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猫イモウト  作者: 須羽ヴィオラ
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第十一章 サイカイ #3

「濱野さん。まずは、傷の手当てをしよう」

 暫く経って、三笠君に声をかけられた。

 そのまま三笠君に促されて、ベンチに腰を下ろす。

「丁度、傷バンソウコウを持ってるんだ」

 そう言いながら、三笠君がテキパキと傷の手当てを進める。


「あの…」

 私の脳裏には数々の疑問が沸き起こっている。

「あの、どうして翠と一緒に居たんですか?」

「うちのアカネが居なくなったんで、捜していたんだよ」

 三笠君がベンチの脇にある自転車を顎で指し示す。

 その自転車の前籠には綺麗な赤毛のネコがうずくまっていた。

 アカネって、あの猫のこと?

*************************************

「そうしたら、途中で翠ちゃんとすれ違ってさ。翠ちゃんとは初対面だけど、濱野

さんにそっくりだから、直ぐに翠ちゃんだって分かったよ」

 え?、え? どういうこと? 私、自分に妹がいる事を、三笠君に話した覚えが

ないんだけど。それに、なんで翠の名前を知ってるの?

「それで、ピーンときたんだ。だから『翠ちゃんが家出して、お姉さんが凄く心配

してるから、早くお家に帰ろう』って、翠ちゃんと此処まで来たんだ」

 また、三笠君が謎なことを言う。

 顔が似てるから、翠が私の妹と推理するまでは良いとして、何故その事だけで、

翠が家出したって分かるんだろう。


「じゃあ、二人きりで話したいことも有るだろうから、僕は少し席を外すよ」

 傷の手当てが終わると、三笠君は自転車を押して、二つ隣にベンチに移動した。

 残された翠と私に沈黙の時間が訪れる。

 話たいことは沢山あるのに、何と言って声をかけたら良いか分からない。


「あの。お姉ちゃん」

 翠が消え入りそうな声で話し掛けてきた。

「何」と優しく問い返す。

「お姉ちゃん。私のこと怒ってない?」

「怒ってないよ。ごめんね。昨日は、色んな事が合って虫の居所が悪かったんだ。

それを、翠にぶつけちゃった。ほんとにごめんね」

「私が…妹でも構わない?」


 そうか。翠は、私の発した『翠は妹じゃない』という言葉を気にしているんだ。

「許してね。酷いこと言ったね。翠は、私の一番大切な妹だよ」

「そう、良かった…」翠が大きく息を吐く。

 私は翠の手を握りしめる。翠が私の手を握り返す。

 湿りけと温もりが伝わって来る。

 

「お姉ちゃん。私ね、小さい頃に、自分がお姉ちゃんの妹じゃないかもしれないと

思って凄く怖かった事があったの」

「……」

「お姉ちゃんの名前は美寿穂でしょ、お母さんは詩寿穂。二人とも名前に穂の字が

入っている。咲穂里お姉ちゃんもそうだし、咲穂里お姉ちゃんのお母さんも歌寿穂

おばさん。みんな、穂の字が入っている。でも、私だけ穂の字が使われてなくて」

「……」

「それで、私は貰われっ子じゃないかと思ったの。その事を考えると、悲しくって

苦しくって、夜も眠れないくらいに悩んだ」

「……」

「それで、ある時、お母さんに尋ねたの。どうして私だけ、名前に穂の字が入って

ないのかって」

「そうしたら?」

「私がお母さんのお腹の中にいるときに、お姉ちゃんがこう言ったんだって『私は

翡翠の緑が好きだから、妹が生まれたらミドリって名前にして欲しい。そしたら、

妹の事を一生好きでいられる』って」


 ああ、思い出した。忘れていたけど、たしかに私は、妹が生まれたらミドリって

名前にして欲しいと、お母さんに頼んだんだ。

「私、その話を聞いて凄く嬉しかった。私、お姉ちゃんの妹なんだ。お姉ちゃんの

妹に生まれて良かった。そう思ったの」


 ああ翠。

 私は再び翠を強く抱きしめる。

 もう、二度と翠を離すまいと心に誓う。

 涼やかな風が公園を吹き抜け、私と翠の再会を優しく祝福してくれていた。

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