第十一章 サイカイ #2
手筈は決まった。
私は二階の自室に取って返すと、走り回れるように軽快な服に着替える。
急いで一階に戻り、玄関に向かう。
「美寿穂、待ちなさい。これ、持ってって」
お母さんに呼び止められ、トートバックを渡された。
「何?」と問うと
「あなた、朝ご飯食べてないでしょ。それに、翠も食事した形跡がないし。もしも
の時はこれを食べなさい」
トートバッグの中を検めると、袋詰めロールパンとパック入り牛乳が二本入って
いた。 何て、手回しが良いんだ。お母さん。
「じゃあ、行ってくる」
靴を履いて玄関を出る。
「探すのに夢中で怪我したりしないでね。車にも注意するのよ」
「分かった!」と大声で返事をして玄関を飛び出した。
大急ぎで、駅の方角へ走る。
走りながら、様々なマイナスのイメージが頭の中に涌いてくる。
翠が見つからなかったどうしよう。
泣きながら歩いてて、交通事故にあったりしていないだろうか。
騙されて誘拐されたりしていないだろうか。
まさかとは思うけど、命を粗末にするような真似をしていないだろうか。
想像するだけで、目の前が暗くなる。
それもこれも、みんな私が悪いんだ。
自分の心にのしかかった不安を、翠に投げ付けた。
自分の力で解決すべきだったのに。
「翠。ごめんね。ごめんね」
涙で視界がくもってくる。
キーッ。
突然、直ぐ間近で自転車のブレーキ音。
ぶつかる!!
咄嗟に身を翻す。
その拍子に、私はその場に転んでしまった。
「す、すみません」
謝りながら、顔を上げる。
あれ?
いま、自転車と衝突した筈なのに、肝心の自転車が見当たらない。
私、何やってるんだろう。幻覚でも見たのか?
不思議に思いながら、立ち上がろうとして、左膝に痛みが走る。
転んだ拍子に膝を擦りむいた。血が滲んでいる。
よろけながら立ち上がる。
全く散々な日だ。
そのまま、歩きだそうとする。
イタッ。
思わず声が出た。
擦りむいた膝に地面の砂粒がこびりついている。
このままじゃ、化膿するかも。
何処かで、洗わないと…。
辺りを見回すと、十字路を曲がった少し先に公園が見える。
たしか、あそこには水道があったはず。
そのことを思い出して、公園へ小走りで急ぐ。
通りから公園に入る。
そこで息が停まった。
中学生くらいの女の子が、公園の奥のベンチでうなだれている。
隣には高校生位の男性がいて、その女の子に向かって何事か話しかけている。
「翠!」
と叫ぶ。
その声に反応して二人が顔を上げる。
それは、まさに翠だった。
しかも、隣の男性は三笠くん。
一挙に緊張の糸が解ける。
目から涙が溢れ出る。
足の力が抜ける。
翠に向かって二、三歩すすんだところで、私は掌で顔を覆って泣き出した。
「お姉ちゃん!」
翠が駆け寄って来た。
「大丈夫? お姉ちゃん。足、怪我してるよ」
その問いには答えず、翠を力いっぱい抱きしめる。
「翠、翠。ごめん。みんな、お姉ちゃんが悪かった。だから何処にもいかないで」
「お姉ちゃん…」
私は翠をもう二度と離すまいと、腕に力を込める。
翠も私を抱き返す。
翠と私は、溶け合っって一つの物になってしまう程に、強く強く抱きあった。




