表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫イモウト  作者: 須羽ヴィオラ
3/39

第一章 猫イモウト #3

 猫? ネコ? ねこ?

「お父さん、一体なに言ってるの? 私は、翠の話をしてるんだよ」

「だから…、ミドリだろ。猫の…」

 お父さんが、焦れたように答える。

「違う違う。妹の翠のことだよ。それに、うちに猫なんていないでしょ!!」



「お前、さっきから、何言ってんだ!? 変だぞ」

 お父さんが、怒気を含んだ声を発し、私を睨みつける。

 なんで? なんで、怒るの? 妹の事を心配するのが、そんなに変?

 また、涙が零れ落ちる。

 お母さんが、お父さんの怒気から私を守るように抱きしめ、

「お父さん。そんな、怒らないの」

 といって、私の髪を優しく梳る。


「どうしたの? 美寿穂。怖い夢でも見たの?」

 夢?

 夢ならどんなに良かったろう。

 でも、翠が家を出たのは本当だ。


「ちょっと、水でも飲んで、落ち着きなさい」

 お母さんに促されて椅子に座り、コップに注がれた水を飲み干す。

「美寿穂。夢と現実が一緒になってない? あなたは一人娘で、妹は居ないのよ。

それに、ミドリは猫のことだし…」


 翠が夢?

 私があんなに好きだった翠が夢?

 翠は猫?

 どうしても納得がいかない。

 私は救いを求めるように、お母さんの顔を見上げる


 お母さんはため息をつくと、リビングの隅に歩いて行って、私を差招いた。

 私が、お母さんの側に行くと、足元に籐を編んだ丸籠がある。

「これがミドリの寝床よ。覚えてない?」


 ミドリの寝床?


「それから、こっちが爪トギ。分かる?」

 ミドリの寝床の隣には、麻縄が巻きつけられた円柱が立っている。

 猫の爪とぎ?

 そういえば、見覚えがある気がしてきた。


 餌入れはダイニングに。猫のトイレは廊下のはずれに。

 お母さんについて、一つ一つ見て回る。

 さっきは気が付かなかったが、玄関には猫のキャリーバッグもおいてある。


 全部、見覚えがある気がしてきた。


 ダイニングの椅子に座り、心を落ち着かせて考える。

 私、何をあんなに焦っていたんだっけ?


 ミドリがいなくなったから?

 それだけじゃ、ないような気もするんだけど。

 …思い出せない。


 お母さんが私の肩に手をおいて

「落ち着いた?」

 と尋ねる。


「う、うん…」

 と曖昧に答える。

 自分でも、何に対して、あんなに駆り立てられていたのか、思い出せない。


 リビングを振り返ってみると、お父さんは相変わらず新聞を読んでいる。

 その向こうには、見慣れたミドリの寝床がある。

 いつもと変わらない風景だ。

 私は、一体、何を不安に思っていたのだろう。


「落ち着いたのなら、ちょっと手伝ってくれる」

 お母さんに言われて、朝食の準備を始める。

 座ってモヤモヤしているより、正直、体を動かしている方が気が楽だ。

 お母さんは、冷めてしまった焼き魚をラップで包み、電子レンジで暖めなおす。

 レンジの中で、魚の一部が破裂して、ビックリする。


「焼き魚をチンすると、これで形が崩れちゃうから嫌なのよね」

 お母さんが愚痴をこぼす。

 ゴメンナサイ。私のせいです。

 と、心の中で謝る。なんか、肩身が狭い。


 家族三人がテーブルに着く。

 私とお母さんが対面するように座り、その間、私の右手側にお父さんが座る。

 いただきます。をして、短い家族三人団欒の時間。

 けれど、お父さんは大急ぎで朝ごはんを胃袋に流し込むと、

「ごちそうさま。遅れそうだから、先に…」

 といって二階に駆け上がっていった。

 これも、私が騒ぎを起こしたせいだ。益々、小さくなる。


 一体どうしたんだろ。私。

 猫がいない事くらいで、泣いたりして…。


 お父さんが、出て行ったので、私とお母さんだけが、取り残される。

 気を遣っているのか、お母さんは当たり障りのない世間話をする。

 私も、それに倣う。

 だんだん、普段の生活のリズムに戻ってきた気がする。


 お母さんの世間話は続く。

 向かいの渡辺さんから、旅行のお土産を貰った話。

 家庭菜園でトマトやピーマンが採れた話。

 行きつけの和菓子屋の新商品の話。


 そんな何でもない、話に付き合った。

 今日は、一日休みだ。とにかく、今日はノンビリと過ごそう。

「そういえば。咲穂里ちゃん、ファッションショーのモデルやるんだってよ」

「咲穂里姉ちゃんが?」

 急に話題が変わった。

 咲穂里姉ちゃんは私の従姉。大学生で、この四月から一人暮らしを始めた。


「そう。大学のオープンキャンパスとかいうので、ファッションショーやるんだって」

 そうだ、咲穂里姉ちゃん、服飾関係の学部に行ってるんだっけ。

 大学って、そんな事もやるんだ。にわかに興味が湧いてきた。


「それ、見てみたいな」

「でも、恥ずかしいから来ないでって言ってるみたいよ」

「えーっ! 見たい! 見たい!」

「でもねえ」

「みんなして見に行こうよ。サプライズでさ。翠だって、行きたいでしょ」

 そう言いながら、私の顔が自然と左を向く。


 でも、そには誰もいない。

 あれ!? 一体どうしたんだろ、私。

 気が付くと、目の前のお母さんが、また心配そうな顔で私を見ている。


「ごめん…。なんか、まだ…。夢のことが…」

 と小さくなって言い訳。

 気まずい雰囲気の中で食事を終え、後片付けをすますと

「すこし休む」

 と言い残して、逃げるように二階に上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ