#46 特攻装警の3番目くらいに長い夜
これだけの乱暴狼藉を同盟が働いた上で警察は何をしていたか。
同盟に先制攻撃を受け、一時的にその機能を麻痺させていた。
「くそっ、まるで三流ホラー映画だ。あと一体いくつ警察署を開放させなきゃいけないんだ?」
停電した警察署内をいびつな肉の塊としか形容できない化け物が高速で走り回る。
それをアンドロイド警官試作3号機「センチュリー」がアクセルケーブルと呼ばれる電磁鞭で倒していく。
蛇のように自在に動くケーブルは時に化け物を叩きのめし、あるいは鋭く切断する。
お気に入りの二丁拳銃は弾丸の節約のために今は温存中だ。
「救援要請を受信できたのは、あと25カ所です。
壊滅してしまった署を入れなかった場合でもこれだけあります。
どうしますかセンチュリー先輩」
「先輩!負傷者の確保および、残存人員の仮設本部への移送完了です!」
「センチュリー先輩、新宿署と池袋署、食料の買い出し完了です」
人間そっくりのアンドロイド・センチュリーの後ろをいかにもロボットらしい連中がついてくる。
ラガーマン体型で表面は白黒ペイントの装甲。量産型ロボット警官「タイタン」たちだ。
「どうもこうもねぇよ。一つでも多く署から化け物を駆除して、負傷者は病院に、まだ動けるヤツは仮設本部に!
地道にやるしかねえ。血盟の奴ら容赦ねえテロをしやがって。ミーム災害に増殖型深淵まで放つなんてな。
嫌らしいやり方を熟知してやがる。おっと!」
今度は空飛ぶ肉塊が飛びかかってくる。センチュリーは拳銃を抜き撃ち、それを撃墜する。
「……キリがねえぜ」
■
同盟が警察署に放った怪物とは非常にやっかいな物だった。
特定の図案を見た人間を対象に発症。
発症者はそのときにいる建物内にその図案を書き散らす。
その後、内臓が変異してできた怪物を腹からぶちまけて死亡。
出てきた怪物は生まれたときにいる建物を離れず殺戮を繰り返す。
要するに「見たら死ぬ図形を書きまくる怪異」と「建物内から出ずに暴れ回る肉塊」を一つにしたような物だ。
その建物内にいる者を一人残らず殺す。そんな殺意にあふれた代物。
それでいてばら撒くのは非常に簡単だ。
おそらくは同盟が狩った深淵を利用した兵器で、この日のためにずっと秘蔵されていたのだろう。
■
また一つ、また一つと血にまみれた警察所を「解放」していく。
終わらない戦いに警察官達の疲労の色は濃い。
「ふう……」
センチュリーが缶コーヒーを飲んでベンチに座り一息つく。
海沿いにある高速道路のサービスエリアだ。
「先輩、まさか僕らがこれを使う日が来るとは思いませんでしたよ」
東京中が暴動のまっただ中にあっては警察車両は逆に襲われかねない。
故に警官ロボットや警察車両は光学迷彩や魔術による透明化、あるいはもっと単純にシートをかぶせたりして隠れていた。
「できればこんな日が来ないでほしかったけどな。けど役に立つだろ?」
「ええ、まさか作業用ロボットに偽装する光学迷彩パターンなんてね。覆面パトカーみたいなものですかね?」
「まあ、そんなもんだ」
本来、警備用であることをむしろ誇示する運用のタイタンにあっては非合理的な装備だ。
しかし、センチュリーたちはいずれこれが必要になると確信していた。
『それで兄貴、状況はどうなってる?』
センチュリーは本部にいる1号機アトラスに通話する。
『神奈川、千葉、埼玉県警もだめだ。怪異を署内に放たれて足止めをくらってる。
こっちは幸い致死性の低いヤツだがな。引き続き月島に向かえ。
まずはこっちが状況を立て直さなければどうにもならん』
『解った。長い夜になりそうだぜ……』
『ここが踏ん張りどころだ。負けて賊軍など冗談じゃない』
『ああ、クーデターなんてさせやしない。解ってる』
センチュリーは通話を切って、黒くうねる海を見た。
クリスマス前もこうやって見ていた。
その時は危惧があった。今それは現実になっている。
状況は想像以上に過酷だ。だが、あきらめるという選択肢は彼のロジックにない。
ひょっとしたら革命して世の中よくなるかも-などという妥協や幻想は存在しないのだ。
ただ冷徹に革命が成功したらとてもまずいと電子頭脳が告げていた。
「さて、あと五分したら次の現場に行くか……」
そう呟いた時、黒くうねる海から何かが出てきた。
海から埠頭へ、ロープを伝って上がってくる。
「ん?あれは……」
センサーはそれが人であり、そしてそれは白瀬雷人だと告げていた。
彼は生きていたのだ。さあどうするか。まずは保護だ。しかしその後は?
容易には結論が出ない疑問だ。しかし身体は動き出していた。
「本当に長い夜になりそうだぜ……!」




