおし、アラームを掛けてからできるだけ静かに隣の自分の布団に潜り込んだなら、割と心身共に疲れていたからか、ストンと眠りは訪れた。


翌朝まで直行で眠れる、とても良質な睡眠を頂いたならばアラームの音で目が覚める。デフォルトメロディの音色が流れた時に、とんでもなく機敏な動作で隣のグラーヴェさまが布団を跳ね上げ飛び起きて、普通に私が驚いてびくっとしてしまったが。

緩慢に手を伸ばしてアラームを切れば、目を見開いて驚愕の表情で私の手元のスマホをガン見している寝癖頭の青年がいた。シャツの心臓付近に皺が寄るほど強く握りしめている所から、どうやらアラームに驚き過ぎたと言う事だろう。

「……きゅうり見つけた猫みたい」

ぼそ、と。寝起きで掠れた声で呟けばさっと頬に朱を上らせている。

「す、すみませ、」

「慣れないとびっくりするよねこの音。ごめんね、結界切れる前に鳴るようにしてるから慣れてねー……んで、おはよー」

未だ寝転がったまま、ぐぐぅと手足を伸ばして伸びをすればじぃんと身体に血流が巡るような気持ちよさが走る。

「は、おはようございます」

体調はまずまず。魔力は回復している。喉が渇いた。お腹も空いた。

ひとつひとつ自分の調子を確かめつつ、のそりと半身を起こして手櫛でぼさつく髪をかきあげる。

「よく寝た……」

はー、と。深呼吸なのか溜息なのか自分でも判別つかない長い息を吐き出してぼやく。

「とりあえず身繕いしたら朝食にしよう」

しかしグラーヴェさまが朝起きれるタイプで良かった。殿下みたく中々起きないとなると、まさかの琴子印のア・ラ・カルトポーションを使う羽目になるところだったからな。寝起きが良くなるやつな。しかし登場せずに済んだようでなによりだ。

寝るために軽装程度になっていたグラーヴェさまが上着を羽織り、靴下を履くのをぼんやり眺めながらそんな事を思う。

シャツ一枚だとなるほど。背筋のシルエットがよく解る。グラーヴェさま厚みといい筋肉といい、もしかしてある程度戦闘民族なの?物腰からは想像もつかないんだが。

しかしその上着一枚羽織るだけでは寒くないのだろうか。特殊な素材とかでできているのだろうか。又は筋肉か?筋肉があたたかいのか?いや、寒いよな。普通に寒いよな。

インベントリから予備のネックウォーマーを取り出して、濡れタオルと櫛とセットで渡すことにする。

「これ使って。で、お茶淹れるから座ってて」

「ありがとうございます」

何か言いたげな表情で礼を言って受け取ってくれるが、また従僕がなんだと言われるのも面倒なのでほぼ部屋着のような格好のまま、靴をひっかけてテーブルに向かい、茶を淹れてからさて着替えるかとテントに戻る。


スマホに目をやると未読のメッセージが溜まっていたのでそちらもチェックしたなら、家族のグループトークのメッセージのやりとりだった。

昨日の状況説明を海がしてくれていた模様。ありがとう。できる弟でねーちゃん嬉しい。

ひとまず元気でやっている旨だけ打ち込んでいそいそ着替えて身支度を整えたならテントを出て、これもインベントリにしまっておく。

ガランとスペースが空いたなと感じるわけだが、これここ発つ前に長椅子戻しておかんとな……。

自分もテーブルにつき、お茶で喉を潤したならほっと一息。

「朝食食べたら出発したいんだけど、体調はどうかな?」

「問題ございません。お世話を掛けました」

そんなことを言いながら、恐らく自分の収納魔道具からだろうが、ででどんとパンと干し肉がテーブルに置かれたわけで。

「……こ、これが噂の硬いパンと魔獣の干し肉……?」

「はい。大変申し訳ないことではございますが、手持ちの食糧はすべてこのメニューとなりまして……」

「なるほど?うん、あの。なんだ。ええと……お昼か夕飯時に何とか調理するから、今はしまってもらっていい?朝から顎を酷使するのはちょっと厳しいので……」

やや不味い肉はどうすれば良いだろうか……なんか濃い味で誤魔化す方向で調理すべきか?パンは……角切りに切ってからシチューか何かのレトルト掛けて焼けばグラタンみたいにできるだろうか。でもちょい酸っぱいらしいからホワイトシチューよりデミグラス系の方が誤魔化せるか……?

「さようにございますか……」

お役に立てず残念です、と言わんばかりに心なしかしょんぼりと出した食糧をしまうグラーヴェさまの為にもなんとか食える算段は付けておかねば。

とりあえず今はこちらのインベントリから出した食糧を食べてもらおう。ビタミンも摂るべきだろうから、フルーツの缶詰なんかも大サービスで付けてだな。

朝からそんなにガッツリと食べる気にはならないが、若者の食欲を鑑みてパスタを茹でることにした。で、唐辛子と塩胡椒、オリーブオイルで簡単にペペロンチーノだ。カプサイシンで身体の内側から暖かくする計画である。そしてどうせ互いしかおらんのであれば、乾燥ニンニクチップも入れてしまおう。ニンニク美味。

人と会うかもしれないからぁ……とか言う心配ないのホント気楽でいいよね。


そんな感じに朝食を摂れば、少し困ったように微笑むグラーヴェさまが空になった食器を見つめていた。

「……私ばかりお世話になって、あまつさえこのように贅沢な食事を摂ることを心苦しく思います」

苦しいのは心ではなく腹では?とは言わず。

「食べられる時に食べておくのも必要なことだと思うよ。それに、ここで我慢したところで他の誰かがまともな食事にありつけるわけでもないんだから、そこを心苦しく思うのは違うのではないかな」

大体いきなりこんな僻地に送り込まれたのだから、これくらいの詫びはあって然るべきではなかろうか。何もなしとかマジでやっとれんわ。

「それはそう、ですね……」

「大体グラーヴェさまにはなんとかクィンスタッドまで案内して貰わなきゃだし。私一人だと間違いなくただの不審者だから旅をしづらいことこの上ないもの」

いつもの眼帯を装備しながらそう言って、トン、と右目を指す。

「西の人間が一人で何してんだってなるでしょ?」

「西の、」

「そ。左右で違う色は流石に常時出して居られないからね。でも北はどうにも印象悪そうだから、西色出してるんだよね、私も海も」

まぁ山抜けるまでは眼帯無しでも良いのだが、うっかり忘れそうでいけない。

「その点身元のしっかりした人が一緒なら、不審具合は幾らも軽減されるでしょ」

たぶん。きっと。おそらく。

「だから旅路では色々お世話になるから、お互い様ってことで手打ちにしてよ」

へらり笑ってそう告げれば、また少し困ったように微笑むグラーヴェさま。

食事の件はそもそも私がその硬いパンと肉をどう食うかを考えるまでは手を出さないのが要因だしな。この地において、己だけがマトモな物を食っていることに罪悪感があるのはまぁわからなくもないが、同じ物食ってても違う物食ってても他の誰も変わらないなら美味しい物食べて活力つけるべき。

世話になると言うのもそれこそ今後の事を考えればお互い様なのだから、今だけ見てしょんぼりしないで欲しいものだ。


さてでは片付けでもするかな、と思ったところでスマホに無音で新規メッセージの着信があった。

「んあ?」

タップしてメッセージを開けば、写真が添付されている。

「うっわ何コレ」

そこには海とツーショットで写る妙な動物の姿があった。

四足の爬虫類の背にこぶが二つ乗っかっているような生き物で……

『ラグリマさん爬虫類ベースのラクダですわコレ。精霊種ってことなんでスレイプニルさんのご親戚?主な食事は魔力という事で、早速餌付けをしたなら海くんモッテモテ』

「……ラグリマって凄い生き物だねぇ」

首を傾げて私を見て居たグラーヴェさまに画面を見せたなら、軽く目を見開いて少しの驚きをあらわにする。

「契約者以外にはあまり懐かない生き物なのですが……」

それにしても精巧な絵ですねとじぃと画面に釘付けになっている。

『ラグリマ三頭立てで馬車みたいに牽引してくれるんだってよ。すげぇよな』

『何か色々凄いけど、お急ぎ便てことだしクッションの準備は怠らないようにね』

『解ってるって。スレイプニルさんの二の舞にはさせねぇ』

学習したようでなによりだ。

「何か、魔力で餌付けしたら懐かれたって言ってる。この子山道には向かないって言ってたよね。平地の生き物なの?」

「そうですね。比較的平らな土地に生息しております。とは言え、基本はあまり人前に姿を見せませんが」

「精霊種ってそう言うもんなのかぁ」

「魔力の凝る場所を好む生き物ですね。そこそこ魔力の多い者が契約する事で騎獣となってくれるのですが、契約時に魔力が足りない場合命を落とす危険もあります。それなりには攻撃性もありますので注意は必要でしょう」

へぇ……そうなん。へぇ……。

何かよくわからん異世界知識が一つ半端に増えた気がする。


海がラグリマさんのご紹介をしてくれたと言うことは、あっちはあっちでぼちぼち出発と言うことだな、と。こちらも手早く片付けを済ませて忘れ物チェックしたなら揃って教会から出る。

相変わらず外は乾燥した空気で、吹く風に砂塵が舞う仕様だ。切るように冷たい風の中にピシピシと時折当たる大きめの砂粒が混じっているのほんとやめて欲しい。

一晩お世話になった教会にお辞儀をして場を後に、歩き出せば昨日辿った小道を二人で歩く。

「このまま行けば一応、無人の町に出るんだけど、そこからとりあえず南寄りに進路を取るってのでいいのかな」

「そうですね。南東の方向へ向かえば平地に出ますので、後は街を経由しながら辿れば大丈夫な筈です」

「街までの看板とかある?」

「ある筈ですよ。道が整備されている所であれば」

……『筈』多くない?え、ちょっと不安になるんだけど大丈夫なのこの人。やっぱあんまり道知らない系?マップさん頼りに海目指して直進する方が確実……?

微かな不安を抱きつつも、とりあえず山を抜けるのが先決なので後のことは後で考えることにする。今悩んでも仕方ないわコレ。

何だか前途多難な気がするが、そもそも海と二人でもまぁ道は知らんし行き当たりばったりなので一緒といえば一緒だろう。深く悩むことはない。方角さえ見失わなければ何とかなるとも。

飛んでくる砂が口に入らないようにネックウォーマーを口元まで引き上げて、いざ未知の領域へ。

どうぞ赤点が出ませんように。そこだけはマジで頼む。

……まぁこの環境では中々獣も生きるに不足しそうだから、もちっとマシなところに移動してるよな。


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