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整備されていると言う山道は、想像よりも勾配があってなかなか難儀した。降り積もる砂塵で足が滑ることもあり、どうにも足腰に負担が掛かる路面状態だ。
通常ならば人の行き来がある為、滑るほどに砂利が積もることは無いのだとしても、この勾配はキツいのではなかろうか。
「大丈夫ですか?」
時々転びそうになったりするのだが、その度にグラーヴェさまがびっくりする程の反射神経でもって支えてくれる……しかし何故にそこまで体幹がしっかりしているのか。
「大丈夫、ありがとう。……グラーヴェさまの靴って何か仕込みでもあるの?何で滑らないの?」
不思議過ぎて問いかけたなら、きょとりと目を丸くしてから軽く笑われる。
「いえ、特に仕込みはありませんよ。砂の多い所では少し摺り足気味に歩いてはおりますが」
「摺り足……」
なるほど?着地地点の砂を先に蹴散らしているのか。
いや、できればそういうコツはもうちっと早く教えて欲しい……手を煩わせるのは割と申し訳ないのだから。
「なるほど、参考にする」
「無理はなさらないでくださいね」
そんな他愛もないやり取りをしながらコツコツ歩めど、見えてくる景色はたいして変わり映えのしない枯れた風景とけぶった空だけ。何とも面白味に欠ける山登りであることだ。
少しばかり遅めの昼時になって休憩を挟んだ時に、どうせ誰も居ないしと道のど真ん中で結界を張る。
テーブルと椅子をセットで出してやれやれと腰掛けたなら思ったより足が疲れていた。はー、座るの極楽かよ。
水分補給もしつつ、スマホを取り出して一応近況報告でもするかな、と思えばまた海からメッセージが届いていた。アイツ暇なの?
『俺天才かもしれん』
と言うメッセージと共にまた写真が送られて来ている。
……多分、ピラフ?それともパエリア?的な?
色的にカレー味だろうか。乗っけられている肉は恐らく魔獣肉だな?
『カレー粉があれば、肉の臭みとかもう全部関係ねえよ。マジで有能。何でもおいしい。俺料理上手すぎん?』
……ああ、うん。カレー粉か。確かに臭みも何もかもを打ち消してくれるわな。スパイスが全部塗り替えてくれるもんな。そもそも香辛料は臭み消しの役割もあるもんな。
『護衛トリオがすげぇ勢いで食ったので余り無しだし、なんせ米が食えるの最高に過ぎる。鍋で米炊きつつ作れるし、良い感じ。具が少ないのだけが難点』
鍋で米炊く練習もしたもんなぁ……そういえば。
どうしても、どうっしても定期的に米が食いたくなるんだから仕方ないよな。米ならインベントリに入れておけるし持ち運びもできるから。
『空さんも夕飯で真似しようと思います。昼食は時短で済ますわ。ちなみにこちら勾配結構キツめ。後砂利多くて滑りやすいのに難儀する』
米を炊く時間は流石に今取られるのは頂けない。
ここは硬いパンをだな。何かグラタンみたいにしてだな。
コンソメキューブを使って具なしのスープを少量作り、グラーヴェさまから貰ったパンを角切りにして浸す。軽くしっとりとスープを吸ったパンを耐熱バットに敷き詰めてから湯煎したデミグラスソースのレトルトビーフシチューをぶち撒けて、開封迄は常温保存可能なナチュラルチーズを贅沢に一袋使用してクリエイトフレアで焼く。ファイアー。とろけて焦げ目がついたら出来上がりだ。
味の保証はない。
博打料理であるが、一応写真を撮っておく。
美味しかったら送るんだ。
多分コンソメスープで切った時感じたあの「石かな?」みたいな硬さは和らいでいるし、デミグラスソースとチーズが味の暴力で勝利をおさめる筈……その予定だ。
取り皿をテーブルに出してとりあえず一人前を取り分けたならおとなしく座って私の作業を眺めて居たグラーヴェさまの前に置く。
「多分そのまま齧るよりは食える味になっている、はず」
「……おいしそうです」
じっと視線を皿に釘付けにして声と腹が一緒に返事するのがかわいいな。何だこの食べ盛りのこどもみたいな青年。美味しくなくてもたんとお食べ。
しかし、100均で色々と食器揃えてて良かった。割と何でもあるよね。耐熱商品は100円じゃ無いけど。しかし普通に買うより遥かに割安。大変助かる。
フォークを渡していざ実食。
「……、うーん、うん。まぁ、うん」
ビーフシチューとチーズの味しかせんな。パンは何か微妙に歯応えのある何かでしかない。試みとしては成功と言うことでよろしいだろうか。小麦のふくよかな味とか全くしねぇんでやんの。
チラとグラーヴェさまをみたらはふはふ言いながら嬉しそうに食ってた。よしよし、つまりまぁ彼的には美味いと言える仕上がりなのだろう。
「喉詰めないようにねー」
言いながらお茶のおかわりを注いでやれば、こくこく頷いてにこーと笑ってもぐもぐしている。お口に物が入ってるからお返事できないんだね。お行儀いいね。
とりあえず美味しそうに食べてる姿も写真に撮っておく。
一通り食べ終えたなら食休みでまったり茶を啜りながら海に写真を送る。
『パンをコンソメスープで軽くふやかしてからなんちゃってレトルトグラタン風にしたら、割と若者ご満悦であった模様。ビーフシチューとチーズの味しかしない一品できました』
するとすぐに既読がついたので、やはりアイツ暇だな?
『めちゃグラーヴェさま笑顔じゃん、ウケる』
『耐熱バットほぼ食い尽くす食欲だったわ。若者の食欲すごい』
『マジか。俺も晩飯これしよっかなぁ……』
『手軽で時短料理だから昼のほうがオススメかも』
『あー……確かに米炊くの時間食うなぁ。で、今の写真トリオに見せたらなんかびっくりされたんだけど。なんか、グラーヴェさま女性苦手らしいぜ?そんなそぶりある?』
返ってきた思いもよらない返信に、思わず顔を上げてグラーヴェさまを見る。
少しきょとりとしてから、なにか?と言いそうな絶妙な角度で首を傾げられた。
「いや、グラーヴェさま女性苦手だって今知ったけど、そうだったの?」
「……あ、え、いや、あの、」
聞いた途端に狼狽えるの何なのか。
「別に旅するのに問題が無ければ何でもいいけど、気を付けておくべき点とかあったら言っておいてね」
不愉快な思いをさせるのは頂けない、と思ってそう言い放てば、ぶんっと大きく横に首を張って、
「大丈夫です!ソラ様にお気遣い頂くことではございません。それに、ソラ様は私をまるで男として認識しておられないので、なんら問題ございません」
「……?え、いや。ちゃんと男の子だと思ってるけど……?」
流石に女の子には見えんよ。どこまで節穴だと思われているのか。
「あ、いえ。そうではなく……ええ、はい。何と言えばいいのか……」
……?
わからん。
『なんか大丈夫らしい。私がグラーヴェさまを男として認識してないから問題無いって言われたけど、どゆこと?男の子だと解ってるんだけど』
わからんので海に聞いてみたら、何か無性に腹の立つ顔で笑うクマのスタンプが送られてきたのだが。
『クッソウケる。それつまりお前、グラーヴェさまのこと子供扱いしてねえ?あ、弟ポジは俺で満員なんで。すげ替え禁止な』
『子供扱いと言う程子供扱いはしてないと思うけど。つまりどゆこと?』
『グラーヴェさま超モテるんだってよ。で、割と年頃の女に言い寄られたりなんやかんやで大変なんだってよ。色目使ってくる女が駄目ってさ』
『あー、なるほど。じゃあ大丈夫だわ。守備範囲外だわ。そういう対象は三十代からだわ』
なるほど、と頷いてあわあわしているグラーヴェさまに向き直り、親指を立ててサムズアップをして見せる。
「海に聞いたら解決した。そして完全に理解。言いにくそうなこと聞いてごめんね」
「あ……いえ、はい。すみません……」
なんか恥ずかしがってるのかバツが悪いのか、片手で顔覆って横向いてしまったのだが。まぁいいか。そんなことより海がかわいい発言したのをスクショとっとこ。何が弟ポジ満員だ。ンなもん解ってるっつの。
『しかしアレよな。女性不審と人見知りのコンビってどうなん?問題なくやれてんの?』
『一応今のところは問題ないかな。人見知りしてる場合ですら無いし。この子国まで送り届ける使命が私にはあるし』
『迷子センターかよ。まー、問題ないならいいけど。そろそろ出るわー。また夜にでも何か送るから、無事ならなんか返事してくれ』
『あいよ。気を付けて』
互いの無事の確認が食事メニューのやり取りになりそうだなと思ったならば、私達は危機感足りて無いのかもしれないなと頭の端で感じる。
が、だ。危機感持っても持たなくてもどの道今できることは変わらない。ならば今はこんなノリでも良いだろう。多分。
安全第一にだけ気を付けて、旅路の無事を互いに祈る。祈る先はどこであるのか。まぁこんな辺鄙な場所に人様を飛ばしてくれた龍でないことだけは確かだ。
カミサマ他におらんの?どっかいるのでは?いたら良いなぁ。
「そう言えば夜明かし用の小屋ってあと半日程度で着くの?今のペースで大丈夫な感じ?」
向こうが出発したなら気になるのはこちらの進行ペースだろう。正直体力的にもハイペースでの進行はしていない。なるべくバテないように体力配分しながら歩いているのだ。
「はい。それは問題ございません。荷台を引いたロバや馬と共に歩む道にございますれば、其れ程足速に進むことは想定されておりませんので」
「なるほど。流通経路ってことかぁ……荷運び大変そうな土地だよねぇ」
まぁでも、このペースでいいのなら助かる。この勾配に対してペース上げたら多分太ももとふくらはぎが死ぬ。こういう筋肉疲労もローポーションで何とかなるものだろうか。そこら辺は要検証ではあるが、今じゃ無いな。うん。
「そうですね……確かに特殊な土地ですが、この地の鉱石は質が良く、商い手は尽きないのです」
「商人さんがガッツ見せるだけの価値はある、と」
「はい。宝飾品はお好きでしょうか?」
「いや。あんまり……どちらかと言うと原石とかの方が味わいがあって好きかなぁ」
問い掛けに素直に答えると、きょとりと首を傾げられた。
「原石、ですか……?」
「うん。何か混じってたりすると、その石が出来るまでの過程とか気にならない?どんな人生……じゃないや、石生を歩んできたのかなーとか」
「なるほど……?考えたことがありませんでした。全てのものに等しく心を寄せておられると言うことですね。流石は御使い様」
「……いや、そう言うことでも無いけど。そんな博愛主義ではないし。割と私達俗っぽいのであんまりそのへん期待しない方がいいと思うよ。うん」
ただの個人的な嗜好の問題だわ。
「ご謙遜を」
「してないしてない」
あんまり過度な期待を抱くとがっかりするぞ、若者よ。まぁこちらのひととなりも追々知って貰えれば良いのだろうが。そもそも私がグラーヴェさまの為人が解っていないのだから、今暫くは距離感はかりつつ無難にやっていきたいものだ。
平地に出る頃には多少は打ち解けていられれば良いのだが……あくまで希望であってどうなるかは解ったもんじゃ無い。海ならなぁ、速攻で距離詰めるんだろうなぁ。きっと護衛三人衆と今頃仲良くやってんだろうな、あのコミュ強。色んな意味で羨ましい限りだ。




