第二章 ハジマリ #1
今日は夏休み補修授業の最終日。
今日一日乗り切れば、明日から本当の夏休み!
そんな感じで、体の半分が休みの色に染まって登校した。
教室に入る。
私が受けるのは、学力向上の補習授業。
ほんとは任意参加なんだけど、部活とかの特別な理由が無い限りは、全員参加。
一日中、過去問や応用問題の演習ばかりで、嫌になる。
まぁ、赤点補習にならなかっただけ、マシなんだろうけど。
今日は、まだアーちゃんは来てないのかな。
隣の席の様子を見ながら席につく。
私が、一時限目の教科書を、机の上に準備していると…。
「ねぇねぇ。濱野~。知ってる? 大ニュース、大ニュース」
猫なで声の藁川百合華がやってきて、アーちゃんの机に座った。
続いて、いつも百合華に引っ付いてる牟田口朱美が一つ前の席に座る。
折角、いい気分でいたのに。朝から、嫌な人たちに絡まれた。
そもそも、「濱野~」なんて、呼び捨てにされる程の仲ではない。
それに、この人たちの大ニュースは、どうでも良いような噂ばかりで、聞くだけ
無駄というものだ。
一体全体、何だって、私のところに話を持ってきたのだろう。
私は無視を決め込む。
「無視しないでよ、ほんとに大ニュースなんだからぁ」
と私を顔を覗きながら二人でニヤニヤ笑いをする。
ほんと、嫌いだ。この子たち。
「聖真くんの話なんだけど、聞きたくない?」
「えっ!」
三笠君の名前が出て、私の唇が思わず反応する。
この人たちから、三笠君の名前が出るとは予想外だった。
てか、三笠君のことを、気安く「聖真くん」なんて呼ばないでほしい。
「ホラ、ホラ、ホラ。やっぱり興味あるんでしょ」
と百合華が畳み掛ける。
「べ、べつに」
と言ってはみたが、声が上ずっているのが自分でもわかる。
百合華と朱美が目配せし合っている。
私の反応を楽しんでるんだ。
まったく、嫌な人たちに捕まった。
「昨日、朱美が見たんだって。聖真くんの彼女」
私の体が、またピクンと反応してしまう。
「聖真くんと女の子が手を繋いでるとこ見たんだ。すっごく可愛い彼女だったよ」
朱美が、真面目な顔で報告する。
この子も、内心ではほくそ笑んでいるのが、私にはわかる。
「…そ、そうなの…。そういうの、あんまり関心ないけど」
内心の動揺を抑えて、無関心を装う。
「またまた~、興味ないフリして~。先を越されて悔しいとか思ってるんでしょ」
「…別に…」
と強がって見せる。
朝から嫌な人たちに、聞きたくもない話を聞かされた。
居なくなってしまいたい。ここから。
同じクラスの三笠聖真君。
いたって平凡な男子だ。
背は普通。見た目も普通。整った顔立ちだけども、飛びぬけて美形でもない。
運動も普通にできるけど、部活はやってないらしい。
勉強もごく普通。歴史は好きらしいけど。
でもって、私の片思いの相手。
片思いといっても、ほんとに私の一方的な憧れ。
三笠君は、私の気持ちには気づいていないと思う。多分。
一年生のとき、無理やり文化祭の実行委員をやらされた。
三笠君は別なクラスの実行委員だった。
そんなわけで、三笠君とは文化祭の実行委員会で知り合った。
三笠君、そんなリーダーシップがあるわけじゃない。
けれども、一緒に委員会の仕事をしていると、誠実さや懸命さが伝わってきて、
だんだん好感を持つようになっていった。
文化祭の前日。文化祭直前なので、どのクラスも殺気立っていた。
そんな中、時間を過ぎても下校せぬクラスに、実行委員が帰宅を促して回った。
ところが、二年生のクラスを訪れたときに、そのクラスの男子生徒に凄まれた。
私が泣きそうなって、竦みあがっていると、三笠くんがきて、助けてくれた。
私が凄まれたショックで、泣きそうになっていると。
「気にしないで。きっと、みんな疲れて殺気だってるんだ、濱野さんは、何も悪く
ない。濱野さんが、一生懸命なのはみんな分かってるよ」
と慰めてくれた。
その時からかな。好感が好意に変わっていったのは…。
でも、文化祭が終わったら、委員会も解散。三笠君との関係も、それっきり。
二年生になり、同じクラスになったけど、もう四か月も経つのに、まともに話を
したことは一度もない。
私は、誰にも三笠君への想いを明かしたことはない。
だけど、私は生まれつき、感情が顔に出やすい性質なのだ。
偶々、三笠君と目があったりすると、顔が真っ赤に染め上る。
三笠君が近くを通るだけで、会話がシドロモドロになってしまう。
そんなだから、私の親しい友人は、私の片思いの事は知っていると思う。
でも、噂話をもってきた二人とは、特段親しい訳ではない。むしろ疎遠だ。
それなのに、この二人は私の片思いの事を知っているらしい。
ひょっとして、クラス全員が知ってるって事なの?
だとしたら、三笠君も…。
頭が真っ白になる、顔が熱を帯び始める。




