第八章 ミドリ #4
ミャーオ。ミャーオ。ミャーオ。
猫の鳴き騒ぐ声が聞こえた。
翠の声?
顔を上げると、父娘が跳ね回る猫キャリーと格闘している様子が目に入る。中で
翠が暴れているんだ。
どうしたの、ミドリ。
女の子が猫キャリーの口を開けて中を覗き込む。
その瞬間、翠が猫キャリーを飛び出し、一直線に走って私の胸に飛び込んだ。
「翠! 翠! ありがとう、戻ってきてくれたんだね」
涙で濡れた頬で、翠に頬ずりする。翠も顔をこすりつけてくる。
「もう離さないよ。決して離したりしないよ」
嗚咽とともに、同じ言葉を幾度も幾度も繰り返した。
女の子は翠を追いかけて走ってきたが、私と翠の様子を見て立ち尽くす。
女の子の目に見る間に涙が貯まる。
私の軽はずみな言動が元で、こんな幼気な子に辛いおもいをさせている。
胸が痛くなる。
私は女の子の前にしゃがみ込み、
「ごめんね。ごめんね」と繰り返した。
女の子が、零れそうな泪の顔を上げる。
「お姉ちゃん、ミドリを大切にしてね」
女の子の健気な言葉が心に突き刺さる。
「うん。うん。翠は私がきっと、幸せにしてみせる」
そう誓った。
女の子はきびすを帰して走り出すと、父親の足に縋って泣き出した。
それから、翠と私を名残り押しそうに幾度も振り返りながら公園を出て行った。
私は、父娘の姿が見えなくなるまで、二人に頭を下げつづけた。
「翠は、必ず幸せにする。たとえ他の何に代えても、必ず人間に戻します…」
そう、心のなかで繰り返しながら。




