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猫イモウト  作者: 須羽ヴィオラ
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第二章 ハジマリ #3

 自分の思いを伝えず、このまま三笠君に恋人が出来るのを、黙視しているのか。

 それとも、私の気持ちを打ち明けて、友達でいようね、と振られるのか。


 どっちに転んでも、私はこんな未来しか思い描けない。

 私が三笠君から好かれるなんて、とても有りそうにない。

 だって、私には何の取り柄もないんだから。

 アーちゃんは、気が利く所とか、ひた向きな所が美点だとか言ってくれるけど、

自分ではそんな実感は持っていない。

 自分に自信がないのが欠点とか言われるけど、自信が持てる所など無いのだから

仕方がない。

 だから、私の方から告白なんて絶対に無理。

 そんな勇気があるのなら、もう百万遍くらい告白してる。

 きっと、百万遍振られてるだろうけど。


 ドスン。

 誰かとぶつかった。

「ご、ごめんなさい」

 慌てて頭を下げる。

 考え事をしていて、前を見ていなかった。

 ? いや、意識が一瞬跳んだような気がした。…これは、気のせいかな?


 気を取り直して、再び歩き出す。

 そりゃ、私だって。三笠くんと親しくなった未来を夢見ることだってあるよ。

 楽しくおしゃべりしたり、映画みたり、遊園地いったり。

 プレゼントを贈ったり、貰ったり。

 浜辺で追いかけっこしたり、夕日の中でキスしたり。


 想像のなかではね。

 でも、ほんとの私は男子とおしゃべりする事からして、無理の無理。

 私の家系は女系の家系らしく、きょうだい・いとこは、女ばっかり。

 男の子と何の話をすれば良いのか、見当がつかない。


 はぁ…。溜息がでる。まるで、溜息で呼吸してるみたいに、一杯でる。

 告白すべきか、黙っているべきか。

 何度目かの堂々巡りを繰り返す。


 ふと気が付くと、私は横断歩道の前に立っていた。

 あっ。また考え事してて前後不覚になっていた。


 私の斜め前にいた猫が歩き始めた。

 私も、その猫につられて、足を踏み出す。


 パッパッー。

 けたたましい警笛。

 それに続いて、キキーッというタイヤの悲鳴。


 私の数十センチ手前で、自動車が止まる。

 私はその場に尻餅をつく。

「馬鹿野郎。どこ見て歩ってるんだ」

 へたり込んだ私に、罵声が浴びせられる。

 目の前の信号を見ると、まだ赤のままだ。

 どうやら、私は信号無視をしてしまったらしい。


「す、すみません」

 目に涙が滲む。その滴が零れるのを、懸命にこらえながら頭を下げる。

 惨めだ。

 よく見ると、私の尻餅に巻き込まれて、さっきの猫が大の字なって伸びている。

 私を撥ねそこなった自動車が、轟音を立てて走り去っていく。

 腰を抜かしたままの私と猫が、その自動車を見送る。

 太った白黒のブチ猫。黒い顔で、鼻の下の部分だけ白くなっているのが、口髭の

ようで偉そうに見える。


「あんたも、災難だったね」

 私は尻餅のまま猫を抱き上げる。

 そのまま、立ち上がろうとすると、その猫は地面に手を伸ばして、何やら暴れて

いる。

 よく見ると、地面にドラ焼きが落ちていた。

「これ、あんたのなの?」

 ドラ焼きを拾い上げ、猫の目の前にかざすと、

―それは、俺のだ―

 と言わんばかりにドラ焼きをひったくって、前足で抱え込んだ。


「あんた、ド〇え〇ん?」

 そう言いながら、猫を地面に下すと、ドラ焼きを口に咥えて走り去った。


 何なのよ、もう。イーっだ。

 特に恨みがあるわけではないが、猫に向かって、鼻のシワを造ってみせる。


「大丈夫。怪我はなかった? 濱野さん」

 不意に声をかけられ、慌てて振り向く。


 そこに、自転車に乗った心配顔の三笠くんが立っていた。

 えっ、ええーっ。何でここに三笠君が??

 今の、見られたの?


「立てる?」

 三笠くんが手を差し出す。

 私はおっかなびっくり、その手を握る。

 三笠くんの手の暖かさと、湿り気を感じる。


 途端に顔がリンゴ色になる。顔が熱い。頭から湯気が出てるんじゃないか。

 三笠くんの手を頼りに立ち上がる。

 でも、とても顔を合わせられない。


「だ、大丈夫です」

 と震えた声で答える。

「じゃ、じゃあ」

 と、その場から逃げるように、走り出した。

「あ、ちょっと。濱野さん。濱野さん」

 三笠君の呼び止める声を、聞こえないふりをして走り続ける。

 

 なんていう失態。

 信号無視して、交通事故に遭いそうな場面を、三笠くん見咎められるなんて。

 あっ!

 私、三笠くんに起こして貰ったのに、お礼を言ってなかった。

 なんてこと…。最低だ私…。


 目に涙があふれてくる。

 もう、三笠くんへの告白なんて、もっての外だ。

 三笠くんを好きでいることが、罪であるようにさえ思えてしまう。


 家に帰りつく。

 私は、タダイマの挨拶もそこそこに、二階の自室に逃げ込んだ。

 なんてことをしたんだろう。私。

 失態を見られた上に、親切のお礼も言わずに逃げてきた。

 悲しいというより、悔しい。

 せめて一言「ありがとう」と言えば良かった。

 馬鹿だ、馬鹿だ、私は。ほんと最低。


 自己嫌悪に陥る。私は自分が嫌い。

 大事なときに、するべき行動の出来なかった私。

 自己嫌悪。自己嫌悪。自分の全身が自己嫌悪で出来ているくらいに自己嫌悪。

 悔しい。ほんと、自分が悔しい。

 私は、机に突っ伏して、涙にならない後悔の涙を流し続けた。

 いつまでも、いつまでも。

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